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企業・経営
背任、詐欺の可能性も…事件化の臭いもしてきた東芝のドロ沼
損失は7000億円で収まりそうにナシ

逃げ道ナシ

東芝は2月14日に予定していた2016年第3四半期決算の発表が行えない異例の事態となった。記者会見の予定時刻である16時になっても一向に会見が始まらず、大勢の記者が待ち構えたが、結局、「最大1カ月間延期する」ことを公表した。

集まった記者が騒然とする場面もあり、18時30分になってようやく会見を行ったが、そこで明らかにされた原子力事業での損失発生額などについては、「当社の責任において当社としての見通し及び見解を記述したもの」という注釈が付けられ、「今後大きく修正される可能性がある」とした。

東芝が明らかにした原子力事業の「のれん」減損額は7125億円。東芝の原子力発電子会社である米ウエスチングハウス(WH)が2015年末に買収した原発建設会社CB&Iストーン・アンド・ウエブスター(S&W)関連で6253億円、従来のWHの「のれん」残高872億円と合わせた額を全額損失計上する方針を示した。

これによる連結最終損益への影響額は6204億円のマイナスになり、2017年3月期の最終損益は3900億円の赤字になるとした。その結果、1500億円の債務超過に転落するとした。

 

おそらく、この数字で会社は決算発表を行うつもりだったのだろう。ところが、決算内容をチェックする監査法人がOKを出さなかったようだ。この日の資料にも「独立監査人によるレビューの手続き中であり、大きく修正される可能性があります」と記されている。監査法人は損失額がその金額で収まるのかどうか、確証をつかめていないのだろう。

東芝が示すように債務超過額が1500億円程度に留まるのならば、資本増強策によって早期のうちにプラスに戻せる可能性もある。だが、それがあくまで「期待値」で、実際の損失がさらに膨らむということにでもなれば、経営破たんしかねない。

日本経済新聞は2月14日の朝刊で、「東芝、事業継続に『注記』 決算短信記載へ 巨額損失で不透明感」とする記事を掲載した。ゴーイングコンサーン(継続企業の前提)に関する注記と呼ばれるもので、監査法人が監査する際に、継続性に問題がある企業に注記を求める。破たん懸念があることを投資家に注意喚起するのが狙いだ。

東芝が明らかにした原子力事業の損失の構図をみると、まさに「泥沼」である。米国内で30年ぶりとなる新規の原発を2008年にWHが受注したが、東日本大震災などで原発の規制が強化されたため、その費用負担を誰が負うのかで訴訟合戦になった。工事会社のS&Wとの間でも訴訟になる可能性があったが、WHは2015年末にS&Wを買収する。その結果、原発工事に関わる追加コストなどをすべてWHが被ることになった。

通常、M&Aの「のれん」は資産価格以上に高い金額で買収した場合に生じるため、「減損」つまり損失計上しても実際にはキャッシュが出て行かないケースが多い。ところがS&Wの場合、買収したものの、その会社が請け負っている工事で次々と追加のコストが発生、それが損失として計上されるため、実際にキャッシュが必要になる。

しかもそうした状況に陥っていることを、東芝の幹部はS&Wの買収後1年近くも知らなかったとされる。つまり、7125億円の減損を今期決算で実行したとしても、今後、米国の原発が完成するまでにコストが膨らめば、さらに損失を背負わなければならないのだ。

加えて、S&WはWHが買収したのだが、親会社として東芝が債務保証をしていることもこの日の説明書類に記載されている。2016年3月末時点でその額7934億円で、その90%弱が米国での原発建設の客先に対する支払い保証だという。

資料には「(米国のプロジェクトにおいて)WHの客先への支払い義務(プロジェクトを完工できなかった場合の損害賠償請求を含む)を履行できなかった場合、当社は親会社として、客先にこれを支払うことが要求されている」と書かれている。完全にハマって、逃げ道はないと言ってよいだろう。