政府は、東京都内にある大学の地方移転を促進する方向で調整を進めている。2月には山本地方創生担当大臣主導で、新たに有識者会議を設ける方針だ。文部科学省は長年、大学教育制度の改革に取り組んできたが、今回の施策は安倍政権が掲げる「地方創生」ともマッチしたものになる。
では、現状の大学制度はどのような問題を抱えているのだろうか。
まず、国公立大学と私立大学で問題点が異なることを押さえておきたい。国公立大では、海外からの留学生を獲得し、国際競争力を高めていくことが求められている。
ところが、急成長する諸外国の大学に後れを取っているのが現状だ。'16~'17年度版世界の大学ランキングで、東大は34位だが、年々順位は下落。アジア圏ではかつて3年連続で1位だったが、現在は5位に後退している。
一方私大では、少子化の影響をモロに受けて、学生集めに四苦八苦している。一時期、地方自治体と連携して郊外にキャンパスを移転する動きが盛んだったが、学生の人気を得られず、今では都心に戻ってきている。しかも、大学誘致に動いて巨額の財政負担で苦しんでいる地方自治体もある。
そのような経緯があり政府は私大を都内に留めつつ、国公立大を地方に移転しようとしているのだ。また今の安倍政権の幹部に国公立大出身が少ないことも、施策に多少影響を与えているだろう。
政府はいま行政機関の地方移転を進めているが、国公立大の地方移転もその一環として行っている。地方経済を動かす一大プロジェクトなので、私大の誘致で大損した地方自治体に国公立大を移転すれば大きな支援になる。
都会から離れた地方では、勉強や研究に専念できる環境が整っている。だから、国公立大の国際競争力の強化にもなるはずだ。
大学移転を主導する山本地方創生担当大臣は、米国コーネル大への留学経験がある。コーネル大は、日本でこそ名前が知られていないが、米国東海岸の名門8大学で成り立つアイビー・リーグに名を連ねる名門校である。
ニューヨーク州イサカ市にあり、ニューヨーク市からは400㎞も離れている。最も近くにある州の主要都市はシラキュース市であるが、それでも車で1時間ほどの距離にある「田舎」だ。
山本大臣はこのような環境を経験しているから、「田舎」で研究に励むことのメリットをよく理解しているのだろう。
国公立大の地方移転の前例としては、筑波大学を中心とする筑波研究学園都市がある。常磐道に乗れば車で東京から1時間強で着くこの都市のように、新たな研究学園都市を作ることも地方創生のひとつの選択肢だ。
筆者が注目しているのは、「特定地域大規模事業」と呼ばれるものである。この事業は、かつて首都移転を想定して作られたもので、すでに国土交通省設置法に枠組みは存在する。
この予算の配分については国交省に財務省と似たような権限が与えられているので、財源に厳しい財務省の目を気にせず大規模プロジェクトを組むことができる。
今は空前絶後の超低金利時代。未来への投資を行うには絶好の環境だ。大学改革と同時に地方でのプロジェクトを積極的に行えば、地方創生を大きく進められる。
『週刊現代』2017年2月18日号より