朴槿恵(パククネ)大統領を巡る疑惑が韓国最大の財閥に飛び火した。
サムスン電子の李在鎔(イジェヨン)副会長が、崔順実(チェスンシル)被告による国政介入疑惑を捜査している特別検察官に逮捕された。崔被告に多額の賄賂を渡した疑いなどが持たれている。
特別検察官は、朴大統領と崔被告は経済的に一体とみなせるので民間人である崔被告への贈賄が成立すると主張している。大統領を追及する足がかりにする考えだろう。
大統領は在任中に起訴されない特権を持つが、収賄の疑いが確定的になれば憲法裁判所での弾劾審理にも影響を及ぼしそうだ。
特別検察官は先月も逮捕状を請求したが、裁判所に棄却されていた。裁判所には抗議電話が殺到し、棄却を決めた判事にはネット上で激しい中傷が加えられた。サムスン本社前での抗議デモもあった。
異例の逮捕状再請求は厳しい世論を背景に行われ、裁判所も前回とは反対の結論を下した。
特別検察官の捜査期間は今月末までと定められており、期限切れを前に急いだとも指摘されている。朴大統領と崔被告を経済的に一体とみなすのも一般的な見解とは言えない。公判で丁寧な立証を行うことが検察側に求められよう。
今回の事件は、韓国社会が財閥に向ける視線の変化を反映したものでもある。
朴大統領の父である朴正熙(パクチョンヒ)大統領の時代には、限られた外貨や資源を政府が財閥に割り当てた。政経癒着ではあったが、高度成長を実現させ、国民も豊かさを実感できたから大きな問題にはならなかった。むしろ、苦労して起業した姿に親近感を持たれる財閥創業者も多かった。
だが、20年前の通貨危機後に導入された新自由主義的な経済政策で格差拡大が進み、状況は一変した。
李副会長のように生まれた時から特権を享受してきた3世に親近感を抱く人はいない。大韓航空を擁する財閥創業者の孫が離陸前の航空機を引き返させ、世論が激高した2年前の事件は記憶に新しい。
サムスン電子は韓国の年間輸出額の2割を占め、昨年の営業利益が3兆円に迫る巨大企業だ。トップの逮捕で大きなイメージダウンは避けられず、韓国経済にも影響が出かねない。
韓国の大手財閥はいまや世界中でビジネスを展開するグローバル企業になっている。国際社会に通用する企業統治の確立を急ぐべきだ。
国策への資金協力を財閥に求めるスタイルは韓国の歴代政権と変わらない。それにもかかわらず、国民の怒りはこれまでとは比べものにならないほど強い。深刻な財閥への不信が一因であろう。