原発事故を起こした電力会社に、無制限で賠償責任を負わせる「無限責任」制が、維持されることになった。原子力損害賠償法の見直しを検討している内閣府原子力委員会の専門部会で、方針がまとまった。
妥当な結論だと言えるだろう。
電力業界は賠償責任に上限を持たせる「有限責任」制の導入を要望していた。しかし、専門部会は、事故を起こした電力会社を免責することは法制度上の課題が多く、国民の理解も得られないと判断した。
有限責任制にすると、電力会社の安全対策がおろそかになりかねないことも考慮されている。
ただし、無限責任制では、電力会社に損害賠償の原資をどう確保させるかが大きな課題だ。福島第1原発事故では、東電の負担能力を超える巨額の賠償費が発生し、同社は実質国有化された。
原発事故の被害者を確実に漏れなく救済することが、原賠法の最大の理念である。救済にあたって国が果たすべき責任を、法改正で明確に位置付けるべきだ。
原賠法は「異常に巨大な天災地変や社会的動乱」を除き、過失の有無にかかわらず、原発事故を起こした電力会社が無制限に賠償責任を負うと定めている。1200億円までは保険などによる事前の賠償措置で賄い、それを超える場合は国が「必要な援助」をするとされる。
だが、福島第1原発事故では、原賠法の不備が浮き彫りになった。賠償措置額が不十分で、「必要な援助」の内容もあいまいなことだ。
専門部会は、賠償措置額を引き上げる方向で検討を進めている。当然必要だが、大幅増額は保険の引き受け手などの関係で難しそうだ。そうであれば、国の責任をどう位置づけるかが一層重要となる。
政府は福島第1原発事故後、新設した原子力損害賠償・廃炉等支援機構を通じて東電に賠償費用を融資、東電と大手電力会社が協力して返済する仕組みを作った。政府は、新たな事故が起きた場合も原賠機構を活用する方針だが、電力自由化で、この仕組みも揺らいでいる。
電気事業法改正で、電力会社は国に届け出るだけで事業の廃止や解散ができるようになった。事故を起こした電力会社が法的整理を選択することもあり得る。損害賠償の主体がいなくなるのだ。政府が救済の最終責任を負うことも含め、対応策を準備しておく必要がある。
原賠法は原発メーカーに対する製造物責任法の適用を除外しており、機器の欠陥が事故原因でも、損害賠償責任を負わなくて済む。被害者救済のためには、製造物責任の在り方も再検討すべきだ。