IT芸人の異名を持つ、トレタの増井雄一郎さんが「今、気になる人」に直撃する連載。今回は、日本におけるVRエヴァンジェリストとして知られる、GOROmanこと近藤義仁さんの登場です。
GOROmanさんは2013年3月にOculus Riftの開発キットを入手し、「VRは次のインフラになる」と確信。「早く日本に定着させないとヤバい」との使命感から米国本社に直談判し、2014年7月にOculus Japanチームを立ち上げさせるに至りました。
2016年12月にはOculus(Facebook Japan)を退社し、現在はVRアプリケーションの開発に専念するGOROmanさん。VRが日本で普及する可能性や、Oculusの「中の人」になるまでの経緯、自身のキャリア論について、3回にわたって伺います。

トレタの増井雄一郎さん(左)と、GOROmanこと近藤義仁さん(右)
テクノロジー、“モテ”になったら普及する
増井:今日は、近藤さんと「これからのVR」の話がしたくて来ました。いまVRの話をするなら、日本にOculusを持ってきた“GOROman”さんしかあり得ないと思っていたので。
GOROman:光栄です。話しながらいろいろ脱線すると思うので、止めてください(笑)
増井:まず、率直に聞きたいのが「この先VRは、本当にマスに受け入れられるのか?」ということです。たとえば、映画の世界ではここ10年で3Dが一般化しましたよね。技術の進歩によって、映画体験はより豊かなものとなった。けれども、今まで2Dの映画を見なかった人が、3Dになったことで映画に興味を持ったかと言うと……そういう人は少ないと思っています。
GOROman:そうですね。はなから映画に興味がない人にとっては、そこのアップデートは無意味でしょうね。
増井:これ、同様のことがVRにも言えるのでは、と考えていて。現在では“ゲーム好きな人たち”がVRゲームを通して、「VRすごい!」と言っている状態じゃないですか。これからVRが徐々にアップデートされていった先に、“ゲームをやらない人たち”がVRのゲームをやるようになる現象は、起こり得るんでしょうか?
GOROman:それは起こらないでしょうね。ただ、僕は「ゲームからVR人口が広がらない=マスに受け入れられない」とは考えていません。VRは単なるゲーム機ではなくて、“パソコン”や“スマホ”と同様に、我々の生活を根本から変えるインフラ的なテクノロジーなんですよ。
増井:インフラ、ですか?
GOROman:そう。ちょっと昔の話をすると、1997年に発売された「Palm Pilot」を手にして、当時の僕は感動しました。
増井:懐かしい!(笑) 手のひらサイズの電子メモ帳ですね。

GOROmanさん私物のPalm Pilot
GOROman:それまでパソコンは持ち運びが大変だったし、そもそもパソコン自体持っている人間も多数派じゃなかった。そんな中で「Palm Pilot」が出て、僕は「これからは絶対パームトップコンピューティングが来る!」と騒いでました。
増井:いま思えば、あれが携帯電話やスマホが登場する未来を予感させてたんですね。そして、パソコンも「Palm Pilot」もスマホも、最初から持っているのは少数派のオタクだったわけで。
GOROman:パソコンもまだまだ高かったですからね。大学3年の時に、シャープの「メビウスMN-7250」というパソコンを買いましたけど、月々1万5700円の36回払いでしたよ。時給650円のコンビニとかガードマンのバイトをして、必死こいてお金作ってました(笑)
増井:高かったですよね、ホントに。今はいい時代だ。
GOROman:僕はあの頃から考えていたんです。いつか皆がパソコンを使う時代がやって来る……これは自明だと感じていて。ならば、「皆がパソコンを使うようになるきっかけは、何なんだろうか」と。考え続けた末に、僕はパソコンだけに限らず、テクノロジー全般が社会に定着する法則を見出したんですよ。
増井:その法則とは?
GOROman:テクノロジーは「モテるようになったら流行る」――これに尽きます。
パソコンが“キモズム”を超えるまで
近藤:僕は小学校2年の時に、初めてパソコンを触りました。年代で言うと、1982年頃ですね。親がプログラマで、質流れのパソコンを安く買ってきて、家に置いてくれたんです。
増井:そうだったんですね。そしたら、親に教えてもらうことも?
GOROman:ありました。当時のゲームのソースコードを書き換えてクリアしたりしてましたよ。昔のゲームの理不尽さときたら、もう(笑)
増井:近藤さん、ちょうど僕とは同年代の生まれなんですよね。なので、すっごいよくわかります(笑)
GOROman:ただ、当時は「コンピューターが好き」って、周りに気安く言える空気じゃなかったんですよね。親しい男子でもパソコンよりファミコンの方が流行ってたから、共通の話題にもなりにくいし。
増井:そうそう。コードの話ができる友だちなんて、いませんでしたね。
GOROman:これが中高校生になり、いわゆる思春期に入ると、さらに風当たりが厳しくなりました。女子からは「コンピューターやアニメは“オタク”のものだから、本当にキモい」という見られ方が顕著になったんですよ。
増井:あの頃のオタクの扱いはひどかったですね、多分最も迫害されてた時期じゃないかな(笑)
GOROman:そうそう、僕らは言わば“隠れキリシタン”みたいな存在ですよ(笑)。とにかくばれないようにしていましたね。中2の時、僕はEメールの概念を知って、友だちとパソコン通信をしたくてたまらなかった。けれども、同級生には言えませんでした。やっぱり、少しはモテたいって気持ちもあるわけで。
増井:一歩間違えれば、周りにバレて“キモいヤツ”認定されちゃいますからね。
GOROman:高校はパソコンやってる友達がほしくて、わざわざ工業高校に進学したんですよ。でも、行ったら長ランのヤンキーしかいなくて「あ、完全にミスった」と。
増井:『ビー・バップ・ハイスクール』全盛期でしたもんね……。僕も工業高校の情報科に進学しましたけど、コードを書ける人間はクラスに2人くらいしかいませんでしたし、入学式の時に校門にはパトカーが待機してました。
GOROman:そんな不遇の思春期を越えて(笑)、パソコン周りの状況の決定的な転機を感じたのが、大学2年くらいの頃です。
増井:ちょうどスティーブ・ジョブズがアップル戻ってきて、「iMac」が出るくらいのタイミングですね。
GOROman:当時、僕はコンビニでバイトしてたんですよ。もちろん、そこでも女子に「パソコンやってる」なんてことは言わず、話の通じる男子とだけ仲良くしてました。そしたらある日、バイトの女の子が突然、「もしかして近藤君、パソコン詳しい?」って聞いてきたんですよ。
増井:バレてるじゃないですか!
GOROman:まあ、隠れててもやっぱり臭いまでは消せないんでしょうね(笑)。それで、その女の子に理由を聞いたら「私、ポストペットやりたくって! どのパソコン買ったらいいのかな?」って言うんですよ。
増井:それは衝撃だ……。
GOROman:今まで「キモい」と思われたくない一心で、パソコンやっていることを女子に隠し続けてきたわけで。それが、パソコンなんて全然やりそうにもないリア充寄りの女の子が「パソコン買いたい」って。
増井:時代の転換を実感しますね。
GOROman:そう、これこそまさにキャズム……いや、“キモズム”を超えた瞬間だと思いましたね。パソコンがキモの谷を超えて、モテのフェーズに到達したなと。
増井:なるほど、キモズムね(笑)
GOROman:今や「パソコンがモテない」なんて、みじんも感じないじゃないですか。むしろ逆転していて、メールとかLINEとか、新しいテクノロジーやツールについていけてないと、そっちの方がモテなくなってきた。つまり「テクノロジーが一般化するのは、対象が“キモズム”を超えて“モテ”の要素に変わった瞬間なんだと、僕は結論づけています。
増井:SFCの増井俊之教授も似たようなことを仰っていましたよ。「あるものが広まるためには、それを人に自慢できるようになることが大事だ」って。
GOROman:スタバでMacBook開いてスカしてる輩は大勢いますしね。もうね、「ふざけんなぁぁぁーーー!!!」ですよ。ドヤってしかも若干モテ寄りとは何事だよ、お前らみんな許さねえからなって感じ(笑)
増井:僕らはあんなに迫害されたのにね……。
“JK理論”で社会がつかめる
GOROman:はい、話を戻しましょう(笑) そんなこんなでパソコンはキモズムを超えました。スマホもキモズムを超えて、今やモテのイズムに組み込まれている。硬派をきめて「僕はスマートフォンとかLINEとか認めない」なんて言っても、まったくモテないわけですよ。だって、使えなきゃ連絡できないわけですから。
増井:モテ出すための要素って、何かあるんですかね?
GOROman:それは、「人々の不便を解消できるかどうか」ですね。ある程度テクノロジーが生活に溶け込んで「これはキモくない、便利なものだ」と一定数に認知された瞬間、モテにシフトしていく。これは、さまざまなテクノロジーの歴史を振り返ってみれば、明らかな事実です。
増井:なるほど、歴史は繰り返すと。
GOROman:昨今では、テクノロジーが世に送り出されてから一般化するまでの時間が、どんどん短くなってきています。パソコンは数十年かかりましたが、スマホなんて10年満たずに日常になりましたから。
増井:iPhoneが生まれたのが2007年1月。それまでスマホがなかったなんて、ちょっと信じがたいですね。
GOROman:でも、今では女子高生だってみんな持っている。逆に言えば、女子高生が使うようになると、テクノロジーは“キモズム”を超えるんですよ。僕はこれを“JK理論”と呼んでいます。女子高生への普及が、一般化するかどうかの判断基準になる。
増井:確かに、ポケベルも携帯電話も、女の子たちが使うようになって、日常の風景になった気がします。
GOROman:そこで「彼女たちが使うようになるための条件とは何か?」って考えたんです。そうすると、先ほど言った「キモくなくて便利」とはどういうことなのかが、より具体的に見えてくるなと。
増井:と言うと?
GOROman:「キモくない」とは、「カワイイ」ということです。この「カワイイ」には、デバイスが十分に小型化され、デザイン的に洗練されないとたどり着きません。携帯電話の前身にはショルダーフォンなんてありましたけど、あんなものJKが使うわけないじゃないですか。
増井:そりゃそうだ(笑)
GOROman:そしてもう一つ、「便利」というのは大抵、「コミュニケーションツールとして優秀だ」という要素を多分に含みます。
増井:確かにポケベルも携帯電話も、コミュニケーションのあり方を大きく変えてますね。
GOROman:これらを踏まえると、VRも「カワイイ、コミュニケーションツールとして便利」という認知がされたら、一気に社会に浸透していく。それは遠い未来の話じゃないですし、VRの一般化までの時間を短縮することが、僕の使命だと思っていますから。
(構成:西山武志)

