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中韓「歴史問題」で日本になに望む?

 

 


「おわびと反省」表した立場覆さないで

 

 参議院議員選挙での大勝後、安倍首相の外交も再スタートを切り、早速、東南アジア歴訪を行いました。しかし、就任後から中国・韓国とは首脳会談ができておらず、安倍外交にとって不安の種となっています。大きな課題の一つは歴史問題。中韓は何を望んでいるのでしょう。

 

安倍晋三©朝日新聞

 

右:韓国の朴槿恵大統領
左:中国の習近平国家主席
どれも©朝日新聞

 

 

 歴史問題で中国と韓国は完全に同じ考え方なの?
 よく見てみると、中韓は重点の置き方が違っているね。近代の歴史で、中国は日本と戦争をしたけど、韓国は植民地統治を受けた。
 だから、中国は日本の教科書の中で、南京大虐殺や日中戦争についてどのように記述されているかをとても気にしている。一方、韓国が注目するのは、日本が韓国への植民地統治に対して、どのような反省を示すかについてだ。


 なるほど。従軍慰安婦問題についてはどうなの?
 慰安婦についても中韓では温度差があるね。韓国には当事者になった女性たちがいるから、慰安婦の銅像をソウルの日本大使館の前に造るなど、いまでも抗議活動は活発だよ。中国では慰安婦問題については韓国ほどは熱心に取り上げていない。


 それでも、歴史問題について、日本への不満は同じなんだよね。
 基本的にはそうだね。「日本は反省していない」ということが両国の国民的なコンセンサス(合意)になっているからね。この厳しい見方は教育やメディアの報道を通じてもう定着してしまっていて、日本人がいくら説明しても変えることは難しい。
 加えて、いまの安倍政権が歴史の見直しと、憲法改正、集団的自衛権の見直しという三つのことを同時に進めようとしているので、安倍首相イコール「タカ派(強硬派)」というイメージが広がってしまい、何をやっても否定的な論調になるという悪循環が起きているんだよ。


 じゃあ、中韓は安倍政権が嫌いなんだね。
 安倍政権に対して完全に否定的というわけではないと思うよ。アベノミクスに代表される積極的な経済政策で日本経済が急激に回復の兆しを見せていることについては、むしろ羨望のまなざしで見ているんだ。「もっと我々も安倍政権のように積極的な経済政策を打ち出すべきだ」という議論も、中韓ではよく耳にするね。
 ただ、安倍政権が衆院選でも参院選でも圧倒的な勝利を重ねたこともあって、これ以上「攻撃的」になられたら困る、という不安が強まっているようだね。


 安倍政権には具体的に何を望んでいるのかな。
 歴史問題については、慎重に対応し、慰安婦問題で「おわびと反省」を表明した河野談話など過去の日本政府の立場について見直すことなどしないでほしいという気持ちじゃないのかな。
 靖国神社参拝については、8月15日に行くかどうか非常に注目しているね。中韓との関係再構築は安倍政権も希望している。でも、安倍首相が参拝したら年内の首脳会談はほぼ不可能になるね。


 中国と韓国が最近、反日本で連携しているような印象があるけど。
 うん、やっぱり「日本憎し」というところで、お互いの立場が一致している面は否めないね。でも、中国が韓国を利用しようとしている部分は大きいと思う。
 これに対して、米国も心配しているようだね。米国にとっては北朝鮮に対抗する意味でも、日米韓の連携は崩したくない。だから、米国は日中関係と日韓関係に対する立場を使い分けているように見える。オバマ政権は日本に対しては「中国とはしょうがないけど、韓国とは仲良くしてほしい」というメッセージを送ってきているね。

 

朝日新聞国際編集部 野嶋剛

1968年生まれ。92年に朝日新聞入社。シンガポール支局長、政治部、台北 支局長などを経て、現在、国際編集部次長。著書に「イラク戦争従軍記」(朝日新聞社)「ふたつの故宮博物院」(新潮社)など。

 

2013年8月4日

 

 

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