天皇陛下の退位を巡る主要政党の見解が出そろった。退位を今の陛下だけ特例で認める自民、公明両党に対し、民進党などは将来のすべての天皇にも及ぶ制度化を求めている。
与野党の立場を分けるのは、退位の要件を設定できるかどうかの考え方の違いだ。その中心的な論点が「天皇の意思」である。
自民党は天皇の意思を要件として制度化するのは「憲法4条に反する恐れがある」と退け、恒久制度化は「極めて困難」との見解を示した。
判断の根拠は従来の政府解釈だ。憲法4条は「天皇は、国政に関する権能を有しない」と規定し、国政への影響力行使を排除している。
国会が制定した皇室典範に基づき運用される皇位継承制度は「国政に関わる問題」とされる。そこに天皇の意思が介在すれば憲法4条との整合性が疑われるという論理だ。
自民党が天皇の意思による退位に慎重なのは、これを認めれば即位の辞退にもつながり、皇位継承が揺らぐとの警戒もあるようだ。
これに対し、民進党は天皇の意思を「大事な要素」と位置付けている。意思確認することで恣意(しい)性や強制性を排除できると考えている。
民進党内には退位自体は「国政に関する権能」にあたらないとの意見もあるが、憲法4条違反との指摘も考慮し、「皇室会議の議決」を併せて要件としている。
退位を決定するのはあくまで皇室会議であり、その判断にあたって天皇の意思が確認されるという手続きにすることで、憲法と直接結び付く印象を和らげる狙いがあるようだ。
厳密な憲法解釈では天皇の意思に基づく退位は難しいようにみえるが、皇位継承という天皇自身の問題で自由な意思が封じられることに違和感を持つのも理解できる。
こうした立場の違いに伴い立法形式も異なる。自民党は今の陛下の退位に限定した内容の特別立法を主張するが、民進党は普遍的な要件を明記した皇室典範改正が必要という。
皇位継承について憲法2条は「皇室典範の定め」によると規定し、民進党は特別立法には違憲性の指摘がある点を強調している。このため、自民党は特別立法制定にあたり、皇室典範を改正して付則にその根拠規定を新設する案も検討している。
残念なのは自民党の議論の在り方だ。議員から意見書を募り、「一代限り」が大勢だったというが、意見書を提出したのは2割強と低調だった。国の重要な案件に対する緊張感が欠けているのではないか。
衆参両院正副議長は来週、各党から意見聴取する。論点は憲法解釈に関わる。双方の主張の利点や欠点に対する徹底的な議論が求められる。