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乗客の協力不可欠 混雑時に駅員困難

白杖を手にした視覚障害者の女性(手前)の乗車支援をする駅員(中央)=東京都練馬区の西武鉄道練馬駅で2017年2月10日午前8時半、後藤由耶撮影

東京の西武鉄道練馬駅の朝

 視覚障害者が駅ホームから転落する事故を防ぐため、国と鉄道各社は昨年12月、障害者が乗車する際、原則として駅員がサポートすることを決めた。だが、混雑する朝のラッシュ時の駅を取材すると、この取り決めを駅員が完全に守るのは難しいと思った。事故を防ぐためには周囲の乗客のサポートが必要--改めてそう感じた。【内橋寿明】

     「お手伝いできることはありますか」。2月10日午前8時半、東京都練馬区の西武鉄道練馬駅。白杖(はくじょう)を持った40歳前後の女性が改札を通ったのを見た駅員、大澤一成さん(25)が呼びかけた。だが、女性は少し首をかしげただけで立ち止まらずに階段を上り始めた。駅にホームドアはない。

     「ご案内いたしますね。どちらに行かれますか」。大澤さんは女性に付き添って尋ねる。目的地は池袋駅(豊島区)。大澤さんは上りホームまで付き添い、電車が到着すると腕を差し出し、女性に持ってもらって車内に誘導。ホームに戻って駅事務室に女性の特徴や乗車位置を無線で伝え、降車駅への連絡を依頼して電車を見送った。

     その直後、10メートル離れた場所に白杖を手にした初老の男性が1人で立っているのに大澤さんは気付いた。周囲に付き添っている駅員はいない。大澤さんは慌てて男性に駆け寄って声をかけた。「お手伝いしましょうか」

     男性が改札を通ったのは、大澤さんが女性に付き添ってホームに向かった直後だった。改札脇の詰め所の駅員が目撃していた。だが、この駅員は乗客にIC乗車券の現金チャージを頼まれていた。詰め所に駅員は他にいない。現金を扱っていたこともあり、離れられなかったという。

     練馬駅は都営大江戸線も交差し、1日の乗降客は約12万5000人。朝のラッシュ時はアルバイトを含めてホームに5人、詰め所に2人を配置するが、2カ所の改札のうち乗客が少ない方は無人だ。

     西武鉄道管理の駅でホームドアが設置されているのは池袋駅だけ。昨年末以降、視覚障害者への声かけ徹底に努めているが、松浦靖志助役(51)は「視覚障害者の入場に気づかず、ホームで初めて目にすることが時々ある」と明かす。

     記者はこの日、午前6時45分から2時間の間、白杖を持った6人が構内を通ったのを確認した。7時過ぎに無人の改札から1人で入場した男性は、エスカレーターで下りホームに移動し、間もなく到着した電車に乗り込んだ。駅員は混雑する上りホームでの対応に追われていた。

     改札に気をつけていれば、入場する視覚障害者を見つけられるというわけではない。急行が停車する石神井(しゃくじい)公園駅(練馬区)では、乗り換えのためにいったん降車する視覚障害者もいる。同駅駅員、高橋昌也さん(26)も「安全確認作業と重なると(視覚障害者の)対応が難しい」。

     石神井公園駅も1日の乗降客が約7万8000人に達し、ラッシュ時には最大14人が改札とホームに配置される。高橋さんと大澤さんは同じ不安を抱えていた。「駅員がもっと少ない駅に目の不自由な人が来られたら、きちんと対応できるだろうか」

     国が求める「原則介助」の実現には、要員の確保という課題が残る。周囲の乗客の声かけを望む視覚障害者は多い。国は鉄道各社に、乗客の声かけの大切さを訴えるポスターの掲示なども求めている。

    国の検討会がまとめた鉄道会社の主な対策

    【駅員】(ホームドア未設置駅)

    ・単独行動する視覚障害者に気づいたら声をかけて誘導、案内する

    ・誘導、案内を断られた場合でも、可能な限り乗車を見守る

    ・誘導、案内は速やかに対応し、可能な限り待たせないように努める

    ・視覚障害者を待たせる場合は、待たせる理由や見込み時間を伝える

    【周囲の乗客向け】

    ・気軽に声をかけられるように、車内放送やポスターで啓発

    ・視覚障害者の誘導、案内の方法をポスターなどで示す

    ・歩きスマホや点字ブロックにとどまる行為を控えてもらう

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