令状なしで捜査の対象者の車両にGPS(衛星利用測位システム)を取り付ける−。こんな捜査方法が違法かどうか最高裁で審理されている。プライバシー権が著しく侵されうる手法には反対する。
令状のないGPS捜査は連続窃盗事件などで多く実施されているようだ。違法かどうかの判断は、下級審でばらばらだ。
最高裁大法廷に回付されているのは、関西圏で店舗荒らしや車両盗を繰り返し、窃盗罪などに問われた男性被告の事件だ。一審の大阪地裁の判決ではGPS捜査を違法と指摘し、得られた関連証拠を採用しなかった。その上で、起訴内容を認めた被告の供述などから懲役五年六月とした。
二審の大阪高裁はGPS捜査に令状が必要かどうかには言及しないまま、「捜査に重大な違法はなかった」と述べていた。
GPS捜査を巡っては、名古屋高裁が令状がなければ違法とする判断を示した一方、広島高裁は令状は不要で適法だとしている。判断は分かれている。警察庁は「令状なし」の理由として、任意捜査だとしており、実施件数も明らかにしていない。
ただ、情報公開請求で分かったマニュアルでは対象犯罪を七分類し、略取誘拐や生命の危険がある逮捕・監禁、連続的な強盗・窃盗、組織的な薬物・銃器犯罪、暴力団関係犯罪などとしている。ただし、「社会的危険性が大きく、速やかな摘発が特に必要な犯罪」という記述もあり、範囲があいまいなままになっている。
確かにGPSを使えば、簡単で正確な位置情報を得られるだろう。低コストでもある。張り込みや尾行が私的スペースに立ち入ることができないのに対し、GPSは立ち入り先などどんな位置情報も手にすることができる。いわば「監視」と同然である。
個人の生活領域まで立ち入ってくるわけだから、通信の秘密に匹敵する。それほど、プライバシー権が保護されるべき情報ではないだろうか。しかもGPS捜査を始めたら、継続的、かつ無制限に集められた情報は蓄積されよう。将来、別の事件で利用される可能性もある。本人が知らないままで。
GPS捜査については厳格に法律で定めるべきである。かつ重大犯罪に限って、裁判所の令状に基づかねばならないと考える。自由やプライバシー権を脅かす手法を任意捜査で認めることはあまりに危険だ。放置はできない。
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