銀メダル、おめでとう――。突然そういわれても、選手もファンも戸惑うことだろう。

 08年北京五輪陸上男子400メートルリレーで優勝したジャマイカのチームが、禁止薬物の使用で失格になると国際オリンピック委員会(IOC)が明らかにした。処分が確定すれば日本は3位から2位に繰り上がる。

 なぜ今ごろ。何で今さら。

 背景には、ドーピング行為の撲滅をめざすIOCの強い意思と取り組みがある。競技終了後に採取した検体は10年間保存する。精度が向上した検査方法が開発されると、再び検査する。最初にすり抜けても2度目、3度目が待ち受ける。

 「逃げ得は許さない」との姿勢を実践で示すもので、違反者の制裁にとどまらず、同様の行為の抑止効果が期待される。

 大会から8年以上が過ぎての繰り上げ銀メダルは、興ざめの感が否めない。だが将来の選手が、同じような苦い思いをくり返さないための措置だ。北京でフェアに戦った日本チームの健闘を改めてたたえたい。

 近年は「競技終了後」だけではなく、ふだんの抜き打ち検査もしばしば行われる。薬物に汚染された選手が大会に出場すること自体を防ぐためだ。

 このため対象選手は競技団体を通じて向こう3カ月間の滞在場所を報告し、検査を受けられる時間帯を1時間指定する義務を負う。負担は大きいが、潔白を証明し、競技の尊厳を守るために甘受してもらいたい。

 検査の結果、陽性反応が出ることもあるが、国内選手の場合不注意による例が大半だ。最近のどあめの「南天」の成分が禁止薬物に指定されるなど、規制の基準や内容は変化し続けている。情報を把握して対処することも、選手、指導者、競技団体に求められる大切な能力だ。

 選手のプロ化で生計や将来が競技結果に左右されることが進めば、薬物への誘惑が増える恐れがある。日本オリンピック委員会や日本アンチ・ドーピング機構は、これまで以上に教育と啓発に力を注いでほしい。

 昨年はロシアの多競技にわたる組織ぐるみのドーピングがスポーツ界を揺るがせた。年末の最終報告書では「1千人以上もの選手がかかわり、国家ぐるみの不正だ」と断罪された。

 一部の選手らはすでに処分を受けたが、ロシアのスポーツ省や陸連など組織と幹部への追及はこれからだ。欧州陸連は過去の記録が信頼できるか、調査チームを設けた。スポーツへの信頼を取り戻すために、IOCはけじめを急がねばならない。