北朝鮮が弾道ミサイルを発射した。国連安保理決議への明確な違反であり、国際秩序に対する重大な挑戦である。

 北朝鮮はこのところ表だった軍事挑発の動きを控えてきた。米国のトランプ政権の出方や、韓国の朴槿恵(パククネ)大統領の弾劾(だんがい)の行方を見定めていたのだろう。

 ところが安倍首相が訪米し、トランプ大統領と、北朝鮮に核・ミサイル計画の放棄を求める共同声明をまとめた直後、挑発行為を再開した。

 発射されたミサイルは日本全域のみならず、米領グアムをも射程に収める。米国にとっても現実の脅威である。

 ミサイル発射を受け、日米の首脳は並んで記者会見し、北朝鮮を非難した。発射から間を置かず、日米の結束を国際社会に示した意味は大きい。

 一方で残念なのは、両首脳とも日米同盟にしか言及しなかったことだ。とりわけトランプ氏は「米国は偉大な同盟国日本を100%支援する」と、ひとこと語っただけだった。

 北朝鮮の核・ミサイル問題には日米同盟だけでは対処できない。韓国との緊密な連携が不可欠だし、北朝鮮の最大の後ろ盾である中国の関与も必要だ。

 状況は悪化しつつある。韓国軍合同参謀本部は今回のミサイルについて、固体燃料を利用した新型の中距離弾道ミサイルとの判断を示した。発射台つきの車両に搭載されれば、発射の兆候をつかむのは難しい。

 核開発を進める北朝鮮のミサイル技術の向上は、国際社会全体を不安定にする脅威だ。その強いメッセージを、両首脳がともに発するべきだった。

 トランプ政権は発足から3週間あまり。政策決定の態勢も固まっていない。アジア情勢についての知識が十分でないなら、少なくとも首相が語るべきだったのではないか。

 米国、韓国の政治がそれぞれ不安定ないま、日米韓のゆるみを正し、さらなる連携を促すのは日本の大事な役割だろう。

 そのためにも、慰安婦問題をめぐって、日本政府が1カ月以上も駐韓大使や釜山総領事を一時帰国させている異常事態は早急に解消せねばなるまい。

 日米韓は早速、国連安保理に緊急会合の招集を要請した。

 トランプ氏は国連の機能不全を批判してきたが、北朝鮮の挑発行動に歯止めをかけるには、各国の協調が欠かせない。

 北朝鮮が望むのは、日米韓をはじめ国際社会の足並みの乱れである。日本は、多国間の連携を重視するよう、トランプ氏の米国に働きかけるべきだ。