【特集】〈時代の正体〉避難者の「11の質問」から見えるフクシマの現実
- 公開:2017/02/11 02:00 更新:2017/02/11 12:36
- 神奈川新聞
「避難指示解除」を問う(2)根拠のない政府方針
東京電力福島第1原発事故から丸6年を前に、政府が開いた「避難指示解除」に関する住民説明会。福島県富岡町の町民88人が集まる中、横須賀市に避難している男性は政府の中央官僚らに「問い」を発し続けた。住民の理解を得た上で、帰還を決定してほしい-。
説明会開始から1時間半。町民の視線は、最前列右端の佐藤信行さん(65)に注がれていた。家族とともに神奈川県に避難したのは、事故直後だ。生活はあの日から一変したままだ。
「富岡町避難指示解除に対しての国への確認事項」
そう題して始まった質問は全部で11項目。4項目以降、質問の中身は「帰還後の町民生活」に及んだ。マイクを握った佐藤さんが続ける。
なぜ核種測定しない
四つ目。核種測定をなぜしないのか。ちゃんとデータで示してほしい。「ベクレル」や「セシウム」だけでなく、原子の周期表に出てくる原子番号1~100番のうち何が含まれているのか。核種をはっきりさせるべきだ。「線量が高いから除染する」と政府は言うが、線量が高い理由は何か。高線量の物質は何か。物質の成分、核種、除染前と除染後では同じものか、違うのか。これを明確にせず、どうして安全、安心と言えるのか。
五つ目。帰還後、住民に線量計の携帯を義務付けるのか。被ばくの管理をどうするのか。線量計を付けさせて監視するのか。
六つ目。(体内に入り込んだ放射性物質の量を測る)ホールボディーカウンター検査を義務付けるのか。基準値を超えたら、どうする? 被ばくは線量計で確認できるが、体内被ばくは致命的だ。特に、重金属は体内にとどまって排出されないと聞く。
意思決定はどうする
その後、7番目の質問で佐藤さんは「帰還の決定は誰が行うんですか。その具体的なステップはどうなっているんですか」と迫った。
「避難指示解除の判断は富岡町? 国や福島県からの指示で動くんですか? それとも富岡町として(独自に)判断すれば、帰還するんですか?」
安全、安心。肝心の根拠が明らかにされないまま、「帰還」を急がされている-。その点にこそ、会場の町民にも言いようのないわだかまりがある。
佐藤さんが7番目の質問を続けた。
「(帰還)決定の前に、住民に対して意見を聞いて判断するんですか。『住民が理解できた』との確認方法は? アンケートですか、投票ですか。会場で手を挙げるんですか。住民の意見が異なった場合はどうするんですか。誰が、どういう方法で決めるんですか。その具体案を教えてください」
横須賀市での生活は長きにわたるが、佐藤さんの憤りは消えたことがない。実際、説明会の後の取材でも「町民も黙って町の言うこと、国の言うことをただ聞いてるだけじゃあ、だめだ。もっと思っていること言わねぇと」と語った。避難から6年。事あるごとに、そう繰り返してきた。
説明会の日、最前列で質問する佐藤さんは時折、会場全体を見回した。質問は政府や国に対する追及であると同時に、どこか控えめに映る町民への叱咤(しった)激励だったのかもしれない。
それに呼応するかのように、佐藤さんの後方では若い女性がうんうんと小さくうなずき、会場の端からも「そうだ」という声が聞こえ始めた。そして、佐藤さんの質問が終盤に差し掛かると、その声はいよいよ大きくなった。
帰還への具体策は
八つ目。3区分の公平化について。「帰還困難、居住制限、避難指示解除準備区域、公平に平等に扱わなければならない。帰還、復興はこれが前提」。これは、平成24(2012)年9月1日、町長が住民説明会で言った言葉だ。これを国は聞いているか。国の意見としてはどうか。
九つ目。帰還困難区域と接する場所の管理。道路を挟んで、こっちは帰れる、こっちは帰れない、となる。手を伸ばせば、帰宅困難区域に触れられる。子どもはよちよち歩いて行ける。どうするのか? 緩衝地帯をつくる案はどうなっているのか。風が吹き、雨が降って、水が流れてきたらどうするのか。そこには汚染物質が含まれている。具体的に、どうやったら安心、大丈夫と言えるのか。どうやろうとしているのか。教えてほしい。
10番目。帰還に関するプログラム作成。解除前にアクションプランを作って、住民が内容を理解し、その都度、照合して進むべきだ。帰還の諸条件、基準値があって、それをクリアできたら帰ろう、と。住民が理解しないとだめ。「理解しましたね」「納得しましたね」「合意しましたね」というステップ表を事前に出すべきだ。町や国が一方的に説明したから帰還していいというものではない。
11番目。帰還後の生活マニュアル作成。帰還後、安全に生活できるための指導事項をきちっと作って。例えば、水道水の使い方やごみの処理方法、庭や畑、土、花の扱い方、川での禁止事項などだ。
6年間の思いを凝縮
11項目を質問すると告げた際、住民と向き合う政府や町の職員たちからは「長いな」という反応があった。しかし、この6年近い日々を11項目に凝縮して語ることが、本当に長いのか。
質問の締めくくりに佐藤さんは言った。
「最後にお願いです。今回の住民説明会を終えたとして、いきなり富岡町が避難指示解除に進むことのないようにお願いしたい。項目ごとに基準値、判定値、条件、根拠を明確にして、それを達成したか否か、クリアしたかどうかを確認した後、結果データを住民に示して、住民の理解を得た上で、帰還決定を行ってもらいたい」
この日、2度目となる大きな拍手が包んだ。立ち上がって手をたたく住民もいる。
中央前方では、復興庁の参事官が小刻みに右足を足踏みさせていた。説明会の終了まで残り15分。会場の時計は午前11時15分を示していた。
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