最近、水筒で飲物を飲んでいる人を見て何が入っているのかを当てるという遊びをしている。水筒は大概、保湿に優れたステンレス製で中身が見えないことが多く、人が何を飲んでいるのかは外からは全く分からないので、推理のしがいがある。
判断の材料はその人の年齢、顔、飲んだ後の表情のみである。
これが意外と難しい。
例えば、公園で遊び疲れて喉が渇き水筒を飲んでいる小学生なんかは基本問題である。
間違いなく普通、中身は水かお茶である。
というのも子供の健康をしっかりと考えている親なら、水かお茶をいれると私は考えているからだ。いくら子供が炭酸ジュースが好きでも、コーラを入れるのはあまりにも子供の健康に気を使っていないし、ボディビルダーになって欲しいという親の熱いパッションでプロテインを入れるのは時期尚早すぎる。
しかし、たまにではあるが、変化球でアクエリアスを入れてくる親がいる。
ただこれには、見破る方法がある。アクエリアスの粉を所持しているということは、普段から運動時のために常用しているわけで、間違いなくその子供は地元の少年サッカー団か野球クラブに入っている。日常的に運動しているということは、かなり運動能力が鍛えられている可能性が高い。つまり、水筒を飲んでいる子供の動きが他の子供よりもキレキレならアクエリアス、さしてキレキレじゃなければ水かお茶なのだ。
「何だ、簡単な話じゃないか」という結論に至るのはまだ早い。その子供がキレキレの動きをしていた場合、私はなぜその子が数多あるスポーツドリンクの中からアクエリアスを常飲することを選んだのかというプロセスについて思いを馳せる。
恐らく最初はサッカー少年団の仲間たちがみんなアクエリアスを飲んでいるのを見て、お茶や水ばかりを飲んでいたシゲユキはお母さんにこう言ったんだろう。
「お母さん、僕もアクエリアスが飲みたい。」
シゲユキの母は優しい。シゲユキの「みんな持ってるから買って!」にいつも全力で応えてきた母はすぐにスーパーでアクエリアスの粉をまとめ買いしてくる。
「シゲユキ、アクエリアスつくったわよ!!」
こうして、晴れてアクエリアス常飲組の仲間入りを果たしたシゲユキは球を蹴ってはアクエリアスを飲み、アクエリアスを飲んでは球を蹴るを繰り返した。サッカー少年団の練習に留まらず、学校終わりに外で遊ぶ時もアクエリアスを持っていった。
しかし、アクエリアスを常飲していると人類誰もが陥る倦怠期に、シゲユキもさしかかる。「アクエリアス飽きたな、、」そう思ってしまったら最後、アクエリアスから心が段々と離れていく。
シゲユキはついに浮気をしてしまう。あんなにも愛していたアクエリアスを捨て、ポカリスエットやVAAMに浮気する。それでも満足しないのか、無名ブランドのスポーツドリンクに手を出してしまう日もあった。サッカー少年団の仲間たちがアクエリアスを飲み続ける中、皆と異なるスポドリを飲んでいるという優越感もあったのかもしれない。
「今日は何飲んでんのシゲユキ?」
シゲユキは昂る気持ちを抑えて冷静を装い、すました顔で答える。
「ん、クラシエのスカイウォーターだけど。」
仲間の少年たちがザワつく。「シゲユキ!俺にも飲ませて!!」
シゲユキはいつしか、毎回新しいスポドリ持ってくることで皆の人気者になれる快感を覚えてしまった。
一方で、シゲユキの母は来る日も来る日も可愛い息子のためを思って、近所のスーパーを走り回っていた。時には慣れないインターネットを使い、amazonで海外のスポーツドリンクの粉末を大量に注文した。amazonのおすすめ商品の欄にはやがて世界中のスポーツドリンクばかりが並ぶようになった。
しかし、シゲユキの栄光のスポドリ人生は長くは続かない。子供たちが熱しやすく冷めやすいという性質は今も昔も変わらない。シゲユキがアクエリアスに飽きてしまったのと同じように、少年団の仲間たちはシゲユキの持ってくるスポドリに注目することに飽き、興味を失くしてしまったのだ。
この世に存在するスポーツドリンクの数なんてたかがしれている。
ネタ切れで再び持ってきたクラシエのスカイウォーターを、見栄を張って「アマゾネス・ザ・ミネラルである」とこの世に存在しないスポドリの名を答えて偽ったことを、舌に自信のある仲間に見破られたのが運の尽きだった。
「これ、、スカイウォーターだよね、シゲユキ、、、」
シゲユキは泣いた。母に八つ当たりもした。
「お母さんが新しいスポドリを見つけてこないから!」
シゲユキの母はその度に自分を責めた。新しいスポドリを見つけられなかった私が悪い。私のせいだ、また新たなスポドリを探さなくては。憔悴しきった気分でamazonを見ていたある日のこと、わけの分からない国のスポドリばかりが並ぶおすすめ商品の欄に、見覚えのある商品が居心地悪そうにポツンと並んでいた。アクエリアスだ。
シゲユキの母はふと思った。
一度、原点に戻ってみよう。
「昔に戻ろうシゲユキ。」
嫌がるシゲユキのランドセルに、毎日水筒につめたアクエリアスを強引に入れた。
帰宅後に台所に置かれる水筒の中身は、初めは1ミリも減っていなかった。しかし、月日が経つにつれて少しまた少しと、ゆっくりではあるが確実に量が減っていき、やがて空っぽの水筒が台所に置かれるようになった。
シゲユキは思い出したのだ。アクエリアスがスポーツドリンクの素晴らしさを教えてくれたことを。アクエリアスを飲んで、球を追いかけていたあの日々を。シゲアキの空っぽの水筒は心なしか堂々とした姿で台所に立っていた。
学校から帰ってくると部屋に引きこもりがちだったシゲユキは、昔のようにアクエリアスを持って外に遊びにいくようになった。
「お母さん、ごめん、僕間違ってたよ。やっぱり僕はアクエリアスが大好きだ。」
シゲユキの心はアクエリアスに戻った。
今日もシゲユキはアクエリアスを飲んで、グラウンドを駆け回る。