欧州連合(EU)離脱計画に関する英政府の法案(編集注、議会下院で8日、可決)に、信じがたい一文がある。「英国がEUに加盟していた間も英議会は主権を維持してきたが、英議会は常にそう感じていたわけではなかった」とある。なんたることか。
EU離脱に向けた法案成立に動き始めたことからも分かるが、英議会は常に主権者だった。だからこの英政府の主権を維持してきたとの認識は正しい。主権を失っていたのではないかとの考えは間違っていたと分かっているのに、それでも最も重要な貿易相手国との関係を絶ったり、自国が属する大陸の協議機関における戦略的地位を放棄したりする国があるだろうか。
しかし、これが英政府が今、やろうとしていることだ。英政府が友好的な離婚を望むのはもっともだ。「我々は、できるだけ自由にEUとの貿易を続け、互いの国の安全を維持すべく協力し、英国とEUが共有する価値観、つまり欧州および全世界で人間の権利と尊厳、民主主義、法の支配を促進し、国際舞台で力強い欧州の声を支持し、英国とEU間の往来を支援し続けることを望む」としている。移民の流入を管理し、EU司法裁判所から自由になることが「民意」だとして、政府は単一市場と関税同盟から離脱する計画だ。
英政府は離脱を巡る交渉でEUと合意にこぎ着けられるのか。その結果はどんなものになるのか。いかなる合意を取り付けるにせよ、英政府は5つの難題に対処しなければならない。
■議論の優先順位や相手の多さ難題
第1は、時間がないことだ。EU基本条約(リスボン条約)50条は「諸条約は、脱退協定の効力が発生する日から、あるいは離脱を巡り合意に達することができなかった場合は離脱を通告した2年後から、当該国に適用されなくなる……ただし、欧州理事会が当該加盟国と合意のうえで、この期間を延長することを全会一致で決めた場合は、その限りではない」と定めている。だが期間延長できる見込みは低いので、交渉期間は2年しかない。だが、実はもっと短い。企業にとっては、離脱の1年前には事態がどう変わるのか明確になっている必要があるからだ。つまり猶予は1年しかないわけで、英国の交渉力はどんどん衰えていく。