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松永正訓の小児医療~常識のウソ

コラム

ネット医療情報は、信用できない?

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ネット医療情報は、信用できない?

 ヨミドクターというインターネット媒体で医療について書きながら、「ネット医療情報は信用できる? できない?」という問いを立てるのは、自分の身が引き締まるような緊張感を覚えるものです。2016年には、DeNAという会社が運営していた医療情報サイト「WELQ(ウェルク)」が閉鎖に追い込まれました。内容は二の次で、検索されやすいようなテクニックを駆使した広告至上主義に走っていたようです。そのために、記事の無断引用や盗用もあったそうです。しかし、読者をばかにしてはいけません。『肩の痛みや肩こりなどは(中略)・・・霊的なトラブル(以下略)』などという記述があれば、これはおかしいと思うものです。WELQのひと月の訪問者数は600万人だったとも報道されていますが、すべての読者が内容を信じていたかは、また別の問題でしょう。

 今日は、医療情報をどこまで信じていいのかについて、考えてみたいと思います。

問題はネットにあるのか?

 そうとも言えるし、そうでないとも言えます。つまりネット上には正しい情報もあるし、正しくない情報もあります。正しい情報であっても、それが「針小棒大」であることもあります。例えば、私がクリニックで「そういう可能性もあるけど、それって1万人に1人のケースだから、まずは様子を見たらどうでしょうか?」と説明することが多々あります。ネットでは個人の体験記としてそういった (まれ) な例を、「ヤバイ病気だから一刻も早く病院へ」などと恐怖を (あお) る表現になっていたりします。

 なぜ、ネットが問題なのか? それは文章を安易に完成させてしまうからでしょう。例えばこのヨミドクターでは、私の文章に対して担当編集者のチェックが入ります。さらに編集長のチェックが入ります。ヨミドクターの編集者のみなさんは医療関係者ではありませんが、ジャーナリストです。ジャーナリストとは何かと言えば(人によって定義は様々でしょうが)、事実を集めて、精度の高いものを取捨選択し、報道する価値のあるものを選び、記事にする仕事です。最も基本的な作業はウソを見抜いて排除することではないでしょうか?

 個人のネット情報にはこうしたチェック機能がありません。では、大学病院や国立○○センター病院などの医療情報は、なぜ、信用できるのでしょうか? それは、書いているのは病院の中の個人であっても、その書いた内容は大勢の医師たちの一致した意見だからです。一方で、個人のクリニック(開業医)のホームページに書かれた医療情報は、その医師の個人的な意見ということになります。

 私はヨミドクター以外にも、朝日新聞や毎日新聞のネット医療情報を読みます。よい記事が並んでいますよね。こうして見てくると、ネットだから「信用できる」とか「信用できない」とか、単純には言えないことが分かってきます。

では、書籍なら信用できるのか?

 そうとも言えません。書籍なら編集者がついていますが、編集者は文字通りエディターであって、ジャーナリストではありません。現在、出版界は大変な不況にあり、本がとても売れにくくなっています。企業倫理とは何かという話は横に置きますが、資本主義の社会にあって最初から「売れない」と分かっている本を作ることはあり得ません。

 そうすると、どうしてもタイトルがセンセーショナルになったり、内容が人を驚かすようなものになりがちです。

 西洋医学の発展が、人間の健康に大きな部分で寄与していることは、これまでの人類史を見れば明らかなことです。医療を丸ごと否定するような本が正しくないことは、ちょっと理性を働かせれば誰にでも分かることです。

 私の母校の大先輩の医師で、「今ある進行がんが食事で消えていく」みたいな本をお書きになった先生がいます。ウィキペディアで調べてみると、この先生には46冊の著作があります。多くのタイトルに「がんが消える」とか「食事」とか「レシピ」という言葉が含まれています。食事でがんが消えるのであれば、がんなど風邪と大して変わらない簡単な病気ということになります。

 また近藤誠先生のお名前を知らない読者は少ないと思います。近藤先生のお考えを失礼ながら要約させていただくと、がんには「本当のがん」と「がんもどき」があり、「本当のがん」は予後が決まっているのだから治療してもムダ、「がんもどき」は進行しないので治療は不要、つまりがんは放置してよろしいという説を主張しておられるのではないでしょうか?

 私は成人のがんを治療した経験が皆無です。しかし小児がんに関しては、それなりに詳しいと自負しています。がんの食事療法(?)や、がんの放置という考えを小児がんに適用するのは、先生方の主張とはズレるかもしれませんが、もし、そんなことをすれば子どもはほぼ間違いなく死に至ります。決してやってはいけません。

 書籍ならば無条件で信用していいかというと、それも違うと思います。成人のがん治療に関しては、勝俣範之先生がヨミドクターで充実した医療情報を発信しているので、それを参照にするのが何よりいいでしょう。私も愛読しています。

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松永 正訓(まつなが・ただし)

 1961年、東京都生まれ。1987年、千葉大学医学部を卒業し、小児外科医となる。日本小児外科学会・会長特別表彰(1991年)など受賞歴多数。2006年より、「松永クリニック小児科・小児外科」院長。

 『運命の子 トリソミー  短命という定めの男の子を授かった家族の物語』にて2013年、第20回小学館ノンフィクション大賞を受賞。著書に『小児がん外科医 君たちが教えてくれたこと』(中公文庫)、『子どもの危険な病気のサインがわかる本』(講談社)など。

 ブログは http://wallaby-clinic.asablo.jp/blog/

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1件 のコメント

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ネット環境の差も考慮しています

即決より熟考

いつも読売さんでお世話になっています。読売プレミアムの大型企画などもヨミドクターと併用で読んで参考にしています。 ネット情報の中から有用なものを...

いつも読売さんでお世話になっています。読売プレミアムの大型企画などもヨミドクターと併用で読んで参考にしています。
ネット情報の中から有用なものを探すのは大変ですよね。いつも検索を複数かけて沢山のものと比較しています。あるサイトではスポンサーリンクのバナーもでてきてうっかりクリックすれば今いるサイトから外部サイトへ行ってしまうので気をつけています。あとはPCで閲覧するか携帯、スマートフォンで閲覧するかで情報の出方(広告宣伝等)が違ってくるので携帯、スマートフォンで見るときはPC版で見るという機能がサイトにあればPC版で見るに変更して見る癖をつけています。
日本の医療も海外にいけばそんな治療はしないとなるし、逆もあるしなかなか難しいですね。海外でのOTCも日本の同種で主成分が3倍程度というのもあります。日本ではその量は許されてないという差も理解していかないと日本のものを3倍量飲んでいいと勘違いすると大変です。
なにが常識でなにが嘘情報かは読む側の責任も大きいと思うこの頃です。
でもひとつ言えるのは主治医と薬剤師に詳しく相談するのは同じだと思うので「一人でこれはいいと判断しない」で複数人で判断に至るといいと思います。

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