名古屋市で高齢女性を殺害し、仙台市で高校の同級生ら2人に劇物の硫酸タリウムを飲ませたなどとされる元名古屋大学生の女(21)=事件当時16~19歳=の裁判員裁判は20日、名古屋地裁(山田耕司裁判長)の公判で最大争点の責任能力に関する審理が始まった。検察側は「完全にある」、弁護側は「ない」とし、冒頭陳述の主張は全面的に対立した。
元学生の発達障害が事件の動機に関係し、双極性障害(そううつ病)もあったことに争いはなく、精神的な障害が事件に及ぼした影響の程度で双方の主張は異なっている。
検察側は冒頭陳述で「各事件当時の障害の影響は限定的。そううつ病のそう状態も軽度にとどまる」と主張した。「人を殺したい」「劇物の症状を観察したい」といった動機は、高校生の頃に生じた人の死や犯罪、毒劇物への興味の延長線上にあるとした。
さらに、高校や大学で通常の生活を送っていた▽全ての事件当時に幻覚や妄想の影響はない▽準備、計画して実行している--などと指摘した。いずれの事件も違法性を認識し事件後は証拠隠滅を図っていると述べた。
これに対し弁護側は「障害が各事件の動機の形成や判断能力に及ぼした影響は重大」と訴えた。元学生は先天的な精神発達上の障害で、関心の対象が「死」に著しく集中していたと述べた。さらに「遅くとも中学1年時には発症していた双極性障害により、人格が形成されるはずの成長期にそううつ状態の波が繰り返され、通常の精神発達を困難にした」と説明した。
事件当時については「『ヒト』の死の過程を観察したいなどの考えが自分の意思と関係なく浮かび、そう状態に支配されてその行為を行うほかなくなっていた」と主張し、自由な意思決定が著しく阻害されていたとした。
また、元学生が逮捕後の投薬治療や精神療法により、人を殺したいと思う頻度が減り、双極性障害の波が穏やかになったと指摘し「治療により改善傾向にあることは、事件当時に自分の意思によるコントロールが困難で病的な状態だったことにほかならない」と訴えた。【金寿英】