(左)宇野維正(映画・音楽ジャーナリスト)、(右)柴那典(音楽ジャーナリスト)〔PHOTO〕三浦咲恵

古い慣習にしばられた「音楽業界」が変わるために必要なもの
クラウドファンディング、チケット問題…

ストリーミングサービス普及で何が変わる? アーティストがクラウドファンディングを利用することをどう捉える? 音楽の「いい/悪い」と「好き/嫌い」の違いとは? チケット転売問題はどう解決できるの?

昨年11月に発売された『ヒットの崩壊』(講談社)著者である柴那典氏と、『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(同)著者の宇野維正氏による対談イベントのレポート後編!来場者からの質問をもとに、話は多岐に及んだ。

(前編「J-POPの現在と未来〜邦楽育ちのアーティストの行方」はこちら)

(構成・田中裕子/写真・三浦咲恵)

クラウドファンディングはアーティストの「媚び」か

——SoundCloudが収益化に苦戦したり、Spotifyがいよいよ日本上陸したりと、ストリーミング絡みのニュースをよく目にします。日本の音楽環境はこれからどう変わっていくのでしょうか?

宇野 長期的には、ストリーミングが主流になるのは間違いないでしょう。その変化のスピードはもう少し上げてほしいところだけどね。

 そうですね。世界を見ればデジタル配信の売上はパッケージを上回っていますし、一方でアナログレコードも伸びている。僕はCD自体にそこまで思い入れはないので、はやく次に行こうよと思っています。

宇野 ただ、日本は形あるものに執着する人が多いから、CDマーケットは海外より数パーセント高いところで留まるかな。いまやCDを買う行為って、アーティストへの応援なんだよね。僕ももはや「好き」の表現としてしか買ってないし。

 クラウドファンディングとそんなに変わらないですよね。

宇野 ああー、それはちょっと異議ありだな。僕、クラウドファンディングのスタンスって本当に苦手なんですよ。とくにアーティストがやるのは断固反対で。

 へえ。どうしてですか?

宇野 リターンありきということは、構造的にファンや受け手に媚びることになるから。アーティストを名乗っているのに受け手に媚びるのは違和感があるし、純粋にアーティストには媚びてほしくないんだよね。

 おお、これに関しては考え方が真反対ですね(笑)。僕は、クラウドファンディングをアートの文脈で考えているんです。

宇野 出資者=パトロンってこと?

 そうです。歴史的に、アートはパトロンありきで成り立ってきました。クラウドファンディングもその文脈だと思えば、おかしいことはないでしょう。

宇野 でもさ、それってポップ・ミュージック自体の否定だよね? 歴史的に考えると、文化から「パトロン」という存在を頼りにしなくてよくなったというのがユース・カルチャーの勝利であり、つまりはポップ・カルチャーの勝利なんだから。

 それは言えるかもしれないですね。どちらかというと、ロングテールのアーティストが先細らないための抵抗策の一つとも言える。

宇野 ああ、ロングテールの人たちがやるのは別にいいですよ、それはポップ・ミュージックというより好事家のものだから。でも、次の時代をつくろうとしている若いアーティストが気軽にやるもんじゃないとは思う。リターンを設定することは、自分の規模を決めることにもなってしまうから。

 でも、それはやっぱり僕と見方が違いますね。クラウドファンディングは、いわば「信用の数値化」です。アーティストは表現を通して信頼を積み重ね、「この人についていきたい」「一緒にこの人の目的を実現したい」とファンに思ってもらう。

クラウドファンディングの成功とは、その価値が蓄積した結果としてその人についていきたい仲間が集った結果だから、僕は肯定的なんです。リターンとお金の関係にだけ注目すると「媚び」に感じるかもしれないけど、僕は「信用」が貯まっているならどんどん使えばいいと思います。

宇野 海外のアーティストはその「信用」を、MERCHというマーチャンダイズ(物販)の新しい概念で自身がファッション・ブランド化して、オンラインショップやポップアップショップ(期間限定の実店舗)を展開してるよね。そっちの方が健全だし、発展性があると思うな。