米国は第2次世界大戦後、国際通貨秩序を再構築したブレトンウッズ会議で英国から基軸通貨国の地位を奪った。当時英国はポンドの地位を守るため、当代最高の経済学者、ケインズを交渉代表として派遣した。しかし、ケインズの華麗な発言と知識も米財務省の無名官僚の強引な主張の前では歯が立たなかった。フランスのド・ゴール元大統領は「世界大戦で廃墟になった世界がとんでもないことに米ドルにあまりに多くの特権を与えた」と憤慨したが、国際舞台では力こそ正義であることはどうすることもできなかった。
米国はその後、70年以上にわたり基軸通貨国の特権を享受した。基軸通貨の利点は「シニョリッジ効果」で説明される。1ドルの原価で100ドル紙幣を刷れば、99ドルの貨幣発行益を得る点を指す。米国は特権を享受する代わりに、世界の消費市場としての役割を果たし、「世界の分業体制」を構築した。米国の貿易赤字はそうした特権の副産物だ。
トランプ米大統領は米国が享受する特権には見向きもせず、他国の為替操作で米国が搾取されているというとんでもない主張を行っている。米国での雇用減少は中国が雇用を盗んだからだと騒ぎ立て、外国企業に米国への工場設置、米国人の雇用、米国製部品の使用を強要している。
国富増進のために輸出を促進し、輸入を抑制しようという政策は18世紀まで流行した重商主義にさかのぼる。基軸通貨国で世界最大の経済大国が植民地争奪戦、世界大戦に帰結した重商主義路線に向かおうとすることは世界平和を脅かす選択だ。