【ワシントン=芦塚智子】米国土安全保障省のケリー長官は21日、メキシコなどからの不法移民の取り締まり強化に関する指針を発表した。すでに米国に居住する不法移民の強制送還対象の拡大や国外退去手続きの迅速化、国境警備員の増員などを関係機関に指示している。全米には推定で1100万人の不法移民がいるが、軽犯罪も対象としたことで送還される不法移民は大幅に増えるのは確実。人権団体などは「大量強制送還の始まり」と警戒感を強めている。
指針はトランプ大統領が1月25日に署名した大統領令に基づき、主にメキシコからの不法移民を念頭に「移民法に違反する者は全て強制送還を含む取り締まりの対象となり得る」と明記した。
積極的に送還する対象を軽微な犯罪歴がある者や、法に触れた疑いがある者などに拡大するとしており、軽犯罪の対象は交通違反や万引きなども含まれるとみられる。「国家安全保障や国境警備、治安への脅威」に絞っていたオバマ前政権の方針から大きな転換となる。
不法移民の取り締まりにあたる職員を1万人、国境警備員も5千人増員する計画で、国境近くの州では地元の警察にも摘発への協力を要請する。
また米国内の滞在期間が2年未満の不法移民については、移民裁判所での審理を経ず即時に強制送還できるようにした。オバマ前政権では、この措置を適用するのは国境付近で拘束された入国から2週間未満の者に限定していたため、強制送還の対象となる不法移民は大幅に増える見通し。
子供の時に親に連れられて不法入国し、オバマ前政権が大統領令で一時的な合法滞在資格を認めた「ドリーマー」と呼ばれる若者に関しては、今回の指針で言及していない。トランプ氏は16日の記者会見で、約75万人に上るとされるドリーマーの処遇について「非常に難しい。人情で対処する」と寛容な姿勢を示していた。
スパイサー大統領報道官は21日の記者会見で、指針の目的は不法移民の大量強制送還ではないと主張。「社会への脅威となる者や、犯罪歴のある者の送還を優先する」と強調した。民主党のシューマー上院院内総務は声明で「いくら否定しても、ホワイトハウスが大量強制送還に動き出したことは明らかだ。罪のない移民家族を狙い、拘束することは容認できない」と批判した。
米国とメキシコの関係をめぐっては22~23日にティラーソン米国務長官らがメキシコを訪問し、ペニャニエト大統領やビデガライ外相らと会談する予定だ。これに先立ち21日にはムニューチン米財務長官がメキシコのミード財務相と電話会談した。米財務省によると、ムニューチン氏は両国の包括的な対話に向け、緊密な連携に期待を表明した。