南スーダン日報 国民に届かぬ「不都合」
もしこの資料が開示されていたら、「駆け付け警護」の新任務を付与した南スーダン国連平和維持活動(PKO)部隊の派遣はどうなっていたのか。少なくても国会の議論が深まったことは確かだ。
廃棄したとしていたPKO部隊の「日報」が見つかり、防衛省が一部を公表した。文書管理の在り方にもあきれるが、問題なのはこの資料の中身だ。
公表された昨年7月11、12日分の日報に記述されていたのは、緊迫する南スーダン情勢。この時期に首都ジュバで起きた大規模な戦闘に、首都に宿営地を設ける派遣部隊が巻き込まれる危険性を指摘していた。
さらに、これ以上治安が悪化すれば「UN(国連)活動の停止」の可能性にも言及していた。
陸上自衛隊のPKO活動は安全保障関連法の成立で新たな局面を迎えた。武器使用を伴う「駆け付け警護」は、一歩間違えれば海外の武力行使を禁じた憲法に抵触する恐れがある。
このため、南スーダン情勢の分析が新任務の付与に欠かせない。「陸自派遣の前提となっているPKO参加5原則が維持されているか」「自衛隊のリスクは」。昨年の国会の焦点はそこにあった。
政府側は「首都は比較的安定している」と繰り返し、現状認識についても「衝突」と呼んで、「武力紛争が発生したとは考えていない」と答弁した。
だが、日報に並ぶ文言はそうした認識と懸け離れた「戦闘」「攻撃」「砲弾落下」など。菅義偉官房長官は「文書を隠蔽(いんぺい)する意図は全くなかった」としているが、政府にとって不都合な情報を隠したのではないかという疑いを捨てきれない。
行政文書を軽く見る政府の姿勢には前例がある。集団的自衛権行使を容認する憲法9条の解釈変更をめぐり、内閣法制局が内部検討の経緯を示した議事録などの資料を公文書として残していなかったことが一昨年に発覚した。
あくまで「内部文書」扱いということだが、戦後の安保政策の大転換だっただけに、意思決定の過程をたどることのできる文書は後世に残さなければならない。
安倍晋三首相は「歴史の評価は歴史家に任せるべきだ」と常々語っている。それならばなお、歴史的検証を可能にする資料への謙虚な姿勢を求めたい。
特定秘密保護法の施行で、秘密文書が公開されずに廃棄されたり、行政文書ではなく私的メモとして公開対象としない「逃げ道」への懸念が指摘されている。不誠実な対応が続けば、国民の不信は増すばかりだ。
(2017.2.9)
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