電車に迫る津波、運転士はどのような行動をとるべきか──そんな乗務員の災害対応力を高める「VR災害対策訓練ソリューション」をKDDIが開発しました。JR西日本が4月下旬にも導入を開始します。
実在するJR路線を"9K"で実写VR化
同ソリューションの特徴は、和歌山県の沿岸を走るJR紀勢線の新宮駅〜串本駅間(43km)すべてを実写VR化した点です。最悪で33万人の死者が想定されている南海トラフ巨大地震では、JR西日本和歌山支社管内のJR紀勢線 全200kmのうち、3分の1にあたる73kmが津波で浸水、また一部区間では「地震発生から5分以内に10mを超える津波が到達する」(JR西日本担当者)など、大きな津波被害が想定されています。
本ソリューションは、そんなJR紀勢線内における電車の乗務員の地震・津波への対応力を高めることを目的としたもの。訓練者はVRゴーグルのHTC Viveを装着し、JR紀勢線内での電車運転をVRで疑似体験します。指導者は任意のタイミングで緊急地震速報を鳴らすことが可能。訓練者は実写VR映像に重ねて表示される津波の想定浸水深や最寄避難所といった情報を参考に、適切な避難誘導を行います。
コンテンツの詳細は下記YouTube動画をご覧ください。
JR西日本和歌山支社の堺伸二氏は、VR導入の意義を次のように語ります。
「運転士目線で津波を擬似体験することで、落ち着いて行動できるようになることを期待している。(中略)自電車の近くに避難場所があれば、そこまで走行して乗客を避難させるなど、実際の地理を考慮しての避難誘導訓練も可能になる」(堺伸二氏)
なお訓練者の行動は、目の視線を含めてモニタリングされており、訓練終了後にディスカッションなどで振り返りを実施。適切な行動について検討できるといいます。
海岸のそばを走り、大きな津波被害が想定されているJR西日本の紀勢線
風光明媚な車窓とは裏腹に、津波のリスクは非常に高い
VR上には、津波の想定浸水深や最寄りの避難場所などの情報も表示される
まるでVR版「電車でGO」
筆者もデモを体験してみましたが、さながら人気アーケードゲーム「電車でGO!」のVR版といった印象。まるで本当に運転台に座って電車を運転しているかのような臨場感でした。またVR映像の高精細さにも驚きました。風景がくっきりしており、電柱にある標識の文字までしっかりと読み取ることができます。これについてKDDIは「VRとしては最上級となる9Kで撮影した映像を、HTC Viveが対応する6K/60fpsに落としこむことで視認性を高めた」と説明します。つまり、高品位のVR映像を用いたことで、臨場感を大幅に高められたというわけです。
VR映像ながら電柱の標識の文字もはっきり視認できるほど高精細だった(写真は実際の標識)
他の鉄道会社へのVR納入は?
このVR災害対策訓練ソリューションは、JR西日本が乗務員の訓練用に2017年4月から導入予定。JR西日本以外への納入について、KDDI ビジネスIoT企画部長の原田氏は「具体的な話は明かせない」とする一方、「複数の鉄道会社と意見交換させていただき、大きな反響をいただいた」と話します。なお、別のKDDIの担当者は「関東圏は乗客が多すぎて、運転士が能動的に乗客を避難させることはできない」と話します。地域に応じて訓練内容を変える必要があるというわけです。
左からJR西日本和歌山支社 堺 伸二氏(安全対策推進室)、KDDI IoTビジネス企画部長 原田圭悟氏
なお前述の通り、同ソリューションの電車運転シミュレーションとしての高い臨場感に筆者は驚きました。例えばゲームセンター向けに、KDDIがVRシミュレーションゲームを納入すれば面白いと感じます。これについてKDDI原田氏は「具体的な話は決まっていない」と前置きしつつ「ありだと思います。VRはBtoBtoCに向いている」とコメントしました。