米原子力会社ウェスチングハウスの買収によって混迷する東芝の経営が、さらなる深みにはまった。
14日の予定だった2016年4~12月期連結決算発表は、監査法人の「お墨付き」が得られず、債務超過の回避策なども含め1カ月後に延期した。ウェスチングハウスにからみ経営幹部の不正を指摘する内部通報があり、新たな疑念が生じたためだ。
東芝は最終(当期)赤字4999億円など決算の見通しを示したが、経営への不信が増し15日の株価は大幅に下落している。あと1カ月で直面するいくつかの問題の解決策を見いだしたうえで、再建の明確な道筋も示さなくてはならない。
14日の発表は本来、経営への疑念を払拭(ふっしょく)する場だった。米国での原子力事業で被った7000億円以上の巨額損失の原因や経営陣の責任の有無、債務超過対策のための半導体事業の分社化、銀行の支援姿勢などについて、説得力のある説明をしなくてはならなかった。
株主や取引先、約19万人の従業員と家族らも、そこに関心を寄せ、当面の危機を脱した後の経営が向かう方向にも注目していた。
だが、新たな疑念が浮かんだ結果、発表の延期に追い込まれ、修正の可能性もある決算の見通しと、原子力を統括する志賀重範会長の引責辞任などを明らかにするにとどまった。不透明感は晴れるどころか、ますます強まっている。
東芝は、歴代3社長が引責辞任に追い込まれた2年前の不正会計問題でも、発表の延期を繰り返した経緯がある。
海外子会社まで目が届かなかったというだけでなく、事態収拾策の段取りもおぼつかないようでは信用の低下は止められない。
そもそも目先の疑念を打ち消せても、債務超過解消後の経営には不安がつきまとう。
自己資本を厚くするため、半導体事業を分社化して一部株式を売却する方針だが、稼ぎ頭を切り離して将来の展望は保てるのか。すでに医療機器部門や不動産部門などを手放し、株式市場では「競争力のない事業しか残らないのではないか」と危ぶまれている。
綱川智社長は14日、半導体会社について「外部資本の受け入れは20%未満」としていたのを「過半数の譲渡も含め検討する」と話した。主導権を渡してでも手元資金を増やしたいようだ。柔軟姿勢というよりも背に腹を代えられない窮状がうかがえる。
決算発表延期という異常な事態を通じて明らかになったのは、企業内部を統制する力のなさだ。それを取り戻し、出直しに向けたスタートを切れるか。時間は1カ月しかない。