社会

【特集】〈時代の正体〉避難者の「11の質問」から見えるフクシマの現実

  • 公開:2017/02/11 02:00 更新:2017/02/11 12:36
  • 神奈川新聞


避難指示解除」を問う(3)意味をなさない回答


 「避難指示解除」に関する政府の住民説明会は1月29日、都内で開かれた。全町避難が続く福島県富岡町の町民88人が集まった席上、横須賀市に避難する男性が政府に直接、質問をぶつけていく。東京電力福島第1原発事故から6年。考え抜いた「11の質問」に対する政府の回答はしかし、「回答とは言えないものだった」-。

 横須賀市の佐藤信行さん(65)の質問が終わると、前方中央に座る原子力災害現地対策本部の総括班長がマイクを握った。手元の資料に視線を落とし、顔を上げない。

 「多岐にわたりますので、適宜補足をしながら、回答させていただきます」

 説明会の終了まで残り15分。総括班長は早口だった。

100%安全でない


 〈最初に「現状で100%安全か」というご質問がありました。残念ながら100%安全とは申し上げられません。ただ、限りなく安全確保できるよう、きっちり、万全体制で対応し、廃炉にもちゃんと取り組んでいることを申し上げたい。

 2点目の事故報告書は、政府事故調査委員会とかで検討されていまして、そういう意味で報告書はできています。

 3点目。「事故前の安心、安全はどこにいったのか」ですが、これまでのエネルギー政策の中で安心、安全については必ずしも十分説明できていなかったと思います。そういう意味で、福島第1原発事故を起こしてしまったことは、あらためておわび申し上げたい。〉


 総括班長の説明はここから「20ミリシーベルト」問題に入って行く。

 健康面を考え、政府は事故前、一般公衆の追加被ばく線量を「年間1ミリシーベルト」と定めていた。それが事故後は「年間20ミリシーベルト」になった。どうしてそうなるのか。富岡町の住民だけでなく、多くの国民が抱える疑問でもある。

 〈国際機関でも(年間20ミリシーベルトは健康影響のない数値として)評価されています。専門家の評価でも「年間100ミリシーベルトを超えると健康に有意の差が見られるが、それ以外は評価できない」とされています。

 そういった中で、われわれ(政府)としては「20ミリシーベルト以下であれば(大丈夫だ)」と。避難指示解除の要件ということで問われれば「20ミリシーベルトを下回る」とお答えしています。

 が、ご心配、ご不安ある方いらっしゃいますし、他の自治体でいえば、年間20ミリシーベルトを下がれば「即座に避難指示解除」ということではありません。かなり(空間線量が)下がってきた今の富岡町の線量レベルになったときに、解除のご相談をさせていただいています。〉

木で鼻をくくる答弁


 これが、いわゆる「官僚答弁」なのか。

 総括班長の回答の中に、自らが求めた「明確な根拠や基準」は一つもなかった、と佐藤さんは振り返る。

 質問の3番目で佐藤さんは「福島第1原発1、2、3号機ともに原子炉建屋の使用済み核燃料プールに核燃料が残っており、仮に東日本大震災のような大地震が再び来たら、安全の説明が付かないのではないか」と問うた。その回答も「きっちり、万全体制で、ちゃんと対応する」。形容詞を並べた精神論でしかなかった。


 「1ミリシーベルト」と「20ミリシーベルト」の問題も同様だ。なぜ20倍にも緩和したのか、その根拠は何かという根本的な問いに対しても政府を代表しての答弁は、原子炉等規制法にすら触れない。「国際機関や専門家で評価されているから問題ない」というあいまいな回答に終始した。

 説明会終了まで10分を切った。木で鼻をくくったかのような「官僚答弁」は、わずかな時間の中でその後も続いた。

直ちに影響はない


 〈5番目。住民に線量計の携帯を義務付けるつもりはございません。ございませんが、線量を実際に測ってお示しさせていただいていますし、「目に見えないものなので心配」と言う方もいらっしゃいます。線量計の希望があればお貸しします。

 (体内に入り込んだ放射性物質の量を測る)ホールボディーカウンター検査についても、義務付けはしていません。ただ、福島県内でも5カ所だったと思いますが、検査できる体制は整えています。〉

 〈7番目の帰還の決定。帰還の決定は、あくまでも国であり、具体的には原子力災害対策本部が決定します。放射線量の数値や生活環境の整備状況などを総合的に判断して、最終的に原子力災害対策本部が決定します。

 ステップは明確に決まったものはないが、これまでの例でいうと、町、町議会の全員協議会、住民の方々への説明会等を通じて説明させていただき、ご意見をいただき、課題については相談しながら、最終的に判断します。〉

 〈八つ目の避難指示の3区域の公平化の話ですが、賠償の関係で言うと「公平とは何か」というところはなかなか難しいところです。賠償のシステムをつくっているのは、賠償の審査会で検討して決まっており、そこで限りなく公平性が担保できるよう検討して、いまの制度になっています。〉

 〈九つ目。帰還困難区域に接する場所の管理ですが、隣接地域については「特に心配」という声も上がっていますので、重点的に除染し、完了しているところです。個別の自宅前には、バリケードなどを設置して入れないようにしております。きわのところに接したからといって、直ちに影響がないように対策を講じているところであります。〉

わずかな延長もなし


 総括班長は「帰還の決定権は政府にある」と強調した。そして、放射線の影響を懸念する声には、お決まりの「直ちに影響がない」で応じた。

 帰還決定は一時帰宅ではない。10年後、50年後、100年後。はるかな時間、その地で暮らすことを意味する。そうであるならば「直ちに影響がない」という言葉に、どんな意味があるのだろうか。

 「なぜ、こんな状況で避難指示を解除できるのか」。回答を聞いていた佐藤さんが立ち上がり、再び質問を試みた。

 それを町職員が「閉会の時間が近づいておりますので」と制止した。「後ほど、別途ご質問いただければと思います」。何十年も先のことを決めるのに、わずかな時間延長も許されない。

 結局、残りの質問事項は町職員が回答し、再び、原子力災害現地対策本部の総括班長がマイクを握ることはなかった。

 説明会が終了したとき、午前11時半を指していた。進行予定きっかりだ。

 司会の町職員がマイクで告げる。「会場の都合があり、これで住民説明会を終わらせていただきます」

 会場出入り口の扉が一斉に開いた。前方中央では、早くも経済産業省の官僚がコートに袖を通している。周囲では、町の職員らが机や椅子を片付け始めた。

 午前11時50分。町民らと立ち話をしていた佐藤さんが周囲を見渡すと、政府職員は1人も残っていなかった。

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