【論説】「安倍1強」政権を攻めあぐねていた野党側が「隠蔽(いんぺい)政権」と追及している。最も深刻なのは、アフリカ・南スーダン国連平和維持活動(PKO)部隊の「日報」を巡る「戦闘」問題である。自衛隊員の命がかかっている。現場感覚の希薄な対応は許されない。
日報はPKO部隊の活動状況を記したもの。このほど一部を防衛省が公表した。首都ジュバで大統領派と反政府勢力の対立が再燃、270人以上が死亡するという大規模武力紛争が発生した昨年7月の状況だ。
日報は「戦闘」と表記。「戦車や迫撃砲を使用した激しい戦闘」「激しい銃撃戦」などと生々しい状況が記録されている。部隊の宿営地近くで銃撃戦が激化。隊員の生命が危険にさらされればPKOが続行不能になる。そんな可能性にも言及している。だが、昨年7月当時、中谷元・防衛相は「散発的に発砲事案発生」などと表現していた。
この日報は昨年9月に情報公開請求されたが、防衛省は「廃棄した」として不開示とした。にもかかわらず、自民党の河野太郎衆院議員に再調査を求められると、別の部署で電子データとして保管されていたと今月初めに公開した。ところが約1カ月間、稲田朋美防衛相にその保管事実を報告していなかったのだ。
政府は起きている状況を「戦闘」ではなく「武力衝突」だと解釈し、PKO派遣5原則にも抵触しないと認定。南スーダンPKO派遣を延長したのが昨年10月である。11月以降は、安全保障関連法に基づく「駆け付け警護」などの新任務を初めて付与された部隊が現地に赴いた。
つまり、この重要な時期に「戦闘」を記した日報が公表されると、国会で批判を招く恐れがあり、「不都合な事実」を隠したままで実行された。意図的な情報隠蔽、そう判断されても仕方がない。
南スーダンは「大虐殺が起きる恐れが常に存在する」と国連事務総長特別顧問が警告する状況にある。しかし、稲田氏も「武力衝突」だとし「法的な意味での『戦闘行為』ではない」と繰り返し説明している。
政府は法的な戦闘行為を「国際的な武力紛争」と規定。「武力紛争」は「国家または国家に準ずる組織(国準)の間で行われる争い」と定義する。南スーダンの反政府勢力は「支配領域や系統だった組織がない」ため「国準」に該当せず、政府軍と戦っても「戦闘行為」ではないとの論法だ。
稲田氏は海外での武力行使を禁じた憲法9条を念頭に、8日には「9条の問題になるので、武力衝突という言葉を使っている」と答弁した。問題回避へ表現を置き換えた。まさにこれが本音ではないか。野党は防衛相の辞任を要求した。
防衛省制服組トップの統合幕僚長は、政府見解に合わせて「戦闘」と「武力衝突」を使い分けるよう指示した。これでは隊員のリスクが増すばかりである。家族の不安と不信感をどう受け止めるのか。国会でこの問題を徹底究明すべきだ。