実に無責任と言うしかない。イスラエルとパレスチナの和平について、トランプ米大統領は2国家共存構想にはこだわらないと明言した。
将来樹立されるパレスチナ独立国家とイスラエルの平和的な共存を目指して双方は誠実に交渉し、米国がこれを後押しする--。1990年代から米国が支持してきたこの方式を、あっさり放り出した感じだ。
だが、訪米したネタニヤフ・イスラエル首相との共同記者会見で方針転換を打ち出すのは、和平の仲介者として一方的に過ぎる。パレスチナ自治政府は納得していないからだ。
特にアラブ・イスラム世界は、米国がもはやパレスチナ国家樹立を支援しないと考えて反発するだろう。パレスチナ人の夢を奪う発言は中東情勢をさらに悪化させかねない。
また、トランプ大統領は在イスラエル米大使館をテルアビブからエルサレムに移すことに強い意欲を示した。イスラエルはエルサレム全域を武力で制圧し「不可分の首都」と宣言したが、米国を含む国際社会はこれを認めていない。
米大使館の移転は3宗教の聖地があるエルサレムをイスラエルの首都とみなすことを意味する。エルサレムを「国際管理地」と規定した47年の国連総会決議に照らして筋が通らない。エルサレムの帰属は和平交渉の最終課題とされてきた経緯もある。トランプ大統領は移転を断念し、不用意な発言も慎むべきだ。
イスラエルの入植地(住宅団地)について、トランプ大統領が建設を「少し抑制する」ようネタニヤフ首相に求めたことも注目を集めた。
だが、入植地の建設はそもそも国際条約違反とされ、米政府も従来「和平の障害」とみなしてきた。入植地の建設を事実上黙認したようなトランプ大統領の発言は問題である。
さらにトランプ大統領は、オバマ前政権がイランと結んだ核合意を「最悪」と表現した。これもイスラエルの主張に沿うもので、トランプ政権は「イスラエル一辺倒」の趣だ。
だが、イスラエルの利益のみ優先すれば中東の安定は図れない。クリントン政権による3首脳会談(2000年)を最後に、ブッシュ(息子)政権もオバマ政権も仲介らしい仲介をしなかった。これが中東情勢の悪化に拍車をかけたことは否めない。
トランプ大統領は91年の中東和平会議に始まる米国の和平仲介の歴史を謙虚に振り返るべきだ。米・イスラエルだけで新たな取り組みを決めるのは一方的であり危険である。
広く意見を聞くべきだ。米国と「中東カルテット」を形成する国連や欧州連合(EU)、ロシアのほか、パレスチナ和平を支援してきた日本との意見交換も大切である。