初級編:舞台は1000年後の日本、偽りの神に疑え!
『新世界より』の舞台は1000年後の日本。かつての文明が滅んだこの世界では、人類は「呪力」という超能力を使い、バケネズミという生き物を使役しています。
主人公の渡辺早季は「神栖66町」と呼ばれる街で暮らす少女。12歳を迎え、呪力を解放したことを機に「全人学級」へ入学し呪力の訓練を受けるようになります。
ある日、早季は同級生たちと町の外へと出かけます。そこでかつての文明の図書館を探検していると自走型端末「ミノシロモドキ」に出会い、ミノシロモドキからとある事実を知ってしまうのです。それは禁断の知識とされいたもの。知ってしまったことで、早季たちを取り巻く、平和だと思っていた仮初の現実は徐々に歪んでいってしまうのです。
主人公の渡辺早季は「神栖66町」と呼ばれる街で暮らす少女。12歳を迎え、呪力を解放したことを機に「全人学級」へ入学し呪力の訓練を受けるようになります。
ある日、早季は同級生たちと町の外へと出かけます。そこでかつての文明の図書館を探検していると自走型端末「ミノシロモドキ」に出会い、ミノシロモドキからとある事実を知ってしまうのです。それは禁断の知識とされいたもの。知ってしまったことで、早季たちを取り巻く、平和だと思っていた仮初の現実は徐々に歪んでいってしまうのです。
新世界より(上) (講談社文庫)
作者 | 貴志 祐介 |
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出版社 | 講談社 |
出版日 | 2011年01月14日 |
この世界での人類は、呪力や、バケネズミを行使することで、「悪鬼」や「業魔」と呼ばれるものを退治してきました。しかし、そこには多くの謎があります。人間に服従するとされてきたバケネズミが襲ってきたこと、「悪鬼」や「業魔」の正体、文明を崩壊させるまでに至らせた「呪力」。徐々に真相に近づいていき、見えてきたものとは?
今まで平和で、当たり前にあった現実が、12歳という思春期真っ只中で歪んでしまった早季たちの心情は計り知れないものがあります。彼女たちは、本当の平和のために歪んだ現実にどう立ち向かっていくのか、手記という体裁で描かれたからこそ、よりリアルにのめりこめる作品です。
初級編:一太郎の周りは妖怪でいっぱい!謎解きファンタジー
時は江戸時代、主人公の一太郎と、彼に仕える佐助、仁吉をはじめとする妖たちが繰り広げる謎解きファンタジーです。この人気シリーズは『しゃばけ』から始まり、2007年に手越祐也主演でドラマ化もされました。
主人公は、江戸にある長崎屋と呼ばれる大店の跡取り息子で、若旦那の一太郎。彼に仕えるのは、佐助と仁吉と呼ばれる手代のふたりです。一太郎からは兄のように慕われており、たいして彼らも一太郎が1番で2番がないと言うほど大事に思っています。
主人公は、江戸にある長崎屋と呼ばれる大店の跡取り息子で、若旦那の一太郎。彼に仕えるのは、佐助と仁吉と呼ばれる手代のふたりです。一太郎からは兄のように慕われており、たいして彼らも一太郎が1番で2番がないと言うほど大事に思っています。
しゃばけ (新潮文庫)
作者 | 畠中 恵 |
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出版社 | 新潮社 |
出版日 | 2004年03月28日 |
そんな彼らは実は、人間の姿をしていますが人間ではありません。佐助は、弘法大師が猪よけに描いた犬の絵の化身、犬神。そして仁吉は白沢と呼ばれる、9つの目を持つとされる中国の聖獣です。
ある日、とある付喪神が一太郎に「気になる匂いがする」と訴えます。妖を身代わりに置き、夜に抜け出した一太郎は何者かによって襲われてしまいます。辛くも、佐助と仁吉が間に合い逃げ切れたものの、次の日大工職人が首を切り落とされて死んでいるのが見つかるのです。
そしてその後も、次々と薬問屋ばかりが殺されていきます。「なぜ、薬問屋ばかり狙われるのか?本当に人間の仕業なのか?」一太郎はこの疑問を解き明かすために、佐助や仁吉ら妖たちと共に立て続けに起こる事件を調査し解決していくことになるのです。
虚弱体質である主人公を佐助たちがいさめたり、それでも外に出たくて脱走を図ったりするシーンなど、コミカルで笑える要素も多い本作。時代小説でありながらも軽く読めてしまいます。
また、単なる時代小説かと思っているのはもったいない!妖という非日常ががっつりと絡んでくる、時代に、謎解きに、ファンタジーにと魅力盛りだくさんの作品なのです!
初級編:地球と隣り合わせのファンタジー世界
「十二国」シリーズは記神仙や妖魔の存在する中国風異世界を舞台にしたファンタジー小説です。十二国記とタイトルの通り、この世界存在する国は12です。各国それぞれの王様によって統治されています。
そこでは麒麟と呼ばれる存在が天の意思に従って王を選びます。選ばれた王は不老を与えられ、天の定めた決まりに従って国を治めることになるのです。麒麟が王を選ぶものの、その後の繁栄の度合いは王によって異なり、君臨する期間も異なります。王が死ねば、麒麟が新たに王を選び、麒麟が死ねば王も死に、新たに麒麟が生まれることでまた王が選ばれ各国が統治されていく世界です。
この十二国は地球と隣り合わせに存在しており、地球(現実世界)から地球人が十二国の世界に流されることもあれば、十二国で生まれるはずの人間が生前に流されて地球に生まれることもあります。そして地球から来たものを「海客」といい、十二国から流されたものを「胎果」といいます。突如異世界へ流された地球人、地球に存在し生活を送りながらも、自分の居場所に疑問を持つ十二国人。彼らの自己の探求について描かれた作品となっています。
そこでは麒麟と呼ばれる存在が天の意思に従って王を選びます。選ばれた王は不老を与えられ、天の定めた決まりに従って国を治めることになるのです。麒麟が王を選ぶものの、その後の繁栄の度合いは王によって異なり、君臨する期間も異なります。王が死ねば、麒麟が新たに王を選び、麒麟が死ねば王も死に、新たに麒麟が生まれることでまた王が選ばれ各国が統治されていく世界です。
この十二国は地球と隣り合わせに存在しており、地球(現実世界)から地球人が十二国の世界に流されることもあれば、十二国で生まれるはずの人間が生前に流されて地球に生まれることもあります。そして地球から来たものを「海客」といい、十二国から流されたものを「胎果」といいます。突如異世界へ流された地球人、地球に存在し生活を送りながらも、自分の居場所に疑問を持つ十二国人。彼らの自己の探求について描かれた作品となっています。
月の影 影の海〈上〉―十二国記 (新潮文庫)
作者 | 小野 不由美 |
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出版社 | 新潮社 |
出版日 | 2012年06月27日 |
さて、このシリーズは、『魔性の子』から始まるのですが、こちらは、現実世界に十二国の世界が迫ってくる恐怖を描いた、地球人側の物語。なのでまず十二国記の世界に入り込みたい方には、2作目の『月の影 影の海』から読むことをおすすめします。今回はその『月の影 影の海』をご紹介します。
日本で生まれ育った女子高生の中島陽子は、夜眠るたびに恐ろしい気配に追われ、日を追うごとにその気配との距離が縮まっていくという、異様で恐怖に満ちた夢を見ていました。そんな日々を送っていた陽子の前に、異国の装いをした「ケイキ」という男が現れます。突然の出来事に戸惑う陽子を更に異形の獣が襲い、それを退けたケイキは、そのまま強引に陽子を月の影の向こう側にある世界へと連れ去ってしまうのです。
突然知らない世界に連れてこられた陽子に迫る、異形の獣や、陽子に対する「海客」としての差別の目。ケイキとは一体何者なのか?人間不信に陥ってしまう陽子を待つのは、明るい未来か、それとも……。
この作品を読んだ後に月を眺めてみると何とも不思議な高揚感に包まれてしまいます。本当はもしかしたら自分自身さえも胎果した人間だったのかも、なんてことを思い浮かべてしまうかもしれないほど、作品の世界観は確立されており、入り込めるものとなっています。
ぜひ、いつも目にする月の向こう側にあるかもしれない世界に思いを馳せながら、ひっそりとした宵闇のなかでお楽しみください。
初級編:短槍使いバルサ、命を懸けて皇子を守れ!
「守り人」シリーズのメインキャラクターは短槍使いのバルサ。彼女は各所を旅する用心棒です。旅の途中バルサは青弓川で、流されていた新ヨゴ国第二皇子のチャグムを助けます。お礼に招かれた宮で、彼女はチャグムの母である二ノ妃にチャグムを連れて守ることを依頼されました。
チャグムには、この世(サグ)と重なって存在する異世界(ナユグ)の水の精霊ニュンガ・ロ・イム「水の守り手」の卵が宿っていたのです。新ヨゴ皇国には建国伝説があり、それによると、初代皇帝のトルガルは水妖を退治したことで皇国を築き上げたとされていました。そして、現帝であるチャグムの父帝が皇国の威信を守るために、チャグムを暗殺しようとしていることが、依頼の理由だったのです。
しかし、敵は父帝からの刺客だけではなく、ニュンガ・ロ・イムの卵を食らうナユグの怪物、ラルンガも彼を狙っていました。
チャグムを連れて宮から脱出したバルサは、まず呪術師のタンダとその師匠のトロガイを頼ります。そこで分かったのは、卵か孵るのは夏至であり、孵化とともにチャグムの体から離れるということでした。その時が来るまで、バルサたち4人は共に暮らすことになります。
チャグムには、この世(サグ)と重なって存在する異世界(ナユグ)の水の精霊ニュンガ・ロ・イム「水の守り手」の卵が宿っていたのです。新ヨゴ皇国には建国伝説があり、それによると、初代皇帝のトルガルは水妖を退治したことで皇国を築き上げたとされていました。そして、現帝であるチャグムの父帝が皇国の威信を守るために、チャグムを暗殺しようとしていることが、依頼の理由だったのです。
しかし、敵は父帝からの刺客だけではなく、ニュンガ・ロ・イムの卵を食らうナユグの怪物、ラルンガも彼を狙っていました。
チャグムを連れて宮から脱出したバルサは、まず呪術師のタンダとその師匠のトロガイを頼ります。そこで分かったのは、卵か孵るのは夏至であり、孵化とともにチャグムの体から離れるということでした。その時が来るまで、バルサたち4人は共に暮らすことになります。
精霊の守り人 (新潮文庫)
作者 | 上橋 菜穂子 |
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出版社 | 新潮社 |
出版日 | 2007年03月28日 |
バルサにもかつて命を狙われた経験があり、父の親友で短槍の達人ジグロに助けられた過去がありました。バルサは日々をチャグムと過ごしていくにつれて、チャグムに自分を重ねるようになり、徐々に彼が何にも代えがたい大事な存在となっていきます。
そのころ、帝に仕える星読博士のシュガは建国時からの記録を調べ上げていました。チャグムに宿った水妖は建国伝説のものと同じなのではないかと疑ったからです。しかし、そこで知った事実とは、トルガルの伝説は歪曲されてしまったものであるということと、ニュンガ・ロ・イムは実は怪物ではなく、雨を降らせて作物を助けてくれる存在だったということでした。
刺客や、ラルンガから逃げつつ、チャグムに生き抜く術を学ばせるバルサ。来る夏至までチャグムを守り通し、無事ニュンガ・ロ・イムを孵らせることができるのでしょうか。
卵を宿していることから、ナユグ側へ知らず知らずのうちにひかれてしまうチャグムは危なっかしく、読んでいるこちらまでが、何とかしてあげたくなるような気持になります。そんな彼のために立ち回るバルサの戦闘シーンはリアルさを帯びており、目の前にそのまま映像として流れそうなほど圧巻の描写力を感じます。
最初は、箱入りの皇子らしく何も世の中を知らないチャグムですが、徐々にバルサによって野営の方法や、簡単な狩りの方法を学んでいきます。そして皇子という立場だからこそ知らなければならない、国の下々の人々の様子も。この物語の中でみるみる成長していくチャグムの逞しい様子も注目してください。
初級編:あなたの隣にも、ひっそりと暮らしているかも……
「常野物語」シリーズは2017年2月現在、『光の帝国』、『蒲公英草紙』、『エンド・ゲーム』の3作品が刊行されています。不思議な力を持った「常野」と呼ばれる一族を、時代を超えて描くファンタジーシリーズですが、それぞれが独立した作品です。
常野一族について大枠を知りたい方は、『光の帝国』を、優しさと感動にあふれた暖かなストーリーを楽しみたい方は、『蒲公英草紙』を、そして、スリリングで圧倒的な世界観を楽しみたい方は『エンド・ゲーム』を手に取ってみてください。それぞれが独立しているものの、登場人物は少しずつリンクしているので、読み進んでいくうちに、様々な時代に生きた常野の人々の姿を楽しむことができますよ。
欲望や、栄光にとらわれず、現実世界にひっそりと私たちの中に溶け込んでいる彼らの生き様を、まるですぐ隣にいるかのように楽しめるシリーズです。
常野一族について大枠を知りたい方は、『光の帝国』を、優しさと感動にあふれた暖かなストーリーを楽しみたい方は、『蒲公英草紙』を、そして、スリリングで圧倒的な世界観を楽しみたい方は『エンド・ゲーム』を手に取ってみてください。それぞれが独立しているものの、登場人物は少しずつリンクしているので、読み進んでいくうちに、様々な時代に生きた常野の人々の姿を楽しむことができますよ。
欲望や、栄光にとらわれず、現実世界にひっそりと私たちの中に溶け込んでいる彼らの生き様を、まるですぐ隣にいるかのように楽しめるシリーズです。
光の帝国―常野物語 (集英社文庫)
作者 | 恩田 陸 |
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出版社 | 集英社 |
出版日 | 情報なし |
常野一族の持ち不思議な能力のひとつ「しまう」というものは、膨大な情報を丸ごと記憶することができます。それも、書物や談話といった言葉だけではなく、人間の感情や心の在りようも記憶することができるのです。
『光の帝国』の「大きな引き出し」に出てくる主人公は、「しまう」能力を持っているものの、これが何の役に立つのかと疑問に思っていました。そんなある日、毎朝挨拶をする老人が心臓発作で目の前で倒れてしまいます。駆け寄った主人公が老人に触れたその瞬間、彼の頭に老人の記憶が「響いて」きました。
「響く」というのが、「しまった」情報が頭の中で文字通り響く能力で、これができて初めて一人前とされます。老人の記憶が「響いて」きた主人公は、懐疑的だったこの力とどう向き合っていくのでしょうか。
このように不思議な能力を持った常野一族が、何を思い、何のために、どこへ向かい、どこへと帰るのかという生き方を、不思議な暖かさと、淡い哀しみで彩った作品です。連作短編集となっているので、気軽に空いた時間などで楽しんでみてください。
中級編:女であっても武器を持て!すべては後宮を守るため
『後宮小説』は中国風の架空の国である素乾国を舞台とした作品となっています。
17世紀、素乾国と呼ばれる国では皇帝の崩御に伴って、次期皇帝のための後宮整備が実施されることになりました。国中各地で宮女募集が行われ、14歳の銀河はこれに応募し、後宮の教育機関である女大学で学ぶこととなります。そして都城である北師へと旅する道中で、義賊である平勝と厄駘に出会うのです。
北師に到着し、教育を受けていく銀河ですが、天真爛漫な性格と、儒学にとらわれることのない自由な思想で生きていました。たくさんの仲間やのちに師となる瀬戸角人と出会い、その中で房中術に基づいた奇抜な後宮哲学を学んでいきます。
17世紀、素乾国と呼ばれる国では皇帝の崩御に伴って、次期皇帝のための後宮整備が実施されることになりました。国中各地で宮女募集が行われ、14歳の銀河はこれに応募し、後宮の教育機関である女大学で学ぶこととなります。そして都城である北師へと旅する道中で、義賊である平勝と厄駘に出会うのです。
北師に到着し、教育を受けていく銀河ですが、天真爛漫な性格と、儒学にとらわれることのない自由な思想で生きていました。たくさんの仲間やのちに師となる瀬戸角人と出会い、その中で房中術に基づいた奇抜な後宮哲学を学んでいきます。
後宮小説 (新潮文庫)
作者 | 酒見 賢一 |
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出版社 | 新潮社 |
出版日 | 1993年04月25日 |
ちょうど同じ時期、新皇帝となった双槐樹に対し、異母弟である平菊を皇帝へ即位させようとする琴皇太后一派によって双槐樹の暗殺計画が進められていきます。そんな状況の中銀河は双槐樹と瀬戸角人の策によって正妃として立后されました。
宮廷内で陰謀が渦巻く中、銀河が北師へ向かう道中で出会った平勝と厄駘のふたりが退屈しのぎというだけの理由で挙兵。その反乱を利用して琴皇太后も野望のために大きく動き出します。やがて争いが後宮にまで押し寄せようとするとき、銀河は後宮を、国を守るため宮の女たちを率いて武器を手に立ち上がりるのです。
天真爛漫で、3食付きの住まいが与えられるという、なんとも現金な理由で宮女へ応募した銀河が、一国の后として、国のために今まで非力とされてきた女たちを率いる姿には、圧倒され鳥肌が立ってしまいます。
中級編:すべての敵は「アトラス」にあり!壮大なファンタジー
『シャングリ・ラ』の舞台は地球温暖化が進み、地球上で人類が生きるには厳しくなってきた近未来。国連はかつての京都議定書で定められた、目標二酸化炭素削減幅を大幅に上回る議決を強行採決してしまいます。それによって経済市場は株価ではなく経済炭素へと手段が移行。そしてその影響はM7.5の第二次関東大地震によって都市が機能しなくなってしまった東京都にも及び、炭素税が容赦なく課せられてしまいます。
やがて東京再生計画に乗り出した政府は、空中都市アトラス計画を実行します。しかし、当初は都民全員が移住できるはずだったのですが実際に用意できたスペースは350万人分だけで、都民全員分は賄えませんでした。
やがて東京再生計画に乗り出した政府は、空中都市アトラス計画を実行します。しかし、当初は都民全員が移住できるはずだったのですが実際に用意できたスペースは350万人分だけで、都民全員分は賄えませんでした。
シャングリ・ラ 上 (角川文庫)
作者 | 池上 永一 |
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出版社 | 角川グループパブリッシング |
出版日 | 2008年10月25日 |
やがて、アトラスへと移行を終えた政府機関はアトラス中心の統治をおこなうようになり、アトラスと難民であふれた地上との深刻な格差が生み出されてしまうのです。そこでこの計画に反政府組織「メタル・エイジ」の総裁、北条國子が立ち上がります。
ただの環境汚染による避難と、それによる格差を生み出したと思われた「アトラス計画」。実は別の目的が隠されていました。アトラスへ移住するためのアトラスランクとは。真の意味とは、そして、アトラスの後継者とは一体何なのか。謎が深まっていくストーリーです。
アトラスランクAAAとされる國子は、貧困層の民の思いを背負い、仲間と共に、計画を実行した政府軍へと立ち向かいます。
いずれ起こってしまうかもしれない地球温暖化による環境破壊。とても無関係とは思えない未来だからこそ、ある種のパラレルワールドのように、「もしかしたら」という思いをもって楽しむことができる作品です。
中級編:売れない物書きの、不思議なおすすめ小話
「ほんの100年前のおはなし」というキャッチコピーの『家守綺譚』は、明治時代を舞台としたお話です。
売れない物書きである綿貫征四郎は親友の高堂が亡くなったことをきっかけに、彼の家の家守として住まうことになります。ある雨の降る晩に、その家の床の間の掛け軸から亡くなったはずの高堂がボートを漕いでこちらへとやってくるのを征四郎は目撃し、声をかけます。
「どうした高堂、逝ってしまったのではなかったか。」(『家守綺譚』より引用)
死んだはずの友人に、しかも掛け軸からやってくる人間にかけるにしては、なんともとぼけた言葉なのですが、物語はここから始まります。
売れない物書きである綿貫征四郎は親友の高堂が亡くなったことをきっかけに、彼の家の家守として住まうことになります。ある雨の降る晩に、その家の床の間の掛け軸から亡くなったはずの高堂がボートを漕いでこちらへとやってくるのを征四郎は目撃し、声をかけます。
「どうした高堂、逝ってしまったのではなかったか。」(『家守綺譚』より引用)
死んだはずの友人に、しかも掛け軸からやってくる人間にかけるにしては、なんともとぼけた言葉なのですが、物語はここから始まります。
家守綺譚 (新潮文庫)
作者 | 梨木 香歩 |
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出版社 | 新潮社 |
出版日 | 2006年09月28日 |
百日紅に懸想をされたり、河童を拾ったり、庭の白木蓮から白龍が孵るの目撃したり、子鬼を見たり。こんな日常と非日常の境目をふらふらとしているような調子が終始続いていきます。不思議な不思議な、とある家守の物語なのです。
高堂の勧めで買い始めた犬のゴローのおかげでお隣さんからおすそ分けをもらったり、生計的にも手伝ってもらったりと、不思議な雰囲気の人間が、人間臭さを帯びてきたかと思えば、河童とサギのケンカの仲裁にゴローが入っていたりとやはり非日常がついてくる。ストーリーには「奇妙」が必ず付いてまわります。
最終話の「葡萄」では高堂が行ってしまった「理想の国」と呼ばれる場所へと、綿貫は足を踏み入れます。そこに住む男に葡萄を食べるように勧められますが、一喝して断ります。そして現実世界へと戻るために告げた言葉には、いままでとぼけた雰囲気をあふれさせていたとは思えないほど、人間臭く、そして義理堅い人情味あふれた綿貫を感じることができるのです。
上級編:アル中だけれど、気品が漂う転落半生
『バルタザールの遍歴』は、人生の苦楽を描いた、20世紀初頭のウィーンが舞台となった没落貴族である双子のメルヒオールとバルタザールの転落半生を扱った小説です。
メルヒオールが過去を過去を回想しながら、それをバルタザールが手記にまとめるという形で進められていて、横からバルタザールが茶々を入れたり、内容に不満を言ったりしています。
ふたりの血筋は、ハプスブルク家にも連なるかつてのウィーン家の名家、ヴィスコフスキー=エネスコ公爵家であり、彼らは跡取り息子です。1906年に生まれたその時から、将来は公爵家を継ぎ、由緒正しきエネスコ宮の相続人になることを約束され、それはそれは大切に育てられてきました。
メルヒオールが過去を過去を回想しながら、それをバルタザールが手記にまとめるという形で進められていて、横からバルタザールが茶々を入れたり、内容に不満を言ったりしています。
ふたりの血筋は、ハプスブルク家にも連なるかつてのウィーン家の名家、ヴィスコフスキー=エネスコ公爵家であり、彼らは跡取り息子です。1906年に生まれたその時から、将来は公爵家を継ぎ、由緒正しきエネスコ宮の相続人になることを約束され、それはそれは大切に育てられてきました。
バルタザールの遍歴 (文春文庫)
作者 | 佐藤 亜紀 |
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出版社 | 文藝春秋 |
出版日 | 情報なし |
第一次世界大戦が勃発し、650年に及んだ、ハプスブルク帝国が崩壊、貴族政が廃止され共和国が成立し、かろうじて、ふたりの父公爵は何とか財産を守れたものの、母親の自殺をきっかけにどんどん家は没落。彼らは酒におぼれ、酒瓶を片手に旅に旅する生活へと転落していきます。
ここまでの紹介ですと、ただの歴史になぞった貴族のお話に思えますよね。ではこの作品はどこがファンタジーなのか?ぜひ読んでいただきたいのはまさにそこにあります。ここで1つ、物語の大前提となる重要な部分のヒントとなる一節ををご紹介します。
「バルタザールはまた酒に専念し始めた。私の筆跡にやや乱れがあるとしたら、それはバルタザールが左手で飲み、私が右手で書いているからだ」(『バルタザールの手記』より引用)
さて、黄身と溶かしバターをかけたホワイト・アスパラガスといった洒落た料理に漂う趣味の良さ。生まれながらの貴族であるだけに、奔放でありつつも気品が漂うふたりの物語の、いったい何がファンタジーなのか。ぜひ本作でその要素をお楽しみください。
上級編:文章を楽しむ。愚かな人たちのビターファンタジー
あらすじはいたってシンプルです。婚礼の日にさらわれた花嫁を追って、波乱を乗り越えて駆ける青年の冒険の物語。本当にシンプルなのですが、この物語の真骨頂は、物語自体というよりも、それを構成する文章にあります。
崖の上と下に位置する、サバキヤとイラハイ。この2つの国の興亡に、花嫁をさらわれた青年の冒険を絡めた物語です。花嫁を坂の上から転がすという何とも愚か極まりない遊びをしている人たちを描いていたり、執拗に人を殺そうとするイルカが住民を殺戮しまくったりという、まさに「愚かしい」の一言が似合う、面白い問題作です。
崖の上と下に位置する、サバキヤとイラハイ。この2つの国の興亡に、花嫁をさらわれた青年の冒険を絡めた物語です。花嫁を坂の上から転がすという何とも愚か極まりない遊びをしている人たちを描いていたり、執拗に人を殺そうとするイルカが住民を殺戮しまくったりという、まさに「愚かしい」の一言が似合う、面白い問題作です。
イラハイ (新潮文庫)
作者 | 佐藤 哲也 |
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出版社 | 新潮社 |
出版日 | 情報なし |
この、愚かなことをしている愚かな人たちの物語を、なんともいえない独特のテンポで長く長く言い回し、まじめに読んでいるうちに、「ひょっとして自分だけがバカなんじゃないか?」とまで思ってしまうような複雑な面白さを秘めています。
元気いっぱいにあふれているときよりも、すこし疲れていているときに、この作品を読んでみてください。くらくらとした絶妙な心地に浸ることができますよ。
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