トランプ米政権のアジア政策に対する初動には気をもまされた。トランプ新大統領はすぐさま環太平洋経済連携協定(TPP)からの脱退を表明。台湾や南シナ海を巡っては、中国との対決姿勢をあらわにしたかのように見えた。さらに、かねて日本や韓国との同盟関係について懐疑的だったことは、よく知られている。
だが、トランプ氏の過去数週間の日本や中国に対する姿勢は、米国の従来の形に戻り始めたようだ。東アジアが世界の経済や戦略的な安定にとって極めて重要であることを考慮すると、この動きは重要であり、安心させられる。
最も重要な動きが2つあった。成功裏に終えた中国の習近平国家主席との電話会談と、ゴルフやディナーで長時間を共にする厚遇で迎えた安倍首相との会談だ。
中国に関しては、1970年代の米中国交正常化以来、米国の台湾政策の根幹を成す「一つの中国」政策を疑問視し中国を刺激するような態度を封印してみせた。このトランプ政権側の譲歩は少々控えめだが、米中関係が危機に陥る危険を回避するものだ。
トランプ政権は、中国による南シナ海での挑発的な人工島建設に対し、より穏健な姿勢に転じているようだ。ティラーソン米国務長官は以前、こうした人工島の海上封鎖を検討する可能性を示唆していた。これについてはトランプ政権も明言したが、米中の軍事衝突への懸念を和らげる形となった。
日本は、安倍首相が素早く巧みに動き、米国に不可欠の同盟国という地位を確立した。米国のTPP脱退は安倍氏には痛い一撃だったが、米国との特別な関係を続ける以外に選択肢がないことも同氏は分かっている。
安倍氏はトランプ氏から有意義な公約を何一つ引き出すことはできなかったものの、同氏と紛れもない親密な関係を築くことに成功した。トランプ氏が本来は保護主義の孤立主義者であることを考えると、これは一つの成果だ。
■北朝鮮ミサイル発射、トランプ氏の反応は安心材料
日米同盟の絆の強さが特に鮮明に表れたのは、週末に北朝鮮が再び弾道ミサイルの発射実験を行った知らせを受けた時だった。
大統領選挙戦中にトランプ氏は、北朝鮮の核の脅威に対し、より厳格で徹底的な措置を取ると示唆していた。大統領に就任した今、同氏の対応はより慎重で従来的なものとなっている。アジアの同盟国への支持を繰り返し述べ、北朝鮮に対しては国連決議に従うよう促すというものだ。長い目で見れば、トランプ政権は北朝鮮に対し、経済面や、さらには軍事面でもより強硬な行動に出ることを考える必要が出てくるかもしれない。とはいえ、就任後初めて北朝鮮が行ったミサイル発射実験に対する同氏の反応が控えめだったことは、安心材料だ。
最近のアジアに対するトランプ政権の動きは賢明だ。だが、もっと重要な試練が今後訪れるだろう。ホワイトハウスから聞こえてくる発言の多くが、依然として中国や、さらに日本とさえも貿易戦争を辞さないことを示す有害なものだ。トランプ氏が直面するアジアの問題は複雑であることから、同氏の激しい気性も懸念材料として残る。それでも、トランプ時代の米国の対アジア戦略に希望を抱くのは根拠がある。同戦略は成功を収めてきた基本原則に忠実であり、米国の政策を何十年も支えてきたからだ。
(2017年2月14日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
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