社説

PKO日報問題/派遣の正当性が問われる

 国民にはまるで「禅問答」のように映ったのではないか。「戦闘と記されているのに、戦闘ではない」−。南スーダンで国連平和維持活動(PKO)に当たる、陸上自衛隊の日報に記述されていた「戦闘」を巡る問題である。
 昨年7月、南スーダン政府軍と反政府勢力との間で、陸自の宿営地のある首都ジュバで大規模な交戦があった。その際、陸自の部隊が作成した日報には生々しい記載とともに、「戦闘」という言葉が繰り返し使われていた。
 にもかかわらず、稲田朋美防衛相は国会答弁で「法律的な意味での『戦闘行為』はなかった」と強弁した。「一般市民を殺傷する行為はあったが、国際的な武力紛争の一環としてのものではなかった」からだという。
 戦車やヘリコプターなど武器が使われた上、数百人もの死者が出て、陸自の部隊も宿営地以外での活動を一時見合わせたというのに、である。あまりにも実態と懸け離れているのではないか。
 政府は海外での武力行使を禁じる憲法9条や、「紛争当事者の間で停戦合意成立」などを参加条件とした「PKO5原則」を踏まえ、南スーダンで起きたのは「戦闘行為」ではなく「武力衝突」という立場を貫いてきた。
 ところが、日報の中では「戦闘への巻き込まれに注意」「最悪のケースを想定した対応」といった記載があり、現場が緊迫した戦闘状態と受け止め、相当の危機感を持っていたことがうかがえる。
 「憲法9条との問題があるから、『戦闘』という言葉を使わないのか」。野党がこの矛盾を突くのは当然のことだ。実際、稲田防衛相は「憲法9条上の問題になる言葉を使うべきではないことから、武力衝突と使っている」と微妙な答弁をしている。
 もっと早く日報の内容が明らかになっていれば、南スーダンへのPKO部隊の派遣延長や、新たに付与された任務「駆け付け警護」などを巡る国会審議は、別な展開になっていたのではないか。
 日報は昨年10月にフリージャーナリストから情報開示請求があったが、防衛省は12月2日付で、「破棄済み」を理由に不開示決定とした。その後、河野太郎衆院議員(自民)の再調査の要求を受けて改めて捜した結果、同26日、パソコンに電子データが残っていることが判明したという。
 それから1カ月後まで防衛相に保管の事実を伏せ、今月7日に公表した。防衛省は開示範囲の調整に時間がかかったと釈明するが、その迷走ぶりは文書管理のずさんさを通り越して、疑念を生じさせる。野党から「隠蔽(いんぺい)」と追及されるのも仕方ないだろう。
 これでは、南スーダンへのPKO派遣の正当性が問われかねない。もはやPKO5原則自体、形骸化しているのではないか。国会で派遣の是非を含め徹底議論すべきだ。


2017年02月11日土曜日


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