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 韓国の朴槿恵(パククネ)大統領をめぐる疑惑が同国最大の財閥に飛び火した。

 サムスングループの事実上のトップで、サムスン電子副会長の李在鎔(イジェヨン)容疑者が、贈賄などの疑いで逮捕された。

 李副会長は、グループ内の企業合併に政府の協力を受け、その見返りに、朴氏の知人に巨額の資金を提供したとされる。

 日本企業にとってサムスンはライバルであると同時に、多くの部品などを取引する大切なパートナーでもある。

 グループの年間売上高は、国内総生産(GDP)の約2割を占めるといわれる。文字どおり韓国経済の牽引(けんいん)役だ。

 それだけに、逮捕は国内外に衝撃を与えている。政権の疑惑を機に、巨大な権益をもつ財界への国民の怒りが背景にあるのも確かだ。司法当局は、冷静に事実の解明を進めてほしい。

 今回の事件をきっかけとして、韓国の政財界が真剣に取り組むべき課題がある。それは、政治権力と財閥の関係の見直しである。

 韓国は朝鮮戦争を経て、貧困のふちから今日までめざましい発展を遂げた。だが、80年代後半に軍事独裁の時代が終わりを告げた後も政治と財閥は持ちつ持たれつの関係を続けてきた。

 政権側は金融面や税務調査で財閥ににらみをきかす一方、規制の適用を見送ったり、ゆるめたりして恩恵を与える。財閥は政治資金を提供し、政府が進める事業への資金の捻出にも応じる――。こんな構図が常態化してきた。

 労働界も財閥系であるかないかで二分され、それが著しい貧富の格差の拡大につながったと指摘されている。政財界の癒着の構図は、その恩恵と縁のない国民の不満を募らせ、社会の不安定要因になっている。

 民主化宣言から今年で30年。政治の民主化に続く「経済の民主化」を求める声は根強い。

 弾劾(だんがい)の瀬戸際に立たされている朴大統領も、選挙戦では経済民主化を公約に掲げて当選した。だがその後、財閥改革に本腰を入れたとは到底言えない。

 韓国経済はいま、先行きに暗雲が漂っている。サムスン電子はスマートフォンの発火事故で打撃を受けた。海運最大手の韓進海運は裁判所から破産宣告を受けた。

 次期大統領選に向けて動き始めた有力候補らは、財閥改革の訴えを強めている。大統領の弾劾の行方がどうであれ、韓国は持続可能な発展と社会の安定のために、政治と財閥の関係の健全化を急ぐ必要がある。

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