「あ〜ヒラに戻りてぇ、課長なんかやりたくねぇんだ!」
「○○さん(隣の課の55歳くらいのおじさんでヒラだが給料は課長より上)の方が俺より給与貰ってんのに責任がないなんてよ〜!」
ハゲてて、臭い。クチャラーでスーツズボンは擦り切れて色が変わっている。シャツはよれよれ。俺は仕事だから仕方なく付き合っているが、時折どうしようもなく我慢できなくなることがある。
このまえ、徹夜したことがあった。それなりに偉い人たちの前でプロジェクトの説明をする日の前日だった。既に資料は出来上がっていた。だが、その前日にお上の一声でプロジェクトの内容が大きく変わってしまった。それが夕方だった。分厚い資料をぜーんぶ作り直すにはその時点で終電で帰るのは無理だとわかった。だから俺は課長に聞いた。
「明日の打ち合わせは所内のもので、本当に必要な資料は限られています。それ以外の資料は事情を説明して口頭で訂正すれば納得して貰えるのではないですか?明日の目的は計画の細かいところの詰めではなく事案の共有です」と。事実、もっと大きな説明会は二週間後だった。
だが、課長はNOだった。
「上が許すと思うか?」と言った。
おれは「こういう経緯ですし、事情を説明して頭を下げれば済むと思います。家で寝たいです。」と言った。でも課長はNOだった。
課長は思い込みが激しく、相手の気持ちを決めつけるところがある。なお、元から下には厳しく上にはへこへこする軸のない人だから、上を必要以上に恐れて下にはパワハラで臨む傾向が年度当初からあった。おれと課長で合意している内容も、上に説明してダメだしされるとその場で叱責されるという”ありがち”な事も多い。理路が整っていないが押し切るために納得できないまま業務を進めることが多い。
朝6:30出発の仕事で、使用予定していた社用車1台(ボロい)が当日の朝になって、エンジンがかからなかったのだ。鍵を差しても鍵が回らずエンジンがかからない。幸い、同じ課員がもう一台の車を予約していたからその車に乗り換えて出発した。その課員には8:30の始業後に連絡して事情を説明し、エンジンがかかるか調べて貰った。
「今日は6:30出発の予定だが何時に来たのか?」
おれは6時だと答えた。バスも出てないからタクシーで駅から来たのだ。タクシー代だって支払われないから自費だ。
「そういう時は、もっと早く来るんです!」
と怒られた。
「鍵はグイッと回したのか!?」
おれは回しましたと言った。
「両手でグイッと回したのか!?俺が回したら回ったぞ!」
「両手では回しませんでした。そういう時間が無駄だと思ったので違う車で行きました」
「そういうときはグイッとまわすんだよ!!」
これはかなり大きな声で言われたから周りには聞こえていたみたいで、後ほど課長が頭のおかしい人だと皆によく知れ渡ったけれど、おれはその場は面倒臭いのでとりあえず謝り続けた。時間外手当もつかないのになぜ出発の30分以上前に来なければならないのか、無駄以外の何物でもないと思ったが、何を言っても無駄だと思ったため何も言わなかった。
まあ、あとは昼飯を食う時間を与えられなかったり、水分補給をさせなかったり、おかしい部分は色々ある。
基本的にコミュニケーションが他人のdisりなので、会話の内容がネガティヴなものばかりで、本当に疲れる。
こういう事情を同じ事務所の人に話をしていたら、あるとき、お偉い方の耳に徹夜事件の内容が届いたみたいだった。それでおれは呼ばれてお偉い方に事情を説明した。
俺は別に徹夜したことに不満は無かった。ただ、その徹夜が本当に必要だったのか、その判断の合理性(課長が必要以上に次長を恐れていること)と、「徹夜したことがバレるとまずいから残業は21時までだったことにして提出してくれ」という隠蔽の方が問題だと思っていた。
話は逸れるが、残業については電通の件があるまでは月に一度の書面決裁を受けていた。職員がそれぞれに残業した時間を記録しておいて、エクセルに時間と業務内容を入力したもので決裁を受ける。それに対して赤入れされたものが帰ってくる(30時間で申請して赤字で10時間、等)。その赤字の時間をシステムに入力する、という方法が取られていた。
タイムカードなんてものはない。部署によっては100時間で申請したものが10時間と赤入れされて帰ってきたり、160時間でも30時間が上限、といった状況だったと聞く。
それが電通の件があってすぐ、「システムへの入力はその日に″上司の残業命令によって″行うように」との通知があった。これにより、上司は残業を命令しなければならなくなったが、当然ながら命令する上司と命令せずになあなあにする上司がいる。俺の感覚では、今までは削られても数時間は残業代が得られていた人も、新しい様態に変化してからは命令されてないために一銭も残業代が貰えないという事態が発生しているのではないかと思う。
問題は、「業務改善によって生産性を高めよう」という意識が共有されてないことだ。
おれが課長に色々提案しても「じゃあ、偉くなるしかないね!ガッハッハ!」と言われるのみである。信じられないかもしれないが、今は各々が各々の仕方で進捗管理をしていて、それをマネージャーが把握していない。進捗管理という概念すら頭にないと思われる。
話を戻そう。
徹夜事件の件をお偉い方は問題だと認識して下さり、労働の対価をどこかで出すから入力するようにと言って下さった。課長も呼び出しを受けたようだった。
だがまたしても課長が、だ。
「おれはこんな残業してない日に残業をしたことにして入力するなんて認めない」と言う。「おれは違法性を認識した上で残業を命令したのだから、処分されたい」「自分で自分を公益通報したい」と言い出した。本当に今の職責に耐えられないらしい。
「残業しないと間に合わなかったでしょ?次長がそんなことを許しただろうか?その方が君の立場は危ういものになっていたと思う」と課長は言うが、「その旨を次長に確認しましたか?」と聞いてもしていないと言うし(聞くに聞けないのだろう)、「じゃあ、残業させたのは次長ということにもなりますよね」と言うと、直接の命令権者は俺だと言う。
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