退避する日本人や米国人を航空自衛隊の輸送機まで誘導する陸上自衛隊員=タイのウタパオ海軍航空基地で2017年2月19日、町田徳丈撮影
安全保障関連法の新任務「在外日本人救出」に関する訓練が19日、タイであり、報道陣に公開された。海外で他国と共同で行うのは初めて。他国民も一緒に保護する現実的なシナリオで行われたが、法的制約から自衛隊が出動できるケースは限られるため、いかに海外有事の実態に沿った訓練を重ねられるかが課題だ。【ウタパオ(タイ中部)町田徳丈】
退避する日本人6人と3人の米国人を自衛隊員が車両に乗せ、陸上自衛隊の軽装甲機動車が誘導する。救出作戦の訓練が始まった。
唯一の退避路は、鉄条網やドラム缶によるバリケードでふさがれていた。銃を持って暴徒化した現地住民16人が「通行料を払え」と要求。自衛隊側は「道を開けないと実力を行使する」とタイ語で警告した。銃口を向ける武器使用はしないが、小銃や盾を持った隊員が暴徒を退かせ、バリケードを突破した。
「少しずつ現実味を帯びてきたが、まだまだ」。自衛隊幹部は救出訓練を取り巻く状況を語る。海外の日本人が退避する時は、混乱の中で他国民と入り交じった状態が想定される。自衛隊は各国軍と、担当地域の配分や輸送時の役割分担をしなければならない。今回の訓練は米軍と分担したが、実際のケースで他国軍と連携できるかは未知数だ。
自衛隊が意識するのが2011年のリビア騒乱だ。カダフィ政権の政府軍と反政府勢力が衝突。英国など16カ国が地中海のマルタに調整所を設置し、6000人以上が退避した。日本人は17人がスペイン軍用機で救出されるなどした。
在外日本人救出で自衛隊を派遣するには、海外での武力行使を禁じた憲法9条との関係から、(1)現地当局が治安維持し、戦闘行為が行われない(2)派遣先国の同意(3)救出任務ができるよう現地当局との連携の確保--という3要件が必要となる。リビア騒乱では当時、政権が機能しておらず「要件を満たさない」と判断された可能性が高い。自衛隊員らからは「要件が厳しく、救出任務はかなり限定される」との声が漏れる。
■在外日本人の輸送や救出を巡る動き
【1994年】自衛隊による在外日本人の輸送が可能に(自衛隊法改正)
【97年】カンボジアで治安悪化。輸送機をタイまで派遣したが、輸送は実施せず
【98年】インドネシア暴動。輸送機をシンガポールまで派遣したが、輸送は実施せず
【2004年】初の日本人輸送。輸送機で報道陣10人をイラクからクウェートまで輸送
【13年】アルジェリア人質事件(日本人10人死亡)。政府専用機で犠牲者らを輸送(2例目)▽航空機や艦船に加えて、陸上輸送も可能に(自衛隊法改正)
【16年】安全保障関連法が施行。日本人の救出が可能に(自衛隊法改正)▽バングラデシュ人質事件(日本人7人死亡)。犠牲者らを政府専用機で輸送(3例目)▽南スーダンの政府軍と反政府勢力との戦闘で治安悪化。自衛隊輸送機が大使館員4人をジブチに輸送(4例目)