理系学生のための企業研究(6)公募か? 推薦か?
OBとの交流は情報の宝庫
本稿では現実に即した「理系のための」企業研究を見てきましたが、就活生はこの先、実際に企業の方との接触が待っています。ネットで企業情報を調べるだけなのは得意だったりするかも知れませんが、リアルなコミュニケーションはどうでしょう。企業研究の視点でのリアル・理系学生・コミュニケーションを通じての企業研究を最後に見てみます。
さまざまなきっかけの都度、企業を調べる習慣に
恐らくすでにご自分の大学ではOB・OGが来校してキャリア説明会や業界研究などの話をしたりしていないでしょうか。就活情報会社主催のそうしたキャリア研究講座も多々あります。また理系の場合、特にゼミや研究室、学科専攻などの単位でそうした企業の先輩との交流機会がある人もいるでしょう。
今回の一連の記事を通じ、まず第一に理系学生が理解すべきは、その会社のビジネスの仕組みであると述べました。企業の方と接する際は、可能であればその会社の事業について見てから臨むことを習慣付けてはどうでしょう。現在全く関心のない業界や企業でも、折にふれて企業情報を見ることで、事業に関する勘のようなものが養われます。
今回紹介したように、企業の自社ホームページを見るだけならスマホでも可能ですし、知らず知らずに企業知識が身に付き、それが積み重なれば業界知識にもつながります。企業をビジネスモデルの視点から見られるようになると、加速度的にビジネスそのものへの理解が深まるでしょう。
就活学生が接する社会人
リテラシーをもって臨めば、OBとの交流は正に情報の宝庫です。事前にその会社の仕事を調べておき、実際働いている先輩に直接その事業の社内での位置付けや、研究室の先輩であればその研究分野と実際の仕事の違いや共通点など、聞けることは山ほどあります。またせっかくの機会に初任給や福利厚生など就業条件のような人事情報しか聞けないのはもったいなさすぎます。ホームページでわかるようなことではなく、事業そのものに実際に関わっている現役社員がそこにいるのですから、技術のこと、研究開発の実際、課題や困ったことなど、自分の判断材料をもらえれば、きわめて有意義な交流となります。
逆にだめな例は「良い会社・悪い会社」のような二者択一の、「正解」を求めることです。ご自分の人生を保証できる人などこの世にはいません。先輩とはいえ、その会社で実際に働いてもいない学生の今後を占うことなど不可能です。正解志向のような情報リテラシーの無い質問をするのではなく、あくまで先輩がくれるのは情報であって、判断は自分自身しかできないことを認識して接することが大切です。
推薦との付き合い方
理系学生の就活では文系では普通見られない「推薦」があります。特に伝統ある大学などでは、「理系は推薦で決まる」と昔はいわれていました。現在は旧帝クラスの大学でも、推薦より自由応募で就職を決める人の方が多いのが実情です。しかしこれは推薦が良くないという意味では全くなく、しっかり推薦の特質を理解して活用すれば、とても便利なシステムです。
推薦で応募した場合、そのまま採用が決まるのではなく、一般的にはESや書類審査が免除になったり、1次面接を飛ばしていきなり2次以降の面接に進めるという仕組みが多いようです。推薦に選ばれたからと言って、これまで述べてきたような企業研究もせずに面接に臨めば、まず採用されることはないと思います。推薦であろうとなかろうと、企業研究するのは就活学生にとっては絶対に欠かせないものであり、決して油断せずに選考に臨まなければなりません。
推薦とは違いますが、ちなみに人材紹介会社の「新卒紹介サービス」などもあります。主に就職情報会社などが、就活生を企業に紹介して採用するシステムです。これは職業安定法の有料職業紹介事業者に認定された会社が行う、人材紹介というビジネスです。もちろん法律にのっとった正当な仕事です。学校推薦と同様、人材会社が企業に「推薦」し、企業が採用した場合は一定の紹介料を企業は人材会社に支払うものです。学生個人に金銭を要求することはありません。万一負担を要求されたらすぐに大学のキャリアセンターなどに相談しましょう。
学校推薦同様、採用を確約するものではありませんが、自社ではなかなか採用人数を確保できない企業が利用するのですから、紹介会社のめがねにかなう学生なら、採用の可能性は高まります。ただし逆に採用が決まった場合、もし学生が辞退すれば紹介会社は売上になりません。辞退をしないようにする働きかけは、学校推薦より強いかも知れません。
最後に
企業研究をテーマにしながら、筆者から読者の皆さんに「答」をお渡しすることなく、本稿は終えようとしてます。私が伝えたかったことは、「答」がないビジネスという世界で、さまざまな情報あふれる現在、いかに情報を判断するかという考え方です。就活にまつわる情報やサービスにはかならず一長一短があり、それを理解して活用することが今後ビジネスの世界で生きるということなのです。
理系学生として、真理や科学を追求する以上、決してオカルトや魔法のような存在、絶対的正解のようなものに惑わされてはなりません。理系学生は、どんな時も科学的思考を忘れず課題に立ち向かえることが大きな武器なのです。忙しい日々の合間をぬって就活するのはたいへんだと思います。しかしそうした試練を通じて、理系学生の皆さんはマルチタスクとして業務に取り組む姿勢や科学的な思考を鍛えているのです。科学的な判断を忘れない限り、皆さんはビジネスで成功するための素養を持っています。成功を祈ります。