赤ちゃん傷害致死事件 元少女に無罪 東京地裁

赤ちゃん傷害致死事件 元少女に無罪 東京地裁
k10010874751_201702131805_201702131806.mp4
4年前、当時18歳の元少女が、同居していた知人の女性の赤ちゃんを死なせたとして傷害致死の罪に問われた裁判で、東京地方裁判所は「司法解剖に基づいて元少女が首を絞めたと断定するのは不合理な推論だ」として検察の主張を退け、無罪を言い渡しました。
平成25年11月、東京・渋谷区のマンションで生後3か月の女の赤ちゃんが死亡しているのが見つかり、赤ちゃんの母親と同居していた当時18歳の元少女が首を絞めて死なせたとして、傷害致死の罪に問われました。

逮捕・起訴の有力な根拠は、血液の成分の分析などを基に首を絞められたと結論づけた司法解剖でしたが、弁護側の依頼を受けた専門家は、その見解を否定して別の死因が考えられると指摘し、見方が分かれていました。

13日の判決で、東京地方裁判所の家令和典裁判長は「法医学の専門家の間で血液の成分の数値を首を絞められたかどうかの指標に使えるという合意はなく、ほかの原因で死亡したときも数値が高くなることがあり、首を絞められたと断定するのは恣意(しい)的で不合理な推論だ」と指摘しました。

そのうえで、「赤ちゃんは脱水や栄養不足に加え、うつぶせに寝たことで死亡した可能性があるという弁護側の専門家の見解を排斥することはできない」として、無罪を言い渡しました。

判決は、有罪・無罪の判断に関わる死因の鑑定について、捜査当局に慎重さを求めるものとなりました。

検察庁「主張認められず遺憾」

判決について、東京地方検察庁の落合義和次席検事は「検察官の主張が認められなかったことは遺憾であり、判決内容を十分に検討して適切に対処したい」というコメントを出しました。

元少女「やっていないことはやっていない」

元少女は判決を前に、NHKの取材に対して「やっていないことはやっていない」と訴えていました。

元少女は、首を絞めた罪について、一貫して無罪を主張しています。身柄の拘束が3年余りにわたる中、今月9日、東京拘置所でNHKの取材に応じました。

赤ちゃんの母親とは、同じ店で働く予定で、事件の2か月余り前から同居を始めましたが、赤ちゃんの母親の知人から一方的に世話を頼まれ、母親はほとんど部屋に戻ってこなかったということです。

元少女は「赤ちゃんの世話を押しつけられて苦しくなっていて、かわいいという気持ちと嫌だなという気持ちが、てんびんにはかられているような感じでした」と話しました。

赤ちゃんが衰弱し、亡くなったことについては、「私や同居していた人にも責任があるので一生背負っていかないといけないと思っています」と述べました。一方で、首を絞めたという疑いを持たれたことについては、「やっていないことはやっていないのに、検察や警察は、本来の仕事の意味を忘れています。えん罪を生み出すのではなく、真実を見つけるのが仕事なのに、裁判で自分たちの立場を守ろうとしています」と批判しました。

そして、3年余りにわたって身柄を拘束されたことを振り返り、「成人式に出席できず、親に晴れ姿を見せることができず、悲しいです。親は私の言葉をずっと信じてくれました。本当にありがとうと言いたいです」と話していました。

「複数の医師で死因検討を」

血液の成分を基に死因を分析する手法は、複数の専門家によりますと、信頼できるかどうか評価が定まっていないということです。法医学が専門の千葉大学大学院の岩瀬博太郎教授は「血液の分析は証明されきっていない部分もあり、それを根拠とするとえん罪のおそれがある。日本では司法解剖を依頼された大学の研究室の教授が1人で判断するケースが多い。海外では専門機関の医師が複数で死因を検討して結論を出していて、日本でも公正公平な立場で複数の専門の医師が関わって結論を出すという環境にしていくべきだ」と指摘しています。