【社説】マレーシア政府は遺体の引き渡しの前に真相解明を

 マレーシアのザヒド・ハミディ副首相兼内相は16日、13日にクアラルンプール空港で殺害された金正男(キム・ジョンナム)氏の遺体について「しかるべき手続き」を踏んだ上で、北朝鮮の要請通り北朝鮮側に引き渡す意向を明らかにした。殺害を行った犯人に被害者の遺体を引き渡すのは甚だ疑問だ。しかもマレーシア政府は「今回の事件でマレーシアと北朝鮮との関係に影響はない」と明言するばかりか、容疑者が次々と逮捕されているにもかかわらず、死因については「急死」としか説明していない。マレーシア政府は真相の解明よりも、明らかに事件の早期決着と北朝鮮との関係維持に重きを置いているように見える。われわれとしては懸念せざるを得ないところだ。

 北朝鮮は今回の事件が発生すると同時に、カン・チョル駐クアラルンプール大使を金正男氏の遺体が運ばれた病院に送り、司法解剖をする前に遺体を引き渡すよう病院側に求めたという。当時、病院前には北朝鮮大使館の車4台が駆け付けるなど異様な雰囲気だった。北朝鮮側が非常に神経質になっていたことが分かる。

 しかし現時点で金正男氏は北朝鮮工作員によってどのように殺害されたか、その正確な経緯も死因も明らかになっていない。そのため毒殺を証明する唯一の証拠になり得るものは遺体しかない。遺体の中に残る毒物を詳しく検証すれば、今回の事件が北朝鮮と関連があることを示す大きな手掛かりになるはずだ。一方でたとえ解剖の記録が残ったとしても、北朝鮮が遺体を火葬してしまえば、最も重要な証拠が完全になくなってしまい、そうなれば北朝鮮が「毒殺捏造(ねつぞう)説」を主張し始めるのは火を見るよりも明らかだ。マレーシア政府が金正男氏の遺族と会い、遺体を北朝鮮に引き渡してもよいか確認したかどうかも分からない。家族の同意もないまま遺体を北朝鮮に引き渡すとなれば、これは明らかに人倫にもとる行為だ。ちなみに金正男氏は政治的な理由から長い間北朝鮮から命を狙われていたため、一部では「韓国政府の保護下にあったのでは」という見方も指摘されている。

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