外国人初の棋士が誕生!ポーランド人女性カロリーナ新女流2級
将棋のカロリーナ・ステチェンスカ女流3級(25)=ポーランド=が20日、東京都渋谷区の将棋会館で行われた第44期岡田美術館杯女流名人戦(主催=報知新聞社、日本将棋連盟)予選2回戦で貞升南女流初段(30)に後手番の92手で勝ち、規定を満たして女流棋士正資格となる女流2級に昇級した。男女通じて初の外国人棋士となった。局後は「言葉に出来ない…。将棋と出会ってよかった。人生の目的になったから」と上達中の日本語で涙ながらに語った。
盤上に将棋の神様がいた。終盤の入り口で敗勢に立ったカロリーナだったが、貞升の小さなミスを巧妙に攻め立て、奇跡としか言いようのない逆転劇を演じた。「最後は頭が真っ白になりました。絶対に詰むのに手が見えなくなった」。貞升が投了を告げると、目尻にあふれ出る涙をぬぐった。
夢を追った9年の月日は最高の形で成就した。2008年、母国で偶然読んだ日本漫画「NARUTO」で将棋を知り、インターネットで指し始めた。「知れば知るほど、将棋は美しかった」。12年、海外招待選手として出場した女流王将戦で1勝を挙げると、翌13年に母親の反対を押し切って来日。山梨学院大に入学し、甲府市内の大学寮から女流棋士を養成する東京の「研修会」に通った。15年10月には女流棋士仮資格となる女流3級への昇級を果たした。
そこから苦しい日々が続いた。取得後2年間で規定の成績を挙げ、女流2級に昇級しないと資格剥奪となるデッドラインを抱えながら、2度も「昇級の一番」を落とした。「長かった。女流棋士になれるか分からなくて苦しかった。将棋だけじゃなくて、日本語も、知らない文化も大変でした」。負けた日の帰りは電車の中で一人泣いた。
昨年末のクリスマス。帰郷したポーランドで考えた。「『私はどうなる、どうなる、どうなる?』って。でも頑張って勉強してきた。だから、やっぱり女流棋士になりたいって」。不退転の決意を新たにし、本局に人生を懸けた。
来日時から女流プロ棋士になったら、かなえようと、ずっと心に抱いていた夢がある。寮から毎日眺めた富士山に登ること。「ようやく登れます。どんな景色が見えるのか楽しみです」。取材を終えると「ちょっといいですか?」と言って足を崩した。慣れてはきたが、まだ長時間の正座は苦手。将棋史に新たな一歩を刻んだ足を伸ばして、ようやく心の底から笑った。(北野 新太)
◆女流棋士 将棋のプロは性別を問わない「棋士」と女性のみの「女流棋士」に分かれ、制度が異なる。女流棋士になるには養成機関「研修会」で規定の成績を挙げて仮資格「女流3級」となった後に「昇級後2年間で参加公式棋戦数の4分の3以上の勝ち星を得る」などの規定を満たすと、正式資格「女流2級」に昇級する。棋士になるには原則的に「奨励会」で四段まで昇段しなくてはならず、過去に女性が棋士となった例はないが、里見香奈女流名人らは現在、三段まで昇段している。
◆カロリーナ・ステチェンスカ
▼誕生 1991年6月17日、ポーランド・ワルシャワで
▼家族 両親と双子の妹
▼師匠 片上大輔六段
▼趣味 宇宙冒険ゲーム「FTL」。「モーニング娘。」などの音楽鑑賞も
▼好物 天ぷらそば、回転ずし
▼学歴 山梨学院大経営情報学部卒。現在は同大大学院1年
▼漢字習得術 将棋用語から連想。「『歩』いて『銀』行まで行って、お『金』を下ろす、とか」
▼棋風 振り飛車党
▼得意戦法 石田流三間飛車、中飛車