天皇陛下の退位を実現するため、立法形式を巡る与野党の隔たりをどう埋めるか。衆参両院の正副議長が8党と2会派から個別に意見を聞き、調整に向けた作業を始めた。
与党の自民、公明両党は、首相官邸の方針である今の陛下一代限りの特別立法を支持し、民進、共産、自由、社民など多くの野党は恒久制度化のための皇室典範改正を訴えた。
3月に国会としての見解をまとめる考えという。党利を超えて妥協点を誠実に探ってほしい。
与党は、普遍的な退位の要件を設定できないとして恒久化は困難と主張している。これに対し、天皇の意思を確認し皇室会議が決定することを要件にできるというのが民進党の立場だ。制度化が前提であり、皇位継承を具体的に定める皇室典範改正が必要という意見だ。
与党には、民進党に配慮して退位の根拠規定を皇室典範に追加し最小限の法改正を行う考えもある。聴取の際、正副議長側はこの案での調整に含みを残したという。
それでも、退位の具体的な規定は特別立法に委ねられるため、野党内には慎重論が消えない。立場の違いを無理に解消しようとすれば、与野党の対立先鋭化を招くだけだろう。
溝を埋めるには、将来的な視点からの検討も必要だ。皇位や皇室の継承をどう維持、安定させるかという問題に期限を設けて取り組む意思を与野党が示すことが欠かせない。
近代以降、皇位継承は天皇が亡くなった場合にだけ行われてきた。退位にも道が開かれれば世代交代が早まると予想される。そうなると皇族の減少の問題が一段と深刻になる。
皇位継承の資格を持つ皇族は皇太子さまをはじめ4人しかいない。陛下の孫世代では10歳の悠仁さまだけだ。男系男子に限定される皇位継承が将来行き詰まる恐れがある。
現在、皇族18人のうち未婚の女性皇族は7人いるが、結婚すれば皇籍を離脱する。皇位継承者だけでなく皇室全体の将来を思えば、できるだけ早く対応を検討する必要がある。
男系継承を重視する安倍晋三首相も皇位継承の安定化を検討する考えを示している。
結婚しても皇族に残ることができる女性宮家の創設を求める意見もある。野田内閣当時に提起した民進党に加え、公明党も聴取で女性宮家を含む皇室制度の在り方を検討したい考えを明らかにした。いずれ女性天皇の議論も避けられないだろう。
正副議長のもとで行われた前回までの与野党協議の議事録が公開された。国民総意を得る土台となる。国民の関心は将来の皇室像に及ぶ。与野党が皇室の未来に共通の認識を持つことが、接点を探るカギだ。