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2016年の音楽売上を読み解く

音楽業界レビュー・売上まとめ

このブログの名物記事といえば音楽マーケットの数値読み解きだ。

一般社団法人 日本レコード協会|各種統計

毎年1月にCD売上、2月に配信売上の通年分が日本レコード協会から出てくるのでそれぞれを元に色々語ってるんだけど今年は2月にまとめてやることとした。理由は自分が1月に忙しかったこと以外にもいくつかあるのでまずそこについて説明しておきたい。

  • CD売上の深堀ができなくなった
    前からオリコンのトップ100の数値を重ね合わせて傾向とか読んでいたのだけどそれができなくなった。なぜかということについては下記を参照いただきたい。
    【重要】2016年3月16日以降の「オリコンランキング」に関する記事掲載について
    要はオリコンのWebサイトに載っている以上の情報は載せてくれるな、ということだ。そして今年は年間ランキングに売上指数が載らなくなり結果各種サイトにも載らない、ということになった。有料会員サイトの情報を持ち出さないで、ということなのでそこはまあ仕方ないだろう。
  • 掘り尽くした感
    わりと趨勢は見えてて語られてもいるので例年より執筆モチベーションは低め。笑。ただ、それでも見えてくるものがあるだろうと思っており、今年も集計してみた。

言い訳も終わり本題に行くまでに、これまでのエントリはこちらにあるので読み比べなどして見てほしい。
CD:2011年 2012年 2013年 2014年 2015年
配信:2013年 2014年 2015年 

それからもう一つ。パッケージメディアに関してはレコード協会の統計なのであくまで「生産金額」となっている点にはご注意願います。そんなわけで各項目別にみていこう。

項目別数値の推移

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CDシングル:5,457万枚(前年比99%)
CDアルバム:10,456万枚(前年比93%)
CD合計:15,922万枚(前年比95%)
音楽DVD:4,191万枚(前年比96%)
音楽Blu-ray:988万枚(前年比96%)

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CDシングル:429億円(前年比103%)
CDアルバム:1,320億円(前年比95%)
CD合計:1,749億円(前年比97%)
音楽DVD:435億円(前年比92%)
音楽Blu-ray:244億円(前年比99.5%)

まずはCD。全体としてここ数年の緩やかな低落傾向は変わらない。その中でシングル盤だけは比較的気を吐いている状況。これもここ数年の傾向通り。シングルは全体のパイが少なくいくつかのヒット作でわりと動くので、乃木坂と欅坂が昨年すごく伸びたことが寄与したと考えられる。続いて映像メディア。Blu-rayが前年割れ。ここ数年進んでいたBlu-rayへのシフトが止まった感が少しある。そんでもって映像メディア全体としては頭打ち感が出ているのでなんともな…という感想である。

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アナログ生産数量:79.9万枚(前年比121%)
アナログ生産金額:14億5,500万円(前年比124%)

アナログレコード、引き続き好調。しかし伸びは若干鈍化。しかし相変わらずパイは小さい。仕方がない。なお、レコード市場を新品だけで測るのは如何なものかとよく言われるけど測るすべがないしむしろ新品流通にフォーカス当てることでそれ特有のファクトを探したい。

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PC/スマホシングル:1億229万6千DL(前年比94%)
PC/スマホアルバム:836万7千DL(前年比99%)
着うた+着うたフル:971万5千DL(前年比66%)
メロディコール:3,722万6千件(前年比85%)
DL数総計:1億5,916万9千件(前年比89%、ビデオ等その他項目含む)

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PC/スマホシングル:165億3,800万円(前年比95%)
PC/スマホアルバム:95億5,400万円(前年比104%)
着うた+着うたフル:15億1,000万円(前年比65%)
メロディーコール:25億1,900万円(前年比85%)
ダウンロード総計:328億8,300万円(前年比95%、ビデオ等その他項目含む)
サブスクリプション:200億0,300万円(前年比161%)
音楽配信売上総計:528億8,600万円(前年比112%)

音楽配信。今年最大のトピックは音楽のダウンロード販売が前年割れしたこと。その一方でサブスクリプション(定額聴き放題)はまだまだ勢い良く伸びており、このままのペースで推移するとするなら(多少鈍化したとしても)、日本における音楽配信売上金額の過半を締めることになる。フィジカル・配信の比率が諸外国と違うので実感がどうにも薄いけど、日本も「音楽配信の主役がストリーミングになっている」という点で諸外国と同じような環境になりつつあるのだ。 

ちなみにグラフがこれだけ2011年以降になっている理由は、それより前の年で「着うた+着うたフル」が大きすぎて今主流になっている配信方式の数値の変化が見えなくなるから。

というわけでここからトピックを挙げつつ結論に持って行きたい。

配信で売れた楽曲

日本レコード協会では毎月有料音楽配信で一定の売上を挙げた楽曲を発表しているので、そこからプラチナ(25万)以上の売上を達成した楽曲をリストアップしていきたい。

トリプルプラチナ

ダブルプラチナ

プラチナ

星野源の「恋」は2017年1月にトリプルプラチナをすっ飛ばしてミリオンの認定を受けており、12月の時点でト

 

リプルプラチナに限りなく近かったものと推察される(因みに「前前前世」はまだミリオンに達していない)。とにかく配信でこの曲の勢いがすごかったというのが率直な感想。「恋ダンス」動画のアップとその中での90秒以内の楽曲使用を許諾したことがかなり追い風になっているものと推察される。あれはレーベルの英断であったというほかない。「恋」と映画共々大ヒットした「前前前世」の2曲が今年の配信市場でトップ2だったことには異論はないだろう。

また、アルバム単位で宇多田ヒカル「Fantôme」とRADWIMPS君の名は。」がゴールド(10万DL)を達成。なお、2015年12月配信開始のもので浦島太郎(桐谷健太)「海の声」がミリオン、RADIO FISH 「PERFECT HUMAN」がプラチナを達成している。これらも合わせると紅白出演歌手も結構納得度高かったなあと感じるところだ。

新品レコードの販促キャンペーンと品物の種類

4月にはレコード店中心のレコードストアデイ、11月には東洋化成主導のレコードの日、とレコードは色々販促をしているが次の月別販売データを見る限り、それが寄与しているような感じは見受けられない。それぞれの販促キャンペーンは色々課題も多く、まだまだ道半ば、という印象がある。

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また、レコード1枚あたりの生産額は洋楽が1,739円、1,906円である。差が1割くらいなので優位なものかは判断しかねるけど洋楽の方が7inchシングル盤など低価格な商品の比率が高いということだろうか。それとも単純な値付けの問題だろうか。ここからは余談だけど、海外でのレコード作品はDLコード付きであることが多いとよく言われるが僕が最近買ったレコードはそういった類いのものがない。DLコード付きアナログレコードがもっと増えれば買うのになあという気持ちは結構ある。

映像と配信から見えてくる日本の音楽視聴の現状

2016年の市場で特筆すべきトピックはPC/スマホ向け配信とBlu-rayがともに前年割れしたこと。どちらもここ10年程で次世代のメディア/プラットフォームとして期待されながら、必ずしもその期待通りには伸びてこられなかったものだからだ。そして映像も音楽も今まさに伸びているのはサブスクリプション型の「○○放題」サービスだ。映像方面では(まだ音楽コンテンツは弱いにせよ)NetflixやHulu等のSVOD、あるいはAbemaTV等に急速に置き換えられているし、先述のように音楽配信をセグメント別に見ると日本ですら定額聴き放題が4割で来年には過半数を超える見込みだ。これらサービスはPC・スマホタブレット・あるいはゲーム機だったりテレビへの機能埋め込みだったりで色々なデバイスから利用することができる。メディアが・機器が・フォーマットがどうこうという時代からの大きな転換である。

 

 日本では2000年代にエンタメメディアの世代交代にもたついた。かくしている内に「見放題・聴き放題」によるメディアレス・メディアフリーの時代に切り替わろうとしている。2016年はまさにそのターニングポイントとなる1年だったのではないだろうか。

 

一応しっかりとしたトピックを見いだせるような調査になったので、ちゃんと調べてよかったな、という感想。今年1年間も、また変化を見つめながらその中でいちリスナー・ユーザーとしてサバイブしていきたいなあと思う次第。

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