(英フィナンシャル・タイムズ紙 2017年2月10日付)
英ロンドンの時計塔「ビッグベン」近くで掲げられた英国旗(2017年2月1日撮影)。(c)AFP/Daniel LEAL-OLIVAS〔AFPBB News〕
英国のテリーザ・メイ首相が昨年、保守党の大会での演説で約束したことに、曖昧なところはなかった。「我々の経済は、あらゆる人のために働いてくれるものであるべきだ。しかし、自分の給料が何年間も伸び悩んでいる一方で、固定的な支出だけが増えているとなれば、経済が自分のために働いてくれているという感じはしない」。その通りだ。
英国のシンクタンク、レゾリューション財団のトーステン・ベル氏に言わせれば、メイ氏がこの演説を行っているとき、英国の生活水準は「ミニ好況」のまっただ中にあった。この幸せな時間はもう終わる。これからは二重の意味で悪い時期に入る。世界金融危機後の数年間に見られたような生活水準の伸び悩みと、1980年代に見られたような格差の急拡大が予想されるのだ。
このことと、メイ氏の政策選択との間に何か関係があるのだろうか。もちろん、答えは「イエス」だ。ということは、メイ氏の演説は偽善的なのだろうか。この問いの答えも「イエス」だ。
このシンクタンクの研究は、貧しい人々よりも裕福な人々を優先し、若者よりも高齢者を重視している国の姿を明らかにしている。そんな国はどこであろうと、メイ首相自身が言った「不公正と不正を是正し、普通の働く人々の支援に政府を当たらせている」国ではない。
首相が使った美辞麗句は、現実とはかなりかけ離れいてる。おまけに、首相が選択した「ハードブレグジット*1」のせいで事態はさらに悪化することになるだろう。
これでよいのかと考え込んでしまうデータがある。実質可処分所得のメジアン(中央値)は2014-15年度、2015-16年度、そして2016-17年度の3年でかなり大きく上昇した。インフレ率が非常に低かったことと、雇用が大幅に増えたことがその主たる要因だった。
*1=欧州単一市場への参加よりも移民制限を重視する欧州連合=EU=離脱のこと