中東地域の紛争の根源にあるのは、イスラエルとパレスチナの歴史的な対立である。

 その解決へ向けて国際社会は長年の努力の末に、目標を定めた。いまは国を持たないパレスチナが国家を樹立し、イスラエルと平和的に共存する――。

 「2国家共存」と呼ばれる、この構想こそ、今もめざすべき中東和平の姿である。

 ところが、トランプ米大統領はその転換も辞さない発言をした。イスラエルのネタニヤフ首相との会見で、「2国家共存と1国家を検討している。双方が望む方でいい」と述べた。

 パレスチナ側やアラブ諸国と綿密な調整をした様子はない。世界の安全保障にも直結する中東政策について、唐突に変更を口にするのは軽率に過ぎる。

 トランプ政権はそもそもイスラエル側への過度な肩入れが心配されていた。米国が仲介者としての信頼を失えば、中東和平は完全に遠のく。トランプ氏はその重責を自覚すべきだ。

 確かに和平の動きは停滞している。この間、ネタニヤフ政権下で、パレスチナ側の地域への入植が一方的に広げられた。

 「2国家共存」の実現をむずかしくする強硬策をたしなめるのは、米国の役割の一つだ。だが、明確に苦言を呈したオバマ前政権から立場を変え、トランプ氏は入植について「少し自制を」と述べるにとどまった。

 さらに憂慮されるのは、米国大使館の移転計画だ。米国をはじめ多くの国は、イスラム教の聖地でもあるエルサレムをイスラエルの首都と認めてこなかったが、これもトランプ氏は変更しかねない。

 大使館を、いまのテルアビブからエルサレムへ移せば、世界中のイスラム教徒の反発は必至だ。トランプ氏は明確に計画撤回を表明すべきである。

 イスラエルとパレスチナの争いは、世代を超えた病根だ。

 1948年のイスラエル建国で家を追われたパレスチナ人と子孫は500万を超す。今も周辺国の難民キャンプや、イスラエルが自由を制限する地域で劣悪な生活を強いられている。

 人権が軽んじられ、貧困の絶望をもたらすパレスチナ問題が過激思想を生む土壌となって久しい。イスラエル国民も多くのテロに苦しめられてきた。

 トランプ政権は、テロ対策に力を入れると強調するが、パレスチナ問題が放置される限り、国際テロは根絶できない。

 世界と米国の安定のためにも、米国は2国家共存の道に立ち戻り、公正な仲介役を果たすべきである。