第031回国会 予算委員会 第19号
昭和三十四年三月二十七日(金曜日)
午前十時三十九分開議
出席委員
委員長 楢橋 渡君
理事 植木庚子郎君 理事 小川 半次君
理事 重政 誠之君 理事 西村 直己君
理事 野田 卯一君 理事 井手 以誠君
理事 小平 忠君 理事 田中織之進君
井出一太郎君 池田正之輔君
内田 常雄君 小澤佐重喜君
大平 正芳君 岡部 得三君
岡本 茂君 川崎 秀二君
上林山榮吉君 北澤 直吉君
久野 忠治君 佐々木盛雄君
坂田 英一君 篠田 弘作君
周東 英雄君 田中伊三次君
綱島 正興君 中井 一夫君
中曽根康弘君 船田 中君
古井 喜實君 保利 茂君
水田三喜男君 森 清君
八木 一郎君 山口六郎次君
山崎 巖君 淺沼稻次郎君
淡谷 悠藏君 猪俣 浩三君
石村 英雄君 今澄 勇君
大貫 大八君 岡 良一君
岡田 春夫君 加藤 勘十君
北山 愛郎君 黒田 寿男君
河野 密君 小松 幹君
鈴木 一君 楯 兼次郎君
成田 知巳君 西村 榮一君
柳田 秀一君
出席国務大臣
内閣総理大臣 岸 信介君
法 務 大 臣 愛知 揆一君
外 務 大 臣 藤山愛一郎君
大 蔵 大 臣 佐藤 榮作君
文 部 大 臣 橋本 龍伍君
厚 生 大 臣 坂田 道太君
農 林 大 臣 三浦 一雄君
通商産業大臣 高碕達之助君
運 輸 大 臣 永野 護君
郵 政 大 臣 寺尾 豊君
労 働 大 臣 倉石 忠雄君
建 設 大 臣 遠藤 三郎君
国 務 大 臣 青木 正君
国 務 大 臣 伊能繁次郎君
国 務 大 臣 世耕 弘一君
国 務 大 臣 山口喜久一郎君
出席政府委員
内閣官房長官 赤城 宗徳君
内閣官房副長官 松本 俊一君
法制局長官 林 修三君
公正取引委員会
委員長 長沼 弘毅君
大蔵事務官
(主計局長) 石原 周夫君
大蔵事務官
(理財局長) 正示 啓次郎君
大蔵事務官
(為替局長) 酒井 俊彦君
国税庁長官 北島 武雄君
労働事務官
(労政局長) 亀井 光君
委員外の出席者
通商産業事務官
(通商局次長) 中野 正一君
会計検査院長 加藤 進君
日本輸出入銀行
総裁 古澤 潤一君
専 門 員 岡林 清英君
―――――――――――――
三月二十七日
委員北村徳太郎君、久野忠治君、小坂善太郎君、
田村元君、綱島正興君、床次徳二君、早稻田柳
右ェ門君、阿部五郎君、淺沼稻次郎君、岡田春
夫君及び島上善五郎君辞任につき、その補欠と
して森清君、松永東君、坂田英一君、中井一夫
君、池田正之輔君、佐々木盛雄君、岡部得三君、
河野密君、小松幹君、大貫大八君、及び柳田秀
一君が議長の指名で委員に選任された。
同日
委員池田正之輔君、岡部得三君、佐々木盛雄君、
坂田英一君、中井一夫君、松永東君及び森清君
辞任につき、その補欠として綱島正興君、早稻
田柳右ェ門君、床次徳二君、小坂善太郎君、田
村元君、久野忠治君及び北村徳太郎君が議長の
指名で委員に選任された。
同日
委員河野密君辞任につき、その補欠として鈴木
一君が議長の指名で委員に選任された。
―――――――――――――
本日の会議に付した案件
昭和三十四年度一般会計予算補正(第1号)
――――◇―――――
○楢橋委員長 これより会議を開きます。
昭和三十四年度一般会計予算補正(第1号)を議題といたします。
質疑を続行いたします。淺沼稻次郎君。
○淺沼委員 まだ参議院で予算が審議中でありますが、それにもかかわらず衆議院にまた補正予算が出て参ったのでありまして、これは前にも一、二回の前例があるそうでありますが、どうもあまりいい前例ではないと思うのであります。予算を出してその年度内に審議中にまたあとから補正予算を出すようなことは今後改めまして、本予算の中にすべてを入れて出すというような新しい慣例を作るようにしなければならぬと思うのであります。しかしこのことは他の同志からもそれぞれ質問があろうと思いますので、われわれといたしましてはこういう前例を作らないようにしなければならぬということを申し上げ、私はきょうは総理大臣を中心にいたしまして、日中国交回復の問題について政府の考え方を承わりたいと存じます。
まず第一には、戦争が済んでから日本の外交方針はどういう工合に変ってきているかということをお互いに考えてみる必要があろうかと思うのであります。戦争が済んだ直後におきましては、総理は政治の分野に出ておらなかったのでありますが、しかし日本は非常な変革を遂げておると思うわけであります。どういうような変革をとげておるかといえば、戦争に対する鋭い批判が行われまして、二度と再び戦争の起らないような国家体制を作らなければならない、そういう意味合いよりいたしまして、封建的な専制的な軍事的な国家体制はこれを改めまして、民主的な文化的な平和国家体制たらしめたのであります。従ってその根幹を貫いておるものは何であるかといえば、いわば新しい憲法であろうと思うのであります。そして憲法の第九条の中には、国際紛争を解決する手段としての戦争は永久にこれを放棄する、従って陸海空軍及び一切の戦力はこれを保有しない、国の交戦権は行使しないと決定いたしまして、いわば戦争放棄の規定をしておるわけであります。従いまして、この憲法を中心として展開されまする外交でありますから、日本外交の基本は、戦後日本が変革された後におけるその精神はどこにあったかと申し上げますならば、言うまでもなく戦争には不介入、いずれの陣営にも属しない自主独立、いわば中立堅持、こういう建前が私は原則であったと思うのであります。それからその後発展はしておると思うのでありますが、この原則を総理はいかように考えておるか、一つ承わりたいと存じます。
○岸国務大臣 戦争放棄の規定は、これは憲法に明示されておるごとく、日本は将来永久に、国際紛争を解決する手段として武力を行使しないということを宣言しておるのでありまして、これは一貫しておる、日本の平和外交の根幹をなす思想であることは疑いないところであります。しかしながらこの憲法九条が、いわゆる自主権を持っておる独立国として自衛権を持っておるということにつきましては、これまた何人も疑いをいれないところであります。それは、われわれが不当に他から侵略をされない、そういう緊迫不正の侵略があった場合には、それをわれわれは排除するということは、独立国としてすべて持っておるものであって、これを否定するものではないということもまた明らかであります。私どもはこの平和外交を推進すると同時に日本の安全保障を考えていく、これは今お話がありました民主政治、またわれわれが自主独立の国家として繁栄していくために他から不正なる侵略を受けない、こういう安全保障の体制をとることもこれまた当然であると言わなければならぬと思うのであります。しこうしてその場合において、日本みずからの力が十分でない場合におきまして、他と共同してわれわれの安全をはかるということ、これまた当然であります。しこうしてこういうことを決定するのは――国際情勢の現実に即してわれわれのこの平和外交を進め、安全を保持していくということは当然であると思います。今お話がありましたように、これが中立外交主義を根本にきめておるということは、私どもはそう考えないのであります。平和をあくまで推進し、平和外交をしていかなければならない。同時にわれわれが独立の国としてわれわれの安全を主張する、これは当然の主張であると考えておるのであります。
○淺沼委員 私の聞きましたことに対する総理の答弁は、少し現実の自由民主党の政策並びに内閣の考え方が入っておろうと思うのであります。私の伺っておるのは、いわば終戦当時日本は大きな変革をやって戦争放棄の規定をいたして、二度と再び戦争はやらない、そういう国家体制を作らなければならない。さらに加えてきめたことは、再軍備はしないということをきめておるわけであります。当事におきましては自衛のための再軍備ということも考慮されておらなかったことも事実であります。そうして民間並びに政府のやった態度はどうであるかと言えば、どこの国とも平和を持続するという意味合いよりいたしまして、いわば全面講和の主張をなしたわけであります。すなわちその当事吉田総理にいたしましても、全面講和をやらなければならぬと言っておられました。われわれも全面講和を主張したのであります。ただ結果から見ますならば、多数講和に終ったことは事実であります。しかし全面講和の主張が政府の中にも国民の中にも台頭して参りましたのは、いずれの国とも仲よくして、そうして戦争を排除する体制を作りたい、それを貫くものは何であるかと言えば、自主独立、それは中立堅持であったと思うのであります。それに対して今の自由民主党、岸内閣の考え方は別として、今は総理大臣としてあなたが立っておられて、終戦当時における日本の外交の基本はどこにあったかというその認識を承わりたいと思います。
○岸国務大臣 先ほどお話を申し上げました通り、私は、終戦当時において再び戦争に巻き込まれない、この意味において永久に戦争は放棄するということを宣言をし、それを中心として考えられたことは事実であろうと思います。しかしながらそのことは同時に日本の安全を保障するために、自主的な、独立的な立場として当然自衛権を持っておるという考えに立っておることは、私は、これは当然である、いかなる国とも平和に仲よくしていくということはそのときもそうでありましたし、今日もまた依然として同じに考えておるのであります。
〔「ヒヤヒヤ」「その通り」と呼ぶ者あり〕
○淺沼委員 そこで私は、やはり全面講和の主張の中には、戦争放棄というばかりでなく、いずれの国とも仲よくして自主独立――自主独立ということになりますならば、一方の陣営との間に何か軍事同盟を結ぶというようなことはなかった考え方であろうと思うのであります。しかも振り返って考えてみますならば、サンフランシスコにおいて講和会議が開かれた際に、いわば対日平和条約に調印をしたその人の中でも安全保障条約に判を押さなかった人があるのであります。ある意味から申し上げますならば、日本とアメリカとの間における安全保障条約というものには国民の相当数の者が反対であり、全権の中にも判を押さなかった者があるのであります。これは何を意味するかと申し上げますならば、やはり日本は軍事同盟は結ぶべきではない、自主独立、厳正なる立場に立ちながら中立堅持という思想が相当あったからと私は思うのであります。さらにそのことが国民並びに政府の側において修正をされておるような傾向になりましたのは、すなわち鳩山内閣におきます当時の対ソ平和宣言であろうと思うのであります。すなわち国の行き方というものが、戦争をやった国とどことも平和を結んでいく、この努力をしなければならぬということが国民の要望であり、政府の方針であって、しかもサンフランシスコ会議においては、ソビエトとの間においてはできないということから、ソビエトとの間においてどうするかということを政府みずから取り上げて、そうしてわれわれもこれは支援をいたしましたが、それでソビエトとの間において平和宣言が成立した、さらにその他の共産国との間にも漸次平和条約ができていく、こういうような状態になったことは、やはりどこの国とも平和な状態を続けようとする政府の考え方と、さらに加えて国民の考え方が一体となってそうなったと私は思うのであります。これに対してはどういうお考えでしょうか。
○岸国務大臣 もちろん平和条約が締結され、また先ほども申しましたような考えに基いて日米安保条約ができる場合におきまして、これに賛意を表せなかった国民はあったと思います。しかし、国民の大多数がそれを支持したことも事実である。同時に日ソ共同宣言をいたしました当時、これに反対するところの国民もあったことは事実でございます。しかしながら、多数の国民がこれを支持したことによってこれができておるのでありまして、私は先ほども申し上げているように、もちろん日本が平和外交を推進する見地から、いずれの国とも仲よくしていくという考えについては一貫して変らざるものが日本の外交方針である、こう思います。
○淺沼委員 そこで、中国の問題に触れてみたいと思うのでありますが、わが社会党といたしましては、社会党が統一をいたしました際に、ソ連並びに中国、残されておりまする国々との間に平和を回復しなければならぬ、これを決定いたしまして、あらゆる場合において政府に要求して参ったのであります。従って、今総理がどこの国とも仲よくする、こういうことを言われたならば、ソ連が解決したならば、次に残っておるのは中国でなかろうかと思うのであります。もちろん、中国と日本の関係を考えてみまするならば、台湾と日本との間に平和条約のあることは事実であります。しかしながら、台湾と日本とにおいて、平和条約という名において、いわゆる中華民国との間において平和条約を結んだときは、われわれは反対をいたしましたが、しかし、そのときの状況と今の中国の状況とは、大なる変化があるということを知らなければならぬと思うのであります。台湾は完全なる地方政権に転落をしております。中国本土はどうであるかと申し上げまするならば、われわれの若い時代には四百余州、四億と言いましたが、今は六億八千万の人口が、また来月になりますと人民代表者会議が開かれますが、その場合における国勢調査によると案外七億をこえるのではなかろうか、こう言っておるわけであります。七億をこえた国民が中華人民共和国として成立をしておるのであります。またこれが主体的にも完全なる独立国家になっておるということは、いなむことのできない事実であります。従って、総理がどの国とも平和を結んでいかなければならぬということになりますならば、六億八千万の人口によって形成されておりまする中華人民共和国に対して、平和の手を伸べることは私は当然ではなかろうかと思うのであります。これについて総理の考え方を承わりたいと思います。
○岸国務大臣 私どもは過去におきましてもまた現在におきましても、この中国大陸とのきわめて密接な関係があるのでありまして、この友好的な関係を築き上げていかなければならぬことは、われわれも同じにこれを考えております。今問題は、もちろん国際情勢はいろいろな変化をいたしつつありますけれども、日本と中国との関係において日華条約が結ばれましたことは、当時これをもって中国を正当に代表する政府としてわれわれとの間に平和条約が結ばれたことは、御承知の通りであります。その後いろいろな情勢の変化もありまして、これを調整し、あるいはこの間におけるところのいろいろな矛盾をどういうふうに整理していくことがいいかということは、しょっちゅう考えられておる問題でありまして、私どもは中国大陸との関係においては、いわゆる積み上げ方式によって、これらのあらゆる問題を平和的に解決していく方向に努力を続けるというのが従来の方針であり、また私はそれが現実に即して最も正しい方法である、かように考えております。
○淺沼委員 どうも私の質問に対する答弁がちょとそれたような形でありますが、それならば中華人民共和国との間においては、一日も早く平和の情勢を作り出したいという一つの考え方を持っておると認識してよろしいですか。
○岸国務大臣 もちろん先ほど来私が申し上げましたように、現実に即してこれを解決しなければならないのであります。いろいろな問題がありますから、ただ抽象的にどうするというふうなことを言うことは、私は適当でないと思います。方向として、われわれが中華人民共和国を、向う側が言っておるように適視する政策をとっておるとか、非友好的な態度をとっておるということは、われわれは絶対に考えておらないのであります。この現実に即してこの関係を調整するのには、やはりあくまでも日本が置かれておる立場、及び従来の中国との間の関係を律しておるところの条約その他というものを無視することなく、これらの国との間の平和的な調整を考えていくという意味において、私どもはこれを解決しなければならぬ、こう思っております。
○淺沼委員 どうも答弁が横へそれて、端的に率直に申されないところがあるのでありますが、そこで私はもっと具体的に聞きたいと思いますことは、今私は日本外交の変遷の姿を申し上げましたが、その変遷の姿が、鳩山内閣によってソ連との間の国交を回復し、さらに加えまして岸内閣になりましてからは、外交三原則などというものを発表しておるわけであります。すなわち、一つは自由主義陣営に乗る。第二は国連主義だ。第三にはアジアの一員として生きる。ここに私は大きな問題と、今答弁の中にもまだ解決ができないような答弁がなされているような気がするのであります。すなわち、自由主義陣営の中に生きる。しかし私は質問の冒頭において申し上げました通りに、やはり日本が変革の後にきた、戦争放棄した日本の姿というものは、このいずれの陣営にも属しない。そこで厳正な立場に立って、自主独立そうして中立堅持、これが私は日本の行き方であったと思うのであります。その行き方を、ここに参りまして大きな訂正をしておると私は思うのであります。さらに加えて、アジアの一員として生きるということになりまするならば、アジアにおいて一番大きな国、なおかつ非常に健全なる発達を最近なしておるものは中華人民共和国であります。それに手を伸べないで、アジアの一員として生きるということは、一体どういうようなことですか。少くとも中国との国交回復をやることが、アジアの一員として生きるという大原則中の大きなものではないかと思うのでありまして、これについて答弁を承わりたいと思うのであります。
○岸国務大臣 いわゆる中国との関係におきまして、先ほど来お話があるように、すでに過去において、われわれは不幸にして中国との間にいわゆる戦争関係があって、これをわれわれは平和な状態を作るという考えのもとに日華平和条約ができ、これに調印をされたのであります。しかしながら、その後における中国の政治情勢なりいろいろな変遷がございます。私どもは、常にこの中国全体に対して友好的な関係を作り上げる方向に行かなければならぬことは、これは言うを待たないのであります。しかしながら、そういう従来の関係を全然一挙に無視して、そうして国交を正常化する、そのために日華平和条約を廃棄するというような態度に直ちに出るということは、国際信義の上から決して私どものとるべきことではないのであります。従って、私どもが従来言っているような積み上げ方式によって、これを解決すべきものであるというのが、私どもの信念であります。
○淺沼委員 そこで、国際情勢というものは動くものであります。また外交も動いていかなければならぬと私は思うのであります。いわばサンフランシスコ会議が開かれたあと結ばれた、あの時代における日華条約というものがあることは現実でありますが、それから世界は動く、中国の建設は進んでおるのであります。だれが考えてみたって、中国にありますところの主人公はだれであるかといえば、これは言うまでもなく中華人民共和国であることには間違いありません。従って、台湾との関係というものは、中国側においても台湾は中国の一部であると言っておる。場合によれば内政問題として解決するという努力もしておるようであります。そこで、日本の考え方というものも、もっと積極性があって私はしかるべきではなかろうかと思うのであります。もちろん中国と日本との間に平和条約が結ばれて参りますならば、必然的な結果といたしまして、台湾とのああいう関係が切られていくということは、必然であろうと思うのであります。従いましてその必然を作るために努力ということを、政府自体がアジアの一員として生きるためには、やって参らなければならぬと思うのでありますが、この点についてもう一ぺん御答弁を願いたいと思うのであります。
○岸国務大臣 あなたの御質問のような趣旨において、われわれは従来積み上げ方式によって、あらゆる方向から両国の理解と、そうして両国の友好関係を築き上げることが、この問題を解決する具体的の有効なる道であると私どもは考えてきておるのであります。
○淺沼委員 そこでその積み上げ方式、積み上げ方式と今三回ほど私は聞いたのでありますが、政府は一体何をやったか、私は具体的に承わりたいと思います。
〔発言する者あり〕
○楢橋委員長 静粛に願います。
○岸国務大臣 私どもが、従来経済の関係において貿易を増進していこうという努力をして参ったことが、昨年の五月に中国側の一方的な廃棄によって中断したことは、よく御承知の通りであります。
○淺沼委員 積み上げ方式は貿易のことで、いわばどっちかといえば、岸内閣は不承認の態度をとってこわしておいて、それで中国に責任を負わせるというのは、どうも私には納得がいかないし、これだけが積み上げ方式だということになりますと、私は積み上げ方式というものを非常に誤解して考えておられると思うのであります。
〔発言する者多し〕
○楢橋委員長 静粛に願います。
○淺沼委員 そこで積み上げ方式の内容から申し上げますならば、われわれは今からまる二年前に中国に参りました。その際に淺沼・張奚若コミュニケというものを出して参りました。そのときから現在に及んで参りまするならば、もちろん貿易の関係におきましては、それは議員連盟がありまして、相当あっせんをしておったことの事実も私は認めます。しかしこれはあくまでも民間のものであります。さらに加えて私どもが参りました際に、お互いにいろいろな協定を結びまして、私どもがこの前参りましてからあと、約四十団体との間に協定が結ばれました。その際にも私は帰って参りましてから岸総理にお目にかかりまして、われわれのやって参りましたことについて、われわれの要求すべきことを要求したのであります。その際中国側の意見を私はこう伝えた。いわばわれわれの行く前の漁業協定については、中国側の方から要請がありまして、政府間の協定をやろうということになっておったのであります。これを政府の方ではお断わりした。その前には両方の漁民関係の団体における協定があったわけであります。さらに私どもが向うで話しておる間に、場合によっては気象協定もやってもよろしい、さらに加えて郵便物業務協定もやってもよろしい、また漁業協定は、われわれの方からいっておるような状態であるから、これもよろしい。場合によれば政府と政府の間において貿易協定もいいのだ。さらに加えまして文化協定もいいのだ、これらのものはすべて政府間においてやってもいいという態度を示したのであります。その上に一つ全面的な講和ということを考えたらどうか、これを私どもが要請をいたしましたときに、政府側ではこれをメモしておる人がありました。石田君がたしかメモしておったのでありますが、それについては何にもやらない。それでそのあと岸内閣のとった態度ははなはだ――私はここで申し上げてもいかがかと思うのでありますが、相当深刻な非友好的な政策をとっておると思うのであります。たとえば岸さんが台湾に参りまして蒋介石を激励したあの言葉も、相当向うには深刻に響いております。これは私は当然だと思うのであります。さらに加えましてそのあとはどうであったかといえば、今池田君が大きな声を出しておりましたが、池田君なんかが非常に奮闘をいたしましてせっかくできた第四次貿易協定を、もう協定ができ上って、あれに政府の方ではよろしいと言えばそれでいいのであります。(「よろしいと言ったじゃないか」と呼ぶ者あり)それをいわば愛知官房長官の声明書によってこれをこわしたことは誤まりであったと私は思うのであります。
さらに加えまして長崎に国旗事件が起きた際に、議会でだいぶ問題になったのでありますが……。
〔発言する者あり〕
○楢橋委員長 静粛に願います。
○淺沼委員 それに対しても政府は、国交のない国だからやむを得ないといったような態度でありまして、国交があろうがなかろうが、国旗に対する愛着というものを否定するような言動をなしたことは、非常に向うに響いているわけであります。つまり積み上げ方式でやってきたということは、案外積み上げ方式で政府はこわしてきたといっても私は過言ではないと思うのであります。そういう意味合いにおいて、それならばこれから積み上げ方式をやる。――一体具体的に何をやろうとしておるか、お伺いしたいと思うのであります。
○岸国務大臣 すでにこの国会を通じて、われわれはこの積み上げ方式の考えについてはしばしば明瞭にいたしております。あるいは今お話が出ております気象の問題であるとか、郵便の問題であるとかいうようなものについては、すでに政府間で話をして、政府間の協定もよろしいという方針をわれわれはすでに明らかにしております。また貿易の再開についても、できるならば大使会談によってこれが打開をわれわれはやっていきたいということも述べております。しかしながら、私は今日の現状から言うならば、私どもは決してこの敵視政策とか、あるいはわれわれが二つの中国を作る陰謀に加担しているとかというようなことが、われわれに対する非難として与えられておりますが、そういう事実は全然ないのであります。従って、もしもそういう意図でもって日本政府のやっていることを中国側が考えておるとするならば、それは誤解であるか他に何かの意図があるものであって、これはぜひ両国の友好親善の方向からいって、これが解けることを望むという意味において、私どもが従来静観の態度をとってきたことも事実でございます。しこうしてわれわれが、すでに国会を通じてわれわれの方針を、友好的な、また積み上げ方式についての具体的な考え等について述べておることに対して、むしろこういう今度のあなた方の行かれた訪中団等が、政府のこの意向を十分正当に向うに伝えられて、向う側のこれに対する好意のある回答を私どもは期待した。しかし結果はそのことが正しく理解を得ることができなかったということは、私どもとしてははなはだ遺憾に考えておるのであります。
○淺沼委員 どうも積み上げ方式と静観というものが一体のようでありまして、私は論理的の合致がないと思うのであります。一面においては静観と言いながら、一面においては積み上げだ、積み上げでやるのは何であるかといえば、議会でわれわれが質問したこと等に対して答弁をしたことが積み上げだ、これがどうも私は、われわれに対する一つの外交辞令なら別でありますが、国と国との関係を考える場合においては、あまり私ははっきりした答弁ではないと思うのであります。
そこで私がさらにお聞きをしたいと思いますることは、中国側においては政治と経済とは分離できない。少くとも経済と……。
〔発言する者多し〕
○楢橋委員長 静粛に願います。
○淺沼委員 文化あるいはその他人的交流を考える場合においても、大前提において何をするかということになりまするならば、それは政治的問題から話し合いをしなければならない。私はこれは当然だと思うのであります。国と国の間における正常なる交際は何であるかといえば、国交が回復されなければならぬと思うのであります。国交が回復をされて、そのもとで行われるのがほんとうの外交でありまして、国民外交というのはそういうことにならない前に行うのが国民外交であろうと思うのであります。従いまして中国側においては、いわば一切の政活的問題をまず解決しようじゃないか、こう言われておるのであります。これはこの前、私ども二年前に参りまして帰りました際も、中国側においては政府と政府の交渉を考えておるようでありまして、政府も一つ前に乗り出したらどうか、こういう私は要請をしておるわけであります。それをしないでほうっておいて、今総理は、向う側と経済の問題でやるならば大使会談などと言っておりますが、向うではやはり政治を中心としてやりたい、これは私は当然だと思うのであります。国と国の交際のないところにおいて、そうして相手方が言うのは、やはり国と国との間において話し合いをしようではありませんか、こう出てくるのが私は当然だと思うのであります。従って、そういうときに政府はどういう考えを持つか。依然として経済の問題だけで、貿易だけやる。片方においては、中国のやっておることに対して相当因縁をつけておいて、もうける方だけは一緒にやりましょうというのでは、少し無理があるのではないかと思うのでありまして、こういう点に対する考え方を承わりたいと思います。
○岸国務大臣 経済、貿易の関係は、淺沼君は何か日本がもうけるためにやっておるというふうな考えでありますが、私どもは、これは現実に反していることであって、貿易、経済の交通をすることは、両国民の利益であり、福祉を増し、繁栄を増すゆえんである。同時に、それを続けていくことが両国の理解を深め、両国の、われわれが望んでおるところの国交の正常化へ向う道であるという意味において、この経済、貿易の問題をわれわれは考えておるわけであります。しこうして今政治と経済との関係においてのお話であります。また中国側が最近強くそのことを言っております。そうして今淺沼さんのお話では、政治の話をせずに経済の話というものはあり得ないじゃないかというふうなお話でありますが、過去においてその問題を離れて日本との間に貿易の行われておった事実は、昨年の五月以前はそうであった。なおまた現に中国と経済、貿易の交通をしておる西ドイツ、フランスその他の国におきまして、やはり政治という問題の、いわゆる国交正常化というような問題を先に解決せずして、まだ国交が正常化されておらないにかかわらず、経済、貿易の関係において相当な関係ができておることはこれまた事実でありまして、これを分けることは絶対に不可能であるというふうな議論は、何かほかに意図があるとしか私には思われないのであります。
○淺沼委員 この問題につきましては、こういう工合に理解をしなければならぬと思うのであります。すなわち岸内閣が初めから、今岸さんの答弁をしておるようなものをとり、さらに加えては郵政大臣が郵便協定を結ぼうと、こういうようなことをやっておるのを、われわれが第一次協定を結んできたあとやっておりますれば、それは問題はない。大体よくやったやつを昨年の五月以来これが中断をされるような結果になったのでありまして、これには政府の責任が相当あると私は思うのであります。これが問題であります。従いまして相手方といたしましては、この中断をするような状態になったことに対して、政府側において深刻な考えをしてもらいたい、そこでまあ話し合いということになるであろう。私どもはこう思うのでありまして、やはり問題は、中断するに至った日本の政治行為というものが相手方に悪く響いておるのでありますから、これを改めるという態度が出てこなければ私はならぬと思うのであります。その点は、やはり日本の政府が真剣に考えなければならぬと思うのであります。
〔発言する者多し〕
○楢橋委員長 ちょっと委員長として皆さん方に御相談申し上げますが、本日の……。(発言する者多し)ちょっと静かに願います。静かに願います。本委員会は、今非常に全国注目しておる重要な委員会でありまして、ことに委員外の傍聴をしておる人たちがヤジをやっているようでありますから静粛に。淺沼さんのせっかくの質問であり、総理も答えておりますから、どうか静粛に議事が進むようにお願いいたします。御協力を願います。
○岸国務大臣 私が内閣を組織しましてから、今申し上げているような考えのもとに一貫してきておるのであります。しこうして昨年の五月の、及び五月以降の状態というものは、中国側におきまして非常な強硬な態度で一方的に、当時すでに契約ができ、あるいは協定のできたようなものも廃棄され、その後における一切の交通をとめるという強い態度に出てきたわけでありまして、そうしてわが内閣に対しましても、その後における責任ある外務大臣等の声明も相当私は非友好的な、また日本に対して相当きびしいことを声明されたと思います。私は、これに対して常にこれは誤解であって、われわれの真意が十分に了解されておらない。従って、それが誤解が解けることを望むという意味におきまして、努めて静観をし、そうしてこれらの冷静なる判断を待ったわけでございまして、考え方は一貫して今日述べるような考えを持っているわけであります。
○淺沼委員 考え方は一貫しておっても、やることが一貫していなければならぬのでありまして、やはり問題は、言行一致ということがなされなければならぬと思うのであります。一番政治家にとって必要なことは、自分の言うことと行動とが一緒にならなければならぬと思うのであります。いわば今言ったようなことをやっておると言いながら、本土反攻と言ったらやれというようなことを言ったのでは、私はどうもならぬと思うのであります。さらに加えまして、なるほど総理は中国の貿易の問題についていろいろやっていると言うけれども、愛知官房長官が出した声明が――われわれはあの声明を出してはだめだ、こう言ってやった。出さないでやったらどうだと言ったやつを出したから、それが契機となってこわれているわけであります。また国旗ということについても、これはお互いが真剣に考えなければならぬ問題で、いわば戦争に敗れた日の丸の旗でありますけれども、日本人としては愛着を持っております。また中国人としてやはり自分の国旗に愛着を持つのは当然だと思うのであります。それを破いたり、あるいは日本の反省せざる人間の中には、新橋ステージで焼いたりする。こういうようなことに対して、政府は、あれはやってみたところが日本には取り締る法律がないからだめだ、そういうような態度の答弁を議会の中において総理はされておるわけであります。しかし、そういう問題については、やはり日本国民が国旗に対して愛着を感ずるような行動をとるのが当然だと思うのでありまして、そういうような点において、どうも私は総理の言ういわゆる考え方はこうだと言われても、実際に行われておらない点がそうでありまして、もし今後ほんとうにやるなら、実際に自分の言うことと行うことの、いわば言行一致の態勢を私は作るべきだと思うのであります。政治家として言うことと、それからそうでないということに対しては、この前の警職法のときも、ずいぶん河上さんがあなたに言ったことがありますが、そういう点でもう一ぺん――こればかりではなく、全体として一つ政治家の発言と行動という問題に対してどうお考えになるか。
○岸国務大臣 もちろん政治家が、責任ある立場におきまして責任あるこの場所において言明していることと、行動とが違っておるということであるならば、私は政治家として当然批判され、同時にそれについて責任をとらなければならぬことは言うを待たないと思います。私は、今日申し上げていることは、決してただ口先だけで言っていることではございません。政府がとってきている私どもの考えはこうだということは、私どもが政策としてとってきておることと一致しておるということをはっきり申し上げます。
○淺沼委員 これがまあここだけであなたの答弁を聞いておれば、それはそうだということになろうと思うのでありますが、賢明なる国民はそうも考えないと私は思います。ところが、言うことと行うことの一致を見出さないということは、この前の議会においても相当ありましたし、今度の議会の質疑応答の中にもそれが現われておるわけであります。積み方げ方式でやるんだと言いながら、積み上げ方式をこわしたのはあなたじゃありませんか。私は、やはりこれをはっきりしなければならぬと思う。こういうところにおいて言行一致を求めたい、こういう工合に求めているわけであります。
○岸国務大臣 決して積み上げ方式を私みずからこわしたことの事実はございません。すでに従来の貿易協定におきましても、通商代表部を置くというような問題については、三次までの間においては、常にこれが問題であった。また、指紋問題というものも長い間の問題でございました。これらの問題を私は解決をいたしております。であるにもかかわらず、この一切の関係が中断をしたのは、中国側のとられた一方的の措置によってこういう事態が起ったのでありまして、そういう措置を中国側がとるに至ったことは、われわれの真意を正当に理解していないところに基くということを私は当時から申して、その冷静なる、正当な理解を求めてきたのであります。
○淺沼委員 二、三よいことをやったら、全体がいいことをやったようなことを言うのでありまして、どうもこの点については私ども了解できません。従いまして、岸内閣はほんとうに過去の行動に対して鋭い自己批判を行いまして、その上に立ってどうするかということをお考え願わなければならぬと思うのであります。
そこで私はもう一点、今度は外交の問題についてさらにお聞きをしたいと思うのであります。大体日本の外交の失敗をしてきたゆえんのものはどこにあるかといえば、いつも遠くと結んで近くと対立をする、こういうようなことがなされておるのではなかろうかと思うのであります。たとえば日清、日露の戦争のあと、日本はイぎリスと軍事同盟を結びました。イギリスと軍事同盟を結んだ結果、イギリスの番兵のような仕事をやって、第一次世界戦争、この際には日英同盟があるゆえをもって戦争に参画をいたしまして、青島を日本の勢力範囲に集め、さらに太平洋にありまするところのドイツ領の諸島というものを日本の勢力範囲におさめたわけであります。それから太平洋戦争中はどうであったかといえば、ドイツ、イタリアと軍事同盟を結びまして、これまた遠きものと軍事同盟を結んで近くに侵入した。すなわち、満州、さらに加えて中国、さらには東南アジア、これに帝国主義的な発展を試みようとしたところに、日本外交の大きな失敗があるのではなかろうかと思うのであります。さらに加えて、最近はどうであるかといえば、岸内閣は、これまた遠きアメリカと軍事同盟を結んでおる。さらに加えまして、もう一つはどうであるかといえば、アメリカのドルを日本の科学技術でオブラートいたしまして、アメリカの東南アジア発展の媒介体の役割をしようというのが、案外あなたの東南アジア開発金庫ではなかろうかと私は思うのであります。こういうような遠くと結ぶということよりかも、やはり善隣友好の外交が展開をされていかなければならぬと思う。お互いの生活だって、向う三軒両隣ということがあろうと思うのであります。国の関係だって、近所のものと仲よくして――遠くのものとも仲よくすることは当然であるけれども、まず近所のものとやる、こういう工合になるのが当然だと思うのであります。いわゆる言葉で申し上げまするならば、遠交近攻といいますか、遠くと結んで近くを攻めるという外交のやり方はおやめになって、やはり善隣友好の外交から展開したらどうかと思うのでありますが、いかように考えておりますか。
○岸国務大臣 これは言うまでもなく、先ほどもお話がありましたように、日本の外交の基本は平和外交を推進するということでありまして、いずれの国とも仲よくし、いずれの国ともよく友好的にいくということが望みであると思います。決していわゆる歴史的な遠交近攻というような考え方で外交政策を立てるべきものでないことは、言うを待たぬと思います。
○淺沼委員 しかし、それはそういうふうに答弁されますけれども、現実の姿を見れば、日本政府が仲よくしているのは、遠くの人と仲よくしている。すなわち、それと軍事同盟を結んでいる。しかるに、中国との間には何ら手を差し伸べないというのでありますから、それはそういうことをやっておらないといっても、現実的には遠交近攻の政策であろうと思うのであります。
そこで、私が岸総理にお伺いいたしたいことは、社会党は、長らくの間安保条約の解消の主張をやっております。すなわち、それは何であるかとえば、アメリカとの軍事関係を切ること、それが日本の完全独立と平和になる前提であると、私どもはこう考えているわけであります。今岸内閣は、それを度を越えまして改定運動をやっておるわけであります。私は、この改定ということは、結果から見ますならば改悪になるものと思うのであります。従って、改定された結果はどうなるかと申しますならば、一歩誤まりますならば核武装も強要されることになり、さらには案外海外派兵といたようなことも、非常な義務がつけられて来る。たとえば、日本が大戦争に参加する一つの証文をとられるような結果になりはしないかということを憂えるわけであります。そういう意味合いにおいて、まず、日米安全保障条約というものは、われわれは解消と言っておりますが、われわれが解消と言っても、政府は改定をやっておるのが現実であるわけでありますから、その改定の交渉をやめて、現実のままということには一体ならぬものであるか。まず、私どもは、政府はアメリカとの間における日米安全保障条約の改定交渉を中止するお考えがないか、これをお伺いしたいのであります。
○岸国務大臣 この安保体制、これをやめろ。現行の安保条約を廃棄しろという議論が、社会党の間に従来からあることは私も承知をいたしております。しかしながら、日本の置かれている国際的な立場を考えてみますと、日本が、国民がほんとに他から侵略されない、安全に、われわれの理想を追求することができるという安心感を持つためには、私は、やはり日本が不当に侵略された場合においてこれを排除するところの安全なる方法を考えなければならない。それが安保条約の私は基本の考え方であると思う。しこうして、現在の安保条約が制定された当時は、日本のいわゆる自衛の力というものが全然なかったために、この安保条約をごらん下さると、いわゆる独立国の立場からいって好ましくない、また望ましくない規定がたくさんにあります。ことに、アメリカが一方的にすべてのことを決定し得るようなことになっております。従来、かりにこの安保条約を廃棄するという立場を捨てて考えてみても、こういう点について非常な不備がある、不当であるということは、社会党の諸君から私は幾たびか質問を受けております。私どもは、やはり独立国として、この安全保障の体制としては、現実の国際情勢からいって、日本が他から侵略されないという国民がひとしく安心感を持つのには安保体制が必要である。その上に立って日本の自主独立の立場をできるだけ明瞭にし、そうして日米の間において、従来アメリカが一方的にすべてを決定し得たような不当な事項をできるだけ対等な形に直そう、こういうことであります。しこうして、今お話がありましたが、原子兵器、原水爆を持ち込むというようなことが言われておりますが、これは、従来の規定ならば――私はこれを認めないということを国会を通じて言っておりますが、常にそれに対する反駁は、一体安保条約のどの規定で政府はこれを拒否し得るのか、そういう拒否し得る根拠の規定がございません。これを明瞭に安保条約の間に置くことが、日本が核武装をしないというこの状態を作る上においても必要であると考えておるわけであります。海外派兵のごきとは、これは絶対にしない。われわれは、今度の改定におきましも、アメリカとの間に一番大前提として話しておることは、日本の憲法の特殊性、また憲法の精神を貫くということの前提のもとに話をしておるわけでありまして、海外派兵のごときは絶対にあり得ないのであります。従って、そういう意味において、改定がこういうことを意図しておるというふうに言われることは、事実をしいるものであり、また国民の多数が、今のような不平等な、日本の自主性の認められておらないような安保条約よりも、これをできるだけ対等な形にすることは、国民の多数が希望しておるところであると私は考えますから、これを中止する考えはありません。
○淺沼委員 この安保条約の改定問題が起きて参りましたのは、岸総理がアメリカを訪問いたしまして、アメリカとの間において話し合いをして、日米関係が新時代に入る、そういったことに源をなしておると思うのであります。従いまして、そのことを刈るために今非常に骨を折っておられるのではなかろうかと思うのであります。さらにそれに加えまして、藤山外務大臣は相手方と交渉を始めた。しかし交渉は始めたが、これを途中で切れば国際信義というようなことから、いわば自分の信用問題にも関するということから、継続をやっておるようであります。今国民の中にもずいぶん世論が起きておりますし、自由民主党の内部にも、私はいろいろな議論があるやに承わっております。また、これを先へ延ばすべきだという議論も相当あるやに承わっておるのであります。従いまして、私は、この問題については、もっと真剣に政府は国民の意見――場合によればわれわれの意見も、もっと私は聞くべきだと思うのであります。いわば、こういったような問題に対しては、日本国民全体としてものを考えるべきだと私は思うのでありまして、われわれの意見のあるところがありまするならば、それも参考にして、その上に立つべきでありまして、今はもう打ち切る意思はありませんと、こういう工合に出ることも、私はいかがであろうかと思うのであります。
そこで安保条約の改定、それには日本の国の自主独立との関係があって、安保条約で国の安全を期しておりながら、そのあとで自主独立をやるのだ、こういう発言を今総理はせられたのでありますが、これは主客転倒ではなかろうかと思うのであります。われわれ日本の外交の基本はどこにあるかといえば、やはり私が冒頭に申し上げました通りに、自主独立という立場でなければならぬと思う。自主独立を保つために、アメリカとの関係をどうするかということになるのが私は当然だと思うのでありまして、この点も、一つ御答弁を願いたいと思います。
○岸国務大臣 安保条約のごときにつきましては、私は十分に慎重な態度で各方面の意見――国民の多数の理解と支持が必要であるということは、淺沼君と全然同感であります。私どもが従来、十分にその具体的内容につきましても、われわれの大体の考えを国会を通じて明らかにし、これに対する批判であるとか、これに対する意見というものにも、われわれは謙虚に耳を傾けて、慎重なる態度でこれに向っておることは御承知の通りであります。私は、社会党の諸君が安保条約を廃棄する、現在のものを廃棄する、改定はもちろんいかぬ、廃棄するという立場を堅持されるならば、これはおそらく話し合いとか、あるいはあなた方の御意見をわれわれが拝聴する余地はないと思いますけれども、しかしながら、建設的な、こういう点においてはこうすべきだというふうな御議論に対しては、十分われわれは耳を傾けておるつもりでありますし、また将来もその考えでございます。
○淺沼委員 そこで、やはり私どもの考え方をこの際申し上げてみたいと思うのでありますが、われわれはアメリカとの軍事関係は切るべきだ、こう思うのであります。これは、なぜ私どもはそう考えるかといえば、やはりアメリカとの軍事関係を結んでおることは、アメリカの軍事支配下にあると私は思うのであります。これが平等になったといっても、兵器の進み方を考えてみまするならば、明らかに軍事支配下にあり、さらに加えまして、その関係が強化されておりまするならば、経済の支配も高まってくると私は思うのであります。従って、完全独立国家になるわけには参りません。従って、完全独立国家になるためには、アメリカとの関係を切って、そうしてあくまでも中立、いわばいずれの陣営にも属せない、いずれの陣営とも軍事同盟を結ばない、こういう立場に立って日本は生きるべきだと思うのであります。それをいずれかの陣営において、いわば軍事同盟を結ぶことは、結果においては非常に私は戦争に介入する一つの動機を作る、ポイントを作るような結果になりはしないかと思うのであります。今私が非常に心配をいたしますることは、国際の平和はどういうようなものによって維持されておるかといえば、言うまでもなく軍事同盟方式であり、軍事同盟方式の方に核兵器が乗せられそれで平和は維持されておるのでありまして、これは私はほんとうの平和ではないと思うのであります。従いまして、ほんとうに私どもは平和を愛好するならば、この軍事同盟方式をやめて、核兵器の製造あるいは保管、使用、こういったようなものも全部やめていく体制を作ることが、私は一つの行き方ではないかと思うのでありますが、これに対する考え方を承わりたいと思う。
○岸国務大臣 今の世界が、軍事同盟や軍事力の対抗によって、そのバランスによって平和がわずかに保たれておるという事態であることは、私ども永遠の平和を望む立場からいって、これが望ましい形ではないとかねがね考えております。従って、それは両陣営の間において十分に話し合いによってそういう状態をなくしていくようにしなければならない。また、いろいろな協定をすることによって、核武装というものをなくしていかなければいかぬということにつきましては、従来私どもが非常に努力をしておることも御承知の通りであります。しこうして現実に日本を取り巻いておる情勢が、それでは一切の軍事同盟がないのに、日本に対してはそういうものはないのに、日本だけがやっておるという情勢であるかといったら、そうではないと思います。私は、この点においては決して中ソを責めるわけではございませんが世界の大勢がそうなっております。その現実は中ソの条約の中に、日本を対象とした軍事条項のあることも御承知の通りであります。それが廃棄されておらない情勢のもとにおいて、国民が絶対に安全感を持つためには、日本みずからもある種の軍事力を日本が憲法で持つところの力には制限があるとして、ある場合におきまして、他のわれわれの友好国との間にそういう関係を持つということは、これは現実からいったならば、責任ある政治をやっていく上からいったら、私は当然である。理想は、そういう状態が理想ではなくして、そういうものも一切なくするということが理想でありますけれども、日本を取り巻いている現実の国際情勢は、日本としては、全然そういう安保体制をなくして、そうして中立だといって、安全感を国民が持ち得るかといったら、私は持ち得ない情勢であると思うのであります。
○淺沼委員 そこで私は政府にさらにお聞きしたいのでありますが、今ソ連、中共と、こういうことを言われました。私はこういう議論も、これは率直に申し上げますが、今度はやりませんでしたが、この前のときには率直にやったのでありまして、これはこの前の内容を……(発言する者多し)どういう議論であったかと申し上げまするならば、われわれはアメリカとの軍事関係を切る国民運動をやっております。しかし日本の保守党の一部の中には、それは困る、中国が来やしないか、さらにはソ連が来やしないか、ちょうど今総理が言っておるようなことを、私はこの前のときには中国の要人の方々には申し上げたのであります。ところが向うで言うのには、アメリカとの関係が切られるならば、われわれの中におけるいわば中ソ友好同盟条約中の軍事条項も切ったらいいということを言っておったのであります。今度の話し合いにそれをどういうようにやったかと申し上げますならば、われわれはこの問題につきまして、日本の完全独立と平和、さらに加えて中立、積極的な中立、これをわれわれがやる場合においては、中立保障が必要である。すなわち今総理が言われたように、総理は、日本の自主独立の立場をアメリカと結ぶことによってやろうとしておるのでありますが、しかし、わが社会党といたしましては、アメリカと切る。しかし自主独立、積極的な中立政策を堅持していきたい。その場合においてはどういうような態度をとるかと申し上げますならば、言うまでもなく、アメリカとの軍事関係を切るということができれば、自然中国とソ連の間においても――日本の軍国主義的な傾向並びにこれを援助する勢力に対して中ソ友好同盟条約のいわば軍事条項があるのでありますから、日本で切れば向うも切るのが当然であり、また向うもそうするということを言っておるわけであります。そうすればその上に、日本とアメリカとソビエトと中国と四つの国が中心になりまして、新しい安全保障体制を作れば、何も私はアメリカと結ばなくてもよいと思うのであります。さらにもう一つ、この点を相手方が先にやったらいいというけども、一体この間の戦争の過失をやったのはどこの国であるかということだけは、はっきり念頭に考えてものを申さなければならぬということだけは申し上げておきたいと思うのであります。
○岸国務大臣 これは私は何も中共と日本との関係だけでなしに、世界のいわゆる両陣営の対立というこの情勢を見ますと、いつまでもそういうことが言われる。まずお前の方から裸になって来い、そうすればおれの方も裸になって行くというなににつきましても、核兵器についても、そういう議論が行われているのでありますが、それでは絶対にできないのであります。私は、もしも真にそういう中立の政策をとるということであるならば、中国自体も中立政策をとっておるのだということで、これをわれわれに勧奨するということならわかりますけれども、自分たちの立場は、まず日本の出方を見て、それからおれらはきめるのだ――しかし、それが国際情勢としてほんとうに信用ができるかというと、大きな国際情勢として、それが信用できないというのがわれわれの今の時代の悩みであります。私はそういう意味において、勝手にわれわれだけそういう体制を解け、その上においてわれわれとしてはまた考えるというふうな事柄はこの際の話としては、私は考えてみて、現実に即しないものである、こう思います。(拍手)
○淺沼委員 何も私は中国が言っておるからということを言っておるのではありませんで、社会党の政策を率直に申し上げたのでありますから、その点を明白にしてもらわなければならぬと思います。あえてこの際政府並びに与党のとっている態度は、われわれが大いにいろいろなことをやって参りましたから、何が因縁をつけようということに重点が置かれまして、それで、いいところをとってやるというこの心持のないことは、はなはだ遺憾であります。外交の問題でありますから、われわれのやったことの中で、いいものがあればとるという態度であってしかるべきだと思うのであります。
そこで私はあくまでも政府に対しては、日本とアメリカとの軍事関係は切る、そうして自主独立、積極的中立政策をとる、この方針を私は政府に強く要望しておきます。これは反対党である社会党の強い要求であるということは、あなた方が外交を推進する場合において忘れないように、また日本の人民の大多数がこれを望んでおることは私は間違いないと思うのでありまして、この点も一つつけ加えておきます。
そこでもう一つ伺いたいのは、中国と日本との経済の関係であります。これはこの前も今度も私は毛沢東氏に会ったときに申し上げたのでありますが、この前あったときに毛沢東氏は、私にこういうことを言われた。日本は前進しておる、進歩しておるいわば科学として技術を持っておるのだ、中国は資源の国である、その日本の進歩せる科学と技術と中国の資源と結びついたら、両国の繁栄はもとより、アジアの繁栄に寄与するところ大なるものがある、こう言われました。さらに彼が言うのには、日本は今アメリカから鉄鉱石を買っているだろう、さらに加えて石炭を買っているだろう、さらに加えて大豆を買っているだろう、中国には鉄鉱石もあれば石炭もある、さらに加えまして大豆もある、アメリカから持ってくるには二週間かかる、われわれの方から行けば一昼夜で行く、運賃だけ考えても、また値段にしたって、アメリカよりも高くはいたしません、そういうようなことで、一つ貿易ということ、あるいは経済の建設ということもいいではないかと言われた。
〔発言する者多し〕
○楢橋委員長 静粛に願います。
○淺沼委員 そこで今度は私が会った際に、あなたはこの前のときに、私に対して今私が申し上げたようなことを言ったが、やはり日本と中国との関係においては、一つの経済の提携ということ、お互いが経済の交流をやっておるということは当然ではないか、こう言ったときに、彼が答えて言うには、それは真剣に考えます、真剣に考えますが、日本がまたやはり完全独立国になるということも大いに努力してもらわなければ困る、こう言われておったのであります。同時に私の考え方を言えば、今日本の経済は、アメリカ依存の経済であるのではなかろうかと思うのであります。すなわち、アメリカの片貿易の中に日本は生きておると言っても過言でないと思います。たとえば、五億ドルあるいは六億ドルのものを日本は向うへやって、日本に向うから入って参るものは十一億ドルから十二億ドルでありましょう。そうすると、その差額は何で補充しておるかといえば、これは日本におきますところのアメリカ軍隊、あるいは台湾におるアメリカ軍隊、あるいは韓国にあるアメリカ軍隊、この特需品を作ることによって、ちょうど経済のプラス・マイナスを保っておるということだろうと思うのであります。ある意味から申し上げますならば、アメリカの戦争経済の上に立っておると言っても私は過言ではないと思う。はなはだ危ういといわなければならぬと思うのであります。従いまして、日本はやはりアメリカとの経済関係も自主独立の経済へと切りかえていかなければならぬと私は思うが、切りかえていくには、やはり中国との問題についてもっと政府が真剣な態度をとって、われわれは中立保障と言いましたが、やはり経済の場面においても中立保障というものがなされなければならぬと思う。われわれは、国策において積極的中立政策をとっても、アメリカに経済を握られておったのでは、完全な中立というわけには参らぬわけであります。従って私は、経済の独自性、さらに加えてアジアにおける諸国との経済の提携、さらにこのことは中国との経済提携も当然だろうと思うのでありますが、これに対するあなたの考えを伺いたい。
○岸国務大臣 中国との間の経済提携につきましては、いわゆる協力については、私は心からこれを望んでおるがゆえに、先ほど来言っているように、経済、貿易の関係においては、今中断しておる中国側の態度を改めてもらって、そうしてこれを再開したいということを私どもは常に心から願っておるわけであります。また今、日本の経済がアメリカに従属している、アメリカから独立しなければいかぬというお話でございます。いろいろな関係で、日本と諸外国との間の経済、貿易の関係というものは、日本が非常な受け取りの多いところもありますし、あるいは日本の支払いが多いところもありますし、あるいは全体の額においての規模の大きいところもあり、小さいところもありますが、日本としてはあらゆる国に対して、日本の必要とする資源や、あるいは食糧等を最も安く買い入れて、しこうして日本においてこれを加工し、もしくはいろいろな生産を増進して、諸国においてこれを買ってもらう、この全体においてバランスをとるということが貿易政策の中心でございます。私はこの意味において、一国同士のバランスもなるべくとるように努めなければならぬが、一番大きなことは全体としてのバランス、国として大きな問題はそこであることは言うを待たないのであります。しこうして、アメリカとの貿易関係が現在望ましい状態でないことは、私どもも痛切に感じておりますから、これがバランスをとるように、なお一そう日本品がアメリカに輸出されるように努力をしておるのでございます。額が多いからその国に従属しておるとか、あるいはその国から輸入が多いからその国の経済にわれわれが依存しておるというふうな見方は、私は経済の見方としては正しくないと思う。あくまでも日本は、経済的にも政治的にも、あらゆる面において自主独立の立場をもって、世界のあらゆる国とできるだけ親善関係を結び、経済協力を進めていきたい、これが私どもの外交の根本方針であります。
○淺沼委員 アメリカとの関係につきましては、私はやはり日本の独自性というものはもっと発揮されていいと思うのであります。特に中国側においては、先ほど申し上げました通りに、経済建設についてはお互いにやろうと、こう言っているのでありますから、その場合において、やはり日本もそれをやるためには、先ほどから申し上げました通りに、政治の分野から解決していかなければなりません。従って、今私の議論に対しても総理も全部ではありませんけれども、漸次変えていくような傾向については賛成のようでありました。それならば一つ政治的な解決というところも頭の中に入れてもらいたいと思うのであります。
そこで、アメリカとの関係について、私は一言運輸省関係で伺いたいと思うのであります。この間鉄道建設審議会が開かれまして、そこで私は聞いたのでありますから、ここで繰り返す必要もないと思うのでありますが、あの会合は秘密会であります。従いまして、その事項は何も秘密というわけじゃありませんが、そのことは日本国民に大いに知っておいてもらわなければならぬ問題でありますから、一応聞きたいと思うのであります。それは何であるかと言いますと、ここできめました衆議院を通過した予算の中に、東海道新幹線について三十億の建設費を組んでおるわけであります。これは従来鉄道でやっておりましたところの建設とは異なりまして、改修ということでやっているのであります。私はどう考えてみましても、東海道から大阪まで新たなる線を作ってやるのが、改修であるということにはならないと思うのであります。これは明らかに新線であろうと思うのでありますが、しかし、このことは意見が分れまして、運輸省側においては改修であるといい、私は新線であるということになりましたが、改修であるが、鉄道建設審議会にかけるということになりましたから、この問題についてはあえて追及いたしません。三十億円で全体幾らの予算がかかるかというと、千七百五十億とかかかるそうであります。それを五ヵ年計画でやるそうでありますが、その資金をどこに求めるのだと聞いたところが、アメリカといいますか、世界銀行といいますか、これから借り入れるということになったと私は思うのであります。そうなりますと、私は非常に問題を残しておると思うのでありまして、すなわち、経済の提携といっても、なるべくならば自主独立ということになれば、自力でやっていくことが私は当然だと思うのであります。それをアメリカから今借りる交渉をやっているそうでありまして、もしこれを借りて新幹線を作るということになれば、ちょうど中国において、日本は南満州鉄道を作ったわけであります。それで非常な災いを残しておる。ところが一歩誤まりますならば、ちょうどアメリカが日本に一つの南満州鉄道を作るような結果になりはしないか、これを私は憂えるのでありまして、この問題を一つ御答弁を願いたい。
○永野国務大臣 東海道新幹線の建設資金の引き当てにつきまして、運輸審議会の席上で述べましたことに、多少の誤解があるのではないかと存じますから、この際これを釈明いたします。
東海道新幹線が膨大な資金を要することは、今お説の通りでございます。しかし、貸してくれるか貸してくれないかわからないアメリカの資金のみを引き当てにいたしまして、あの計画を立てたのではございません。日本の力でその建設ができるということを感じましたから、私どもはその計画を立てたのであります。内容につきましては、この前審議会で申し上げましたように、今やっておりまするところの国内の五ヵ年計画が終了いたします。そういたしますと、その余った工事量は、この東海道新幹線の方に回し得ると思いまするし、さらに日本の経済の将来の見通しをいたしますと、だんだん余裕もできて参りますから、この程度の金を日本内地において調達し得るという見通しのもとに、あの東海道新幹線の計画を立てたのでございます。しかしながら、非常に膨大な資金が要るのでありますから、これは世界銀行の資金がもしも使い得るものならば、必ずしもそれを断わる必要はないという意味におきまして、ほんとうの瀬踏みの程度で向うのことを聞いておるのでございます。先ほど淺沼さんは、もしもアメリカの金で鉄道を作ると、かつてのいわゆる帝国主義のシンボルといわれておるような植民地鉄道のようなことになりはしないかという御心配がございましたけれども、私は少しもその心配をしておりません。現にアメリカの――アメリカじゃございません。世界銀行の金によって日本の道路がつけられておりますけれども、あの道路をアメリカ道路とか世界銀行道路とか考えておりません。また産業におきましても、いろいろな発電計画及び製鉄所なんかの工場建設資金を借りておりますけれども、これによって日本の製鉄業あるいは日本の発電事業、あるいは日本の国の道路がアメリカの道路になろうとは考えておりません。それと同様の意味におきまして、鉄道もできるものならば、貸してくれるものならば、使ってもいいではないか、こう考えておるのでございます。
○淺沼委員 どうも今の答弁を聞いておりますと、この間の答弁と違っておるのでありまして、案外私がここで質問するようになったら、答弁も日本の資金でやるというように重点が置かれたようでありまして、それを言行一致というところで、今言ったことは間違いないように願いたいと思うのであります。あのときには答弁をされて、今また日本の資金でやるように重点を置かれておる、だんだん答弁が変っていくということは、やはり言行一致ということになりませんから、そういうことのないように願いたいと思います。
ただ私どもが憂えていますのは、新幹線ができますと、そこの経営は案外新しい会社でやられるといううわさが飛んでおるわけであります。新しい公社でやられまして、日本鉄道公社と、もう一つ新しいものができて、もうかるところだけはそこでやって、しかも利子だけはどんどん持っていかれるということになると、案外日本の独立性というものを――これはしょっちゅう乗るときに、この鉄道は一体どんな鉄道であるかということを考えると、やはり日本人の国民感情というものは相当深刻なものがあるということをお考えを願わなければならぬと思うのであります。しかし答弁は要りません。
それから私はILOの条約の問題について聞きたいのでありますが、これは時間を残しまして、河野君にやっていただきたいと思いますので、御了承願いたいと思います。
そこで、最後に総理大臣にお伺いをいたしたいと思いますることは、日本外交のやり方であります。これはきょうも私はこの会場へやって参りまして、相当自由民主党の方々が、いろいろと私のあれを批判していました。これも悪くはないと考えます。議会においては当然だと思うのでありますが、しかし、政府側においては、やはりわれわれ反対党の考えていることをどういう工合に取り入れるかということは、これは十分お考えになるべきだと私は思うのであります。それは、たとえば対ソ問題が起きたときには、鳩山総理は鈴木委員長とよく話し合いをやりました。これは私はある意味から申し上げますならば、先ほど総理は反対もあったとこう言いましたが、反対の多かったのは、自由民主党内部に多かった。それをわれわれが援助して、満場一致の形式をとったのであります。やはり国際の関係というものはそういうようなことも私はできてしかるべきではなかろうかと私は思うのであります、お互いが協力し合うということは。また鳩山総理のあとに石橋内閣ができましたが、石橋内閣ができました際には、われわれが一番先に石橋さんにお目にかかったときに、お互い外交の問題については意見が違うことはあるだろう、これは政府与党とは反対党でありますから意見の違うことはあるだろう、しかしながら、お互いに話し合いをする、こういうことはあってもいいじゃないか、たとえば、政府の側においては、反対党の首領に対して今外交の進行、国際情勢の動きはこうである、こういうことぐらいは話したらどうだろうかということを言ったところが、これを受けられたのであります。岸総理になられましてから、そういうことがありません。この間の党首会談だったか、前の党首会談をやったときに、鈴木委員長からそういう話をしたら、まあとこう言われて、考えようと言われたのだが、話はうまく出るけれども、あとが続かぬということであります。実は私質問することもいかがであろうかと考えておったのでありますが、あなたにはちゃんと文書をやっておりまして、公けでなく非公式でありますけれども、お話を申し上げた。ところが、あなたの方から私に立会演説を申し込んできた。さらに加えて外務委員会でやろうという。これはそういうのをやるならまことにけっこうです、けっこうですけれども、考えようによれば、いわば外交の問題をお互いにしのぎを削る政争の中に持ち込む、これが果していいか悪いかということを私は考えた。それならばここできよう率直に申し上げた方がいい、そういう意味合いにおいて私はきょう申し上げたのでありまして、自由民主党が望むならば、何も私どもは立会演説を拒否するものではございません。さらに外務委員会で私を呼び出して、私の意見を聞きたいというなら、積極的に意見を申し上げます。これも一ぺん申し込まれた以上は、あとでそれを取り消すことのないように総裁から一つやってもらいたいと思う。ただそういうことを言うときには、やろうかやるまいかというような不安定な状況をもって社会党に話しかける。――また私は社会党に対していろいろ抗議をされることも妥当だと思うのであります。しかし、私が北京でやりましたところの演説に対して、福田幹事長から抗議が参りました。これも私は反対党の政党から出されるのは当然だと思うのでありますが、しかし私どもは、あなたが、いわばハワイにおいて社会党と対決すると言った、さらに加えてまた台湾において蒋介石を激励した。しかし、われわれはそれに対して何も言いません。私はそういうような態度があってしかるべきだと思うのでありまして、まあ何も言ってもらって悪いということではありません。しかし、外交の問題になれば、お互いにもう少し真剣に考えてもいい。外交はこういうふうに騒がしくやってもいいと思うのでありますが、もう少し落ちついてやるくらいの――特にここの中におられる方で、一番先に行って、いわば議会を代表して行って調印した人があります。その調印した人が先頭に立ってやっておれば、もっと早く解決しておる。それをここにおいては黙っておることを忘れないように願いたいと思う。
そういうようなわけでありまして、まああまり騒がないようにして、どうぞ皆さんにおかれましても大いに反省をして、そうして今後進められんことを望むのでありますが、これに対する総理の考え方を承わりたいと思います。
○岸国務大臣 外交の問題は、言うまでもなく、国の全体の問題でありまして、私は、現在、二大政党においてその根本的の考え方を違えておるということについては、これは非常に遺憾な状態であると思います。お互いにこの外交の問題等において話し合いができ、建設的な意見の交換ができるような状態に早く日本の二大政党もなりたいものだと思っております。そういう意味において、外交を単なる政争の具に供するというような考え方は、お互いに慎しまなければならぬということは言うを待ちません。しかし、意見の違うことはあくまでも話し合って、それがある一致点を見出し得るような状態では遺憾ながら今日ないと思います。これは私がそう思うだけではなくして、おそらく社会党の方も、外交の問題を扱っておられる方々も同様であろうと思いますが、自民党の外交路線と社会党の路線というものが全然違っておる、こういうことは、私は、日本として、現在の状態としては望ましくないと思う。従って、この点に関してはお互いがもう少し考えなければならぬ点があるということを、私は私自身が政局を担当して常に考えております。たとえば、決して私は社会党を単に非難するという意味じゃありませんが、もしも社会党の有力な中国訪問団が行かれるならば、私どもは中国との現在の関係を遺憾とし、これを打開したいという熱意を持っており、われわれが従来敵視政策をとっておるというようなことを強く中国側は考えておるけれども、日本政府はそんなことを考えておらないということを十分に説得するような態度を持ってやっていただきたいし、われわれもまた、社会党の訪中団のやられたことにおきまして、いろいろ中国側の意向等につきましても、従来正確につかみ得なかったものをつかみ得たものもあります。従って、将来の積み重ね方式につきましても、われわれが努力すべき点につきましても、いろいろと考えさせられる点がございます。そういう点については、われわれも十分この社会党の諸君の意見を謙虚に聞くことにやぶさかではないのであります。そういう意味において、今日の状況においては、遺憾ながら、超党派外交というようなことは、ただ絵にかいたもちのような、現実を離れた問題でありますけれども、何かそういう方向にお互いに努力をしていきたい、こう私は念願しております。
○淺沼委員 超党派外交のことを私は申し上げたのではないのでありまして、今総理が申されました通りに、社会党と自由民主党との間には、外交方針の根本においては違うものがございます。しかし、お互いに日本の国にある政党であるということには間違いはないのでありますから、その点において、お互いが話し合いをしていくということは当然だと思うのでありまして、この点を御考慮願いたいと思います。
最後に申し上げたいことは、幾たびか繰り返して申し上げました通りに、中国と日本の関係は、積み上げ方式でやってきたのが、積み上げ方式がだめだということになったわけであります。そこで、私どもが向うに参りまして、国民外交の窓を開いて参ったわけであります。今後も私どもは大いに中国と話し合いをやって参りたいと思います。さらに加えて、人事あるいは文化あるいは技術の交流も相当行われることになると思うのであります。しかし、政府側においては、いわゆる積み上げ方式より政治的なところに踏み出さなければならぬというのが大きな問題でありますから、どうかそこに思いをいたされまして、中国と日本との問題を解決して、一日も早く中国本土、いわば中華人民共和国との間に平和条約を結んで、台湾は中国の内政問題である、中国の一部の問題である、こういう工合に解決のできるように大いに御努力を願いたいと思います。答弁も要りません。要望だけしておきます。(拍手)
○楢橋委員長 河野密君より関連質問の申し出があります。この際これを許します。河野密書。
○河野(密)委員 私は、関連質問と申しますが、きわめて、限られた問題についてだけ御質問を申し上げたいと思います。労働大臣が御病気で出席ができないのははなはだ残念でありますが、総理大臣並びに関係閣僚にお尋ねしたいと思います。
私は、去る二月の二十四日の本委員会におきまして、政府はILO条約八十七号を何ゆえすみやかに批准しないのであるか、従来政府は、労働問題懇談会の結論が出た以上は、すみやかに批准の手続をとる、こういうことを言明してきたにかかわらず、この結論が出たのに、なお批准をちゅうちょしておるのは何ゆえであるかということを質問いたしたのであります。しかるに政府は従来の言明を裏切って、言を左右に託して、今日に至るまで批准の手続をとっておりません。これは重大なる怠慢といわなければなりません。それにもかかわらず、政府は、この経緯をILOの事務局に報告をいたしまして、その報告の中では、今にも政府がこの条約を批准するがごとき言明をいたしておるのであります。従いまして、この報告を受け取ったILOの結社の自由委員会におきましては、日本関係の件は、委員会直前の二月二十五日付で日本政府がILO八十七号条約を批准することにしたという閣議決定を通告してきたからして、新しい提案をするということを言っておるのであります。これについて私は政府にお尋ねをいたしたいのでありますが、この通告に基いて三月に開かれましたILOの理事会におきまして、労働側の議長であるサー・アルフレッド・ロバートの発言によりまして、日本の国会開会中であり、この機会をはずしては批准がおくれるので、この件の解決がまた延びるから、早急に日本政府に伝達するようにという一つの提案がなされておるのであります。そこで、日本政府はこのILOの事務局に対してなされた通告の責任をどういうふうにおとりになると考えておるのでありましょうか。この労働側の理事がなされた発言は、あとで読み上げまするように、新しい勧告と見るべきものでありますが、これに対して政府はどういう態度をお示しになるのであるか、まずこの点を総理にお尋ねをしたいと思います。
○岸国務大臣 政府は、すでに毎々お答えをいたしておりますように、労働問題懇談会の決議を尊重して、批准するという方針をきめ、それに必要なあらゆる準備を急速に整えるように今検討中でございます。
なお、今の向う側の新しい提案に対しての政府の意向いかんということは、労働省の政府委員よりお答えいたさせます。
○亀井政府委員 御答弁申し上げます。ILOの理事会に対しまして、政府が三月の二十日に決定をいたしました一応の方針を報告をいたしております。それによりますと、政府としましては、ILO八十七号条約は批准するという大原則を立てております。ところが批准するに先だちましては、すでに労働大臣からしばしば本委員会におきまして御答弁申し上げましたように、労働問題懇談会の答申にございますように、諸般の法的な措置というものが要請されるわけでございます。従ってそういう手続を踏んだ後において、政府としては批准の手続をする、しかし批准という大方針につきましては、政府の意思を決定をしておるのだという通達をいたしたわけでございます。そこで先月の末に開かれましたILOの結社の自由委員会におきましては、政府の意思がILO八十七号批准ということを決定している以上は、この結社の自由委員会でさらに討議する必要はないではないかという意見の結果、結社の自由委員会としましては、この論議を次の委員会にまで持ち越したわけです。そういういきさつがございます。
○河野(密)委員 その点が非常に違うのでありまして、労働大臣がいたらはっきりとしてもらわなければなりませんが、結社の自由委員会においてはその論議を次のあれに譲ったというのは自明のことであるから、その他の問題についてはこれは譲る、しかしながらこれは批准の手続はとるということを直ちに労働側の議長から理事会に報告になっておりまして、その報合の文書はここにありますが、読み上げますと、「この様な事情にある為委員会としては日本政府の国内法改正及び条約批准の閣議決定を記録にとどめ日本政府が現存の諸問題を八七号条約の精神により早急に解決する事及び約束した批准手続措置を速かに行い又その上は条約の完全かつ全面的な適用をなすであろう事を確信する。」こういうことが書いてあるのであります。これによりまして、一切の必要な手続を日本政府がとるということを確信して、その自余の問題は次に譲るけれども、この問題については自由委員会は理事会にこれを直ちに報告をして、日本政府の善処を求める、こういうことになっておるのでありまして、その点は今の答弁と全く違うわけであります。
○亀井政府委員 結社の自由委員会でおきめになりました内容につきましては、私ども承知をいたしておりますが、その中におきまして日本政府が今国会において批准せいというようなことはいっていないのでございます。あくまでも日本政府が批准をするという基本的方針を承認をしつつ、できるだけ早くその批准の手続をとってくれるようにという趣旨の決定をいたしておるわけでございます。従いまして政府といたしましても、その趣旨にのっとりまして、目下批准の諸般の手続につきまして検討し、準備を進めている段階でございます。
○河野(密)委員 これはますます悪いのだが、これを報告した労働側の議長サー・アルフレッド・ロバートの発言は、日本政府は、目下国会開会中で五月末に閉会となり、秋まで休会となる、この委員会の報告を五月の理事会に持ち越すと今国会に間に合わず、従って批准手続もおくれ、この件の解決がまた延びる、であるから、との報告を結社の自由委員会は取り急いで三月の理事会に報告をすることにしたのだ、こういうのが労働側の意見です。この国会が開かれておるということを前提として、これをやっておるわけであります。
○亀井政府委員 日本政府に対しまして、結社の自由委員会の報告が理事会になされ、理事会において結社の自由委員会の結論が一昨日正式に日本政府に参っております。その内容は、先ほど河野先生が申された、私の方もまた答弁を申し上げたところと同じであります。ただ今労働者側の代表から意見のありました事実は、私らも情報として入手しておりますが、しかしそれは何も結社の自由委員会の決定事項ではないのでありまして、労働側の意見としてそういう意見が発表されたというにすぎないと私は考えます。なおこの問題につきまして、ILO事務局からは、四月の十五日までにその後この問題について政府の準備その他の進捗状況を報告しろということが来ておりますので、われわれといたしましても、十五日までにはその間の進捗状況につきまして報告をしたい、かように考えております。
○河野(密)委員 これは少し問題をはっきりしておいた方がいいと思うのでありますが、結社の自由委員会におきましては、日本の全逓あるいは国鉄機労から提訴されております。提訴されておる問題は、日本政府がもう批准をすることにきめたということであるから、結社の自由委員会としてはその問題の結論を出すまでもないことになった、従ってこれは国会の開かれている間に、早く日本政府は手続をとるように理事会においてこれを報告して、理事会から勧告をすることが妥当である、こういう結論に到達をして、それを出された、それが三月の理事会において行われたわけであります。その報告が日本政府に来ておるにかかわらず、日本政府はこの国会が次第に会期がなくなろうとしておるにもかかわらず、何らの態度もとっておらないというところに、問題があるのであって、その点を一つ総理大臣からはっきりしてもらいたいと思います。事情は今私が申し上げた通りなのです。結社の自由委員会に、機労からも全逓からも国鉄からも提訴がいっておる。しかし日本政府がこれは批准すると言ったから、もうそれらの問題は結論を出すまでもない、だからこれは次に延ばしてもよろしい、しかしこれは急ぐことであるから、理事会に報告をして、理事会において日本政府がさっき私が読み上げましたようにとるようなことを確信する、そういうようなことを確信するという、勧告という形ではないけれども、これがりっぱな勧告であることは、日本政府に対する通告でおわかりになっているわけであります。それでもなおかつその手段をおとりにならぬというのは、一体どういうわけかということをお尋ねしておるのです。
○岸国務大臣 私は労働問題懇談会の答申を得まして、さっそく閣議として、この答申の趣旨に基いて批准をするという方針を決定し、そうして労働問題懇談会の答申にもあり、その答申ができた経緯から見、また日本のわれわれの労働政策としての考え方から申しまして、各種の準備が要るわけでありまして、その準備をできるだけ早くするように関係庁に命じて、これの準備をさせておるのでございます。まだその準備について私自身報告を受けておりません。私はできるだけ早くこれを進めるようにということを関係大臣及び関係の部署に命じて、鋭意検討させておるわけであります。その準備ができれば、もちろんでき次第提案をいたしますが、なかなか広範にわたっておりますので、時日を要するものではないかと思うのであります。その準備ができないために、今日まで批准の手続ができない、こういうふうに御了承を願いたいと思います。
○亀井政府委員 総理の御答弁に補足して御説明申したいと思います。日本政府が、先ほど申し上げましたように、内閣の決定といたしましてILOに報告しましたことと関連しまして、結社の自由委員会で決定されました条項をお読み上げいたしまして、それでわれわれの御説明に御了解をいただけると思いますが、その内容を簡単に申し上げますと、日本政府は、内閣が本条約批准の手続を開始するに先だって、一定の条件が満たされなければならないと述べている、このような事情にかんがみ、本委員会は法律を改正し、本条約を批准するという内閣の決定に関する日本政府の言明に留意すること、すなわち結社の自由委員会としましては、日本政府の態度を一応承認をしておるわけであります。それで、日本政府が遅滞なく本条約批准の手続を開始して、それを完全に実施するという見地から、批准することを決定した本条約の精神に沿って、残余の諸困難をすみやかに克服するであろうという確信――この諸困難というのは、日本政府側からいろいろ法律改正その他法的な整備という条件を出しております。そのことを言っておるのでおりまして、結社の自由委員会は日本政府のその報告を一応了承して、できるだけすみやかに批准の手続をとるようにというのが、その決定の趣旨だとわれわれは解釈します。
○河野(密)委員 この問題はまたあとで少しお尋ねするとしまして、この問題の批准がおくれている点に、いろいろな支障が起っておると思いますが、最近公労委で出されまして仲裁裁定について大蔵大臣にお尋ねします。この仲裁裁定をどういうふうにお取り扱いになるつもりであるか、その仲裁裁定によってどれだけの予算が必要であり、どういう予算措置を講ぜられるのであるか、これを承わりたいのであります。
○佐藤国務大臣 今回の仲裁裁定で決定を見ました金額は、六十一億一千万円というふうに私ども理解いたしております。これは昨日裁定があったばかりでございますので、今日予算資金上これがどういうようにまかなえるかということを、ただいま検討しておる最中であります。
○河野(密)委員 仲裁裁定に基く予算が増額されるような場合においては、これは補正予算をお出しにならなければいけないと思うのですが、政府としては補正予算をお出しになるつもりですか。
○佐藤国務大臣 給与総額の問題といたしまして、流用のできることでございますれば、別に補正予算を出す必要はありません。
○河野(密)委員 郵政大臣はどこに行かれましたか。
○楢橋委員長 郵政大臣は、参議院の本会議に行っております。
○河野(密)委員 それでは続いてお尋ねいたしますが、政府はこの概算六十一億の仲裁裁定につきまして――これは従来の言明によって私はそう推測するのですが、完全にこれを実施するという方針でありますか。
○佐藤国務大臣 政府の方針は、今までもあらゆる機会に説明をいたしておりますように、仲裁裁定がございますれば十分尊重するという考え方をいたしております。一時完全実施ということを申したこともあるかと思いますが、そういう意味を含めまして尊重をするということであります。
○河野(密)委員 そこで仲裁裁定はすべて三公社五現業に適用があるわけでありますが、ひとり全逓に対してだけこれを除外されておるということを聞いておるのでありますが、その実情は一体どういうことになっておりますか。
○佐藤国務大臣 ただいま裁定をいただきましたのは、裁定外といいますか、裁定を受けておらないものとして、仲裁裁定を願っていて裁定が出ていないのは全林野がございます。これは少し時期がおくれております。これはそういう意味では、近く全林野に対しては仲裁裁定が出ることだ、かように期待いたしております。ただお話しになります郵政省職員のうち全特定、これについては裁定が出ております。しかしながら全特定と申しますのは、郵政職員のうちのきわめて少数と申しますか、一万数千人についてでございます。いわゆる全逓といわれますものについてはこれは二十三万のものでございますが、先ほど来申しますように、これについては、今日合法組合でないということから、いわゆる仲裁裁定は行われておらないのであります。これの扱い方をいかにするかということが一つの問題である。これは十分御理解がいただけるものだろうと思います。職員ではございますが、仲裁裁定を受けないこの多数の職員に対して、いかなる方法をとるか。先ほど申しました予算の流用、人件費の流用の場合におきましても、仲裁裁定の結果の移流用については、ちゃんと根拠法規がございますから、従ってそれの処置は、所管大臣と大蔵大臣が協議をすれば道が開けるわけであります。しかしながらただいま申しますように、仲裁裁定のないところの職員に対する給与総額の移流用という問題は、これは予算自身にそういう点についての規定がございませんので、これをいかにするかということは、もう少し研究をしなければ結論が出て参らない、こういう状況でございます。
○河野(密)委員 そこで私はお尋ねしたいのでありますが、仲裁裁定が下った。一つの全逓にだけは仲裁裁定がない。ほかの郵政省関係の全特定に対しては仲裁裁定がある。その予算措置という問題は、今大蔵大臣がお話しになりましたように、給与の移流用でこの問題をおおむねまかなうつもりである、しかしもし法律を貫いていけば、この全逓に関する限りは何らかの立法措置を講ずるか、でなければ補正予算を組むか、どっちかでなければならないはずだと私は思う。これは予算の面において、政府に都合のいい裁定があったと同じように取り扱う。しかし公労法上の権利を認めるか認めないかに関しては、これは公労法上の組合でない、こういういかにも本末転倒した、一貫しない取扱いをするという事態は、一体どこから起ってくるかというと、私が先ほどから言っておるように、この公企労法上の組合ではないという考え方をしているところにあると思うのであって、そういう問題を断ち切る意味からいっても、私はこの際政府はすみやかに八十七号を批准して、すっきりした形になすべきであると思うのでありますが、この点は大蔵大臣のむろん所管ではないけれども、一つ明確に答弁していただきたいと思います。
○佐藤国務大臣 給与の関係で大蔵省としても研究をいたしておりますが、ただいまのILOの問題と、今回の仲裁裁定の結論と結びつけてお考えになることは、私は関連性の別なものだ、いわゆる別個の問題として処理するのが当然だ、かように考えております。先ほど来、ILOの条約批准についての政府の方針は一応御説明申し上げましたが、今日まで過去においても全逓の組合についてはそういう意味で問題がございましたが、今回の仲裁裁定を実施するに当りましては、現状においては当然問題が起るのでございます。もちろん御指摘になりますように、私どもといたしましても、予算の範囲内でまかなえる方法がございますれば、これは十分考えてやりたい。別にこれをやらないというつもりで先ほど来申し上げておるわけではございません。そういう意味のいろいろの研究をただいましておる。そういう段階のように御了承いただきたいと思います。
○河野(密)委員 もし全逓というものを政府がそういうようにお取いになると、同じ郵政省の管下にある従業員でも、全逓関係の組合と全特定の組合と別々の取扱いを受けるわけです。そうすると、労働組合法の第七条に、組合に加入することあるいは加入せざることをもってそれに差別待遇をしてはいけないということが、基本的な原則として書いてある。それから国家公務員法の九十八条の二項にも、組合員と非組合員との関係で差別待遇をしてはならないということが、明確に書いてあるわけです。これはどういう関係になるのですか。特定の組合員とその組合員でない場合とにおける差別待遇をするということを、政府自身が現実的におやりになるという結果になる。
○佐藤国務大臣 今回政府が特別の処置をとらなければならいということは、申すまでもなく仲裁裁定の結果でございます。この仲裁裁定がないものについて同様の処置をとれという議論は、別に出てこないと思います。いわゆる不公平な扱い方をしてはいかぬ、差別扱いをしてはいかぬと申しましても、仲裁裁定のないものについて同様の結果をやれという議論は成り立たないのである、かように私は考えます。
○河野(密)委員 仲裁裁定がないものに対して、仲裁裁定があるものと同様に取り扱ってはいけない、取り扱わせない、取り扱うというのがこの法律の趣旨ではない、こう言われますけれども、その仲裁裁定がないようにしておるというのは、一体どこに原因があるのか、こういうことになりますと、公労法の第四条の三項に問題がある。ところがこの公労法の第四条の三項というものは、国際的にも批判されておるし、結社の自由に対する重大なる障害であるから、これは取り除くべきものである。政府もまたこれを取り除く方針であるということを根本的にきめておられる。きめておるその根本方針をそのまま実行されないで、そして差別待遇をされるということになったならば、これは労働法の基本的な原則に対する重大なる侵犯である。国際的に私は許さるべきものではないと思うのであります。この点についてはどういうふうにお考えになりますか。
○佐藤国務大臣 基本的な気持といいますか、考え方というものは、御指摘になることを私ども否定するものではございません。しかしながら財政法の規定というものが非常にはっきりしておりまして、財政法上の規定は、仲裁裁定の結果必要な場合にこうするということだけであります。従いまして、仲裁裁定を受けない部分についての処置についての話は、ただいまのところもう少し研究を要するというのが、先ほど来の私の率直な気持でございます。今日明確に掲げておりますだけに、いかなる処置をとるべきか。もちろん私ども全然出さないというふうな気持で議論をしているわけではございません。今御指摘になりましたように、基本的な考え分につきましては十分了承できますが、それにいたしましても、もう少し私どもが法律的な手続なりを十分検討しないと結論が出て参らない。非常にむずかしい条件になっておりますことを、おそらく河野さんも御承知だろうと思います。その点では誤解のないように願いたいと思います。
○河野(密)委員 私はここで郵政大臣がいたら、この問題をどう考えているか、承わりたいのですが……。
○楢橋委員長 今参議院の方に出席中でありますので、政務次官とかわるように交渉しておりますから、ちょっとお待ち下さい。
○河野(密)委員 それでは一つお尋ねしますが、政府は、この前私がお尋ねしましたように、全逓労組の違法状態を正当化する趣旨のものでないことはもちろんであるので、本条約批准の手続は、労使関係が正常化されるまではとらないものとする、一体政府は、この全逓の正常化というのをどう考えておられるのか、どういうことを正常化と言っておられるのか、これを承わりたい。
○亀井政府委員 全逓は御承知のように、公労法四条三項に違反をいたしまして、違法な状態にあるわけでございます。従いましてわれわれが期待をいたしておりますことは、全逓労働組合が自主的な判断に基きまして、できるだけ早く正常な形に戻す、すなわち違法な状態を解消してもらうということを、われわれは期待をいたしているわけでございます。
○河野(密)委員 非常に抽象的でわからないが、全逓が自主的な判断に基いてと――全逓は自主的な判断に基いて、政府のとっておる態度が、むしろ国際条約に背反しておる、その態度が間違いである、こう言っているのですが、政府は全逓に対して、一体正常なる状態というのは何を要求しているのであるか、どこをどういうふうにしようというのか、政府からこれは明確にすべきだと私は思う。
○亀井政府委員 労働組合は自主的に自分のみずからの役員を選定するのでございまして、政府はこれに対しまして何ら干渉いたす権限もございませんし、またいたす意思もございません。従いまして公労法四条三項に定められておりまする通りに、全逓の労働組合みずからが違法な状態を解消するということをわれわれは期待しているわけでございます。
○河野(密)委員 すでにこれは国際的に批判され、政府みずからもそれはやめのるだという、その法律に遠反しているということを前提として、それは法律に遠反しているからして、それを何とか改めろということ自身が、私はむだだと思うのでありますが、なぜそういう点を繰り返して言われるのか、もっと明確に率直に言われたらどうですか。
○亀井政府委員 先ほど来御答弁申し上げておりまする通り、政府としましては、八十七号条約を批准するという基本的な方針を立てております。その基本方針を貫くためには、労働問題懇談会の答申にもございますように、四条三項は抵触するおそれがあるので、それを削除するという方針もきまっております。しかしながら削除すること自体は、これは条約批准という一つの前提において行われるわけでございまして、その時期が来るまでは、四条三項は依然として現行法の上において労働組合として守っていただかなければならないというのが、われわれの立場でございます。
○河野(密)委員 私はそれは非常にわからない議論だと思うのです。政府みずから閣議において四条三項を削るということを国際的に言っておるのですよ。国際的に言明しておるものを、それに違反するからといってそれは非合法の組合だということは、成り立たないと思うのですよ。政府みずからがやめると言った法律に背反しておるからというのを条件にして、それは非合法の組合だということがどうして言えるのですか。
○亀井政府委員 重ねて申し上げたいと思いますが、法律は御承知の通り、国会の意思によって決定されるもので、四条三項はまだ削除という国会意思は決定されておりませんので、従いまして現行法としては、依然として守られなければならない法律として厳存しておるわけであります。従いまして四条三項が国会において削除されるまでは、われわれとしましては全逓労働組合は、現行法に基いて自主的な判断で違法な状態を解消すべきものであるというのが、われわれの考え方でございます。
○河野(密)委員 国会において議決するまではと、こう言うのでありますが、それでは政府は、国会の議決に対しては同意しますか。現在参議院において、私たちは四条三項を削除すべしという法律案を議決しようとしております。政府はこれに同意でありますか。
○亀井政府委員 社会党から四条三項削除の議員立法が出ておりますが、これは国会の内部の問題でございまして、国会の中でおきめいただくことをわれわれとしては期待いたしております。
○河野(密)委員 国会の内部のことをあなたに尋ねようとは思わない。これは総理大臣にお尋ねしますが、政府は一体、四条三項の削除を決定しておるのでありますから、四条三項を削除するという法案に同意なさいますか。
○岸国務大臣 私どもは先ほど来議論をいたし、お答え申し上げておるように、ILO八十七号の条約に対してはこれを批准するという政府の方針をきめて、今後の手続準備をいたしております。その手続、準備の一つとして公労法四条三項を削除するという問題もありましょう。またこれに関連して、その他の法律をやはり修正するとかあるいは改正するという問題もあるのであります。それらを総合して初めて細部の手続がきまるのでありまして、一つ一つ四条三項を現行のままにおいて削除するというような法案に対しましては、これはもちろん国会が多数でもって議決されることでありますから、多数の意思でもって議決されたことに政府が同意しないということは申し上げる筋ではないと思います。しかし今われわれがやっておるこの準備から申しまして、四条三項だけを削除するというふうなことを単独にすることは、私どもの政府の方針としてはそういう考えではなくして、これに関連するあらゆる準備を整えて、そうして四条三項を削除したい、こう考えております。
○河野(密)委員 私は政府に重ねてお尋ねしますが、政府はILOに対して報告しておることと、実際国内でやっておることとは矛盾しておる。なぜかといえば、まず政府は、私がこの前に質問をいたしましたときに、二月の二十日のあれは閣議の決定ではない、こういうことを言われておりましたが、ILOには閣議の決定であるということを通告しておるわけであります。明らかに閣議の決定でこれをやっておるのだから。都合の悪いときには閣議の決定じゃないのだ、大体そういう意見の話し合いをした程度だ、こういうことを私に明確に答えておるのでありますが、閣議の決定である、閣議の決定によってということを結社の自由委員会は前提にして論議をしております。日本の政府は閣議でもって、その必要なる法律上の手続をとることにきめたから、この全逓からきておる提訴の問題とか機労からきておる提訴の問題は論議を延ばしてもいいのだ、これは自然に解決する問題だから延ばしてもいいのだ、そのかわりに国会の開会中に、早く理事会において日本政府に対する勧告をしようじゃないかというのが、大体の筋道なのであります。でありますから、国会の五月の末に――五月の末というのは何かの間違いであったと思いますが、五月の末に日本の国会がやめになるのであるから、だからその前にやらなければ間に合わないから、問題の解決が秋まで延びるから早くやろうということで、急いで理事会において報告をしておるというのが実情であります。そういう実情を――ここに英文のものもありますが、そういうことを極秘にして、都合の悪いところは伏せておいて、国際的には都合のいい、国内的にはわれわれに対して全く別な答弁をする、こういうことは私は許されないことだと思うので、これは岸内閣の国際的信用のためにも、もう少しはっきりした態度をおとりになることが必要だと思う。国際労働機関というものは、日本の者が考えるよりも国際的の響きは非常に大きいものなので、現在いろいろな意味において私は日本の岸内閣の不評判の一つはこういうところにもあると思うのですが、そういう国際的な信用を高める意味において大切なことなのだから、私は政府の決意を促すのです。
○岸国務大臣 御質問の主題ではなかったと思いますが、今閣議決定、閣議了解という問題が、ちょっと議論になっておりますから、簡単にこの点をつけ加えて申し上げておきます。従来形式的な閣議決定事項とか閣議了解事項というものを分けて実際上は扱っております。そういう意味における閣議決定事項ではこれはないのであります。しかしながら閣議に報告され、閣議の意思がこれを了承して、その意味におきましては実質的には閣議がそういうふうにきまったという意味における閣議決定といわれることもあるのであります。そういう意味において形式的の閣議決定事項と了解事項というものがありますが、いずれにしてもそれは従来の取扱いの一つの法則でございます。閣議が了解だから、閣議が責任を持たないとか、政府がこれを勝手に変更していいというような性質のものでないということは、これは事実であります。
今お話がありましたように、私どもはこれを責任を持って労働問題懇談会の答申を尊重して、ILO条約は批准をする。そうしてそのために必要な国内におけるあらゆる法的措置やその他のあらゆる措置を講じて、批准の手続を国会に提案する。しかしそのことは、われわれはそういうふうに批准をするという閣議の意思をきめたわけでありますから、できるだけ早くやろう。しかしいろいろ関連しておる各省がございますから、私としてはこれらの各大臣にできるだけ早くその手続を進めるように、検討するように、準備をするようにということを命じており、私は各省がそれぞれその準備を進めることである。その準備がどの程度になっておるかということは、事務当局からお答えしてもいいかと思いますが、要するにそういうことでありまして、政府が故意に批准をおくらしておるとか、あるいはそういう閣議の意思をきめたにかかわらず、そのことを国際労働機関に報告しているにかかわらず、これを無責任にぐずぐずしておる、そうしてその意思の決定と違ったような方向に持っていこうというような意図があるわけでは絶対ないのでありまして、われわれは誠意をもってこれらの諸準備をできるだけ早く終りまして、そうして国会に批准の手続をいたしたい、かように考えております。
○河野(密)委員 政府が閣議決定の事項として通告した中にも、全逓が正常状態に返ることが条件である、こういうことを通告してありますか。
○亀井政府委員 先月の二十日閣議で了解がつきましたうちには、同趣旨のものが入っております。従いまして政府としましてはILOに報告の際にも、同じような趣旨がILOに伝達されております。
○河野(密)委員 一つの組合の態度が条約批准の条件である、こういうことを国際的に通告したという。そういうことがどういう意味を持つかということについて、労働省はどう考えておられますか。
○亀井政府委員 条約八十七号を批准するという基本的な方針は、これは全逓の労働組合の状態が違法な状態であろうがあるまいが、政府としまして、自由にして民主的な労働運動の発展という基本的な態度から決定をいたしたわけでございます。そこで条約の批准の手続をとる時期につきましては、先ほど来申し上げましたように、労働問題懇談会でいろいろな法律改正の問題と答申もございますし、またわれわれとしまして、答申の中にございますように、「労使関係を安定し、業務の正常な運営を確保することにあるので、特に事業の公共性にかんがみて、関係労使が、国内法規を順守し、よき労働慣行の確立に努めることが肝要である。」というこの答申の趣旨をくみまして、全逓労働組合の違法な状態が解消されるまで手続としてはとらない、しかし基本的には条約は批准するということを決定しております。
○河野(密)委員 私があなたにお尋ねしたのは、一つの労働組合の状態を条件にして条約を批准するかしないかをきめる、こういうことはどういう国際的な響きを持つという認識があるか、こういうことをお尋ねしておるのです。私はこの点は非常に重大な問題だと思うのであります。もし全逓が、あなたの言われるように現在のまま全逓の解釈しておる自由なる労働組合として、全逓は自分のやっておることは正しいという認識に立って進まれるならば、いつまでたってもこの条約の批准はできないということになるのでありますが、そういうことを考えておられるのですか。
○亀井政府委員 国際的舞台におきましても、国内的ないろいろな諸問題につきましてはこれに干渉しないという建前がとられておるのでございます。従いまして国際的ないろいろな諸問題の中におきまして、国内的な諸問題がその中に含まれる場合におきましては、ILOの舞台におきましてもそれに対する干渉がましいことをしないという原則をとっておるのであります。従いまして日本政府がILO条約を批准するという基本的な意思が決定されました以上、ILOといたしましては、できるだけその国家意思が実現されるということを期待するのでございます。そこで国家意思が実現されるまでには、先ほど来申し上げましたようないろいろな諸条件がございます。先月の末に開かれました結社の自由委員会においても、先ほど私が御説明申し上げましたように、日本政府が出しましたそれらの諸条件、特に諸困難というふうな問題は十分認識をいたしております。従ってそれらの諸困難を十分に克服して、できるだけすみやかに批准をされたいという要請がついてきておるわけでございまして、ILO自身もこの問題につきましては了解しておるもの、かように考えております。また言葉をかえて申し上げますと、国際的な立場からいたしましても、国内法に違反しておる労働組合を国際的に認めるということは、私はあり得ないと思います。それは国内法の問題、国内的な問題でございますので、われわれの期待といたしましては、全逓労働組合ができるだけすみやかに正常化するということを念願しておるわけでございます。
○河野(密)委員 今のお話を承わりますと、国内法上できめたことが国際法上どういう価値を持っておるか、どういう立場にあるかということを監視し、それを決定するのがILOの実際の役割なのです。ILOから批判されるような法律を持っておるということ自身が、日本としては非常な恥辱なことである。その恥辱な問題をそのままにしておいて、そしてそれに抵触するものであるから法律上の保護を与えないのだということであるならば、日本の労働政策全体そのものが国際的に大きな批判を受けるという結果にならざるを得ない、そこに問題があるわけです。
そこで私はお尋ねしますが、自由な労働組合はむろん認めるわけでありますが、全逓の労働組合は政府としては正常なものと認めないが、しかし結社であることに間違いないし、組合であることにも間違いがない。これが組合としての権利を行使することについては政府はどうなさるつもりですか。これに対しては政府として何ら干渉することはできないと思います。組合としての、労働組合法に認められている権利を行使する上においては、私はちっとも差しつかえないものだと思いますが、政府はこれをどうなさるのですか。
○亀井政府委員 本委員会におきましても、この問題につきましてはかって倉石労働大臣から御答弁があったと思うのであります。現在御承知の通り全逓組合は、公労法四条に違反する違法な状態にある組合でございます。しかしそれかといって組合自体を否定している考え方ではないのでございます。組合としては存在を認めております。これにはいろいろ学説あるいは判例等考え方の違いはございますが、われわれとしては労働組合としては存在しているというふうに考えております。ただその労働組合が代表者を欠く、すなわち委員長以下解雇された者で占められております。四条三項違反の状態にございますので、組合の活動として、そこに法律的ないろいろな保護を受けられない、あるいは制約を受けるという問題が生ずるのでありますが、組合としては存在している。具体的に申し上げますと、団体交渉につきまして、組合としましては申し入れをいたしましても、当局はこれを正当に拒否する理由があるというふうに、これはすでに昨年、一昨年でしたか、機労に対しまして東京地裁の判決で出されましたのも同様の趣旨でございます。そういうふうに、組合としては存在しておりますが、組合としてのいろいろな法律行為その他につきましては制約を受けているというのが現在の姿でございます。
○河野(密)委員 郵政大臣がお見えになりませんから、私また次の機会に郵政大臣にはお尋ねすることといたしますが、私は政府が非常に不親切だと思うのであります。先ほど私が質問しているように、全逓の組合が正常な状態に返らない限りは、この条約を批准しないという、非常に大きな国際的な問題のあるものを国際的に投げておきながら、全逓の組合をどういうふうにして――政府が考えている正常なる状態というのは何だ、これは自主的に判断すべきだ、こういうようなことは私は非常に不親切なやり方だ、こう思うのであります。その意味におきまして、私は現在の答弁は非常に不満足であります。
なお、これは先ほどから私が申し上げましたように、国際労働総会の理事会において急いで勧告が出されたのは、この国会中において政府は所定の手続をとって批准するものであるということを期待し、確信するという前提のもとであるのであって、日本政府の責任においてこの国会中に私は批准をしなければならないものである、こういうふうに考えるのでありますが、この点について政府のなお一そうの御検討をわずらわして、私の質問を終りたいと思います。(拍手)
○楢橋委員長 午後二時より再開することといたしまして、暫時休憩いたします。
午後零時五十九分休憩
――――◇―――――
午後二時三十七分開議
○楢橋委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。
質疑を続行いたします。西村榮一君。
○西村(榮)委員 私は本日提案されました三十四年度の補正予算について質問いたしたいと思います。
本論に入るに先だちまして、本予算案は議運で十分論議されたそうでありますけれども、少くとも本予算案がまだ審議中に、その同一の議会に対して同年度の補正予算を出すということは、これは財政法にも疑義かあります。すなわち財政法十四条、私は内容に入る前にかくのごとき財政法を国会みずからが冒涜し、じゅうりんする補正予算に対して審議することにつきましては、ちゅうちょせざるを得ないのであります。いろいろ大蔵大臣から御説明がございましたけれども、厳として動かすことのできない財政法だけはじゅうりんするわけには参りません。この点に対して大蔵大臣の御所見をお伺いいたしたいと存じます。
○佐藤国務大臣 この問題につきましては、政府の所信をたびたび他の委員会等においても申し上げておるのでございます。御承知のように予算編成後に生じました理由によって、新たな支出を必要といたします状況になって参りましたので、補正予算を提案いたしておるのでございます。問題は、予算編成前に予見できたのではないかという点に議論が集中されておるのではないかと思いますが、なるほど世銀なりIMFの増資は昨年中にいろいろ論議されておることでございますから、その範囲において私どもも一応期待を待っておるものはございます。しかしながら今まで御説明申し上げましたように事柄が国際的関係を持ちますために、十分慎重に扱わなければならないということで、最終的に増資割当が決定された、その後において予算に組み込んだのでございまして、それがちょうど予算編成後に当りますので、今までの例に見ないような時期に補正予算を提案することのやむを得ない事態に実はなったのでございます。かように考えまして、財政法上違法あるいは違反という問題ではないように思います。事柄がもし国内的な問題でございますれば、また別な扱い方もあったろうかと思いますし、またIMFや世銀の増資にいたしましても、普通の程度の増資でございますならば、この種の取扱いをするまでもなく、もう少し扱い方は別に考えてもよかったかと思います。しかし今回の割当は特別の割当で、当方も希望し、それについて関係国等も協力していただいておるという段階でありましただけに、予算にこれを組み込むことが非常に困難であったという事情でございます。
○西村(榮)委員 私はやぼなことは申しませんが、国際関係という政治的問題から見て、財政法を犯すわけには参りません。しかし一面、国際関係がそういう事情であるということであれば、これを前例としないというところにあなたが釈明されるならば一応了承して、内容についてはあとで審議に入りたいと思います。しかしあなたがどうしても国際関係という政治情勢と財政とを混合して議論を進められるならば、本補正予算は審議に入るわけにはいかない。いかがでしょう。
○佐藤国務大臣 西村さん御承知のように、財政法上違反なりやいなやといえば、十七条またその他の条項等を見ましても、予算編成後に生じた事由ということにかかっておると思います。ベターだとかいうような点を考えて参りますと、こういう点で無用な摩擦など起したくない、これは当然でございます。そういう意味において西村さんの御意見、私ども十分首肯できるのでございます。この意味で御了承いただきたいと思います。
○西村(榮)委員 前例にしないということで一応了承いたしまして、その内容につきましては、日本銀行の帳簿と実際上の問題につきましては、四十四トン金塊が不足しておったり、使い道についてはいろいろ疑義があり、かつ政治的に判断しなければならぬことが多々ございますが、それは私はあとに回しまして、本日は総理大臣に質問いたしたいところが四点あります。
一つはわが国の外交の方針です。第二は懸案になっている日中の国交の回復の問題、第三点は安全保障の問題、第四点には近時著しく世人の信用を失墜しつつある政治の威信をどういうようにして回復するか、この四点について私はお伺いをいたしたいのでございます。と申しますことは、あなたが就任以来、また本年一月の本国会が始まりまする冒頭に施政演説をお述べになりましたけれども、それから世界は急激に変化しております。この変化に即応して、日本の運命をどう導くかということは、本国会を通じて国民に十分理解していただかなければならぬ問題だと思うのであります。そこで施政演説において不十分であり、かつまたその後の情勢の変化に応じまして、先ほど申しました四点を私は明らかにしたい、こう考えております。
第一にお尋ね申し上げたいことは、わが国の政治的立場であります。あなたは施政演説の中で特に中立主義を批判されまして、「わが外交の方向を中立主義に求むべきであるとする主張がありますが、このような政策は、わが国を孤立化し、ひいては、共産陣営に巻き込む結果を招くこととなるのであります。」こうお述べになっておられます。私はこれを伺いましてきわめて奇異の感じを抱いたのであります。それは私どもと自民党とは立場は違いますけれども、鳩山内閣以来自民党といえども自由民主主義の立場に立っておりながらも、東西の対立の調整、緩和のかけ橋になる、あなたはアジアとアメリカとの調整のかけ橋になるのが、わが外交方針であると、従来しばしばゆとりのある態度を示しておられたのでありますが、今回に限りかくも言葉荒荒しく中立主義を非難されたということにつきましては、その間政治的な判断に基くのであるか、あるいはあなたをしてそう言わしむる条件、情勢というものが生じてきたのであるか、これをまず第一にお伺いしたい。
○岸国務大臣 われわれが日本の外交の路線をきめる場合におきまして、国際情勢を常に正確に分析、把握していくことが必要であることは言うを待ちません。しこうして、われわれがすでに自由民主党として政局を担当しまして以来、一貫していることは、われわれが従来とも民主自由主義の立場を堅持しておるということであります。この意味において、また同時に世界の平和を推進する意味においても、この自由主義の国々と十分な協力関係に立つという方針は、従来一貫して参っておることであります。もちろん私どもは世界の平和を願い、あらゆる国との親善をはかっていくという考え方が、その底を一貫していることも言うを待たないのであります。さらに私になりましてから、国際連合というものに加盟することができるようになりまして、以来国連憲章の精神を十分に尊重し、国連に協力してわれわれの外交を進めていくという問題を取り上げたわけであります。同時に私が最も強調したいことの一つは、われわれがアジア民族としてアジアに国してアジアの諸国との友好親善関係を高め、またアジアの復興、アジアの繁栄に対して、われわれができるだけの協力をするという立場をとることを明らかにして、私の内閣におけるいわゆる外交三原則というものを立てて、これを推進して参っております。私どもはこの意味において従来とも、いわゆる中立主義によるところの中立政策というものはとって参っておらないのであります。近時この中立主義をとれというような議論があちこちにおいて相当台頭してきておるという実情にかんがみこれに関する所信を施政方針を通じて明確にいたしたわけでありまして、わが自由民主党としては一貫した外交方針をまた中立主義に対しては一貫して考えておることを明確に述べたのでありまして、それは私は決して何かにしいられてそうということではございません。われわれの進むべき道、これに対していろいろな異論を持ち、批判を加え、特に中立主義の立場からこれを批判するという傾向もございますので、この際われわれの所信を国会を通じて明確ならしめておくことが必要である。こう考えた次第でございます。
○西村(榮)委員 中立主義に対するあなたの見解を明確にするために、今回中立主義を批判した。その批判の骨子とするところは、中立主義は共産陣営に巻き込まれる危険があり、孤立化するという二点であるようであります。しからばこの際私が明らかにしておきたいことは、中立と申しましても中立には四つの型があります。一つは共産主義における修正主義から発生した中立であります。第二は功利主義的中立主義であります。日本でいえば筒井順慶的洞ケ峠の中立主義、第三は国際共産主義の戦略論としての中立主義、さらにそれに加うるに第四の中立主義というものは、対立超克の中立主義であります。それは冷戦の緩和を目的とし、対立の調整を目的として、世界の平和の達成のために東西両陣営の融和と調整を目的とするところの積極的中立主義。われわれが従来言わんとする、かつ主張し、念願しておる中立主義というものは、第二のひより見主義的な中立主義ではありません。第三の共産主義の謀略からくるところの中立主義ではありません。日本の今日置かれた国際的地位と戦後におけるこの立場は、何としても日本の憲法に示されておりまするごとく、世界の平和を確立する、これがためには、東西の対立を激化する方向よりも、対立を緩和し調整する方向に持っていかなければならない。これがわれわれが唱えるところの積極中立主義であるのでありますが、あなたは一体、この第四の中立主義をもなおかつ今日否定されようとするのであるか。中立には四つの型がある。あなたが否定されようとするのは、第三の共産主義の世界謀略からくる中立主義。御承知の通りユーゴに対する中立を非難し、自由主義諸国に対して中立を呼びかけるこのソ連の謀略的中立主義を批判するの余り、真実にして平和を念願する中立主義をも否定するということでありましたならば、それは政治家としての識見の不足だと言わざるを得ませんが、あなたはこの第四の中立主義をも否定されるのであるか。
○岸国務大臣 私は常に、現在世界の自由主義陣営と共産主義陣営の対立からきておる一つの不安を除くために、あくまでもこの対立と緊張を緩和すべきものであり、それは私ども国連を通じてのあらゆる機会に行動してきておるところであります。その対立を緩和するという意味におきましてわれわれが払ってきておる努力、またわれわれの念願は一貫したものであります。しかしながら、そのことは、われわれが自由民主主義の立場をとるということとちっとも相いれないものではないのでありまして、今中立主義としていろいろ唱えられておることを分析されてのお話でございますが、これはずいぶん、今のような分析がされておるように国民が理解し、実際上そういうふうな動きがされておるかといいますと、その間には実際上混淆があり、あるいはそれにおいて国民に正当な理解を与えないものも多分にあるのが現実であると私は思います。従って私自身、またわが自由民主党は、あくまでも自由民主主義の立場を分析して、そうしてしかも世界の緊張緩和についてはあらゆる努力をするのが私どもの考えでございます。
○西村(榮)委員 私は、あなたの観念の中に一つの錯倒があると思います。緊張緩和を外交の目標とするならば、著しく一方に偏するところの外交方針をとって、緊張緩和に日本が役割を遂げるということは不可能であります。あなたは、中立論は少数意見であるかのごとく述べられたのでありますが、少くともこれは世界の大勢であります。アジア・アラブの諸国においても三分の二は中立主義をとっております。その目的とするところは、米ソの冷戦に不介入、何とか巻き込まれたくない。自主独立の立場をとりたい。その国がかりに思想的には自由民主主義の陣営に属するとはいいながら、しかし中立をとっておるという国が世界の大勢であります。日本国民の念願するところも、米ソの争いの中に巻き込まれたくないということは、これは本能的な念願です。
さらに私はその意味において、世界の大勢がどう動いておるかということについて二つの例を述べたいと思います。一つはアメリカ合衆国の方針であります。ダレス氏は二月三日ニューヨークの弁護士協会において方向転換するの演説を行なっております。それは世界のこの対立は、軍事的対立から、世界法というものが作られ、その世界法によって世界の平和と安寧が維持される方向に向うべきである、向いつつある、こう二月三日えんえん四時間にわたってニューヨークの弁護士協会においてダレス氏は演説された。その演説直後ヨーロッパ各国を行脚して、アメリカの世界政策の方向転換を目ざしながら病に倒れたのが、今日の現状であろうかと私は思う。さらにソ連の二十一回共産党大会のフルシチョフ・テーゼのねらうところは、従来の権力的法秩序から自然法的な方向に転換を試みておる。ここに米ソ両国とも一つの方向転換を示しているのでありまして、そのねらうところは軍事を背景とする政治的冷戦から、一つは経済的競争に、さらにもう一つは世界法を作って世界の紛争と平和を守ろうというところに、この両大国の方向転換があると私は思う。しからば、一体この大勢は何を物語るかといえば、日本のみならず世界には何とかして紛争の緩和、対立の緩和の方向に行こう、この努力が人類の歴史の上に必死に今日現われておる。この傾向に目をおおうて、あなたは今まで中立を言うておられなかったけれども、自由民主党は東西のかけ橋になる、アジアとアメリカとの対立のかけ橋になると言われた、このゆとりある外交政策を一擲して、中立を誹謗して反共の線を明確にされたということについては、時勢に逆行するものだと私は思うのであります。この世界の大勢をあなたはごらんになって、一体どういうふうにお考えになりますか。
○岸国務大臣 私は世界のこの対立、緊張というものを緩和していくために、この両陣営における国々、あるいはその他の国々が十分に話し合いの場を持って、そうしてこれが緊張の緩和に努力しなければいかぬということ、あるいはそれを国際連合の場において、あるいは個々別々の会談において、あるいはいろいろな首脳会談等を通じて、これが緩和が実現されなければならぬということを従来も考えており、またいろいろ具体的に核武器の問題について、あるいは軍備制限の問題等につきまして、われわれが具体的に主張していることも一部実現を見つつあることは、世界の緊張緩和のために非常に望ましいことであると思います。今一番問題になるのは、要するに一番対立しておる頂点に立っておる米ソの間にそういう話し合いができ、そういう会談なり国連の場を通じて一つの決議なり申し合せなりというものができることによって、世界の緊張が緩和され、平和に対する基礎が作られるということが望ましいのであります。それはわれわれが自由主義の立場をとり、また自由主義の国々と提携をして日本の繁栄をはかっていくという根本とちっとも矛盾するわけではないのでありまして、中立政策をとらなければそういう緩和はできないという問題ではないと思う。現に自由主義のこの立場の先頭に立っておるといわれるところのアメリカにおいてすら、今御指摘になるようなそういう緊張緩和についての努力が現われ、またそれが実現されることによって、初めて世界の緊張は緩和されるわけでありますから、そのためにはどうしても中立政策をとらなければならない、中立主義をとらなければならないという性質のものではないと私は思います。
○西村(榮)委員 その国が中立主義をとるということについては、非常にこれは困難な道でありまして、楽な道ではないのです。私はこの世の中に中立主義の外交方針ほど苦難ないばらの道はないと思います。ということは、かつてインドの中立をさして峻烈なる批判を浴びせたのはソビエトであり、アメリカでありました。ソビエトはインドの中立主義をさして、あれは帝国主義を利するひより見主義である、中立主義なんということはあり得ないということを批判し、アメリカも批判した。しかしこの批判を撤回して中立尊重の立場をとらなければならぬということは、これは苦難な道ではあるけれども、民族の生きる本能としてこの中立主義の世界の大勢を無視することができないというので、共産陣営は中立主義を尊重する立場、さらにアメリカも尊重する立場、さらに私はこういうふうな理屈ではなしに、あなたが今お述べになりました諸点においてあらゆる国と親善関係を結び、アジア諸国との友好関係を深めるためには、中立でない方がいいのだというお話がございましたが、これならば一方の陣営に入る必要はないのでありまして、少くともあなたの立場から中立主義ということは言えなくとも、自由民主党がかって唱えたような東西のかけ橋になる、アジアとアメリカの調和をはかるのが日本の任務だというゆとりのある立場にとめておかれることが、わが国の外交方針として賢明ではないか。私の言わんとするところは、あなたに中立政策を求めておるのではない。何がゆえに突如としてあなたは中立主義は世界から孤立し、共産主義の謀略にかかると批判されたか、私はその政治感覚をあなたに問うておるのであります。なせゆとりのある外交政策を一擲されたか。しかしこれは議論の蒸し返しになりますから、私は繰り返しません。私はこの問題についての最後にお尋ねしておきたいことは、国内政治の問題です。あなたが中立主義でないと言われる反面には、アメリカ合衆国との提携を密にして日本の将来をはかるのだ、この意図があると思う。私はこれもまた一つの政治的感覚だと思います。しかし問題は、それよりも日本の今日置かれた立場は、九千万国民が政治と一体になって、苦難の中から立ち上るという気魄と自己犠牲の精神によって日本の独自性を保っていくのだ、この立場こそ日本の将来の運命を決するものだ。従ってどこかの大国にたよらなければ――日本のある政治家はアメリカにたよろうとし、ある政治家はソ連にたよろうとするならば、一体民族の自立の気魄と識見がどこにわいてきますか。この点からいっても、自主独立の精神に満ちて、何人にも支配されず、そして今日の世界の平和を念願するために、東西の対立緩和のために邁進するために、国民は克己奮励しなければならぬという建前を政治にとることこそ、現下の政治家の指導性ではないかと私は思うが、岸さんはどう考えますか。
○岸国務大臣 民族の精神を高揚して、自主独立の精神を確立し、いかなる困難があっても、これを自主的に解決して、そして自分の運命を開いていく、こういう心がまえを国民が持ち、また政治をそういうふうに持っていかなければならぬというお考えにつきましては、私も全然同感であります。しかしながらそのことは私は直ちに日本が孤立しなければならないということではないと思います。私どもが自由主義の国、またアメリカとの協力関係を密にして、そして日本の繁栄をはかっていくということは、決して日本をしてアメリカに従属せしめるということではございませんし、また日本九千万の繁栄と国民生活の向上を考える上におきまして、この日米関係を強化するということは、決して間違っておらない政策である。それだからといって、今御指摘になりました民族の精神的な決定なりあるいは努力というものを無視するとか、あるいはそれを萎摩せしめるというようなことを政治の上においてとるべきではないことは、言うを待たぬと思います。
○西村(榮)委員 中立問題については、なおほかの問題が残っておりますから、私は論議はこの程度で一応おさめますけれども、中立主義は孤立ではない。これは誤解のないように。中立主義は、世界に知己を求める広い外交方針です。中立主義が孤立しておるとするならば、インドは孤立しておるはずです。しかし国際連合におけるインドの発言は、厳として米ソ両国とも無視のできない権威を持っております。さらに、あなたは中立主義は共産主義のぺースに巻き込まれると言うのでありますが、中立主義だから共産主義の諜略にかかったという国はございません。これは誤解のないように。しかしまだ序の口でありますから、あまりこれは……。
次に私がお尋ねしたいのは、日中の国交回復の問題であります。けさ浅沼書記長もその立場においてあなたと所見を戦わしたのでありますが、これは日本にとりましてきわめて重要なことであります。日本の外交は古来中国に始まって中国に終るといわれるほど、これは真真剣に取り組まなければならぬ重要な問題であります。そこで、あなたは日中問題は静観する、こうおっしゃっております。私はこの静観には二通りあると思います。無為にして、なすところなくして、静観に名をかりて、無為無策にその日を暮している。しかし情勢一たび狂えば、一挙にして解決するだけの準備を整えつつ、外交責任者として表面静観をよ装っておるのと、私は二つあると思う。そこでこの二つのうち、いずれかとあなたにお尋ねするほど私はやぼではありません。問題は、四月十八日毛沢東主席の後任が決定される党大会があります。私はこの大会によって、主席の決定がどなたになるかということは、公開の席上はばかるのであります。しかし問題は、日中問題の回復の足がかりがこれからできてくる。これからできるならば、あらゆる情勢をとり、あらゆる手を打って、情勢の生まれたときに、一挙にして、あるいは中国との間ですから、そう短兵急にはいかないかもしれませんが、しかし解決の努力の方向を歩み出すということでありますならば、私は日中国交回復に対する足がかりの問題を、国際外交の上に差しつかえない限り、これを国民に知らしていただきたい、こう思います。
○岸国務大臣 日中間の問題につきましては、きょう午前中相当に突っ込んだ御質問もございましたし、政府の所信も相当具体的に申し述べたのであります。私は現在の日中間の関係が、何人が考えても、これが望ましい状態であるということを考える者は一人もなかろうと思います。これを打開していかなければならぬということは、私どもひとしく願っておることであります。しかしその方法につきましては、従来いわゆる積み重ね方式ということを言われておりますが、現在日中間の問題を根本的に解決するためには、いろいろな問題がございます。最も具体的な問題として、日華条約の問題も、これは何人も指摘するところの問題でありますが、いろいろな問題があり、従ってそれらの問題を解決するのには、ただ単に内政問題であるとかいって問題を転嫁するだけでは解決できないのでありまして、国際的な各種の事情がそれにてんめんしておることも御承知の通りであります。こういう状態でありますから、いわゆる一挙にして、今日これを国交回復するということは、とうていまだその時期でないといわなければならない。ここにあるいは経済の問題、あるいは文化の問題、あるいはその他人道的な問題、技術的な問題等について、それぞれ適当の方法によって両国の理解と親善、友好を進めるような方式を積み重ねていって、そして最後の解決をはかる、こういうことが現実に即して最も望ましい方法であるというのが、私どもが一貫してとってきておる方針でありまして、またそれが私は今日においても適当である、かように考えております。
○西村(榮)委員 私があなたにお尋ねしているのは、抽象論ではないのです。日本は日中国交回復の問題としては、積み重ね方式を今までとっておる。中国は経済と政治は分離することはできない。政治優先である、こう言っておる。この対立するものをどこにどう調整するかという調整のめどをつけなければ、日中国交回復の問題は足がかりがないのです。あなたはいつまでも積み重ね方式を主張される。中国は政治が優先だ、その政治の解決する点はどこにあるかということは別といたしまして、政治が先だと中国は主張しておる。あなたは積み重ね。これではいつまでたっても百年河清を待つごとくで解決点がない。この対立するものをどこに解決点求めるかということが、私は政治であろうと思う。そこで、あなたにその問題について何か腹案があればお示し願いたい。しかし腹案があっても言えぬというなら、私はしいて言わぬ。腹案がないならない、どちらか一つお示を願いたい。
○岸国務大臣 問題は、中国側が政治が優先だ、政治と経済は不可分であるという主張を、従来の主張を変えて昨年来強硬に主張するに至っております。しかしながら、中共政府が諸外国に対して同様な一貫した方針であるかというと、必ずしもそうではない。現に政治問題あるいは国交回復の問題については何ら触れずして、経済の問題についてはそれぞれ適当な方法が講ぜられておる国が、西ドイツ初め数ヵ国あるという実情から見ましても、中国側がそういうふうな主張をするに至ったことは、いわば岸政府が敵視政策をとっておる、あるいは二つの中国を作る陰謀に参画しておるとかいうふうな事実に反した事柄が述べられて、そうしてそういうことを理由として、日本に対してそういうことが主張されておるというのが、私は現状ではないかと思うのです。こういう誤解を解かれることが必要であり、そのためにはお互いに反省をしながらやっていかなければならないというのが、基本的な態度であります。しかしながら私どもは今言っておる何らかのチャンスなり、手がかりを作って、この両国の中絶しておる関係を打開したいという意図のもとに、あるいは大使間の会談も辞せないというふうなことを言い、そういうような考えをもってしかるべき手がかりを求めておるというのが、私どもの現状でございます。しかしそれをどこにおいてどういうふうにし、いつからどういうふうにするのだというような具体的なことは、今日まだ申し上げる段階ではないと思います。
○西村(榮)委員 あなたが御指摘になりましたように、西ドイツその他の国に対しては、政治と経済は分離して取り扱っておるにもかかわらず、日本だけは経済と政治を一体化して政治優先だと北京政府が主張いたします理由は、私はしろうとながら考えてみて三点あると思う。一つは台湾問題、一つは安保条約の問題、さらに根本的には日本の政治の弱体化です。第三の政治の弱体化については、私はあなただけを責めようとは思いません。政治に携わる者共同の責任を負うべきだと思いますが、しからば日中間の問題について、他国に例を見ないこの政治優先の立場を中国政府がとられるということにつきましては、大体の見当がつくとするならば、その見当に基いて解決点を日本としては考えなければならぬと思う。
そこで私は、今世界的な傾向として現われておりまする単独外交よりも多角外交の段階を活用すべきだと思います。今度マクミランがソビエトを訪問したのも、アメリカに絶大な信用があり、同時にソビエトとも受けのいいマクミランが、西欧諸国の代表といたしまして、東西の融和のために打診の旅に出た。さらに問題は、近時流行しつつあるところの招待外交も一つの多角外交の現われであります。そこでアジアのマクミランをいずこに求めるか、こういう問題でありますけれども、日中問題の解決というものはきわめて困難なものがある。台湾問題があり、安保条約の問題があり、さらにお互いの政治体制の相違があるというところに、この困難な解決を求めるものは何かと申しますならば、ソ連に仲介を依頼するのであるか、あるいはアジアの諸国において共同の責任でこの対立を調整する努力をするのであるかという二つしかありません。そこで私は、回りくどい話を別といたしまして、単刀直入にその解決点を私自身が提議いたしますならば、それはバンドン会議の精神に従って、アジア・アラブの諸国が、バンドン会議における平和五原則を打ち出す。この平和五原則の提唱者は――現在の中国の主権者であるところの周恩来氏とネール首相の共同の提案によってバンドンにおいて採決されたのが、バンドン精神であります。このこじれた日中間の問題の解決は、このバンドン会議の精神によって――お互いに加盟国なのであります。これによって解決の足がかりを作る、さらにそのあっせん者はどこに求めるか。ソビエトの首相か、その出先の大使か、あるいはインドであるかと申しますななば私はネール首相をわずらわすことが最も適切ではないか。何となれば、申し上げるまでもなく、アジアは一つなりという岡倉天心氏の教訓を学んで、アジアの問題はアジア人において解決する、この立場においてバンドン精神を基礎とし、その具体的なあっせんをネール首相に依頼する、これが静観の名をかりて無為にして日を送るよりも、この方面においての工作というものが、私は適切な処置ではないかと思うのでありますが、首相の見解はいかがですか。
○岸国務大臣 私どもは、適当なあらゆる手がかりを求めて日中関係の打開に努力をする、また努力をして参りたいと考えておるのでございます。今具体的に、インドのネール首相を仲介としてこの日中間の行き詰まりを打開する話し合いを進めたらいいではないかという西村委員のお考えでございます。私は一つの傾聴すべき御意見だと考えます。しかしながら具体的に外交を進めていく上から申しまして、われわれはあらゆる適当な方法を検討して結論を出すべきものであり、ことにいわんや第三国をこういう二国間の問題に介在せしめるというようなことにつきましては、十分にあらゆる点を検討し、結論を得なければならぬことでありまして、慎重を要すること、言うを待たないのであります。私はこの席におきましては、御意見として承わっておくにとどめたいと思います。
○西村(榮)委員 外交上の重要問題でありますから、私は今公開の席上であなたの回答を求めようとは思いません。しかしながらかりに私の一個のつたない私見でも、参考になれば努力を重ねていただきたい。私はネール首相をなぜさしたかと申しますと、何というてもアジアの最高の指導者です。さらに国連における彼の発言の比重、さらにインドと中国との関係は、国境の問題についてときに紛争を起しますけれども、大体友好関係はきわめて親密であります。この立場において、四月十八日以後、ネール首相のあっせんによってこのこじれた問題の解決の足がかりを作る、これは一度や二度失敗するかもしれません。しかしあなたが誠意を披瀝し、渾身の努力を傾注してこの問題の解決に取り組み、その情熱と至誠をしてネール首相を動かし得るならば、私は必ずや一つの足がかりを得るものだと確信している。問題は、自己の面子や体面にこだわって努力を怠ることです。私は努力をしてもらいたい。
重ねてあなたに要望するのは、あなたは方寸があればあなたの方寸に従い努力する、私も一個の私見を申し上げたのです。日本国民あげてこの問題のどこに足がかりを作るかということは、至誠を披瀝して、アジア並びに全世界が、日本が真実に中国との国交の回復を望んでおるのであるということを認識してくれるならば、中国は誤解しておるものならば氷解する時期もございましょう。偏見があるならばそれをネールを通じて了解してくれるときもございましょう。要するに私は、失敗してもいいから努力を重ねようということであるのでありまして、きわめて具体性を欠く私の質問であるが、努力を重ねてもらいたいという私の希望に対して―希望にお答えになるということは変ですが、あなたのお考えはどうですか。
○岸国務大臣 先刻来申し上げておるように、私は日中間のこの行き詰まった関係を打開しようということに対しては、あらゆる面から努力をしていく考えでございます。
○西村(榮)委員 私は努力を切望いたします。
そこであなたに対して失礼な話でありますが、あなたは新聞で見るところによりますと、インドの大統領が来られたときに、一体アジアの問題と中国との問題についてお話し合いなすったことがあるのでしょうか、あるいはこの間ニュージーランドの首相がおいでになった。これらの日本へせっかく来ていただいたお客さんに対して、外交上の重要な問題たる中国の問題について隔意なくお話なすったことがあるでしょうか。
○岸国務大臣 各国の重要な指導者たちを日本に迎えるときにおきましては、国際情勢に対するお互いの考え、また日本にとりましては最も重要なアジアの問題、あるいは中国の問題その他近接した各種の問題については、努めて意見を交換するようにいたしております。
○西村(榮)委員 それについて何か収穫ががありましたか。
○岸国務大臣 われわれの考えなり、われわれの立場を向う側に理解せしめたこともありますし、またそれらの国々の人々の考えについて適当な、われわれが理解することのできるような意見も聞きまして、これは両国の親善関係のみならず、われわれの将来進むべき道に資していることは少くないと思います。
○西村(榮)委員 私は、せっかくそれらの外国の大官がおいでになって重要問題が話しされたにつきましては、何らその後の具体的な形に現われてきていないということについてお尋ねしている。しかしそれは招待外交のことですから深くは申しません。招待は招待です。しかし今各国盛んにとられつつある招待外交の真の目的は、招待され、招待しつつ、そしてかみしもを脱いで、その国、あの国へ行って、重要問題を忌憚なく話し合った結果、それが何らかの形て具体的に現われるというのが、私は招待外交の効果ではないかと思うのです。
そこで私は具体的にお尋ねするのですが、新聞に伝うるところによりますと、七月の十一日から三十五日間の日程をもって、ロンドン、ヨーロッパ並びに中南米十二ヵ国をあなたは旅行される、こういうことであります。この中で中南米十二ヵ国はともかくといたしまして、イギリス並びにヨーロッパに、あなたが、わざわざこの多忙な中に出かけて行って解決しなければならぬという用件は何でしょうか。残念ながら私は発見できません。それよりも、中南米の旅行なり、あるいは外国の大使、公使で片づくものはそれにまかす、外務大臣に処理できるものは外務大臣にまかして、この旅行を取りやめて、あなたはインドへ出かけるなり、日中問題の解決のために、この三十五日間、心魂を費して努力されてみてはいかがでございましょうか。
○岸国務大臣 英国を訪問するという問題は、昨年来イギリスの方からの非公式な招待もあり、アジアにおきましていろいろな関係を持ち、またわれわれとも経済的にもいろいろな問題を起しておる英国との間におきまして、日英だけの問題のみならず、さらに国際問題あるいは日中の問題、その他のアジアの問題等を、マクミラン首相と隔意なく話をし、お互いの考えを率直に披瀝し合うということは、私は日本にとってきわめて重要なことと考えます。ヨーロッパ訪問の一番大きな目的はイギリスでございまして、他の国々に対しましては、すでに日本に対しての訪問に対して、この機会にこれを返すということも、国際儀礼の上から当然考えなければならないものでありまして、それらを含めて、ヨーロッパの旅行を実現したい、かように考えております。
○西村(榮)委員 いや、私が言うのは、用件がなくて出かける人はないので――マクミラン首相も、その当時は、首脳者会談その他において多忙をきわめている。あなたも身辺多忙である。真に日本の国家を考え、日中問題を考えれば、一日も日本をあけがたいのに、その中を、さしてまで行かなければならぬ用事があるかどうか。私は、今まであなたがお述べになったことは、ロンドン大使で間に合うと思う。外務大臣で間に合うと思う。従って、やはりこの際、国民に緊張と努力を懇請するならば、総理大臣みずから、無用な大名旅行をやめるということが、現下国民に対して、無言の意思表示をすることになるのではないが。しかも多くの問題が控えている。国民に、なぜあなたがロンドンへ行かなければならぬかというこの用件をお示しになる必要があるのではないか。私はあくまで申します。あなたが今お述べになったことは、日英間における懸案の問題としては、大使並びに外務大臣で片づく問題で、首相みずから出かけるべき問題ではない。これをしいて出かけるならば、世評、総理大臣の官費の旅行なりと言われてもいたし方がありません。明確にお答え願いたい。
○岸国務大臣 私は、先ほどから申しておりますように、大体これは西村委員もお認めになると思いますが、各国の首脳者が、できるだけ互いに訪問をして会談をして、そうして、お互いがお互いの考えを率直に披瀝し合うということが、私は、今の国際的な、大きく言えば緊張緩和の問題も、あるいはその他経済の発展なり繁栄ということにとりましても、最も必要なことであると思います。従来私が東南アジアを訪問し、また東南アジア諸国の首相等が日本を来訪したことによって、私はこの効果が相当に上っておることを確信しております。また英国と日本との関係におきましては、日英外交というものは日本にとってきわめて重要な問題であり、両国の首脳部において根本的に率直な話し合いをすることが必要であり、イギリスもそれの必要を認めて、かねて日本に対して私の来訪することを求めております。またイギリスにおきましては、首相は参っておりませんけれども、その他の重要な首脳者も日本をたずねてきております。こういう際に、日本から私が出かけていって、そして日英間の問題のみならず、国際的の各種の問題について率直な話し合いをすることは、日本にとってもきわめて重要な義を持っておるものと私は信じております。決して無益な旅行とは私は断じて考えておりません。
○西村(榮)委員 いずれそのことは一つ国民の批判に待つことにいたしましょう。この大事なときに三十五日空費することがいいか悪いかということは国民の批判に待ちましょう。
そこで私は、今日のように国際情勢がきわめて困難な時代になりましたときに、われわれ政党の外交を取り扱う態度についてあなたにお尋ねしたい。申すまでもなく、民主国家はやはり国民外交でありまして、国民の支持と協力を背景にして外交を推進しなければ強力なものは出てこない。みな引例することでありますが、外交の論争は水ぎわで打ち切れというのです。内政でどれだけ激しく争っても、それは選挙において国民の批判を仰ぐのですから、両党しのぎを削らなければならないが、外交を政争の具に供すべからずということはこれは民主国家の教訓であります。しかるに、けさ淺沼書記長に対するあなたの御答弁を承わっておりますと、どうもあなた自身がそうでもない。また自民党さんも外交問題について立会演説を申し込む、もちろん私どもはそれに応じますよ。また外務委員会において論争しよう、もちろん応じますけれども、少くとも外交論争を水ぎわで打ち切る、政争の具に供すべからずという古今の鉄則から申しますならば、あなたの主宰せられる自民党、それからけさお述べになりました御答弁は、きわめてこの外交問題を政争の具に供するというきらいがあると私は思うのであります。あなたの所見はいかがでありますか。
○岸国務大臣 外交を政争の具に供してはならぬ、これは私は、われわれが政治を行なっていく上に、また政党を運営していく上において、常に頭に置いて考えなければならない大事なことだと思います。また外交が常に国民の理解と支持の上に推進されていかなければならない、これまた民主国家としては当然のことであります。従って政争の具に供するということと――もしも両党の意見が違っておる場合において、それに対して国民が正当に理解して、正当な批判をするということは、またそういう機会を作るということは、私は必要なことであると思います。従って国会において論議され、あるいは必要がある場合においては公開の席において両党がその所信を明らかにして、そうして国民の良識ある審判に待つということは、これは民主政治のあり方として私はいいと思う。ただ問題は、いかなる場合においても、外交権を持っておるものは言うまでもなくその時の政権を持っておる政府であります。しかしながら、ことに二大政党であるような場合におきまして、お互いに考えなければならぬことは、この外交が二分され、政争の具に供せられるというようなことは、特にお互いがこの主張を第三国あるいは外国において主張し、行動し、あるいはともに自分の内閣を批判し、非難し、あるいは友好の立場にあるところの国を公然と非難するというようなことがとうとうとして行われるということは、私は、これは大いにお互いに慎しまなければならぬことであると考えております。
○西村(榮)委員 私は、あなたの今の御意見はきわめて遺憾だと思います。それは、あなたは内閣総理大臣たる地位をお忘れになっている。私は、自由民主党と社会党が相争うことは当然だと思います。しかし、あなたは自由民主党の総裁としての責任はあるけれども、一たび院議をもって総理大臣に任命された上からは、日本国総理大臣ですぞ。日本の国民は九千万、この代表者があなたですよ。しからば問題は国内においていろいろ対立意見があるけれども、これを事外交に推進するために、それらの反対の意見を説得し、了解を求めて、国家一致の能勢をもって、外国に当るという責任は、内閣総理大臣にあるのですよ。今日本国における外交の目標は三つあります。一つは日中国交の回復の問題、第二は沖縄、小笠原の領土権の問題、第三には南千島を中心とする北方領土の問題、これが現下わが国における三つの目標です。ここの目標に向って国家一致の態勢を整えるべく努力をすることがあなたの責任ではありませんか。自由民主党の総裁として相争うことはいいが、少くとも全国民を代表する総理大臣としては、四割の国民の支持を得ている社会党の協力と理解とを求めようとする態度なくして、この外交の難局を切り抜けることができますか。私は、それを言わんとするのです。少くとも社会党は、今日野党たりといえども、四割の国民の支持を得ている。四割の国民の意思を無視して、この戦い敗れた国の外交がありますか。戦い勝ったイギリスにおいてさえも、チャーチルは、ポツダム会議に出ていくときに、辞を低うして時の反対党の首領アトリーに対してその出席を懇請した。鳩山さんしかり石橋さんまたしかり、社会党の協力を求められた。みずからの権力におごり、みずからの力におごって、党内一致の結束を破って反対党を無視した悲劇は、第一次世界大戦争後におけるウイルソン大統領です。ウイルソン大統領があれだけの声望と実力を持ちながら、時の半数の野党を無視して、単独に国際連盟に走ったがゆえに、彼自身構想した国際連盟はむざんに崩壊し去った。いかに権力を持ち、いかに力を持っても、内閣総理大臣たる地位において国民の四割の協力を求めることこそが、総理大臣に課せられた任務であり、謙遜であると思うのでありますが、私はこの点においてあなたの反省を促したい。社会党はいたずらにあなたの内閣に反対しておるのではありません。この日中国交の回復の問題といい、沖縄、小笠原の返還といい、北方領土の問題といい、この問題といい、この問題の解決のためには、協力を欲して、あなたが辞を低うし、具体的な例を示して社会党に協力を求められるならば、社会党は国家のために協力をすることにやぶさかではない。ただ、その問題の過程において、外交の方針についてはいろいろろ食い違いがあり、方針があります。一致していれば自民党と社会党との隔たりはない。この違いを活用して、あるものは特急に乗り、あるものは鈍行に乗るけれども、その方向を一にして、国家のために三大目標を達成するために一致の態勢をとるということは、一体だれがやる。私は、内閣総理大臣たるあなたが辞を低うしてその態勢をとるのが責任ではないかと思うのです。お答え願いたい。
○岸国務大臣 私は、今西村委員のお話のように、あるものは急行に乗り、あるものは鈍行に乗ってもこれはやむを得ないというお言葉がありましたが、両党がそういうような立場であることが、革新政党と保守政党との間がそういうような形になることを心から念願しておるものであります。しかしながら、一つは東へ行き、一つは西へ行くということであるならば、これは鈍行や急行の問題ではないのでありまして、この意味において、外交の路線の問題根本について、国会の論議を通じ、非常にこれが食い違っておるというところに、日本の二大政党に現在一つの欠陥があると私は思います。また、その意味において、超党派外交であるとか、あるいはその形において両党が外交問題について協力できるというような状態にないことを、私は現在の日本の状態に顧みて非常に遺憾と考えておるものであります。
○西村(榮)委員 あなたが外交の問題で社会党と食い違っているというのは、どこの線をさすのですか。自由民主党も国家を思う政党であれば、社会党もその立場において国と国民に対して忠誠を誓う政党です。一体あなたが社会党と一致して外交の方針をとれないといわれるところを具体的にお示し願いたい。私は、社会党の綱領と政策に基いてお答えしたいのでありまして、個人々々は、あなたの意見は違う、外務大臣の意見も違う、さらに政調会長、幹事長の話もときに食い違うことがあるでしょうけれども、自由民主党の綱領と政策は厳としてあるでしょう。社会党にも綱領と政策は厳としてある。どこが食い違っているかお答え願いたい。私は、社会党の綱領と政策を基礎にしてそれをお答えしたい。
○岸国務大臣 それは両方の、今お話の通り政党でありますから、政綱、政策という根本がきめられております。さらに、それを運営するところの具体的の問題がおのおの両党ともそれぞれの機関においてきめられていることは言うを待ちません。しかしながら、たとえば、先ほど来お話がありますように、この中立主義という問題につきましても、西村委員のお話にあります問題と、世間におけるところの中立主義に対する理解、ことにソ連や中共が日本に向って中立政策をとれということを要望しておる、こういう状態のもとにおける中立政策というようなことは非常に誤解されている問題もありますから、ただ私は、主義綱領に基いてここで論争することは適当でないのでありまして、具体的のそれぞれの行動というものを見て論じていかなければならぬ、とかように思います。
○西村(榮)委員 綱領に基いて討論をしたくないとおっしゃるのですが、社会党は左右両翼の独裁政治と戦い、人間の基本的人権と自由を擁護するということが立党の精神なんです。さらに外交方針としては、冷戦不介入、中立、これが統一の綱領でありまして、社会党の政策の大綱であります。私はこの見地に立って、あなたと外交方針をどうするかということで一致点を見出すべく、先ほど来苦心しているのです。おわかりになりませんか。あなたにこれがおわかりにならぬとするならば、失礼ながら私は、おのれを殺して国家の大事をなし遂げるだけの謙遜さと誠実さがあなたにないと断ぜざるを得ないのでありまして、これ以上の問題について論争することはむだでありますから……(「左派だ」と呼び、その他発言する者あり)社会党には左派と右とはありません。統一して一本の社会党でございますから、誤解のないように。私の言うていることは政策と綱領です。片々たる個人の疑義ではありません。諸君も少しそれはさもしいぞ。(笑声)
次に、私は安全保障条約についてお尋ねいたしたいと思います。申までもなく、およそ一国の外交というものは、正確な見通しと指針がなければならない。私は、安全保障条約の問題についての取り扱い、これは著しく国際的信用とわが国外交の威信を傷つけることははなはだしいと思うのであります。昨年の九月二十七日、藤山外相はアメリカから帰国されて岸首相と会談した結果、公式に発表されております。条約改定交渉は原則的な点で意見の一致がまとまり、妥結にそれほどの時間がかからないと思っている。従って、臨時国会で批准を求めることは困難であるが、通常国会前には妥結して、国会の批准を求めると声明された。しかるに、この運びにならずして、二月の十八日に至って藤山試案を提出されました。こういう外交はかつて世界に例があったでしょうか。私は、岸さんと藤山さんにお尋ねしたい。外交交渉をするに、自分の内閣と自分の政党とが大体話し合って腹案を作って、その腹案に従って外国と交渉したけれども、既定方針を貫くことができないから、国内において、もう一ぺん持って帰って腹案の練り直しをするというならわかりますよ。初めから方針を持たずに、向うがそれへ乗ってきたときに、今度は閣内、党内でまとまらずして、それから四ヵ月たって初めて外務大臣が閣内に試案を提出した。こういう外交があるでしょうか。私は、総理大臣の御所見を承わりたい。
○岸国務大臣 午前中にも、この問題についての質疑応答がありましたが、言うまでもなく、日本にとって非常に重大な問題でありますから、各方面のできるだけ深い理解と協力を求めていかなければならぬ。また、相手方のある問題でございますから、慎重に取り扱わなければならない問題でございまして、そういう意味におきまして、われわれは慎重にこれを取り扱っておる次第であります。
○西村(榮)委員 はなはだ失礼な言い分ですけれども、今のお答えはお答えになっておりません。ただあなたがとられたことは、結果において国際的信用と日本政治の威信を失墜した、これが大収穫であります。そこで私はその問題については、あとで一括して総論のときに申し上げたい。ものの運びとしてお尋ねしておきたいことは、今自民党さんには、外務大臣試案があり、河野一郎試案があり、外交調査会案がある。安全保障条約については、あの案があり、この案があり、あらゆる案があるのであります。一体われわれが国会においてそれを審議するときに、どの案を基礎にして質疑応答を継続したらいいか、案の中心をお知らせを願いたい。
○藤山国務大臣 重要な問題でありますので、いろいろの議論が党内にありますことはむろんだと思いますし、国民の間にもあります。あるいは社会党からのいろいろな御批評もあるわけであります。われわれはそれらのものを十分聞いた上で、最終的に条約の交渉をいたして参りたいと思っております。従って、党内にいろいろ議論がありましても、最終的には私がすべて世論を聞き、また党内の意向を聞いて、私が提出してそれをまとめていく、外交当面の責任者として当然そうあるべきだ、こう考えております。
○西村(榮)委員 藤山さん、そんな答弁したらだめですよ。あらゆる方面の意見を聞いて、それから案をまとめるというならば、なぜ意見がまとまった後にアメリカと交渉しなかったかと言われたら、あなたはどうします。そんなこと言うたらあきまへん。
私は総理大臣にお尋ねするのですが、安全保障条約は今国会中に調印するとか、あるいは国会終了後調印するとか、いろいろいわれておる。今その内容について審議しなければ、調印できてから後では意見の申しようがない。そこで私が問うておることは、各方面から意見を聞いて、それをまとまったところをアメリカと交渉するというようなことだったら、これはもう筋道が立たない。そこで今いろいろ案があるが、私は露骨に言いますが、外務大臣試案をあなたが了承されて、それを基礎として審議を進めていいですか。その点どうですか。
○岸国務大臣 まだ、案としてわれわれは公表をし、もしくはこれを御審議を願うというような段階でないことは言うを待ちません。しかしながら、安保条約において従来問題とされ、またわれわれが問題点として取り上げているところの点に関しましては、これを明らかにし、またそれに対するわれわれの一応の見解は述べており、またこれに対する社会党その他の方面の論議も私どもは謙虚に聞いておる。これが実情でございます。決して全然雲をつかむよう話でわれわれが交渉に入ったものでないことは言うを待ちません。従って、それらの点につきましては、十分われわれはわれわれの考え方を申し述べて差しつかえないと思いますが、一つのまとまった案として、藤山試案であるとか、だれそれの案であるとかいうようなことを、私どもは御審議を願う段階ではないと思います。
○西村(榮)委員 そうすると二月十八日に提示された藤山試案というのはこれは何ですか。
○藤山国務大臣 紙に書いた藤山試案というものはございません。しかし議会の答弁を通じて大体私の考え方を皆さんあるいは御推察願っていることと思うのでありまして、そういうものが終局的には試案になってくるということは言えると思います。
○西村(榮)委員 二月十八日にあなたは公式に発表されておるでしょう。少くとも現職の外務大臣が自分の所管事項について公式に発表し、これを閣議に提出して、その取りまとめ方を努力しているということであって、これは撤回されるのですか。
○藤山国務大臣 私は、閣議で紙に書いた試案というものを出したことはございません。閣議におきまして、口頭ではいろいろ説明をいたしております。
○西村(榮)委員 それでは各新聞が二月十八日一斉に報道しているものは、これは虚偽の事実ですか。
○藤山国務大臣 紙に書いたそういうものはございません。
○西村(榮)委員 私は紙に書くとか書かぬとかいう形式論を言うておるのではないのです。形式論から総理大臣を初め大蔵大臣にものを申すならば、先ほど来ずいぶんあげ足をとることがあります。紙に書いておることを言うておるのではないのですよ。政治家同士の話し合いとして――撤回するなら撤回するでいいです。これは全然虚偽の事実であって、それは誤まり伝えられているのだから、撤回するなら撤回するでいいです。しかし紙に書いたとかなんとか、そういうものではない。あなたの方針がここにあったのかないのか、それだけなのですよ。
○藤山国務大臣 ただいま申し上げましたように、私は文書をもって正式に私の考えを述べたものはございません、しかし私は、衆参両院の質疑応答その他を通じまして、私の考えは最近かなり明確に申し上げておるつもりでありますから、それらのものを総合していただけば、大体私が何を考えているかということはおわかりいただけると思います。
○西村(榮)委員 あなたと形式論でいつまでもぐずぐずしていてもしょうがないのですが、二月十八日に発表されたのは、これは各新聞に一斉に一字一句も変らずに報道している。そこでこれを閣議にかけられたら閣議の記録があるはずです。紙に書いたとか書かないとかいうことではなしに、これはあなたの案ですかと聞いている。そしてこの案に基いて、あなたの腹案に基いて、衆参両院において安全保障条約の改定の方向をあなたは説明されたかどうか、こう言っているのですよ。私は別にこだわって形式論で言いませんから、藤山さん、そうびくびくしないで安心して、かたくならずに、これが私の案なんだ、案でなければ案でないで撤回する――私は形式論を言いませんから、安心して本音を言いなさい。
○藤山国務大臣 私は別にびくびくいたしておるわけではございませんけれども、その書かれたものは、必ずしも全部が全部私の考え通りだというわけには参りません。従って違っている点もございます。そういう意味におきまして、完全に私の案というわけには参らぬと思います。
○西村(榮)委員 それでは総理大臣にお尋ねします。安保条約改定の目的はどこにありますか。
○岸国務大臣 安保条約の制定当時におきましては、日本は全然自衛力を持たなかったのでありまして、従って安保条約の規定そのものはアメリカの一方的なことになっておって、日本の自主性というものは全然認められておらないことは御承知の通りであります。私は、日本が今日まで努力をしてきたこのなにから申しまして、自衛力を国情と国力に応じて増強し、先ほども西村委員のお話がありましたが、苦しくとも第一段においては、日本みずからが他から侵略を受けない、侵略があった場合においては、われわれは祖国と民族を守る意味においての自衛の一つの実力を持つということに努めて参っております。従って、そういう立場から考えてみますと、今の安保条約及びこれに関連する行政協定等の一連の問題は、何といっても日本に全然自衛力のなかった、従ってまた占領当時からのいろいろな考え方のつながりというようなものもうかがわれるような節もあるのであります。われわれはあくまでも自主独立の国として、日本の安全を保障するという立場において。アメリカと共同で日本の安全を保障しなければならぬ国際情勢であるという考え方に立って、しかも今言ったような日本の自主性――日本のアメリカとの関係におきまして対等でない、従って従来からの占領時代から尾を引いておるような事項に対しましては、あくまでも自主的な立場を明らかにして、そうして日本の安全を保障するような体制を作っていくことが、この独立完成の意味から言いましても、日本の自主的な国民の考え方から言っても、当然やらなければならないことである。かように考えております。
○西村(榮)委員 具体的に政治理念はわかりました、政治目的は。条約の条文に従って改正をせんとあなたが欲せられる目的はどこにあるかということです。
○岸国務大臣 御質問の御趣旨がよくわかりませんが、先ほどのは、これを改正する意図はこういう考え方でやっておるのだということでございまして、あとは、むしろ具体的に従来問題とされ、またわれわれも独立の見地から問題とするような点に関して、個々具体的に取り上げて、そうしてそれを合理的な基礎に置こうというのが私どもの考えであります。
○西村(榮)委員 この藤山試案を書いたとか書かないとかいうことは別として、言論界が一斉に公式に発表され、かつ藤山さんが衆参両院にて質疑応答をされておる要点を拾ってみますと、改定の目的というものは三点ねらわれておるのではないですか。一つは不平等性、一つは条約の期限を作る、一つは基地貸与に対する性格を明確にしたい、こういう点ではなかろうかと思います。どうも藤山さんとの話はしっくりいきませんが、虚心たんかいにその点は答えてもらいたい。その政治理念ではなしに、条約改定の目的はどこにあるか。今念のために、私はもうあなたを追い詰めたり何かするのはいやだからあらかじめ言うておきますが、もしも腹案がないならば、あなたは何ゆえにアメリカに行ったのか、何がゆえにダレス国務長官の回答を求めたのか。さらに帰ってきて何がゆえにマッカーサーと会談して案の仕上げにかかったか。こう追及されるのですから、そんな手間ひまを省いてざっくばらんにお述べを願いたい。
○藤山国務大臣 私は、昨年ダレス長官と会いましたときに、大体この安保条約が七年前にできた条約であり、そうして当時日本には自衛力もなし、また国際社会における地位もなし、また経済的な復興状況もなかなか困難なあの時代にできたものであって、従ってすべてをあげて大体アメリカにお願いしたという形のものである。従って、今日になれば自主的な性格が非常に欠けておる。総理とアイゼンハワー大統領との間の日米新時代に対応するためには、やはり日本の自主性を入れてもらわなければ困るということを申したわけでありまして、その際申しましたことは、内乱条項あるいは第三国に基地を貸しますときにアメリカの承諾を得るというような条項は、今日の状況から見れば適当でない。また、当時この条約において日本が基地を提供しておるけれども、しかしながら、アメリカが日本防衛の義務を持っておらぬということは、前文と比べても、極東の平和と安全というような非常に大局の立場に立つというような点も指摘されますので、その点も申したと同時に、また日本国民の願望として核兵器を持ちたくないという希望がある。現在の条約においては、そういう問題について無制限にアメリカが一方的に行動し得る。従って、これらの装備、配備等の問題については、やはりこれは協議事項にしてもらいたい。そういうことが今の国民の願望であり、また条約に期限がついておらぬというような点は、やはり不適当であるので、これはやはり条約に期限をつけてもらいたい。こういうような総括的なことを申したわけであります。その前提に立ちまして、その全部をダレス長官がコミットしたかしないかは別として、とにかく交渉に入るということになったのであります。従って、ただいまお話のありましたように、現在の安保条約に自主性を入れるという問題、また日本が基地を提供するというのは、日本を防衛してくれるということが第一目的なのであるということ、あるいは期限をつけるというような西村委員の御指摘になりましたことは、非常に重要な点だと、こう考えております。
○西村(榮)委員 そうしますと、今の御答弁においても大体わかりましたし、藤山試案が出されている点においても、一つはここに区域を沖縄と小笠原を含めないという方針、第二は期限を十年にする、第三にはアメリカに対する防衛義務を明確にすることと核兵器を持ち込まないこと、これらを通じて一貫するものは日本の自主性を回復する。こういうことですか。
○藤山国務大臣 少くも現行の安保条約におきますそうした欠陥を取り除いていくこと自体が、自主的な立場を確保し得るのではないか、こう考えております。
○西村(榮)委員 期限十年とあなたの試案に書いてありますが、そうですか。
○藤山国務大臣 また期限の点は交渉いたしておりませんけれども、一般論議を通じて十年くらいが適当ではないかというふうには考えております。
○西村(榮)委員 お尋ねするが、期限十年と書いたのは、これは政治目標で、まだ確定ではないのですか。
○藤山国務大臣 むろん正式交渉はまだいたしておりませんので、アメリカ側の意向は入っておりません。
○西村(榮)委員 大体わかりました。
社会党といたしまして、日米安全保障条約に関する取扱い方というものは二つある。一つは、当時は朝鮮戦争その他の国際情勢を背景として、占領政策を引き継いだ暫定条約であって、これは正式の条約ではない。第二は、あなたの試案にも示されておりますけれども、国連憲章五十一条によって日米安全保障条約は集団保障の一環として締結したと言われるのでありますが、私どもの国連憲章五十一条の解釈というものは、集団をもって他のブロックに対立するという軍事形態をとるのが五十一条だとは考えておらない。五十一条の解釈は、私どもは、これは世界の平和を脅かすものが突発的に起きたときに、残余の国々が協力してこの乱暴者を押えるための五十一条の自衛体制を承認するということなんです。従ってこの解釈がありまするがゆえに北大西洋条約、SEATO条約、バグダード条約、これを基礎として国連の安全保障体制を確立しようとする十年の努力に対して、国連はいつも拒否しておるのでありまして、国連憲章五十一条は、あらかじめ犯人を予定して防衛対策を講ずるのではなしに、乱暴者が出てきたら被害を受けた者が集団して乱暴者を押えようとするのが五十一条。従ってそういうふうな解釈から考えまして、わが国のとるべき安全保障体制というものは、日米安全保障条約は解消する、同時に中ソ友好条約中の軍事条項を削除する。この上に立って日米中ソ四ヵ国の集団保障体制を確立するか、あるいは太平洋不戦条約を提案するかということが、国連憲章あるいは日本国憲法からくるところのわが国の安全保障体制である。かような見地に立って安全保障条約に対する反対の方針をわれわれはとっておるのであります。
しかし問題は、そういう原則的な反対はあくまで堅持しますが、今政府が改正案を練られているのでありますから、この改正案について、私どもは、これがわれわれの理想にどういうふうにつながるかつながらないかという点について、具体的にこれは検討しなければならないと思うのです。それにはまず第一に、この十年という期日、これが非常に私は問題になるのでありまして、一体十年は政治的目標だ、こう言われるならば、あなたはかりに自民党の立場において――社会党は反対ですよ、しかし自民党の立場においてこれを改定するとするならば、期限は一体どのくらいの期日があなたは適当だとお考えになっておりますか。
○藤山国務大臣 私は、そういう条約が非常に短期間であるということも不適当だと思います。しかし、またあまり長期間であるということも不適当ではないかと思います。従って、いろいろなことを勘案して、長からず短かからずというようなことを考えて参りますと、適当な期間というのは、一般的にもいわれておりますような十年くらいが適当ではないか、こう考えております。
○西村(榮)委員 私は、かような問題を取り扱うのに、条約の期日を定めるのに、藤山さんにお願いしたいことは、外務省の条約局的な頭をもって期限を定めないでもらいたいということです。これは安全保障条約ですから軍事に関係している。従って、今日の日々大革新を遂げている兵器、この推移と国際情勢を見通して私は期限をきめるべきだと思う。たとえて申しますならば、私は御参考に申し上げますけれども、アメリカの国防長官マケルロイ氏が、昨年末から上下両院において十四回の証言を行なっております。その中で国防長官は、兵器の発達と基地問題について述べていわく、今後は潜水艦から発射されるところのポラリス、アメリカ本国に地下基地を作って発射されるところのミニットマン、これが昭和三十九年末までに完成する。しかりとするならば、今後におけるアメリカの世界戦略は一大変更を要求される。その変更は必然的に海外の基地が不要になると述べておられるのであります。これは私は正直な話だと思うのでありまして、潜水艦から発射されるところの中距離弾道弾、アメリカ大陸内における地下基地から発射される大陸間弾道弾、これが昭和三十九年までに完成せられまするならば、遠く離れた海外における軍事基地というものは不必要になります。同時に、これは危険なことはソ連の中距離誘道弾、これの攻撃の的になりまして、一挙に殲滅の打撃を受けるのであります。時利あらず、攻撃の目標になるということでありますならば、昭和三十九年を前後として基地政策、基地戦略というものは、アメリカ世界戦略の立場からいって変更されなければならぬと思うのであります。そうすると、あなたがここに十年といわれておるのは、これは条約局からいえば、条約の形態は十年かもしれませんが、日々変更される軍事兵器革命から申しまして、十年はきわめて長期です。私は、アメリカと台湾、アメリカと韓国、アメリカとフィリピンの結んでおる一年を切っての条約、あるいは最高限度三年――自由民主党の立場においても私はこの程度の年限が適当ではないかと思うのですが、藤山さんの御見解はどうでしょうか。
○藤山国務大臣 今回安保条約の改正に当りまして、アメリカの軍隊が日本に駐留いたしますのは、日本を外敵の侵略から守るためにおる、従って、侵略を受けたときに、アメリカはその義務を負うということにいたして参るわけであります。むろんわれわれとして、世界が現在非常な勢いでもっていろいろな動きの上で国際情勢が変りつつあるということを存じております。従って、核実験の禁止問題あるいは一般軍縮の問題あるいはベルリン問題を通しましての雪解け状態、そういうものがやがては国際間の紛争平和解決というものに大きな貢献をしてくると思います。しかし、ここ二、三年でそうした問題あるいは局地的紛争が完全に一掃されるとは私ども考えておりません。従って、一定の時期に、そうした日本の侵略から守られるということを確保して参るということは、現在必要なことだと思うのでありまして、アメリカの戦略上の基地という意味ではなしに、われわれとしてはむろん日本を守るための基地を提供するわけでありますから、第一義的にはそういう意味において日本が侵略から守られるということは、やはりある一定の期間日本を守る体制がなければならぬのではないか、こう考えております。
○西村(榮)委員 私は、安全保障条約については、さらに申し上げておきたいことがあるのでありますが、時間の制約上それでは先に進みます。
ただ申し上げておきたいことは、いろいろ目的のある中の一つの大きな目的は、極東の安全を保持するために日米は安全保障条約を結ぶのであるというのが大きな対象となっておる。そこで私は、自由民主党さんの立場にとっても十年という期限は長いと申し上げることは、一つは軍事兵器が変ってくるということ、さらにもう一つは政治情勢が変ってくるということです。端的に申しますならば、その間アメリカは、中国政府を公式に承認せざるを得ない段階が必ず近く参ります。これなくして核兵器実験禁止の監視制度が設けられましても、あの広大なる中国を度外視してこの案は実行できないのです。アメリカの立場においても、中国を承認しなければならない時期が必ずくる。しからば今日一大目標としておる極東の不安というものは解消される。それから見ますならば、私は自由民主党の立場においても、期限を付する場合には、これはもはや三年以上は長期にわたる。――一躍私は廃止論を先ほど申しました。国連憲章五十一条さらにこの条約ができた歴史性から見て、廃止に御賛成いただけますならば大へんけっこうだと思いますが、自由民主党さんにそれが不可能だとするならば、十年の期日は長過ぎるということだけは申し上げておきたい。
そこで、本問題に関連して最後にお尋ねしておきたいことは、沖縄、小笠原問題の解決です。日本がこれを防衛地域に加える、加えないは別としまして、根本的に解決しなければならぬことは、沖縄と小笠原は、日本国政府は潜在主権が存在する、こう言っている。ダレス長官はこの条約締結に当って、それは残存主権だ、こう言っている。国際法上これは怪物と言われている。こういう幽霊と取り組んでおりましたならば、いつまでたっても解決がつかない。これまたさっきの日中問題と同様に、どこに一歩でも二歩でも前進する解決点を見出すか。アメリカは残存主権であると言う、日本はそれを翻訳して潜在主権と言う、両方とも実体がありません。思うに、これを一躍してアメリカの領土に加えることができなかったことは、ポツダム宣言、カイロ宣言における制約であります。従って、日本としてはあくまでその返還を要求すべきだと思いますが、しかし、暫定的処置として、この残存主権か潜在主権かという国際法上の亡霊と取り組むことなしに、実体と取り組んで、解決の方向に向うというのはどこにあるか。将来に向ってこの領土の返還を要求するか、暫定的処置としてこれを日米共同の統治――少くとも残存主権か潜在主権かは別として、六十五万人の日本人が住んでいることだけは事実であります。従って、この事実に基いて問題を解決する。行政権は日本が担任する。防衛軍事基地はアメリカが持つ。当分これでいく。これも一つの解決方法ではないかと思うのですが、外務大臣いかがですか。
○藤山国務大臣 沖縄、小笠原の問題は、むろん安保条約の条約地域に入れる、入れないにかかわりませず、外交交渉をもちまして、アメリカにその潜在主権の問題を申し入れ、また解決の道へ努力して参ることは当然であります。その過程におきまして、ただいま西村委員のようなやり方もあろうと思いますし、いろいろな方法はあろうかと思います。われわれとしては、この問題につきましては、外交ルートを通じて、今後とも交渉を続けていくということにいたして参りたいと存じております。
○西村(榮)委員 今の僕の質問の共同統治はどうですか、それを聞いているのです。
○藤山国務大臣 共同統治も、ただいま申し上げましたように、一つの案かとも思います。しかしながら、よく検討をいたします。
○西村(榮)委員 その案をのみますか、あなた。
○藤山国務大臣 今のむとは申し上げられません。
○西村(榮)委員 突然ですから、よく考えて下さい。一方ものは、理想は理想として、前進は日々刻々やらなければならぬ。天日再び返らずです。
私はそこで、時間がないそうですから、お約束を守りたいと思います。最後に岸首相にお尋ねいたしたいのでありますが、結論から言いますと、日本の政治はこれでいいのかということであります。先般有力な言論界の幹部が外国から帰ってきて座談会を開いておられます。あなたもごらんになったと思います。三月二十日「海外から見た日本」と題して二つあげております。一つは、日本において日本国民は政治的空虚の中にあえいでいる。それは日本に政治哲学がないから……。日本に経済はあるが政治がないというのが、これが外国から見た日本の姿でまことに嘆かわしい。三月二十日の記事に長文にわたって書いてありますから、ごらんいただいたらいいと思いますが、私ども政治に携わる者の冷汗三斗の思い、この日本の政治に哲学がないと言われるのは、先ほど来の質疑応答に明らかなごとく指導性がないことです。政治に先見性がないことです。時勢を見抜くところの先見性がないことです。先見性の欠除から、指導性がないことです。従って、国民は力こぶの入れようがないから、その日を無為に暮すという状態が今日の状態であります。さらに今日政治が口にされることは、疑獄、汚職であります。私は今日ほど日本人がお互いに疑ぐり深くならなければならない時代はなかったと思う。これは一体、国民をして政治に猜疑心を起し、政治家同士が猜疑心を起し合う、この責任は一体どこにあるか。私ども政治に携わる者の共同の責任だと思うのでありまして、あなただけを責めようとは思いません。そこで、あなたは幸か不幸か現在内閣総理大臣です。(笑声)あなた自身が身を正さねばならぬ。私は今日の政治の先見性と指導性というものは別の角度から論議いたしますけれども、問題は、政治家の身辺はきれいでなければならない。私はいやなことは今日言いたくないのでありますが、今日の世人の疑惑を一掃するために、先般参議院においてあなたに要求された岸信介氏の財産の公開と、過去五ヵ年間の所得税を公開されて、身の潔白を証明されるだけのあなたは決意がございますか。
○岸国務大臣 政治に一つの見識を持ち、先見を持ち、指導性を持ち、また国民が政治を信頼し、お互いに政治に携わる者が明朗なる形において論議し、協力するという体制を作らなければならぬことは、これは西村君の言われる通りであると思います。私自身の私生活の問題や私事についての話につきましては、私はこの国会を通じて私の見解を申しべることは遠慮したいと思います。
○西村(榮)委員 この問題についてはしばしば論議されたそうであります。ただ論議せざる中に、私は一言あなたに申し上げておきたいことは、今の日本国総理大臣は、戦前に比して想像のできない権限を持っております。アメリカ大統領の権限を越えております。これだけの強力なる権限に対して、当然その権限に伴う義務条項が生まれてこなければならぬ。しかるに、総理大臣を道義的に拘束する自然法的なものが今日存在いたしておりません。しかし、アメリカ大統領にはあります。アメリカ大統領には、自分の地位を利用して特定の人に特殊の利益をはかるといったときの道義的な責任というものが、アメリカ大統領ただ一人に自然法として、習慣法として発生しておるのであります。これがありまするがゆえに、アメリカ大統領の右腕と言われたるシャーマン・アダムス顧問が、わずか洋服生地二着古い友人からもらったというので、これは辞職いたしました。さらに、政治というものは、国民の信任の上に成立する職業であります。去年やめたインドの大蔵大臣は何の理由でやめましたか。御存じの通り、インドの生命保険は国営であります。この国営生命保険の投資が誤まった。しかもそれは、一局長が出入りの商人に誤まされて、生命保険会社に損失を与えたというので、インドの大蔵大臣は辞職し、その辞職の痛手を受けてネール首相が辞意を漏らしたのがこれであります。タイのピプン首相のやめたのも、疑獄、汚職です。法律的な問題ではありません。道義的責任をとった。
私がなぜこのことを申し上げるかと申しますならば、あなたは口を開けば右翼の暴力主義、共産主義の革命を克服しなければならぬと言われるのでありますが、今日政治家が道義を明らかにせずして、法を曲げられて恥なしという態度をとりますならば、期せずして共産主義革命と右翼のファッショ革命が台頭することは、火を見るより明らかであります。歴史の上においては、あなたに申し上げるまでもなく、五・一五事件、二・二六事件は何によって起きましたか。判決文を読みましょう。
五・一五事件の判決文。近時わが国の情勢は、政治、外交、経済、思想、軍事等、あらゆる方面に行き詰まりを生じ、国民精神また頽廃を来たしたるをもって、現状を打破するにあらずんば国家滅亡に導くことをおそれ、しこうして、その行き詰まりの根源は、政党、財閥及び特権階級互いに結託し、私利、私欲にのみ没頭し、国利民福を忘れ、腐敗、堕落をきわめたるものなるがゆえに、ここにあえてわれわれは決起したと青年将校が言うているが、まさに現状はこれを理解するに余りあると判決文は言うておる。内外非常のときに際し、政党が党利党略に堕して国家の危急を顧みず、財閥また私欲にきゅうきゅうとして、一部特権階級が国家の利益を壟断す。この国家の現状を見て、青年将校が決起したことは、裁判所として是認せざるを得ない。しかし、白昼凶刃を振って殺戮した行為は、これは法に照らして許すわけにはいかない。決起した状況については理解するけれども、白刃を振ったということについては理解することはできないから、有罪に処する。しかもその事件たるや、ドル買い事件、松島遊廓事件、私鉄疑獄事件、朝鮮総督府事件、枚挙にいとまない事件は、ことごとく無罪と相なっておるのであります。この法と無法の盲点をついて、私利、私欲をほしいままにした政党、財閥について、白刃を振って膺懲を加えたのが五・一五事件、二・二六事件でございます。私はこの判決文こそは、今日えりを正して反省しなければ、将来の日本は危うしと考えるのであります。
岸さんに、私は言いにくいことであるけれども、あなたが別荘をお持ちになることも、いろいろなことをなさることも、それはあなたの私生活であるから差しつかえないと言えばそれまででありますが、少くとも他の首相よりもなあたは戦争責任者として、多くの街頭にあふれているところの戦争犠牲者に対し、政治はまずみずからを憂え、楽しみをあとにするという哲学を考えてみるならば、今日首相の心がけは一体いずこにあるか。(拍手)申すまでもなく、蜀漢の興亡をになって立つ諸葛孔明は、後世の宰相に教えていわく、質実剛健、逸楽を避けて清貧に甘んじて、施政の大任を果すことこそが宰相の任務であると、数百年前、数千年前に述べておるのであります。今日日本は戦いに敗れ、この廃墟の中に立ち上るには容易ではありません。これをなすのは一体何か。民衆との親近感であります。民衆の親近感を求めるには、生活の共感がなければならない。生活をひとしゅうし、そのひとしゅうするところの生活の中から、民衆と政治家が一体となった親近感が生まれてこそ、切めて金も要らない、権力も要らない、一致して融和して国難突破の大精神と大力、大政治力が生まれてくると思うのであります。繰り返して申しましょう。今日の宰相たる者は、清貧に甘んじ、逸楽を避け、質実剛健によって施政の大任を果すものであるといたしますならば、今日のあなたの総理大臣としての公私の生活、まことに遺憾であります。外交に行き詰まり内政に不統一を来たし、民心を失ったあなたは、すみやかにその席を去って、他の諸君に譲ることこそが国家を救う道なりと私は存ずるのであります。
これを御忠告申し上げて、私の質問を終る次第であります。
○楢橋委員長 猪俣浩三君。
○猪俣委員 最初に、私の質問の中心点を明らかにしておきたいと思います。
先般わが党の今澄委員が質問しました木下商店のフィリピンからの鉄鉱石の輸入問題は、わが国の基幹産業たる鉄鋼業に関しますものであり、輸出入銀行から百八十万ドルという大金が融資されておる等から、産業行政上大きな問題があります。のみならず、特に岸内閣においては、総理でありまする岸さん、永野運輸大臣等は鉄鋼資本と密接な関係があって、鉄鋼資本が両氏のスポンサー的存在であると言われておりまして、国民に非常な批判の声があるのであります。そこで、引き続いて今澄君の補充的質問をさしていただきたいと存じます。私は、官政界の汚職、綱紀の紊乱が、現代日本における最大の病根だと思うのでありますが、この対策を一体どうすべきか。しかも政界の腐敗の根源は、選挙に金がかかることであることは、おそらく自民党の諸君といえども否認できないことだろうと存じますが、こういう状態で進んでおって、日本の政財界、官界がどういうふうになるであろうか、私は深憂にたえないものがありますがゆえに、さような見地から質問を展開したいと存じます。岸さんは先ほどから答弁に立たれておりますので、今度はほかの休んでおられる大臣の方に質問をしたいと思います。
第一は、大蔵大臣か通産大臣からお答えいただきたいと思います。木下商店がフィリピンのPIMから買い付けました鉄鉱石の値段は一九五五年二月三日のわが国の鉄鋼三社とフィリピンのPIMと木下商店との三者の契約――これは一九五五年二月三日に締結せられております。この契約を根拠といたしまして私は質問したい。ここに契約の写しを持っておる。なお、木下商店が昭和三十年四月十二日に通産省並びに輸出入銀行、大蔵省あたりに出されましたところの日本円融資によるララップ鉱山鉱石処理計画の概要なる文書の写しをここに持っております。これを根拠といたしまして質問したいと存ずるのでありますが、この木下商店がPIMと最初契約いたしました一九五五年二月三日の契約書には、鉄鉱石は粉鉱、塊鉱とも平均一トン七ドル六十三セントと書いてある。ところが、これが昭和三十二年七月になりますと、一ドル五十セント値上げせられておる。そうして結局において一トン九ドル二十五セントとなっておるわけであります。どういう事情でこういうようになったか。なぜかと申しますと、昭和三十二年七、八月ごろには、日本から百六万五千ドルというものが機械としてかの地に渡り、かの地の会計報告――一九五七年の会計報告の原本の写しもここに持っておりますが、それを見ると、一九五七年の八月にすべての機械の据付が完了したとなっておる。これははなはだ疑惑がありますので、あとで質問いたします。そうしますと、日本からの百八十万ドルという多額の輸出入銀行の金、国民の血税の金がこのPIMに貸し付けられ、その完了後値上げしておるということに相なる。これはさっき申しましたPIMとの国際協定におきましても、あるいは木下商店が輸出入銀行に出しました計画書に見ましても、はなはだ理解できないやり方であると思います。しかも、その値上げ後、一トンについて三十セントずつこの貸金の返済をやっておるという姿、そこでどういう事情でかような鉱石の値上げを政府は認められたのであるかということにつきまして、大蔵大臣なり通産大臣なりから御答弁をいただきたいと存じます。
○高碕国務大臣 お説のごとく、最初の契約は粉鉱と塊鉱と平均しまして七ドル六十三セントということになっておったのでありますが、これが三十二年度におきましては、塊鉱は九ドル二十五セント、粉鉱は八ドル四十セントこういうふうに相なっております。その間におきまして、採鉱の状態から申しまして、採鉱には予想以上の困難性があり、その上に世界全体の鉱石の価格というものが、消費の増大のために高くなってきたわけでありますから、世界的の価格と採鉱の状態等から比較いたしまして、これはやむを得ないことと存ずる次第であります。
○猪俣委員 さような答弁は、はなはだ私どもは欺瞞的であると思うのであります。もし果してそうならば、この百八十万ドルの貸付問題というものを考慮しなければならない。八幡製鉄、富士製鉄、日本鋼管三社とPIMとの国際協定を見ますと、第四条におきまして、設備完成後の鉱石価格は各一年ごとに取りきめるものとして、第一年目の塊鉱と粉鉱との平均価格は、今あなたが言われたように七ドル六十三セントと書いてある。第二年目以降の価格は、作業原価に基いて経済的に可能な限り低減するものとする、こういうふうにちゃんと契約されておる。のみならず、この木下商店が輸出入銀行へ金を借りるに際して出しましたこの契約の目的を見ましても、これは粘結原料として利用価値あるものとなさしめることにより全体的に価格の低下をはかる、こういうことをもって百八十万ドル引き出しておる。あなたが今国際的に値上りしておると言うのはどこからそういう材料を得ましたか。私は、ここに昭和三十三年十月三十日現在の三十年から三十三年度の輸入鉱の契約価格一覧表を持っています。これによりますと、マレー、インドあるいは北米ネバダ、ことごとくフィリピンが値上げをした当時は値が下っておる。それは下る道理です。昭和三十二年度というのは、鉄鋼界におきまする大いなる混乱の時代である。ですから、これは値が下る道理であります。あなたも通産大臣であるから御存じでありましょうが、そういう御答弁をなさるとすれば私は言わなければならない。通産大臣は非常に良心的な方で、その考え方も私どもと非常に近い点がありますので、平素私は尊敬している方です。だから、あんまり上手におっしゃらぬでざっくばらんに言ってもらいたい。それは間遠いがあると思うのです。私が言わぬでも、あなたはその道の専門家であるからわかっているでしょう。昭和三十三年度あるいは昭和三十一年度は年々鉄鋼業というものは困ってきておるのです。ここに詳細な報告書を私は持っておる。あなたは専門家でありますけれども、ほかの議員さんもいますから私は申し上げる。輸出品として最も値段の張ります物を十持ち出しますと、昭和三十一年度におきましては、鉄鉱石は三番目になっておりますが、これが二億二千三百五十八万ドルでありまして、これは前年度の八六%にしかなっておらぬ。ところが次の三十二年度、すなわちフィリピンで値上げをした当時はどうであるか、これはまたずっと減りまして、鉄鉱の輸出は二億九百三十七万ドル、これを昭和三十年度を基本にして考えますと、その八一%にしか当らない。経済状態は内需、輸出ともに不振で在庫は累増の一途をたどるという惨状を呈しているという当時の経済報告であります。こういうときですから世界的に値段が下っております。全部これに書いてある。しかるに、どういうわけでフィリピンだけは値上げをしたのであるか、不可解千万である。
○高碕国務大臣 お答えいたします。三十二年度におきますララップの鉄鉱石はFOB八ドル七十セントであります。それに対しましてズングンから持ってきております物は十ドル二十二セントであります。インドの鉱石は十一ドル七十六セントになっております。もちろんフィリピンの鉄鉱石はFe五七%、ズングンが五九%、インドは六四%でありますから、品質はいいでありますけれども、ともかく、八ドル七十セントに対し、ズングンが十ドル三十二セント、インドが十一ドル七十六セント、こういう数字が私どもに参っております。また、三十三年度におきましてはララップは八ドル四十九セント、それに対しましてズングンが九ドル五十セント、インドは十一ドル二十セントとなっておりますから、フィリピンだけが高いということは、私たちには認められません。
○猪俣委員 そういうしろうとだましをおっしゃってはいかぬ。鉄鉱石というものは鉄分の含量によって値段が非常に違うのです。これは私は専門家に聞いてみたのです。なるほどあなたがおっしゃるようにインドは昭和三十二年に十一ドル七十六セントのものがありました。しかし、これは鉄分が六五%入っておるものです。鉄分が一%違っても値段は非常に違うということはくろうとがみな言っておる。これは、あらゆる鉄鉱石を運んできて、会社で製練する際に非常に金がかかる。そこで、鉄分がどれくらいあるということが価格の根幹でなければならない。そこで、この割からいうと、フィリピンの鉄鉱石は五五ないし五七%の含有量なのです。一〇%も違うのです。とんでもない値段が違うわけです。ですから、この割からいうとインドの方が安いのです。のみならず、今あなたがおっしゃったインドの昭和三十二年十一ドル七十六セントは、昭和三十三年には、同じ鉄分のものが十一ドル二十セントに減っているのです。これは北米のネバタでも、十一ドル五十セントがまた三十三年には十ドル七十セント、一ドルも減っているではありませんか。またマレーの鉄鉱石でも、五九%の鉄分を含むものが、三十二年度十ドル八十セントであったものが、三十三年度には、六〇%のものが九ドル五十セントに下っているのです。一ドル何ぼ下っているではありませんか。こういう際に、何がゆえにフィリピンの鉄鉱石だけが値上げをしなければならなかったか、はなはだ疑問に満ちます。なお、あなたは何か採掘に非常に金ががかってどうとかこうとかおっしゃるのでありますが、このフィリピンのPIMという会社は、かような日本の鉄鋼三社、木下商店と独占的な特約を結びましたために、非常に暴利を得ておりまして、これも、私は、一九五六年、五七年両年にわたりますPIMの会計報告の原本の写しをここに持っております。これを調べると大へんなもうけをしておる。そこまであなたは研究したかどうかわかりませんが、念のために申し上げますと、大へんなもうけである。一九五七年九月三十日年度末報告書というものを見ますと、当社は本会計年度において三百十四万四千五百三十八・六十八ペソの純利益を上げた。しかも、その次には何と書いてあるかというと、今回の純利益は前年度を上回った。こう書いてある。そうすると、今のペソを邦貨に直すと六億円ぐらいではないかと思いますが、私ども会社のことはよくわかりませんけれども、純利益を六億円も上げるというのは、これは相当の会社ではないかと思うのですよ。それだのに、日本は百八十万ドルの金を貸してやった、そうして採鉱に有利な機械を買ってやったというのです。これは、木下商店が輸出入銀行に出した計画書にそう書いてある。この金を出してくれれば、百六万何ドルで優秀な機械を買って、そうして向うに送るなら、非常に低廉な鉄鉱石を輸入できるだろうから貸してくれ、こうやった。ところがその機械が向うに行ったと思われるその年からぽんと値上げをやったとすれば、ぺてんにかかったようなものじゃないですか。これを説明して下さい。
○高碕国務大臣 私は、露骨に申し上げましてまたPIMの決算報告等は取り調べておりませんから、それにつきましてはよく批評はできませんが、ただいままでの報告を総合いたしますと、最初予想しておったよりも非常に混乱しておる山である、それの採取については最初よりも非常に困難性があったということのために、最初の計画よりも採鉱がおくれたという事実を聞いておるわけでありまして、そういう点から考えまして、私は必ずしもこの鉄鉱石の価格というものはただいま御指摘のごとく――品質は非常に悪いのであります。それにもかかわらず高い、こうおっしゃったわけでありますけれども、これは日本に持ってくることを考えると運賃の点もありまして、三十三年においてもララップの鉱石はCIFにすると十一ドル五十八セント、ズングンの鉱石にするとCIF十三ドル六十五セントで、値段は安くなっております。品質はほぼ似ておりまして、フィリピンの方が五七%であるのに対しズングンが五九%Feでありますから、これくらいの価格の差があってもしかるべきであると存じますが、フィリピンのものは日本の製鉄業者としては決して高いものではないということを私は考えております。
○猪俣委員 あなたはそういうことを言うとおかしくなる。これは今澄君も質問したのですが、フィリピンの商務官から政府に照会状が来ているでしょう。富士製鉄にも行っています。富士製鉄の太田啓三という人物は、それに対して返事を出しておる。その返事もここにあります。PIMだけでなしに、ほかの鉱区からも買ってくれぬか、そうすれば六ドルか七ドルでいいものを送るから、こう言うてフィリピンの政府から交渉してきているではありませんか。それを木下商店だけを信じて、それをまた政府は認容しておる。聞きましょう、このフィリピンの商務官からPIM以外の会社の鉄鉱石も買ってくれぬかということを日本政府に要請してきましたかどうか。
○高碕国務大臣 その当時の情勢等につきましては、私ちょっと判明しない点がありますから、政府委員からお答えいたさせます。
○中野説明員 今の御質問の点につきましては、比島政府からは日本政府に対してそういう要求は来ておりません。
○猪俣委員 しからば富士製鉄その他にそういう要請状が来ておることを通産省は知らなかったのか知っておったのか。
○中野説明員 通産省としては、富士製鉄にそういう要求があったということについては存じておりません。
○猪俣委員 これは政府の非常な怠慢だと思う。なぜならば鉄鉱石の輸入価格というものは政府が決定するのです。政府の許可なしにはできないはずなのです。これは単なる民間の取引だけではない、輸出入銀行から百八十万ドルという金を貸し付けておる取引であります。そういうことを知らぬということについて私はこれから質問したいのでありますが、はなはだ監督不行き届きであるのみならず、今通産大臣の説明によると、何か非常に鉱山が採掘が困難で、都合の悪い鉱山のようなことを言うておる。それは輸出入銀行が百八十万ドル貸し出すときはわからなかったのか、何も調査せずに木下商店の口車に乗ったというのか、どちらですか。
○高碕国務大臣 もちろん輸出入銀行といたしましてもその情勢は調査いたしております。この鉄鉱石の輸入について輸出入銀行が貸すにつきましては、その目的はよく調べますが、しかし大体の責任は、借りた日本の業者つまり製鉄三社あるいは木下商店というものが責任を持っておるわけでありまして、この仕事の運営、将来性等については、借りた実際に仕事をやっておる業者の責任においてやることでありますので、その価格等についても一々政府に届け出て、政府が許可するとかそういうふうなことは現在までやっていないわけでございます。これは業者の責任において実行することであります。
○猪俣委員 そうすると鉄鉱の輸入価格というものは民間で勝手にきめてよろしいということになるわけですか。そんなことはないでしょう。政府はドルの割当をしなければならない。民間業者が勝手に何ぼでも政府の許可なし、同意なしに輸入していいものではないでしょう。ドルの割当をする関係もあって、必ず政府と協議するはずである。どうなっておるんだ実際は。
○中野説明員 鉄鉱石の輸入につきましては、御承知のように現在AA制度になっておりまして、その値ぎめその他につきましては輸入商社あるいはそれを使う製鉄業者が、先方の輸出業者なり鉱山会社と取りきめをしてやることになっておりまして、今回のPIMの件については百八十万ドルの許可をいたしました際に、御承知のようにトン当り三十セント引きということでその金を回収するという契約については許可いたしておりますが、具体的にそのときの鉄鉱石の値段等につきましては、その当時の国際価格そのほかのいろいろな条件を加味いたしまして、関係の商社なり製鉄会社で取りきめることになっておるわけでございます。
○猪俣委員 そうすると輸入価格は商社が自由勝手にきめてよろしい、政府は一切それに関知しない、こう承わってよろしいか。いかなる品物も外国から輸入する価格は輸入する人の自由勝手な値段で持ち込んでよろしいということに承わってよろしいか。
○中野説明員 通産省といたしましては、一般の割当物資については業者の申請に基いて外貨の割当をいたすわけでございまして、鉄鉱石の場合は先ほど御説明いたしましたようにAA物資でありますので、銀行の窓口に行けば外貨を割り当てしてもらえるということになっておりますので、一々価格についてはチェックはいたしておりません。
○猪俣委員 大蔵大臣にお尋ねします。一体外国貿易する際、その価格の決定というものは大蔵省も全然関係しないことになっているかどうか。
○佐藤国務大臣 ただいま通産省事務当局から説明いたしておりますように、割当制度でございますと、一々その許可をしなければなりませんから、そういう場合に書類を審査することはございます。しかしながらAA制の物資につきましては、ただいま申し上げましたように市中金融あるいはそれぞれの金融機関で直接扱いますので、政府は関与しない、その建前でございます。
○猪俣委員 なお大蔵大臣に聞きますが、輸出入銀行が外国に貸し付ける目的をもって木下商店なら商店に百八十万ドルを貸し付けるということに対しては、これはそれだけの価値があるかどうかというようなことに対して通産省が責任があるのか、大蔵省が責任があるのか。
○佐藤国務大臣 輸出入銀行が扱いますものは、できるだけ輸出入銀行の自主的な扱い方に差しかえる、かように考えておりますが、ただいまお話しになりますフィリピン向けの、その当時におきましては大蔵省並びに通産省両省ともがこの問題を認可いたしております。最近の傾向といたしましては、なるべく政府はこういうことにタッチしない、そうして為替事務の簡素化をはかっていく、自由な方向にいろいろ苦心しているところでございます。
○猪俣委員 なお先般今澄委員の質問に対しまして、政府が答弁しているのを見ますと、この百六万五千ドルに相当する機械は全部送ってあるというように説明せられているのでありますが、これはいつまでに送ったことになるわけですか。
○佐藤国務大臣 この融資の内容を一応御説明した方が問題がなくてわかりいいかと思います。この融資は輸出入銀行が八割さらに市中銀行、興銀が八%、三菱、富士、三和、この三行はそれぞれ四%、これを融資承認額として与えたのでございます。そこでただいま言われます金額について申し上げますと、輸出入銀行の引き受けましたものが五億一千八百四十万円、実行額といたしましてはそのうち四億五千三百六十万円、すでにそのうちから返済を受けましたものが九千七百八十万円、残高三億五千五百八十万円となっておりまして、この承諾いたしました金額のうちで未貸出額というのが、なお六千四百八十万円残っておるということになっております。また興行銀行は全体の八%でございますので、五千百八十四万円、実行額が四千五百三十六万円、返済額は九百七十八万円、残高三千五百五十八万円、未貸出額が六百四十八万円、富士、三菱、三和それぞれの融資承諾額は二千五百九十二万円、実行額は二千二百六十八万円、返済額はそれぞれ四百八十九万円、残高は千七百七十九万円、未貸出額三百二十四万円、こういうことになっております。
そこで問題になります今の機械の問題でございますが、この機械のうちで二十五万ドルを米国からの買付機械として送金した事実は、この前の説明ではっきりいたしておりますが、このうち現実に使っておりますものが十五万ドルちょっとでございまして、残りがなお九万ドル余あることになっております。現実に十分調べてみますと、向うの銀行に九万ドルちゃんと預かっておるというのが現状でございます。
○猪俣委員 その預かっておる問題はあとでお尋ねいたしますが、向うの、フィリピンのPIMの会社の会計報告を見ますと、また先ほど申しました木下商店が輸出入銀行に出しました金を借りるときの計画書を見ましても、この機械の完成は昭和三十一年三月三十一日となっておるのでありますが、実際は少しおくれて、向うの会計を見ましたところが、昭和三十二年八月二十一日すべての機械の引き渡しが完了した、こういうふうに報告されておるのであります。
そこで、ここで疑問でありますことは、この木下商店の輸出入銀行へ出しました計画書によれば、すべて機械の買付は、昭和三十年の四月三十日までに買付を決定する、こういうことになっておる、そうして買付を決定して注文をしたなら、注文をした日から二カ月ないし八カ月間に全部品物を送るのだということになっておる。ところが実際ここに、この送った品物の名前とそれから注文した日と船積みした日時を詳細に書いたものがあるのでありますが、これを見ますと非常に機械を送ることがおくれておる、そうして注文した日と船積みの日が一年以上たっておるのがざらなんだ。全部木下商店が輸出入銀行に出した計画書というものと全く違っておるのですよ。しかも向うの報告書においては、昭和三十二年八月二十一日引き渡しが完了したとなっておるのに、こっちのこの一覧表を見ますと、昭和三十二年の九月以降、昨年の九月二十二日まで機械を送っておることになっておる。そこで今澄委員が前に言ったように、一体この機械は送っていないのではないかという疑問が出てくるのですよ。向うにそう書いてあるけれども、向うのPIMとなあなあでこういうことをやっておるのではないか、そこでどちらが一体引き渡しを完了したかということと、しかもこの報告書を見れば完了したといわれておるときから一年数カ月かかってまだ送っておる。しかも百六万の予算のうち九十一万九千四百三十三ドル六十四セントしか送ってない、あとのはどうしたのだという問題が一つあります。これはどうしてこんなにおくれたのです。
○佐藤国務大臣 先ほど通産大臣も申しておられましたが、この山が当初の計画通りに工事がなかなか進捗いたしておらないのでございます。ただいま御指摘になります選鉱工場、これを作るのでございますが、その進捗状況は当初の計画だと三十二年の三月末には工場が完成する予定であった、かように聞いております。従いまして、ただいま猪俣さんが御指摘になりますように、最初は相当早くからその機械の一部が送り出される。ところが山元で争議があったり技師長が更迭したりいたしまして、それらのためにだいぶ工事の進捗がおくれた。大体三十三年の七月末までにこの工場が完成するだろう、こういうことになっております。ただいまこの機械の送付が非常に長期にわたって次々に船出しされている、一体どういうわけだ、こういう御指摘でございましたが、ただいま申し上げるような山元の事情で積み出しがおくれた、かように私ども理解いたしております。
○猪俣委員 機械の完成は三十二年三月三十一日ではない。この契約書を見ると、木下商店が輸銀に出したものは三十一年三月三十一日となっておるのです。それが非常におくれている。二年半もおくれてしまった。そこでこういう説をなす者があるのです。日本から送るべき機械を送らなかったために値上げをしたのだ。一体その採掘がうまくいかなかったのは、日本から送るべき機械を送らなかった、そのために向うでは値上げをしてくれなければ困るということになった。ですから皆さんの言うこともほんとうなんだ。非常に採掘が困難になったとさっき通産大臣の言うこともほんとうだと思うのです。しかしその原因はどこにあるか。送るべき機械を送らなかったのではないか。そこで高くつけられてしまった。これが実情ではないかと、ある人は言うのです。それは労働争議があるとかなんとかいうけれども、三十一年の三月三十一日に完成しますといって木下商店は輸銀へ一札入れておるのです。それが三十二年、三十三年になってもまだ機械を送っているとは一体何事ですか。その間、百六万ドルというドルは一体どう木下商店は運用したのですか。そこで大蔵大臣にお尋ねしますが、この百八十万ドルという金を、いつ木下商店にお渡しになったか、それを御答弁願いたい。
○佐藤国務大臣 事務当局から説明させます。
○酒井政府委員 数字のことでございますから、私から御返事申し上げます。輸銀及び市中でございますが、これはさっきもお話がありましたように、協調融資でございまして、輸銀が八割貸すことになっております。そこで貸し出しの日を申し上げますと、三十一年一月三十一日に輸銀が一億七千九百万円、市中銀行が四千四百八十万円、合計いたしまして……。
○猪俣委員 輸銀のだけ言って下さい。
○酒井政府委員 それでは第一回が三十一年一月三十一日で一億七千九百二十万円、第二回が同年五月三十一日で七千二百万円、第三回がやはり三十一年の六月七日で五千百二十万円、同じく三十一年八月三十一日に三千四十万円、それから同年の九月二十八日に二千九百六十万円、三十二年の一月十七日に七千二百万円、同じく三十二年十二月三十日に一千九百二十万円、合計いたしまして先ほど大臣がおあげになりました実行額四億五千三百六十万円、こういう金になります。
○猪俣委員 そうしますと、三十一年の六月までに大部分の金が渡されておる。しかも三十二年の一月までということになると、ほとんど大部分は渡されておる。しかるに機械はそれから一年もたってから送られておる。私はこの輸銀が現実に木下商店にドルを渡した日がわかりませんでしたので、この機械の発送の日と詳しく照らし合せて、今ここに判断することができませんけれども、とにかく大部分の金が三十一年には出ておるわけです。ところがその出ておることと機械の発送とはどうもつり合っておらぬと思う。これはなおあとで調べて私は質問したいと思うのであります。
そこで、なお詳しい質問を私はたくさん用意してありましたけれども、時間がありませんので、簡単に端折りますけれども、この前の今澄君の質問に対しまして、政府の答弁を見ますと、このベネフィケーション・プラントというプラントの百六万五千ドルの残りがまだ十五万残っておる。政府の送ったという機械のトータルを見ますと、百六万のうち九十一万ぐらいしか送っていないのでありますから、十五万ドルというものが使われておりません。それからアメリカの銀行へ二十五万ドル送るうち、今佐藤大蔵大臣がお答えになった、この前もお答えになったが、結局九万八千ドルというものは使われておらない。それからなお政府の答弁によりますと四十八万五千ドル、これは現地の調弁費用として現ナマで送ったことになっておりますが、これはやはり三万ドルばかり送り残りがある。これは政府の答弁を全部信用してのことです。これがほんとうかうそかも、ちょっと疑問があるのだけれども、そうしましても十五万と九万八千と三万入れますと二十七万八千ドルというものが使用目的に従って使用されておらない。最も顕著なのはアメリカに送った二十五万、そのうちの十万ドルというものはそのまま使っておらぬ。これは一体どういうことになるのか。御存じのようにフィリピンのごときは、ドルはちょうど二倍になっておるそうです。ドルとペソのつり合いのやみ値が二倍になっておる。だからこういう説をなす者がある。四十八万何ドルをフィリピンへ送っても、これをやみ操作をやると倍になる。そこでおそらく四十八万ドルというものはフィリピンのPIMと日本の木下商店が結託して、やみでもって運転したら半分で済んでいるはずである。その半分の四十八万何ぼというものは、おそらくPIMと木下と、その以後のいろいろの木下にくっついておるものとの間に分けたのではなかろうかという疑いさえ出ておる。そういう際に、なるほどやみドルというものを考えれば、日本にもやみドルがある。日本は二倍になっておらぬようであるが、確かにやみドルがある。フィリピンは普通の為替相場の倍がやみになっているそうです。そうするとこのドルというものの威力は大へんなものです。これを木下商店が上手に利用するならば、莫大もないもうけがあるわけです。そこでお尋ねしたいことは、この輸銀から目的を指定して出された金が一体使われないでおった場合に、どういう処分になるのですか、御答弁願いたい。
○酒井政府委員 今お話がありましたように、許可は百八十万ドル出ておりますが、現実に送金なり物が出ましたものを申し上げますと、まず第一にアメリカから物を買い付ける。そうしてフィリピンに送ってプラントにくっつけるという金が二十五万ドルありますが、これは前回申し上げましたように、三十年の十一月三十日に許可を得まして、三十一年二月二十三日に興銀、富士、三和、三菱、合せて二十五万ドル送っております。そうしてそのうち十五万二千ドル程度のものはプラントとしてアメリカからフィリピンに送ったのであります。その残り約九万八千ドルでございますが、これはアメリカのチェース・マンハッタン銀行に定期預金として置いてございます。これはチェース・マンハッタンの方からの証明ではっきりわかっております。それから機械据付等のために四十八万ドルの許可がありますが、これは通産省の許可でございますが、現在までにおっしゃるように四十五万五千ドル余り送っております。これの送金につきましては、各銀行の送金伝票等当りまして、四十五万五千ドルが送られておることははっきりいたしております。従って残りがお話のありましたように二万九千六百ドル足らずということでございます。それからこちらから物を出すというものが百六万ドルございましたが、それは合計いたしまして現在までに九十二万六千ドル余り出ております。そこで全体といたしまして百八十万ドルのワクより内輪に実行計画がなっておりますが、これはいずれもララップ鉱山の開発を遂行いたしますために、今後必要な機械だとかあるいは補修部品というようなものに使いたいということを申しておりますが、この条件につきましてはどう扱うか、関係各省相談の上できめたいと思っております。従いまして送金した分が何かやみであるというようなことは絶対にございません。
○猪俣委員 日本輸出入銀行の総裁、おいでになっておりましたならば御説明願いたいのですが、百八十万ドルを貸し出す際に、木下商店と輸銀との間に何か消費貸借のような契約があるはずですが、その契約の内容を説明願いたい。
○古澤説明員 お答え申し上げます。私の方の銀行が木下商店へ貸し出すときの契約の手形貸付契約証書の概要を申し上げますと、融資承諾をいたしましたのが昭和三十一年の一月二十六日でございます。それから貸し出しの期限が昭和三十六年十二月三十一日、それから利率が年四%、それから市中と協調融資をいたしておりますので、市中の分は日歩二銭六厘であります。
○猪俣委員 その全部でなくてよいのですが、この契約に過怠約款のようなものはありませんか。木下商店から出された融資の計画書に違反したような場合には、どういうことになるかというような契約はありませんか。
○古澤説明員 それはございます。
○猪俣委員 それを説明して下さい。
○古澤説明員 この手形貸付契約証書というものは、普通の銀行と同様のフォーミュラによりまして、私の方でとった契約書がございますけれども、この契約によりますと、いろいろと借入金にかかる輸出契約の履行が困難であると私どもの方の銀行が認めたときには、法定の手続を要しないで、これに対して契約期間及び償還方法並びに手形期日にかかわらず直ちに債務を完済させ、かっこの契約を解除できる、こういうような約款がございます。
○猪俣委員 そこでこの木下商店からあなたの方に対して融資の申請をするときに、計画書というものが出ておるはずなんだが、その計画と非常に違ったような木下商店の行動があった場合には、一体輸銀としてはどういう処置をとるのか。たとえば今申しましたように、二十五万ドルアメリカへ送っても十万ドルもそのまま使わぬで残っておる。定期預金でと称しておるけれども、木下の私有になっておるわけなんです。それからなおフィリピンに送るべき四十八万五千ドル足らずは送られておらない。なお機械についても百六万五千ドルのところ十五万ドルばかり送られていない。これは二十七万八千ドル、日本の金で一億円からの金ですが、これが一体使用目的に使わぬでそのまま放任しておいても、輸銀としては何の監督あるいは指図もないものなんですか。
○古澤説明員 これは先ほどから御説明があったと思いますが、この鉱山開発につきましては、鉄鉱石の品質が多少前の予定通りの品質をもって出てこない。たとえば塊で出てくるかと思ったところがこれが粉鉱であったりなんかいたしますので、それについて、今せっかく研究中の由でございます。それで私どもの方としましては、その成り行きを見まして、さらにこれの設備をどういうふうに変えたらいいか、所期の目的を達成するにはどういうふうに変えたらいいかというようなことを十分研究の上で、また政府の方からいろいろ指令があると思って、現在これを見ておるわけでございます。百八十万ドル全部貸しておらないわけです。
○猪俣委員 そうすると、百八十万ドル全部出ておらぬというならば、輸銀としては幾ら出ておるのですか。
○古澤説明員 先ほど大蔵大臣から申し上げましたように、私の方は実行額が、約束した金額は五億一千八百四十万円であります。今まで貸したのが四億五千三百六十万円、そのうち返済が九千七百八十万円ございましたので、残高は三億五千五百八十万円、まだ貸し出ししてない分が六千四百八十万円であります。
○猪俣委員 そうすると、これは弁済期はいつになっておるのですか。
○古澤説明員 弁済期は三十六年十二月三十一日でございます。
○猪俣委員 それからなおその約束に従うと、今日まで順当にいけば幾ら返っておらなければいかぬのです。最初の契約によりますと、百二十万トンずつ日本へ送る、一トン送るごとに三十セントずつ弁済する、こういうことになっておる。そうするともう相当回収されておらなければならぬと思う。一体幾ら回収されておるのか。そして実際は契約通りにすると幾ら回収されなければならぬのです。
○古澤説明員 私の銀行の方ばかりではありませんけれども、種々の返済を入れて、当初の予定を申しますと、三十二年の一月から六月までには六千四百八十万円、それから三十二年の七月から十二月までの間に同じく六千四百八十万円、同じ金額で三十四年一―六月まで、各半期ごとに六千四百八十万円ずつ返す予定になっておりました。けれどもその予定の鉄鉱石が出ないものでございますから、三十二年一月ないし六月の入金はゼロでございます。その次の三十二年七月から十二月までの間には二千六百十万円、その次の半期には四千八百九十万円、その次は四千七百二十五万円というふうに入っておりまして、ことしの一月から六月までは、これは予想でございますけれども、五千八十七万円入ることになっております。
○猪俣委員 あなたちょっと事務官に計算させて下さい。最初の約束通りいったら今までに幾ら入らなければならぬのか、実際幾らしか入っていないのか、そこで計算させて下さい。計算したら報告させて下さい。(「分科会でやれ」と呼びその他発言する者あり)わかりましたか。
○古澤説明員 数字がわかりました。合計が一億六千八百四十八万円の償還計画でありましたところ、実績は合計九千七百八十万円でございますから、七千六十八万円というものが遅滞になって延期されておる、こういうことでございます。
○猪俣委員 そうすると約半分だね。これは大蔵大臣にお聞きしますが、こういう目的を指定された輸銀の金が使われずに、そのままアメリカの銀行に預けられておるというようなことは、一体監督上そのままでいいのですか。一体いつまで預けておけばいいのか。そういう金というものは経済価値多大なものである。それを目的のために使わずして、漫然としてアメリカの銀行に預けておくということに対して、一体大蔵大臣はどういう処置をなさるのか。
○酒井政府委員 先ほど申し上げましたように、ララップの開発計画が少しそごをいたしております。おくれております。そんな関係で、今後どう進めるかということについて、若干計画を練り直すという意見もありまして、もしそういう計画ができますれば、必要な機械をさらに発注して送るという意味におきまして、約十万ドルの金をチェース・マンハッタン銀行に預金をいたしておるわけであります。全体をどう扱うかということにつきましては、ララップに許可した百八十万ドル、この計画をどういうふうに認めていくかということにつきまして、関係各省で話をつけまして、もし必要でないものでありますならば、回収を命ずるということになろうかと思います。
○猪俣委員 実はこまかいことをもっと聞きたいのだが、それは分科会でやれというような声もありますから、私は遠慮いたしまして、最後に結論として、かような輸銀の金を貸し付けて、それが回収も非常におもしろくないというような状態ですが、貸し付けるについて、民間ならば、その担保なり支払い方法なりをよく吟味するのですが、一体現地の――今答弁を聞いておりますと、通産大臣も大蔵大臣もみな、現地が最初に考えたようでなかったために値上げを要するようになったし、回収も思うようにならなくなった、こう言うのですが、一体貸し付ける際に、大蔵省なりあるいは輸銀はどういうふうに現地を調査されたのですか、ただ木下の言う口車に乗って貸し出されたのか、それを責任を持って御答弁になっていただきたい。まず輸銀はどういう――事務官はだめだよ。大臣の答弁を願いたい。まず輸銀の総裁に御答弁願いますが、どういうふうな調査をなさったか。あなた、勧銀、興銀あるいはまた中小企業金融公庫、国民金融公庫あたりは実にうるさいのですよ。三万か五万の金を借りるというても、私の知っているおばさんは一ヵ月も通った。それくらい調査をやるのですよ。しかるに百八十万ドルという大金を、一体大蔵省と輸銀はいかなる調査をなさって妥当なりとして貸したのであるか。今答弁を聞けば、どうも思ったよりもお粗未な鉱山だから、値上げもしなければならなかったし、回収も思うようにいかなくなった、そういう弁明だ。そうするとどういう調査をなさったか、両方から責任ある答弁をして下さい。
○古澤説明員 貸し出しの目的が十分達成されないというような場合には、もちろん私の方としては、どういうふうに事業がなっているかということをしょっちゅう見ていなければならぬわけであります。それは三十三年の五月にその状態を視察するために、わが国から委員が出て行って向うを調査しております。その報告も私の方で聞いておりますし、それからまた値上げその他のことにつきましては、海外製鉄原料委員会というのがございまして、これは公けのコミッティでございますが、そういうものと連絡をとりまして、現在どういうふうになっているかということは十分承知しております。それでもし必要ならば、そのつど必要の措置をとろうと思っておりますけれども、現在においては、まだすぐこれを回収するという段階にはきていないと思って、そのままにしておるわけであります。
○猪俣委員 私のお尋ねしているのは、どういう調査をなさって貸し付けたか、どういう調査資料が皆さんの手元にあるのか、それを聞きたいのです。それとも調査したときには、相当有望な鉱山だと思って融資を決定したということになりますか。
○古澤説明員 私の銀行からは別に調査委員というものを出しておりません。現地にもまた調査のために人を出すというようなことはしておりませんでしたけれども、これは政府において十分検討した結果適当なりと、こう認めて許可を得ておりますから、それで出したわけであります。
○猪俣委員 そうですが。そうすると輸銀ではなくて政府が調査して決定したということになりますが、私もそんなところだろうと思った。
○古澤説明員 それは、私の方の貸し出しは銀行自身がきめる問題でございまして、きめる場合に、各種の調査を集めまして、その判断に基いて貸し出しをやったわけでございます。
〔発言する者あり〕
○楢橋委員長 静粛に願います。
○猪俣委員 輸銀は大体興銀その他の銀行に調査を依頼する。ところが興銀その他の銀行も調査しておらぬ。結局政府の調査に基いて、政府並びに輸銀で決定した。最後の決定権は政府でございましょう。それはあなたの言う通りだ。そうすると、政府はいかなる調査をしてこれを決定したのであるか、御答弁願います。
○佐藤国務大臣 この種の外地で仕事をいたします場合に、輸銀が一番先に書類を受けます。しかし、輸銀だけではなかなかきまりかねるものがありますので、通産省や大蔵省で十分この内容を検討するわけであります。そういう場合に、一体リスクがどこにあるか、これが一番大きい問題でございます。そういう意味で今回の木下商店に対する融資の場合におきましても、保証なり担保なりを十分取り、同時にまた機械施設なりあるいは現地の労務等は、それぞれの資料によりまして、必要なる金額を計上いたしたわけでございます。先ほど来申し上げておりますように、この計画自身といたしまして、現地に技師を派遣して、現実にこれを調査するというわけにはなかなか参りません。その点は、融資者としては、この事業のリスクはどこにあるか、そしてだれが負担するのか、これは十分検討して、しかる上で融資を決定いたしたものでございます。
○猪俣委員 そうすると、政府も現地は何も調査しなかったというのですか。
○佐藤国務大臣 現地は調査いたしておらないそうです。
○猪俣委員 そうすると、百八十万ドルの外貨を貸し付けなさるについて、その現地の調査も何もせずに、木下商店の言うままに出した、こう理解してよろしゅうございますね。それならばそう理解いたします。
○佐藤国務大臣 今回ももちろん現地の調査をしておりません。この種の外地において仕事をいたします場合に、一々現地に技師を派遣してどうこうということは困難でございます。これは今回の仕事ばかりではございません。そういう融資する場合に、輸銀自身が非常な負担といいますか、損失をこうむる、そういう危険がありやいなや、そのリスクはどこが受けるか、この点には十分力を入れて、その書類を整えておるわけでございます。同時にまた、所要の金額が幾ら要るかというようなことについては、技術的に十分検討のできることでございますから、そういう意味でこの金額を査定し、先ほど来申しておる百八十万ドルはいわゆる総ワクでございます。総ワクでこの鉱山の開発が可能だ、こういうことを決定いたしておるのであります。そのワク内において、その時々必要なる金額を輸銀は貸している、これが実情でございまして、先ほど来申すように、相当まだワクのうちで貸しておらない金もある。これは先ほど説明いたした通りであります。
○猪俣委員 とにかく、そうすると、外地の貸付は、全然政府としては調査しておらぬということで貸し付けたというふうにわれわれは承わっておきます。
そこで、時間がありませんからなお先に進みますが、PIMと、それから木下商店と、日本の三つの大手製鉄会社との国際協定は、独占禁止法の三条あるいは六条に違反していると思うのでありますが、これは公正取引委員長がおいでになったら御答弁願います。
○長沼政府委員 お答えいたします。独禁法の六条によりまして、事業者が国際協定ないしは協約を結びます場合には、公取委員会に届出をするということにっております。この届出は、三十年の三月現在におきまして届出を受理いたしまして、委員会を開催いたしましていろいろと検討いたしましたが、独禁法違反のおそれなし、こういう判決になっております。その理由は、木下商店一店に鉄鋼三社が代理契約を結ぶということになっておりますが、これは木下商店以外には契約をしないという排除条件はないのであります。従って、たまたま木下商店が一店契約をしたというだけの結果になっておりまして、他の商店との契約を排除するということはございません。それが第一点。第二点は鉄鉱の全体の取引分野において、独占的な状態に相なるかどうかという問題でございますが、三十二年度現在におきまする鉄鉱輸入量は七百八十万トン、国内生産百万トン、このうちフィリピンから輸入いたしますものが年間百二十万トンでありまして、一割強の比率を示しておるにすぎないのであります。従いまして、一定の取引分野における諸競争を実質的に制限するという条項には該当いたさない、かような結論に到達いたしております。
○猪俣委員 その説明については、私は非常に疑義があるのです。そこできょう詳細にやろうと思ったところ、時間がありませんから――これはさような解釈は間違っていると思う。これはとにかく製鉄三社とPIMと木下商店とが、三者の国際協定を結んで、一切の日本の鉄鉱石の輸入の大元はこの三社であります。これは通産大臣が説明したように、溶鉱炉を持っている会社でなければ鉄鉱をなかなかそう買い込むことはできないから、日本の鉄鉱石の処理は、この三社が大部分やっておる。この三社がことごとく事業合同をやって、そうして木下商店という商店一軒に、これは運送業をまかしてしまって、木下商店はフィリピンのPIMのみと取引をやる。この一連のやり方というものは独占禁止法違反だと思う。あなたの言うように取引分野、これは東京高等裁判所の判例もたくさん出ています。取引分野とは何ぞや。東宝映画会社の事件においても出ているではありませんか。丸の内あるいは有楽町一円だけに取引分野というものがある。東京都全体ではないのです。フィリピンの鉄鉱石、それを日本の大手の三社に輸入する輸入業は全部木下一本だ。これからいろいろの弊害が起っているのです。こういうことをやるから、さっき言ったように四十八万何ドルの金をPIMにやって、それをやみで動かして倍ももうけて、山分けするなんということも起る。これは独占の弊害なんだ。そうして通産大臣は高くないと言うが、高いのです。もしどうしても高くないというならば、徹底的に私は論証します。私は相当専門家に聞いて歩いた。非常に高い。そういう値段でもって売買しておる。のみならず、このPIMの会社の会計報告を見ると、年間三億円に相当する金が木下商店に支払われているではありませんか。高く売りつけておいて、そうして裏へ回ってそういう金が支払われておる。こういう事情があるのです。これはみんな独占禁止法を正面に諸君が理解して――独占禁止法の目的というものを理解しないで判決するからそうなるのです。目的に何と言っておりますか。一般消費者の利益、国民経済の伸張を阻害するものを排除するのが独占禁止法の目的ではありませんか。しかるに高い鉄鉱石を買ってくれば、製鉄鉄材が高くなる。鉄材が高くなれば、その鉄材を材料として作る鉄製品はみんな高くなります。一般消費者にみんな高いものを売ることになる。貿易も阻害します。一般消費者並びに国民経済を阻害することを排除するのが独占禁止法のねらいであるとするならば、まさに独占禁止法に違反しています。しかしこの点についてあなたがそういう答弁をやるならば私は独占禁止法の四十五条に従いまして審査請求いたします。それに対してわれわれに意に満たぬ審決をするならば、東京高等裁判所に提訴いたしまして、どこまでもこれは争います。だからここではそれだけにしておきますが、もしこの提訴がわれわれの勝利になったら一体政府はどうするのか。こういう問題があります。今あなたと議論をやれば、法律のしろうとの人はいやになってくるだろうから、これはやめます。そんな公正取引委員長の答弁はだめだ。だから独占禁止法を近ごろみんな財閥と公正取引委員会でもって骨抜きにしているというのが定評なんだが、ここにもそれが現われております。
そこで、今度は法務大臣にお尋ねします。今通産大臣はあんなことを言っていますけれども、このフィリピンの鉄鉱石は非常に高いものだと思うのです。こういう高いことを一体鉄鋼三社の社長ともあろう者が知らぬ道理がないわけです。ほかの国際価格と照合してわかるはずです。しかるにそういう高いものを買うことを黙認して輸入して、しかも木下商店が三億円ももらっておるその配分にあずかったかどうかはわかりませんけれども、その国際協定をやった富士製鉄の永野さん、八幡製鉄の渡辺さん、それから日本鋼管の河田さんというものは、商法にいう特別背任罪をやっているのじゃないか。こんな高いものを買って、わが国の一般の消費者の鉄製品を高くしてしまう。消費者に対しては刑法の背任罪はすぐ構成しないかもしれませんが、少くとも彼らが代表している会社に対しては、高いものを買うのだからそれは任務にそむいたことになります。会社の代表者は善良なる管理者の注意をもってこれを運営しなければならぬのが商法の規定なんだ。しかるに高いと知りながらそれ買い取り、しかも木下商店が三億円なんていうのをとっておったのは知らぬといたしましても、はなはだ不純なものがあるとわれわれは思う。この鉄鋼三社の社長たちがこういう独占的な契約を結んだことは、商法の特別背任罪を構成すると思うが、あなたはどう思いますか。
○愛知国務大臣 非常に断定的なお話でありますが、これは猪俣委員の一方的なお話、御意見であると思います。私は特別背任罪その他の疑いというようなものは全然ないと断言申し上げます。
○猪俣委員 私があなたに意見を求めていることは、今直ちに有罪であるか無罪であるかというのじゃない。検察当局としては捜査すべきものじゃないかと言うのです。ことに木下商店の行動には疑惑が多い。ことに向うの会計報告で相当の金額を贈っているような会計報告をなされていて、これは御存じのようにフィリピンの国会でも今問題になっている。来月の十四日ごろになりますれば、一切の真相がわかってくると思います。今向うに調査に行っています。向うで大きな問題になっているじゃないですか。これはあなたが勝手にそんなことは絶対にないなんてここで答弁できる事情じゃないのです。検事が起訴するか不起訴にするかというどたんばにならなければ、ほんとうの見通しはつかぬことは当然です。私があなたに言うのは、これは捜査の段階に入るべきものじゃないか、商法四百八十六条の疑いがあるのじゃないか。こういう高価な鉄鉱石を情を知りながら買い込んでいる、そうして何かリベートがとられておる、こういうようなことが行われておるとするなら、少くとも捜査の段階に入ってしかるべきしゃないか。捜査した結果なければけっこうなことなのです。疑いがあると私は思うのです。あなたは断じて疑いない、こういう答弁なのです。そんなことはあなた言える義理じゃないでしょう。法律のくろうとでもないあなたが、そんなことを言えた義理じゃない。しかしあなたにこれ以上の断定的な答弁をせいといったって無理だろうから、私はやめます。やめますがそういう疑いがあるのだから検察当局と少し相談しなさい。独禁法の精神に違反してこういう高いものを輸入して、そうして妙なリベートをとっておるような木下と共同してやったとすれば、これは非常に疑いがある。こういうことを調べないから綱紀の粛正ができないのですよ。
そうあなたが言うなら、なお一つお尋ねします。去る三月一日施行された宮城県の知事の選挙に岸信介氏は応援のため、二月十五日に仙台に着いて、そうして宮城県の角田市天神町というところで街頭演説をやられた。そのときにその街頭では標旗も立てておらなければ、マイクを使ったけれどもマイクの表示もついておらぬ。そういうところで国鉄丸森線、角田永久橋、こういうものの改良整備あるいは内川、尾袋川の土地の改良、その他重要問題について、この三浦候補に入れてくれるならば、必ず諸君の期待に沿うようこれを完成するという演説をやっておる。これはたくさんの聴衆、警察官、新聞記者、たくさんに証人があります。この行為が公職選挙法の何条と何条に当るか、あなた説明してごらんなさい。これでも嫌疑は全然ないのですか。これは私どもは告発するのです。あなたこれでいいかどうか説明して下さい。あなたもこのとき一緒についていかれたはずです。
○愛知国務大臣 お答えいたします。私はそのときにお供はいたしておりません。それからそういう事実につきまして、ただいまそういうことがあると断定しておられますけれども、告発でもなさる場合におきましては十分調べますけれども、ただいま私としてはそれについては全然承知しておりません。
○猪俣委員 私が言った標旗や拡声機使用の表示がないということをもって自民党の諸君は笑っていますが、諸君に言うが、公職選挙法に違反すれば一年以下の禁固、罰金になるのですよ。君らはしょっちゅうそういうことをやっていないで、公職選挙法なんてあれどもなきがごとくやっているから笑うのですよ。これは、公職選挙法二百四十四条第一号、二百四十三条の第二号、それから利益誘導等は二百二十一条の第一項二号で三年以下の懲役じゃないですか。こういう条文にみなこの行為は違反しています。その行為はりっぱな証拠がたくさんある。そこで、こういうことについてあなたも研究しておいた方がいいと思うのだ。みんなそんなことはない、そんなことはないと言うが、研究しておいた方がいいと思う。
その次に移ります。
今度は岸総理大臣にお尋ねしたいと思うのです。だいぶ休まれたと思いますから、そろそろ御登場願いまして……。岸さんの御答弁を聞いておりますと、まことに有能な宰相だと思います。一国の総理大臣たる資格のある者はなかなかたくさんないのでありますから、私はりっぱな総理大臣は貴重な存在だと思うのであります。あなたもまことに有能なりっぱな総理大臣だと思いますが、どうも一つ欠けているところがある。それは誠実さということです。あなたの答弁を聞いても、行動を見ても、誠実ということに欠けておる。汚職を追放するということも口先だけで、それを真に身をもって追放しようとする気魂がないのです。(「ある、ある」と呼ぶ者あり)あると思うのは諸君だけでね。国民一般の世論を見てごらんなさい。実に惜しみてす余りある。あなたは私よりも三つばかり若い。僕の方が年からいえば兄なんだ。まだ十年、二十年、政治生命があると思うのです。私などはあなたよりも年は上だけれども、貧乏な陣笠代議士にすぎないのでありますが、あなたはともかく一国の総理だ。日本の国家総理だ日本の国家としても実に大事な人だと思うのです。なぜもう少し誠実さがないのだろうか、言行一致しないのだろうか。実に惜いと思うのだ。その頭を持って言行一致したら、たぐいまれなる総理大臣ができる。ところがその頭のいいことが欠点になって、何でもそつのないごまかしでその日その日を送っているように見える。一定の信念もない。日本の国をどういう方向に持っていこうかという確固たる気魄が見えません。三悪追放ということを言いますが、汚職や貧乏や暴力をあなたが総理のときに全部根絶するなどというてとはできないことはわかっています。私どもそれを全部あなたの責任なんて言いやしません。そんなことは容易にできるものじゃありません。ただその気魄を示してもらいたい。もし汚職追放ということを言われるなら、その気魄を示してもらいたい。
現在一体どういう状況ですか。中央、地方を通じまして、毎日々々汚職、涜職で、官界、政界の腐敗堕落というものは、実に目をおおうものがあるじゃありませんか。一体あなたのひざ元の山口市長は何ですか。数億円の公金をごまかして、詐欺、横領、公文書偽造罪で留置場に入れられて、留置場の中から市会に解散命令を出しておる。道義も地に落ちたというか、話にならない。(「関係のないことを言うな」と呼ぶ者あり)まあ聞いていてごらんなさい。関係があるんだ。なおまた先般の世田谷区会の問題がある。小学校の卒業式に、起訴されている人物が区会の代表として生徒にあいさつした。お前たちは世の誘惑におぼれないで、まっすぐな道を歩んでやれという演説をやった。何という厚顔無恥でありますか。一体こういう現象というものはどうなりますか。私は、その根源は、あなたが身を挺して、汚職追放ということにほんとうにあなたの魂からの叫びが出ないからだと思う。口先では言うておるが、実行を伴わない。熱海の別荘もそうです。あなたは、これはタイムリーを欠いたミスのような考えになっておるかもしれませんが、そうじゃないのです。あなたに汚職を追放するという気魄がほんとうにないからこういうことをやらかす。それがためにとうとうとして――世の中の状態を見てごらんなさい。私は非常に遺憾だと思う。
そこで、この熱海の別荘ですが、ここまで世間に騒がれましたら、私は、あなたがすべての財産を公開して世の疑いを明らかにすることが、あなたのそれこそ気魄を示すゆえんだと思う。ほんとうにあなたに汚職追放の決意があるならば、少くともあなたの身辺だけでも清潔にしなければならぬ。別荘を持ったこと自体が悪いというのではないにしても、そこに疑いがかけられたら、これこれこういう理由でこうであった、あなたは世の中に問うべきであります。アメリカのニクソンみたいに、全部に自分の財産を公開して、そうして自分の女房に外套を買うこともできないといってこぼしたために、かつ然として彼に対する疑いが晴れて、彼は副大統領になっておる。私はあなたを大成させたいがために言うのです。この熱海の別荘は、土地及び家屋を一体何ぼの金を出されてお買いになって、その金は、あなたはどこから入手されたか、あなたは年額二百万の月給取りのはずなんです。どこから出されたか明らかにしていただきたい。
○岸国務大臣 私は猪俣委員から首相たる者の心がまえについていろいろお話がありましたことは、つつしんで傾聴をいたしておったのであります。最後に私に御質問のことは、全然私の私事に関する問題でございますので、この席で答弁することは差し控えたいと思います。
○猪俣委員 それはあなたが答弁しないならよろしゅうございます。そのかわりどんなに世間で憶測をしようがあなたはあまり干渉しない方がよろしい。僕はそれをおそれてあなたに明白にした方がいいと言うのです。あなたのことだから、そんなインチキな金でお買いになったのではないと思う。だから明らかにした方がいいと思うのだが、なさらなければ仕方がない。
それから、なおこれはあなたの指図であるかどうか知りませんが、小さいことでありますけれども、昭和三十三年までのあなたの南平台の総理大臣の公邸、あれは総理大臣公邸借料という名義で二百万かの予算が出ておるのであります。ところが今年度の予算には、どういうわけだか土地建物賃借料というような名前に変っておる。これはどういうわけなんです。今までずっと総理大臣公邸借料という予算の名義になっておったのが、名義が変ってきているのです。一体どういうことで予算の名義を変えたのであるか、御説明を願いたい。どういうわけで名義をわざわざお変えになったのですか。
それからいま一つ、あなたの熱海の別荘につきまして、熱海の法務局の登記簿を調べた人があります。そうすると、三十一年の何月かにあなたは土地の登記をなさっておるそうであるが、どういうものですか、その年度に登記をした他のいろいろな人と、あなたのカードだけ規格が全然違うというのです。真新しいもので、そうしてほかの人のよりはちょっと小さいカード、全然別なカードが一枚あなたの登記に使われておる。これは一体どうしたのか。
○岸国務大臣 私は全然承知いたしておりませんので……。
○猪俣委員 とにかく、かようなことがいろいろ一つの疑惑になるのだが、あなたは知らなかったら知らなかったで、お調べになったらいい。それを調べた人があるのだから。あなたの登記簿のカードだけ違っている。どういうわけであるかと調べた人が言うておる。それから今言ったような総理大臣官邸借料という名前が今度は変ってくる。何かそこにあなたのそつのない処置がまたやられているのじゃないかという心配をする者がある。それでお尋ねしておるのです。
〔「国会法を見ろ」「私事について質問していいのか」と呼ぶ者あり〕
○岸国務大臣 全然私が関知しておらないことでございます。
○石原政府委員 総理の公邸の借料でございますが、百八十五万九千円、内閣の所管におきまして土地建物借料として計上してございます。これは前年度の額と同額でございまして、総理公邸の借料という名前でございましたけれども、科目の名前を統一をいたしますることをいたしておりますので、土地建物借料という第九日の共通科目の名前にいたしております。内容は、金額も同様であります。
○猪俣委員 金額が同様であることはわかっているが、科目の変ったことだけをお尋ねしている。総理大臣公邸という名前を変えたからそれを言っているわけです。
次に、今私行にわたることについては質問するなという言がありました。私は論語の身をおさめ、家をととのえ、国を治め、天下を平らぐ、治国平天下というのは今でも原理だと思う。政治家はやはり自分の私生活を清潔にしなければ、国民の信を得ることができませんから、あなたの私生活についてもあなたの弁解を天下の人に聞かせたかった。それをあなたはなさらぬとするならば、これは国民があなたに対してかえって誤解をするのです。その意味で私は言っているわけだ。そこでとにかく一身上の清潔、身をおさめ、家をととのえ、そして国を治め、天下平らかなりじゃありませんか。治国平天下というのは昔も今も真理だ。だから政治というものを清潔にしたければ、やはり身をおさめ、家をととのえることから考えなければならぬ、その意味で質問しているのです。自民党の諸君は身をおさめ、家をととのえることはあまりやらぬ人が多いものだから、そんなことは……。
〔「失敬なことを言うな」「取り消せ」と呼びその他発言する者多し〕
○楢橋委員長 お静かに願います。お静かに願います。
〔「懲罰々々」〔何が懲罰だ、質問者に手をかけていいのか」と呼び、その他発言する者多し〕
○楢橋委員長 猪俣君、国会法の第百十九条があるから、他人の……。
○猪俣委員 しからばその次に移ります。公務員の汚職、政界の腐敗、これを根絶する対策は一体どうであるか、これにつきまして私は法務大臣に公務員の汚職問題の統計を要求しておりましたが、それを発表願いたい。
○愛知国務大臣 汚職の追放ということにつきましては、申すまでもございませんが、年来非常な努力をいたしておるわけであります。これの対策といたしましては総合的な対策が必要でございますが、私の方の関係から申しますと、悪質な汚職の検挙等につきましては厳粛な態度で望んでおるわけでございますが、その件数等の詳細な資料は必要があれば政府委員からお答えいたしますが、ただ申し上げたいと思いますのは、一般の刑法犯等に比較いたしまして起訴率が五割以上になっておるという点は、汚職の追究につきまして非常に厳重な態度でやっておるということが、実績上も明らかになっておるわけでございまして、今後におきましてもこれについては大いに努力を続けて参りたいと思っております。
○猪俣委員 その統計はあとで聞きますが、私はこの公務員の汚職、政界の腐敗、これを根絶する対策、これに対する総理大臣の御意見を承わりたいと思います。
○岸国務大臣 これは私は各方面からあらゆる施策を総合的にやっていかなければならぬと思います。言うまでもなく、先ほどからいろいろなお話にもありましたように、国民全体の道義を高揚するということが根本にならなければならぬことは言うを待たないのでありますが、そのために特に政界、官界の綱紀の粛正の問題について考えてみまして、特に先ほど来お話もありましたが、官界の汚職等に対しても、もちろん公務員のそういうものをなくさなければなりませんが、その前に必要なことは政治をきれいにし政治についてのいろいろな疑惑を持たれるような事実をなくし、また政治をいかにしてきれいにするかということにつきましては、私はやはり民主政治のあり方として、選挙の粛正から始めていかなければならぬ。金のかからない政治、粛正された公明選挙というものを確立することを考えていかなければならぬと思います。また政治の衝に当るところの総理大臣はもちろんのこと、その他の者につきましてもあらゆる面において、十分にそういう点について国民が信頼し、疑惑を持たれないように政治を行なっていくという心がまえが絶対に必要である。しかしながら不幸にしてそういう汚職の事実があるとかあるいは疑いがあるとかいうような場合におきましては、私は公正なる検察当局の活動によりまして、そういうものの非違はこれをおおうことなく明らかにして、将来を戒めるという態度において厳正に行なっていくべきである、かように思います。
官界の振粛の問題につきましては、私は戦後のいろいろな制度を見まして、やはり行政事務を施行していく上におきまして、責任が明確でないというところに、いろいろな弊害も生じておる点が少くないと思います。この意味において行政機構というものを簡素にして責任を明確にして、能率を上げるような点もぜひ実行したいと思って、いろいろと研究いたしておるようなことであります。これはあらゆる面からの協力を必要とするものでありまして、従っていろいろこういう点についても疑惑があるとするならば、これに対する世論のきびしい批判も必要でありましょう。また検察当局の公正なる活動も必要でありましょう。また要は、要するに国民道義の精神を高揚することに努めていかなければならぬ、かように考えております。
○猪俣委員 あなたは先ほど言ったように答弁はなかなか上手なんですが、それを実行なさるかどうか。官庁の汚職というものを根絶する根本の方策は、結局官庁それ自体の内容を国民に公開する、これが僕は最も必要じゃないかと思う。結局汚職涜職、あらゆるものの根本的な対策は国民の協力がなければできません。いかにこれは政府が号令をかけてもできないのです。そこで国民の協力を求むる前に、官庁の状態というものを国民に明らかにする。そこで私は山口大臣に登場を願わなければならぬのですが、山口大臣は純然たる政党人の大臣でありますから、官庁のメカニズムに対してあなたがどういう所感を持たれるか知らぬが、あなたのやっておられるところの行政管理庁の調査主任官の高田茂登男という人物が、「不正者の天国」という本と「仮面の公僕」という本を二冊書いて、詳細なる調査の資料に基いてこれを国民に訴えている。私は、こういう本によって初めて官庁はどういうことをしているかが国民にわかってくると思って、官庁の執務の内容、官吏のあり方というものを国民に知らしめる功績大なりと考えておる。しかるに、この高田君は、こういう本を書いたということで、国家公務員法百条に基いて罷免されておる。ところが、「不正者の天国」に書いてあることに対しまして、行政管理庁がいろいろなことを言うたために、なお彼は詳細に資料を集めて、今度は「仮面の公僕」というものを出した。これに書いてあることは驚くべきことなんです。実はあなたに読んでもらおうと思って、きのうあなたの秘書官に、この本のうちから質問するからと言っておいた。どこと言わなかったのはあなたに全部読んでもらおうと思ったからで、お読みになったことと思う。私は試験勉強をあなたにさせたわけです。このうちから出すぞということを秘書官に言うておきましたから、読んで下さったと思う。そうしないとなかなか読んで下さらない。そこでここに書いてあることに対してあなたはどう考えてこれをどうすべきと考えるか。
なお、時間がありませんから質問を全部言いますが、行政管理庁というものは、これに書いてありますが、ただ何かを調べてそのままにしておく。私はそこに汚職があり不正があったら、検察庁に連絡するなりそれぞれの処置をとるべきものであると思うが、驚くべき不正をやっているにかかわらず不問に付されておる。そうしてそれを明らかにした者は首になっておる。こういうことでは、官庁の汚職というものはいつまでたっても根絶しません。みんなお互いが攻守同盟を結んで口をつぐんで言わないようにしている。それをあばくやつは、今度は上の者が首を切る。これでは官庁の汚職は根絶できないと思う。私は、この汚職の根絶は、ガラス張りの中で官庁の執務をすること、公務員の働きをガラス張りとすることだと考える。この本を読まれて行政管理庁はどういうふうにしていけばよいとあなたはお考えになったか、それをお漏らし下さい。
○山口国務大臣 昨夜来一応通覧いたしました。行政監察の基本方針といたしましては、国民一般の福祉に即した公正な立場において、行政運営の改善をはかるということであります。従いまして、綱紀の粛正についても個々の不正、不当の摘発にあまり偏しないように、制度の根源に十分さかのぼってその運営全般の改善を目途として、責任体制の確立と服務規律の保持をはかることを主眼として、もっぱら予防的な段階において行政効果の確保を期する、こういうことであります。また行政管理庁には捜査権とかいうものも与えられておりませんので、そういった面がある場合においては、検察当局とすみやかに連絡をとるようなことにいたしております。
ただいま御指摘の高田事務官につきましては、本人は昭和三十二年十一月一日に「不正者の天国」と題する単行本を刊行しております。これに先だって、その内容の一部を雑誌に発表してもおります。これらの記事の資料は主として監察結果報告書、監察情報等の公文書であって、これらは当庁監察職員の服務規程の第十条によって、その秘密文書となっておるものを上司の許可なくして発表した、こういうことになっております。部外に発表できない資料を発表した。本人は上司に無断で、しかも出版前に上司の中止勧告や警告を受けたにもかかわらず、あえて刊行したということは、明らかに職務上の義務違反行為であって、公務員法第九十八条及び第百条に抵触するものとしてやめていただいたわけであります。
○猪俣委員 時間がないから、私はその点について、きょうあなたと徹底的に論争しようと思ってきのう秘書官に言っておいたんだが、非常に間違った解釈をしておりますが、これはやめておきます。今度法務委員会に出てもらって、一つやります。
そこでなお、私は、官庁がすべて事を明らかにして、そして国民の協力を求めるという意味で言うのですが、国税庁の長官は、去る三月十五日、新聞記者を集めて、五月にいつも発表する個人の所得の縦覧は今度はやらぬことにした、こういう発表をされたそうであります。どういうわけで今回に限ってそういうことをなさったのか、その趣旨を説明していただきたい。
○北島政府委員 お答え申し上げます。国税庁では、十年くらい前から毎年確定申告書の提出が終りますと、それを取りまとめまして、芸能者及び作家の方々、それから日本全国のベスト・テンというようなことを新聞社の要請によりまして実は公表いたして参りました。これは事実でございます。私は一昨年十一月に現在の地位に就任したものでございますが、従来のこの扱いにつきまして、私自身実は相当な疑問を持っておりました。就任いたしまして、いろいろ根拠を調べてみますと、実は根拠が所得税法の公示規定にあるのでございます。所得税法によりますれば、昭和二十五年に公示規定が置かれたのでございますが、現在の規定は、確定申告または修正確定申告の総所得金額、退職所得金額、山林所得金額の合計額が二百万円をこえる方の住所、氏名等を毎年五月一日から五月十五日までの間、税務署の掲示板その他見やすい場所に公示しなければならぬ、こういう規定がございます。私もなるほどこの規定に基いて、いわば事前に五月にならないうちに公表することも国税庁としては報道機関に協力する意味から、しておったのだ、こういう感じがいたしたのでございますが、就任以来いろいろ公表された方々の苦情、不平も承わって参りましたし、最近では新聞社の論説あたりでもそういうことにつきまして相当疑問を持たれる向きもあるのでございます。私自身かねがね疑問に思っていたことでもございますし、また部内におきましても、各局の直税部長等の意見を徴しましても、やはりそれはやめてほしい、こういうことでございましたので、今まで毎年三月末あるいは四月あたりに公表いたしておりました芸能者、作家等の所得金額につきまして、これを公表することは取りやめることが適当である、こういうふうに判断したからでございます。
○猪俣委員 非常にタイミングが悪いですね。ことしになってから、私はあなたに岸総理大臣の所得税、それから木下商店の所得税を知らしてくれという質問をやっておったのですが、そういう趣旨だと、それが知らせないということになってしまうわけです。非常にどうも諸君には便利にできておるけれども、われわれはほんとうの真相というものを知ることができないことになります。そうすると、木下商店の所得も発表できませんか。
○北島政府委員 法人につきましても実は公示規定がございます。国税庁におきまして、毎シーズン申告が終りますと、法人税法の公示規定に基きまして、公示して差しつかえないものにつきまして、特に新聞社の要請によりまして、景気の動向を見るという意味からも、大会社の所得を発表して参りました。しかし、特定の会社につきまして――これはやはり個人とは多少感じが違うと思うのであります。たとえば会社につきましては、考課状は商法上公表することになっておりますし、税務の申告も、その公表された決算に基いて申告さるべきものでございますので、これは多少筋は違うと思うのでございますが、やはりこういうふうな問題になりました場合におきまして、国税庁といたしましては実は政治に巻き込まれたくないのでございます。個人と多少趣きは異にいたしますけれども、やはりこういう問題につきましては、委員会として大所高所から御検討いただきまして、それで出せということでございますれば、私どももその仰せに従ってお出しするにやぶさかではございません。
○猪俣委員 今総理が言われたように、とにかく責任関係を明らかにして、犯すものがあれば厳重に取り締る。こういう方針はもちろんやらなければならぬと思いますが、私は先ほど申しましたように、国民にすべて明らかにする、そういうことが何より大事だと思う。ところがどうも、法律に規定があるにかかわらず、これをやらぬことがある。たとえば証券取引法の第二十五条には、五千万円以上の会社のものは、みんなその経理の報告書を大蔵省へ届け出て、一般の公衆に縦覧せしめなければならぬという規定があるのです。ところがこれをやっておらぬというのはどういうわけですか。
○正示政府委員 お答え申し上げます。私どもの方では縦覧に供しておるはずでございますが、具体的にそういうことがもしなかったような事実がございますれば、御指摘いただきたいと思います。
○猪俣委員 供しておらないんだ。木下商店の報告書を見たいと思って新聞社の諸君がみな大蔵省へ行っても、そんなものはないといって、だれも見られないんですよ。僕は違っておると思う。
○正示政府委員 私質問の御趣旨は、証券会社についての御質問ではございませんか。
○猪俣委員 この証券取引法の第二十五条にあるでしょうが、あなた方わからぬはずはないでしょう。ここに、五千万円以上の会社について、証券会社だろうが何だろうが届け出するということが書いてあるではないか。(「証券会社だよ」と呼ぶ者あり)証券会社だろうが何だろうが、僕の質問は、証券取引法第二十五条に基くこの報告書の提出及び公示ということをやっていないかということなんだ。二十五条という条文をちゃんと指定しているではありませんか。
それではついでにもう一つ。私どもは本日、オリンピック後援会の佐藤昇なる者を告発しました。一体こういうことをわれわれが告発するまで法務大臣が知らぬ顔しているというのはおかしいと思う。小学校の児童から募金したようなこの金を、千数百万円もうやむやにしてしもうた。しかもその事務局長の佐藤昇というのは、有名な五井産業事件の佐藤昇に違いない。これは当時大問題を起した人物だ。この人物を後援会の事務局長にして、そうして一般国民から集めた浄財を千何百円もわけがわからぬことをしておる。これは当時新聞に大々的に報道せられているはずであるが、これに対して一体検察庁は何をしておるんだ。答弁をしていただきたい。
○愛知国務大臣 オリンピック後援会の問題につきましては、私も新聞紙上等で承知いたしております。そもそも検察当局といたしましては、前々にも申し上げましたように、単なる報道等だけでかりそめに動くということは、かえって検察当局の威信にもかかわることであります。しかし、同時に、さような情報等がございます場合には、これによって内偵の端緒とするようなことは、これまた当然でございます。そういう意味合いにおきまして十分注視いたしておったわけでございますが、同時に検察の立場としては、犯罪を構成する事実があるかどうか、また、その事実に対して証拠が十分に固め得るかどうかというようなことについては、人権尊重という建前もございますから、非常に慎重な態度でいかなければならぬわけでございます。さような意味におきましては、この問題につきましても十分注視を怠っていなかったわけでございます。ただいま告発云々のお話がございましたが、これらについてははっきりと明確にいたすべきものと考えられるわけでございますが、同時に、申すまでもございませんが、検察庁法の建前は、法務大臣としてもこれは絶対に順守して参りたいと思うのであります。従って、個々のさような案件につきましては、私どもの信頼する検察庁の動き方ということにあくまでも信頼と期待を持っておるわけでございますが、ただいままでのところ、個々のさような事件について、捜査の結果どうこうというような報告はまだ全然受けておりません。
○猪俣委員 大体法務大臣の指揮権なんていうものは、犬養さんの指揮権発動みたいな間違った方向に行われた。こういう不正を防ぐように、それこそ検事総長と十分相談をして、やらなければならない。政界の粛正のために法務大臣は動かなければならぬ。一体、このオリンピック後援会の清算人である櫻田武氏、この人はこう言っているではありませんか。このような状態では、警察の手にゆだねるよりほか方法がない。同じ清算人の神奈川県の保健体育課長の保坂周助氏も、これ以上は清算人の権限ではどうしようもない、司法権の介入は望ましくないが、やむを得ない。これまでに清算人が言っている。しかるに、検察庁が指をくわえているのはどういうわけですか。これはあなた、法務大臣として、検察内部の人とちゃんと相談してやらなければならぬ。こういうことをほうっておくから、悪いやつはいつまでたってもつかまらないし、また粛正ができない。私は、国民に全部事を知らしめること、国民と協力して汚職をなくすること、及び汚職した者に対しては仮借なく取調べをする。ただ有罪、無罪は判決がきめるでしょうし、起訴、不起訴は検事がきめるでしょうけれども、それまでの捜査活動は活発にやるべきだ。選挙違反についても、汚職問題についても、捜査活動は活発にやるべきだ。しかし、その捜査活動が、どうもこういう問題になると鈍っておって、何か労働運動なんということになると、さっと出てくるような傾向がある。そんなことよりも、汚職、涜職の方がよほど日本のからだのほんとうの心髄に食い込んでいく重大問題ですから、これに対しまして、総理大臣並びに法務大臣は厳重なる監督をやっていただきたい。私が今いろいろ言うたことに対しまして、法務大臣はてんで鼻にもかけないような答弁をやっておられるけれども、怠慢ですよ、日本オリンピック後援会の乱脈なんということについては。これはほうっておく道理はないです。あなたがそれに対して責任ある答弁をしないならば、いつもこの委員会に検事総長に出てきてもらわなければならぬ。そんなことはないと思う。そうすれば、悪いことをする者はしほうだいになりますね。
私は、質問したいことは多々ありましたが、やめますが、最後に、岸総理大臣、あなたはこれだけの疑惑を世間に受けています。それはつまらぬ雑誌と言われるかもしれませんが、ある週刊雑誌で、今政治家の人気投票をやっているが、人気のトップはわが党の淺沼稻次郎氏で、不人気のトップはあなたなんだ。こういう方が総理大臣になっておっては、私どもは困ると思う。それで、何よりも今要望されることは清潔な政治なんですよ。それに対して、あなたは不適任ではないかと思う。自民党の中にも相当清潔な政治家がいるようであります。私はあなたにこの際、今これだけ国民の疑惑を受けて、しかもあなたはほかの欧米の政治家のようにその財産の公開もせず、その弁解もしない、国民の疑惑のままになっておる。私は、あなたが私人であれば、あなたの財産の私事にわたりません。総理大臣という最高の栄職にある方であるから、私生活の質問にもなるのです。それを私生活だから、私生活だからと言う方が間違っておる。まず私生活を清めなければならぬのですが、今日になっても、その私生活を明らかにして国民の前に判断を与えるだけのことをあなたはなさらない。衆議院でも、参議院でも、あなたの財産の公開を迫っているにもかかわらず、今日まであなたはなさらない。こういうことでは、国民の信頼というものが内閣総理大臣から離れてしまう。そういう信頼を離れている内閣総理大臣がいつまでも政権をとっておられるということは、私は困ると思う。その意味において、保守党の中にも清潔な政治家がいると思います。松村謙三さんみたいに、禅僧みたいな生活をやっておる人もいるのですから、あなたはそれに席を譲られてもいいと思う。あなたの所信を承わりたい。
○岸国務大臣 もちろん政治の衝に当る者につきましては、私生活といえども十分に注意すべきことは、私は当然であると思います。しかし、私自身が私生活が非常に汚れているような御意見でありますが、私はそういうことは絶対に考えておりませんし、また疑惑を伝えられたことに対しては、明瞭にその事実を否定いたしております。以上を申し上げて、単なる私事にわたるところのものは、こういう席において論議することは適当でない、こう申し上げておく次第であります。
○楢橋委員長 これにして質疑は終局いたしました。
この際、政府側に申し上げます。本日まで、各委員より委員長を通じて政府に資料の要求をいたしたもので、持に加藤勘十委員より要求がありました賠償の国別、扱い商社、物資の名前、その数量、金額、年月日等については、至急政府において調査の上、提出されんことを望みます。
これより討論に入ります。小平忠君。
○小平(忠)委員 私は、日本社会党を代表いたしまして、政府提出の昭和三十四年度予算補正(第1号)に反対の趣旨を明らかにいたします。
本案の内容は、国際通貨基金及び国際復興開発銀行への出資増額に伴い必要となる払い込みといたして、歳出補正で二百五十億七千三百九十七万九千円を計上し、これの財源として、日本銀行所有の金地金の帳簿価格改定によって生ずる再評価差額を、日銀行納付金の補正として計上しているものであります。
大体本案は、明年度当初予算案が衆議院に提出されて、これから審議に入るという二日目に追い打ち式に本院に提出されたのでありまして、衆議院としては全く前例のない奇怪しごくな案件であります。従って社会、自民両党の国会対策委員長会議の結論として、予算委員会付託をとりやめたいといういわくつきの案件なのであります。すなわち、本案を補正予算案として提出することはつきましては、手続上果して財政法に適法なりやいなやにつきましては、政府も自民党も全く確信がないのでありまして、確信がないままに自民党多数の力をもってついに上程されたのが本案なのであります。
われわれが本案に反対する第一の理由は、本案の提出が明らかに財政法に違反しているからであります。今回の補正歳出の案件は、財政法第二十九条に規定するように「予算作成後に生じた事由に基き必要避けることのできない経費」ではありません。すでに昨年十二月十九日には、出資を増額すべきことが加盟国理事会において決定していたのでありまして、すでに予算作成前に予見されていた案件なのであります。従って政府は、財政法第十七条によって歳出案件の見積書を作成し、第十八条においてこれを予算の概算に編入し、当初予算案として提出すべき案件なのであります。われわれは、手続上も本案は財政法違反として絶対承認できないのであります。
われわれが本案に反対する第二の理由は、本案の内容そのものに対し重大なる疑義を持っているからであります。政府は、本案の財源として日銀納付金の補正増額を行なっているのでありますが、現在日銀が資産勘定として保有している金地金百二十九トンのうち、四十四トンは現物がありません。戦時中から引き継いでいる政府と日銀の債権債務関係として、未整理証書として残っているだけであります。しかも政府は、この四十四トンをいかに処理したらよいか、いまだに何らの具体策も持ちません。すでに接収貴金属処理法案が初めて国会に提出された第十九国会より満五ヵ年を経過しております。この間、政府は何ら四十四トンの返済方法について考慮しておりません。そればかりか、われわれがおそれることは、戦時中に侵略戦争に必要な物資買付に使われた四十四トンの金地金の処理のために、岸内閣なら租税負担による返済を考えかねないということなのであります。
また、本案におきましては、日銀保有の七十五トンのうち、六十二トンは再評価して評価益二百五十億円を納付金として補正財源に計上するのでありますが、残りの十三トンについてはどうするか、これも当然再評価益を日銀納付金として歳入に繰り入れるべきでありますが、この点も政府の方針は、要するに目前の二百五十億円の調達のために、日銀の金地金の再評価というへそくり財源を持ち出しただけでありまして、国の歳入についての厳格な検討を怠ったまま案件として国会に提出しているのであります。われわれは、このように政府が満足に説明もできないような財源を歳入補正に充てることは、とうてい承認できないのであります。岸内閣がこのように財政法違反を犯して、かつ未確定財源まで引き出して本案の成立を急ぐのは那辺にありましょうか。これこそは国際通貨基金並びに国際復興開発銀行から国内大企業に対する融資ワクを一日も早く拡大しておきたいという岸内閣のあせりの現われなのであります。
最後に、本件の補正につきまして、三十四年度予算作成時においては確定していなかったと大蔵大臣はたびたびおっしゃっておるのでありますが、それならば、三十四年度の賠償処理費の特別会計のベトナムの三十六億は、まだ賠償協定が成立していないではありませんか。しかるにこれを計上しております。こういうように確定しないものを計上しているかと思えば、これを計上しないで、本予算を提出したその二日目に出してくるというようなやり方は、やはりいかに弁明されようとも、これは手続上も財政法違反であることは間違いないのであります。従いまして、われわれはこのような補正案に対しましては、絶対に賛成するわけには参りません。
以上、具体的な案件を申し上げまして、本案に対します反対の討論といたします。(拍手)
○楢橋委員長 重政誠之君。
○重政委員 私は、自由民主党を代表いたしまして、ただいま議題となっております昭和三十四年度一般会計予算補正(第1号)に対し、賛成の意見を申し述べんとするものであります。
まず、この予算補正の国会提出につきまして、社会党から財政法上、手続上に疑義があると主張されたのでありますが、これにつきまして一言申し述べておきたいと思います。
この予算補正はIMF及び世界銀行への追加出資に関するものでありまして、政府は、この予算措置については国際的影響をも考慮し、慎重に加盟各国の動向を見つつ出資額の確定を待って予算措置を行うのが妥当であるという見解をとったのでありまして、かような案件の取扱いといたしましては適切なる措置であると思うのであります。わが国の増資の前提となるIMF及び世界銀行に対するわが国の特別増資を認める決定が確認された時期を見ますと、本年一月三十日でありまして、それは三十四年度本予算の作成された一月二十三日以後であったのであります。従って今回の予算措置は財政法第二十九条第一項の事由に基くものであり、財政法上適法であると思うのであります。
なお国際通貨基金及び世銀に対する今回の増資払い込みの財源としては、日本銀行の所有にかかる金の再評価益金の特別納付金によることといたしておりますが、この点はIMF及び世銀に対する出資が、いわば第二線外貨準備の設定とも称すべきものである関係上、日本銀行の所有にかかる金とその本質において相通ずるものが認められるので、適切なる措置と思うのであります。また日銀の所有にかかる金の評価益の処理方法といたしましても、歳入歳出の両面において国民経済に対する影響の中立性を保持し得たものと考えられますので、これまた当を得たものと認められるのであります。
さて今回の予算補正は、御承知の通り昨年末IMF及び世銀理事会において増資案が決定されたのに伴いまして、わが国の出資額も増額され、この追加出資に要する経費二百五十億円について予算措置を行わんとするものであります。IMF及び世界銀行の役割とその重要性につきましては、今さら申し上げる必要もございませんが、最近におけるIMFの実情は、世界経済の伸張及び貿易量の増大に伴い、従来のIMF出資額との関係において著しいアンバランスが生ずるに至り、増資の必要に迫られていたのでありますが、今回の増資により、このアンバランスが一応改善されることとなるわけであります。
また、今回の増資は、西欧通貨の交換性回復と相待って、各国の対外支払い能力、すなわち国際流動性を高め、世界貿易の一そうの拡大発展を約束し、今後の世界経済に大きな意義を持つことになるのであります。特にわが国にとりましては、西ドイツ、カナダと同じように、積極的にIMFに貢献できる力を持つ国として、今回特別増資が認められたのであります。これにより、わが国は単独で理事を出せることになり、国際経済社会における日本の地位は非常に強化されるものと思うのでありまして、わが国の今後における国際経済社会での活躍が大きく期待されるものであります。また、世界銀行における増資は、近年増大しつつある資金需要に備え資金調達を推進するため世銀債券の担保力を強化せんとするものでありまして、これまた世界経済の発展に大きく寄与するものと思うのであります。
これらの理由によりまして、われわれは政府原案に賛成し、わが国が加盟国の一員として両国際金融機関の任務遂行に協力することを期待するものであります。
以上、賛成の討論を終ります。(拍手)
○楢橋委員長 これにて討論は終局いたしました。
これより採決いたします。昭和三十四年度一般会計予算補正(第1号)に賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕
○楢橋委員長 起立多数。よって、昭和三十四年度一般会計予算補正(第1号)は原案通り可決いたしました。(拍手)
委員会の報告書の作成につきましては、先例によりまして委員長に御一任を願いたいと存じます。御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○楢橋委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。
本日はこれにて散会いたします。
午後七時七分散会
――――◇―――――