クアラルンプールで北朝鮮の指導者の異母兄である金正男(キム・ジョンナム)氏が「暗殺」された事件は、北朝鮮とマレーシアの間に外交的衝突を引き起こした。この事件で、北朝鮮と東南アジアに広がる商業的関係が注目されている。
地域全体で見られるレストランチェーン「ピョンヤン(平壌)」――客が冷麺やキムチを食べる傍らで、北朝鮮人ホステスが金一族をたたえるカラオケヒット曲を歌う店――の拡大から、カンボジアのアンコールワット遺跡群の近くに北朝鮮が建設した博物館「アンコール・パノラマ・ミュージアム」に至るまで、北朝鮮は他国通貨と自由に交換できるハードカレンシーを稼ぎ、友人を勝ち取ることを目指して、東南アジア全域に手を広げている。
北朝鮮政府は、制裁をかいくぐる方法を模索するうえでも東南アジアに目を向けている。
シンガポールに本拠を構える海運会社数社は、北朝鮮への武器輸出に手を貸した嫌疑をかけられている。そうした企業の一社、チンポシッピングは昨年、北朝鮮の兵器プログラムのために使われた可能性がある金融資産や資源を移し替えたことでシンガポールの裁判所で有罪判決を受けた。その後、18万シンガポールドル(約1440万円)の罰金を科された。
金正男氏の殺害事件の捜査の扱いをめぐってマレーシア、北朝鮮両国の緊張が高まる中、マレーシア政府は20日、平壌駐在の自国大使を召還するとともに、駐マレーシア北朝鮮大使を呼びつけて抗議した。
北朝鮮政府は検視を阻止しようとし、金氏の遺体引き渡しを要求した。マレーシア当局は捜査を実施すると主張し、遺体は金氏の近親者に引き渡さなければならないと話している。
■北朝鮮とマレーシア、貿易関係拡大
これまで、北朝鮮は次第に友好的になるマレーシアとの関係を謳歌してきた。マレーシアは北朝鮮とビザ(査証)なし渡航ができる唯一の国だ。かつてビザなし渡航が認められていたシンガポールは、北朝鮮の核実験後、国連の追加制裁に応じてビザ取得要件を導入した。
収入を獲得し、国のイメージを取り繕うために北朝鮮は観光業に目を向けるようになる。同国政府は、東南アジアとインドからの旅行を振興しようと、クアラルンプールを事業拠点に選んだ。
また、マレーシア・サラワク州の建設現場と鉱山で80人の北朝鮮人が働いており、こうした人々でマレーシアは北朝鮮の専門知識を活用している。
バーター協定の下で、マレーシアはアジアで料理に広く使われるヤシ油を北朝鮮に供給する一方、北朝鮮から肥料を受け取ってきた。両国の貿易総額は2015年でわずか2270万リンギット(約5億7000万円)と、まだ少ないものの、貿易関係は拡大傾向にある。