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金融規制の緩和 米の強欲回帰が心配だ

 リーマン・ショック後、米国が導入した金融危機再発防止のための規制が、大幅に緩和されようとしている。規制を「大失敗」と酷評するトランプ氏が、政府に見直しを命じる大統領令に署名した。

     長期に及ぶ低金利政策の下で市場にあふれ出た巨額のマネーが、リスクを度外視し、もうけ一辺倒に暴走した末、金融危機は起きた。提案した2人の議員の名を冠し「ドッド・フランク法」と呼ばれる包括規制は、再び金融機関が過度のリスクを取らないようタガをはめる一方、預金者や消費者の利益を保護することに最大の力点を置いていた。

     そうした規制を緩める試みは、世界を再び危機のリスクにさらすばかりか、職や家を失い、格差拡大に憤り、トランプ氏に期待をかけた人々を裏切ることになりかねない。選挙戦でウォール街を攻撃し、ウォール街に近いとしてクリントン候補を非難したのはトランプ氏である。

     トランプ氏が金融業界の利益優先に動くことは、経済政策の要となるポストの人選からも予想できた。ウォール街を代表する金融機関、ゴールドマン・サックスやヘッジファンドの出身者が多く起用されている。市場では、規制緩和による収益増を期待するかのように、大統領選挙後、ゴールドマンなど大手金融機関の株価が急騰した。

     一方、米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)で金融規制改革を推進してきた理事のタルーロ氏が、任期半ばでの退任を表明した。FRBのイエレン議長が懸念する「時計の針の逆戻り」が現実となりはしないか、憂慮せずにはいられない。

     過剰な規制が、人々への資金供給を阻んでいるというのがトランプ氏らの主張である。だが、説得力のある裏付けはない。むしろ、米銀行による融資総額は、この5~6年、堅調に増加しており、FRB議長も指摘するように、必要資金が借りられない中小企業の割合は極めて低い。

     もちろん、ドッド・フランク法は満点ではない。しかし、資本増強を強いられたことで金融機関の健全性が高まるなど、規制改革は金融の安定化に貢献している。必要なのは、規制がより効果的なものとなるよう、改良努力を続けることだ。

     「大統領と億万長者の閣僚らは、額に汗して働く人々のために闘うとした選挙戦での約束を守る代わりに、ウォール街の破壊的金もうけを手助けしようとしている」。ペロシ民主党院内総務の指摘である。

     規制の骨抜きにより、社会の繁栄を支えるべき金融を再び強欲が支配することのないよう、議会での良識ある議論に期待したい。

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