過激な発言に眉をひそめつつも、「大統領になれば、腰を据えて政策に取り組んでくれるのでは」と予想した向きも少なくなかっただろう。

 その期待は、就任1カ月を前に急速にしぼみつつある。

 政権の混乱は深まる一方だ。トランプ大統領のみならず、側近らの軽率さが目に余る。

 国家安全保障担当の大統領補佐官は、就任前に駐米ロシア大使と対ロ制裁について協議していた疑惑が発覚、辞任した。

 別の高官は、トランプ氏の娘が手がける衣料ブランドの購入をテレビで呼びかけ、懲戒勧告を受けた。「メディアは黙っていろ」とすごんだ高官もいる。

 国の安全保障の中枢を担う緊張感、公人としての倫理観、説明責任を果たす自覚を欠いた振るまいに、あぜんとする。

 公職を担う資質より、選挙の論功行賞で腹心を要職に配した責任はトランプ氏にある。

 大統領と閣僚、高官同士の発言がしばしば食い違うのも問題だ。ロシアを「脅威」とするマティス国防長官に対し、トランプ氏はプーチン大統領を「尊敬している」と繰り返す。

 練られた政策なのか、政権内でどんな認識が共有されているのか、疑念は深まるばかりだ。

 混乱の源はトランプ氏自身の政治手法にある。

 環太平洋経済連携協定(TPP)離脱、メキシコ国境への壁建設、中東・アフリカ7カ国からの入国一時禁止などの大統領令を矢継ぎ早に繰り出した。

 国内雇用の保護、移民の規制、テロ対策など選挙中の公約をただちに実行に移し、指導力を印象づける狙いだろう。

 だが、自由貿易体制を後退させるリスクや、隣国関係への悪影響、現場の混乱や憲法に抵触する恐れなど、中身の吟味が尽くされた形跡はない。

 疑問を呈した高官を解任し、批判するメディアを「偽ニュース」と切り捨てて異論を封じる独善ぶりは、およそ自由主義のリーダーの姿とは言えない。

 熱心な支持層ばかりを喜ばせる政策を並べる手法は、米社会の分断を広げ、米国の国益や信頼を損なうことを、トランプ氏は悟る必要がある。

 実際、論争を呼ぶ政策や人事が、党派を超えた協力をより難しくさせ、議会での閣僚承認が滞る悪循環を招いている。

 「全ての米国民の大統領になる」「支持しなかった人にも助言と支援を求めたい」。トランプ氏は、当選の日に語った初心から出直すべきだ。もちろん政権をチェックする議会やメディアの役割はますます重い。