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News Up 錦織選手のような強打を! 夢に近づくスーツ

1月18日 13時01分

テニスの全豪オープンで、四大大会初制覇を目指す錦織圭選手が2回戦を突破し、順調に勝ち進んでいます。錦織選手のような力強いボールを打ちたい。そんな夢に近づくことができるスーツを広島大学などの研究グループが開発しました。身につけるとスイングスピードがアップするという夢のスーツ。どんなものなのでしょうか?

「人工筋肉」でパワーアップを

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そのスーツは、広島大学の栗田雄一准教授と、岡山市の医療用品メーカーが共同で開発しました。ラケットを振る際に最も働く胸の筋肉、大胸筋をサポートする「パワードスーツ」です。

パワードスーツと言えば、一般的には重いものを持ち上げるときなどに、電動モーターなどの力で体にかかる負担を減らしてくれるものです。

栗田准教授たちは「人工筋肉」に注目し、電気を使わず、スポーツにも活用できるスーツを開発しました。人工筋肉はゴム製のチューブでできていて、中に空気を入れると縮み、縮むことで引っ張る力が生まれます。縮むときに力を発生する仕組みが筋肉と似ていることから、人工筋肉と呼ばれています。

従来、エアーコンプレッサーを使って高圧の空気を送り込まないと力が発生しませんでしたが、このパワードスーツに使われている人工筋肉は人力で発生させる程度の低い空気圧でも力を生み出せる特殊なもので、最大2キロのおもりを持ち上げる力があります。

スイングスピードが5キロアップ

どのようにスイングスピードを上げるのか。

栗田准教授たちは大胸筋に、この人工筋肉を取り付けることで、ラケットを持った側に来たボールを打つ「フォアハンド」のスイングを強化できると考えました。

片方の靴底には空気を送り込むためのポンプ、腰には空気をためるためのタンクを取り付けます。プレー中の動きで靴底のポンプが踏まれ、タンクに少しずつ空気がたまっていきます。
そして、強いショットを狙うタイミングでラケットに取り付けたボタンを押すと、タンクにたまった空気が配管を通って人工筋肉に供給され、人工筋肉が縮むことで大胸筋がサポートされ、スイングが強化されます。

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実験では、スイングスピードの平均時速60キロだった男性が、パワードスーツ着用後は時速65キロに上がりました。

記者もパワードスーツを着用してみましたが、体育の授業でしか、テニスをやったことがない初心者にとってはボールを打つことだけで精いっぱいで、ボタンを押すタイミングとボールを打つタイミングを合わせることができず、うまく使いこなせませんでした。ただ、ボタンを押したときに人工筋肉に腕が引っ張られる感覚を感じることはできました。

栗田准教授は「初心者がこのスーツを使いこなすことは難しいですし、どのくらいスイングスピードが上がるかは人によっても違います。錦織選手並みの強いショットを打てるわけではありませんが、実力以上の強いショットを打つことができるので、テニスをする楽しみも増すのではないでしょうか」と話しています。

“少しだけ支援”がみそ

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栗田准教授は、人の手や指の動きをロボットに実現させる研究を行ってきました。そして人と機械の関わりへの興味から、人の運動を支援するパワードスーツの研究に取り組み始めました。

しかし、従来のパワードスーツはスポーツに応用するには高価なうえに、スーツ自体が大がかりで重く、体の動きを邪魔してしまうといった欠点がありました。

安価で軽く、体の動きを邪魔しないパワードスーツを開発しようと、栗田准教授が最初に取り組んだのが人の歩行支援でした。

片方の靴底にポンプを取り付け、反対側の脚の太ももの筋肉、大腿直筋に人工筋肉を取り付けます。片足がポンプを踏んだ瞬間に、反対側の足につけた人工筋肉が収縮して大腿直筋をサポートし、足を持ち上げるときに必要な筋力の10%程度を支援してくれるということです。

栗田准教授は「10%の支援というのは、ちょっと脚を前に踏み出したくなるくらいの支援です。100%支援してしまったら、筋肉を使わずに歩けますが、次第に筋力が衰えて、パワードスーツを使わないと歩けなくなってしまいます。自分の筋肉で動かすのだけど、動かしたくなるきっかけだけを与える支援というのも、おもしろいなと感じました」と話しています。

体を動かしたくなる技術開発を

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今、人が重いものを持ち上げるといった作業にパワードスーツは使われていますが、栗田准教授は、こうした肉体労働の多くは将来的にロボットに置き換えられていくのではないかと考えています。

一方で、人が体を動かしてスポーツを楽しみたいという欲求は根源的なもので、バーチャルリアリティなどの技術で、いくら臨場感のあるシステムができたとしても、人が体を動かす喜びは将来にわたっても変わらないのではないか、と言います。

栗田准教授は「技術で人の作業の負担を軽減することは有意義だと思いますが、体を動かすことは人の健康にとって、いいことだらけなのに今の技術開発の多くが、それをやらせない方向ばかりに進んでいるのは、どうなのかと疑問に感じる部分もあります。人工筋肉を取り付ける位置を変えれば、さまざまなスポーツに応用することができるので、多くの人が体を動かす楽しみを感じられ、スポーツをするきっかけになるような技術開発を目指していきたい」と話していました。

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