みなさんこんにちは。英語職人・時吉秀弥です。
前回のコラム(英語職人・時吉秀弥の英文法最終回答 第5回「自動詞と他動詞と修飾語:気持ちがわからないと、気持ち悪い!」)では、自動詞・他動詞・修飾語の「気持ち」のごく基本的な考え方をお話ししました。

「動詞とは主語から出る力のことだ」と考えるのがポイントでしたね。主語から出た動詞の力が主語自身にしか向かわないのが自動詞、動詞の力を目的語にぶつけるのが他動詞、そして動詞の力が及ばない言葉のかたまりが修飾語でした。このように「力のやりとり」に着目することで、文型の表面的な「言葉の並び方」に惑わされることなく、より直感的に文型が持つ意味を感じ取ることができるようになります。

今回のテーマは「目的語と補語」そして「形容詞と副詞」。一見すると区別が難しいこれらも、コツさえつかめれば簡単に見分けられるようになりますよ。

目的語と補語の違い

言葉の並び方で惑わされるものの代表に「目的語」「補語」の区別がありますよね。
中学生や高校生のころにこの2つの区別に苦しんだ、という人も少なくないのではないでしょうか。どちらも動詞の後ろに来る、という意味で見た目が似ているからです。
でもこれも「動詞が出す力」の性質を考えれば、直感的にたやすく区別がつくようになります。

例えば、
「私はある生徒を押した。」( I pushed a student.
と言うとき、私は生徒に何かをしていますね。
つまり、生徒に対して「押す」という力をぶつけたわけです。力をぶつける動詞 pushed は他動詞であり、力がぶつかっている a student は目的語です。

しかし例えば、
「私は生徒です。」( I’m a student.
と言うとき、私は生徒に何かをしていますか? というか、生徒は私にとって他者ですか?
どちらも違いますよね。この文では「私」の中身が生徒であって、「私=生徒」なわけです。

このように「主語の中身」が何なのかを「補って」説明してあげる a student のような言葉を「補語」と呼びます

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そして I’m a student. の am のように、「他者に力をぶつけている」のではなく「主語の中身」を表す「補語」を後ろに従える動詞のことを「不完全自動詞」と呼んだりします(他にも呼び名があるのですが、ここでは便宜上、不完全自動詞で統一します)。be動詞が不完全自動詞の代表です。

なぜこんな中途半端な名前なのかというと、前回説明した自動詞は後ろに続く言葉に何の力も伝えませんでしたが、この不完全自動詞というのは「後ろに来る言葉に力をぶつけるわけではないが、かと言って後ろに何も言葉を従えないわけでもない」という意味で不完全な自動詞というわけです。

どのような動詞が不完全自動詞なのかは、“be動詞で置き換えても意味が通るかどうか”で簡単に判断できます。
He became a teacher.(彼は先生になった)→ He is a teacher. ですし、I feel happy.(私は嬉しい)→ I am happy. ですし、This smells good.(これ、いい匂いがするね)なら This is good. です。
全て「AはBです。」つまり「A=B」で言い換えられる動詞が不完全自動詞であり、後ろに来ているのが補語なのです。

一方で、主語と目的語の間にはこの関係は成立しません。
例えば、I broke the window.(私は窓を壊した)では「私は窓です。」とはなりません。

なぜか説明できますよね。
主語が「他者」に力をぶつけるのが他動詞なのですから、目的語は主語にとって「他者」なのです。つまり「主語=目的語」にはならないのです。
I pushed a student. と言っているとき、「私」は「他人」である生徒を押しているわけです。だから「私は生徒です。」とはなりません。ですからこのときの a student は目的語であり補語ではないのです。

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補語には名詞と形容詞しか来ない。その理由は?

補語には名詞か形容詞しか来ません。例えば、She is beautiful. とは言えても、She is beautifully. とは言えません。これはTOEICなどの文法問題でよく問われる知識の1つです。

まず補語に名詞が来る理由から考えてみましょう。答えのヒントは意味的に「主語=補語」という関係が成立するということです。

主語には必ず名詞か、動名詞、名詞句、名詞節といった名詞の仲間がやってきます。「名詞」というのは、乱暴な言い方をすると“モノとか出来事の名前”のことです。すると名詞である主語と意味的にイコールになる(主語の中身を説明する)補語には、同じく名詞が来る、というのはすぐに納得できると思います。

A rose is a flower, and a butterfly is an insect.
(バラは花であり、蝶は昆虫だ。)

ここでの rose も flower も butterfly も insect も全て名詞ですね。
ではなぜ補語に形容詞が来るのでしょう。その前に、形容詞と副詞って何なのか、説明しましょう。

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様子を表す言葉:形容詞と副詞って何?

文法を勉強すると「品詞」という言葉が出てきます。重要ではあるのですが、細かくやるときりがないし、理解しづらくなるので、ここでは大雑把に眺めることにします。

名詞というのは大雑把に言えば、モノ(例えば「花瓶」)や出来事(例えば「火事」)や、概念(例えば「信頼」)につける「名前」のことです。
動詞は、主に「動作」のことです。
そのほかに、「様子を表す言葉」というのがあります。それが形容詞と副詞です。
この2つは「様子を説明する」という意味ではどちらも同じですが、「どんな言葉の様子を説明するのか」が異なります。

【形容詞】
名詞の様子を表します。例えば「花」という名詞があったら、「どんな花なのか」を形容詞が説明します。例えば「赤い(花)」「小さい(花)」「君のために買った(花)」「朝露に濡れた(花)」は全部形容詞、もしくは形容詞の働きをする言葉のかたまりとして名詞の「花」を説明しています。

【副詞】
名詞以外の言葉の様子を説明します。具体的には次の1~3の通りです。

1. 動詞の様子を説明します。「走る」という動詞なら、どう走るのかを副詞が説明します。例えば「速く(走る)」「友達と(走る)」「毎日(走る)」「川沿いを(走る)」は全部副詞もしくは副詞の働きをする言葉のかたまりとして、動詞の「走る」を説明しています。

2. 形容詞の程度を説明します。「赤い花」の「赤い」の部分は形容詞ですが、これが「どの程度赤いのか」ということを説明します。例えば「とても(赤い)花」「世界一(赤い)花」「見たこともないくらい(赤い)花」「血のように(赤い)花」は全て、形容詞の「赤い」について、「どのくらい赤いのか」を説明している、副詞もしくは副詞の働きをする言葉のかたまりです。

3. 副詞の程度も説明します。「速く走る」の「速く」の部分は副詞ですが、これが「どの程度速く、なのか」を説明します。例えば「とても(速く)走る」「世界一(速く)走る」「見たこともないくらい(速く)走る」「わざと(速く)走る」は全て、副詞の「速く」について「どのくらい速く、なのか」を説明しているので副詞です。

要するに副詞は「動詞の様子」と「形容詞・副詞の程度」を説明する言葉だと言えます。

どうして補語には名詞と形容詞しか来ないの?

さて、ここで「補語にはなぜ名詞と形容詞しか来ないのか」という問いに戻りましょう。
補語に名詞が来る理由はわかりました。意味的に「主語=補語」、つまり補語は主語の中身を表すのが補語ですから、主語が必ず名詞である以上、補語も名詞になるのはとても自然です。

では形容詞はどうなのでしょう?
先ほども言った通り、形容詞は名詞の様子を説明します。この「様子を説明する」というのは難しい言葉で言うと「修飾する」ということです。
文法書を見るたびに「修飾」という言葉に悩まされてきたあなた。これからは「言葉の様子を説明する」と言い換えて「修飾する」という言葉を眺めると分かりやすくなりますよ。

修飾関係というのは実は意味的にイコール関係です。例えば「赤い花」というのは意味的には「花=赤い」という関係です。「赤い花」という修飾関係も、「花は赤い」という主語と補語の関係も、どちらも「花=赤い」という関係が当てはまります。
主語は必ず名詞です。主語と意味的にイコールになるのが補語なのですから、名詞とイコール関係になる形容詞が補語になれることがこれで証明できたことになります。

一方で副詞は名詞の様子は説明できません。名詞の様子を説明できない副詞は、名詞の中身を説明する語である補語にはなれないわけです。
例えば、アダムという人がいて、彼が何かの災害を乗り越えて、今は安全な場所にいるとき、
Adam is safe now.(アダムはもう大丈夫だ。)
と言います。Adam is safety now. とは言いませんし、Adam is safely now. とも言いません。

safe は形容詞、safety は名詞、safely は副詞です。「アダム=安全性という概念」ではないので、名詞の safety はダメです。またアダムは名詞なので、safely という副詞ではアダムの様子を説明できません。アダムという名詞の様子を説明できる形容詞、safe が補語に来るわけです。