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人口・少子高齢化 格差・貧困
地方都市の「非正規雇用」急増と格差拡大〜安定を望むことはできるか
構造的問題を解き明かす

働くことに何を求めるか?

「仕事に何を望むか」と学生に聞くと、さまざまな答えが返ってくる。

いわく報酬が高いこと。いわくやりがい。しかし一番多いのは、生活の安定という答えである。

食っていけない仕事が望まれるわけではない。まったく達成感のない労働も嫌われる。ただし報酬が良いことや、やりがいの追求はキリがないこともあって、学生たちには贅沢な望みとしてしばしばあきらめられている。

それに対して、「安定」した職に就くことは、なかなか妥協されない。親の影響も強いのだろう。(地方国立)大学に通うような学生の親はたいていの場合、安定した職に就いている。

問題は、しかしそうした望みが、ますます実現しがたくなっていることである。

一生とはいわないまでも、将来の見通しがつく職に就き、結婚し、家や車を買い、家族を養っていくこと──。ささやかにみえるかもしれないそうした望みが、現代社会では達成困難なものになりつつあり、とくに地方都市ではそうなのである。

 

自営業者と第二次産業の衰退

原因は、地方都市の雇用に構造的な変動がみられることである。

これまで地方都市で雇用状況が悪かったかといえば、そうではない。

地域的なばらつきはみられる――大阪、兵庫、京都、福岡などの中核都市を含む県、また北海道、沖縄では失業率が高い――とはいえ、1983年以降、東京・神奈川・埼玉からなる南関東に較べ、中国、四国、東海、北陸、北関東・甲信ではほぼ一貫して、東北でも00年代に入るまでは、失業率は抑えられてきた(労働力調査)。

こうした地方都市の雇用を支えてきたのは、第一に自営業である。

個人商店や町工場、さらに農業まで含めると、自営業は安定した職業として地方都市で羨ましがられてきた。経済的に、だけではない。街に長く暮らし、今後も命運を担う(と自称する)自営業主たちは祭りや選挙活動など、ジモトで多くの役割をはたしてきた。

しかし近年、この自営業主層が、力を失っている。チェーン店の進出や高齢化、不景気に伴い、自営業の店は潰れるか、跡継ぎを確保することがむずかしくなっているのである。

それに伴い自営業主として働く人は減少し、たとえば筆者の暮らす山形市でも、1990年を境に自営業主は一気に減り、いまでは就業者の9.3%を占めるにすぎない(図1)。

図1:山形市の自営業主数、割合(国勢調査)

ただしそれだけによって、安定した職は失われたわけではない。地方都市での雇用を支えてきたのは、第二に大規模な製造業である。

図2:山形市の産業別就業者数(国勢調査)

流出していく人口を押しとどめるためにも、地方都市は工場の誘致を進めてきた。全国総合開発計画(1962年)以来の国の後押しもあって、工場誘致は一定程度の成功を収め、それが雇用を底支えしてきたのである。

しかし現在ではこれも情勢が変わっている。工場の海外移転、合理化による縮小、産業構造の転換などによって、大工場を地方に立地する必然性が揺らいでいる。

以上が重なることで、地方都市の雇用環境は大きく変わった。それを如実に示すのが、就業者数の産業別の割合の変化である。

山形市でみれば、図2のように、1950年から2010年まで、第一次産業で働く人は、34317人から4665人と8分の1近くまでに減っている。他方、1990年まで緩やかに増加した第二次産業もそれ以降、減少し、今では23726人にまで落ち込んでいる。

こうした事態は、自営的農家と工場が雇用の土台として期待できなくなったことをあきらかにするのである。