残業時間の規制について政府の姿勢は甘すぎないか。
働く人の健康を守り、仕事と生活が両立できる「ワーク・ライフ・バランス」の実現が「働き方改革」の目的だ。原点に立ち戻り、抜本的な改革に向けた論議をすべきである。
1日8時間、週40時間までが労基法で定められた労働時間だ。ただし、労使協定を結ぶと残業は月45時間まで認められ、さらに特例で無制限に残業できる。多くの企業で長時間残業が横行し、社員が家庭内で過ごす時間が減り、少子化を招く原因とも指摘されるようになった。
それが、政府が働き方改革に乗り出した背景である。さらに、電通の新入社員の過労自殺によって長時間労働への批判が強まり、政府は法規制強化を迫られることになった。
政府案は残業の上限を45時間と法律で定め、労使協定で特例を設けても年720時間(月平均60時間)を超えることを禁止するという。
繁忙期には「2カ月平均で月80時間」「月100時間」とする案も検討された。過労死の労災認定基準が、脳や心臓疾患が発症する前の「1カ月に100時間超の残業」または「2~6カ月間平均で月80時間超の残業」となっているのをベースにしたものだ。
しかし、認定基準に至らなくても過労で脳や心臓疾患を発症する人は多数いる。政府が「過労死ライン」ぎりぎりまでの残業にお墨付きを与えるような緩い規制は論外だ。
労働力不足に直面している企業は多く、労働者にとっても残業代がなければ家族の生活費が賄えないという実態がある。労使双方にとって現実的な規制として政府案はまとめられたのだろう。
しかし、日本よりはるかに労働時間が短い欧州諸国では、残業時間の厳格な規制や長期休暇の取得が法律で定められ、就業時間後も会社に残る習慣がない国もある。現在の日本の長時間残業が異常なのである。
また、現行の残業規制には抜け穴も多い。管理職や農業・漁業従事者には残業規制がなく、トラック運転手や研究開発者も実質的に規制の枠外に置かれている。デザイナーなどの専門職は、労使で決めた時間を働いたものとみなして一定の残業代を支払う「裁量労働制」の対象とされている。政府はこれらの職種にも残業の上限規制をすることを検討しているが、当然だろう。
一方で、今国会には残業代なしの成果主義賃金を導入する労基法改正案が提出されている。政府は成果主義賃金の対象は一部の専門職に限定すると強調するが、矛盾した政策と言わざるを得ない。
抜け道を許さない規制が必要だ。