80年代、「超口語体」で雑誌にコラムを書いた人は、今のネット社会をどう思う?
2017/2/11 12:01 ネタりかコンテンツ部
誰もが文章を書く時代です。
しかし、ブログやツイッター、LINEなどで書かれる文章は、従来の小説や評論の文章とは異なり、会話をそのまま文字起こししたような文章です。
興味深いことに、多くの人は国語の授業で作文を習っているにも関わらず、そういう文章を選ぼうとしません。
もっとくだけた、話し言葉に近い文章がインターネットには溢れています。
それに近い文体を、1980年代に雑誌で展開していた人がいました。
カーツさとうさん。
1981年、雑誌の投稿をきっかけにライターデビュー。宝島、週刊プレイボーイ、ホットドッグ・プレス、TVブロスなどの雑誌にコラムを執筆。その文章は「超口語体」とも称されました。
超口語体とは、たとえばこんな感じの文章です。
ったく、いつの間にやら5月の4日が休みになってたんだな。おらぁそんなことちぃーっとも知らなかったよ。おかげで国民のみなさまの中には、「ゴールデンウィークは10連休なの、思いっきりセックスしちゃうわ」などというバカが続出したらしいな。それに較べて、このワタシ佐藤克之ときた日にゃ今こうやってSFアドベンチャーの原稿を書いてる日が5月5日のこどもの日ときたもんだ。しがない自由業、世間の浮き草のオレにゃ休みもへったくれもないっていうワケだ。
(佐藤克之(1989)『カーツ佐藤ののべつまくなしバカ』徳間書店、p32)
読者に直接話しかけているような口調、「ったく」「ちぃーっとも」など、話し言葉をそのまま用いたかのような表現が特徴的です。それは今のインターネットで書かれる文章に近いものがあります。
このような文章はどうやって生まれたのでしょうか? 現在のインターネットへの印象を含めてインタビューしました。
とにかく編集者にウケたかった
──カーツさんは友人に語りかけるような文体が特徴的です。なぜこの書き方を選んだのでしょうか。
そっちのほうが読んでくれるだろうな〜、と。最初のころはもっとちゃんとした形式で書いていたと思います。編集者が喜んでくれるので、やっているうちにエスカレートしていったというか。とにかく「最後まで読んでもらう」ということを意識していました。
──当時、自分の文体に手応えはありましたか? 「これは新しいぞ」というような。
なるべく新しいほうが良いだろうな、という意識はもちろんありましたが、大事なのは最後まで読んでもらうことです。だから、若い人でも最後まで読めるような簡単な文章を心がけていました。
当時は難しい言葉で文章を書いて、アタマを良く見せようとするのが流行っていました。でも、そういうのって好きな人じゃないとすぐ飽きちゃいますよね。だから自分は娯楽に徹しようと。
あと、書いているといつも「読んでる人、ついてきてくれてんのかなー?」と不安に思っちゃうんです。だから、途中で意味のないギャグなんかも入れるようにしていました。心配性だったんですよ。
──どういう読者層を想定していたんですか?
想定していたのは、自分と同じぐらいの知能の層、ですかね。ただ、読者として一番意識していたのは、担当の編集者ですね。いやらしい部分もありますが、目の前で最初に読んでくれるこの人にウケるのかどうか、というのが本当に知りたかった。
今はメールでやり取りしますが、当時は原稿を直接手渡ししていたんです。だから編集の人は、渡された原稿を目の前でパラパラと読むんですね。そして、読みながらニヤニヤしはじめたら、僕としてはもう「やった!」と。
だから、反応が見えないという意味で、ネットはもちろんFAXが登場した時点で既にもう「FAXかよー!」と僕はなってました。便利は便利なんですけどね……。
──最初は雑誌への投稿が始まりなんですよね?
当時は雑誌の「宝島」で、いつも文章の投稿募集をしていたので、原稿用紙5枚くらいのものを送っていました。橋本治さんの『桃尻娘』という小説を読んで、「こういう文章が書きたい!」と思っていたので、その頃の文章はすごく影響を受けていた気がします。
最初の投稿が採用されてから、連載が決まるまではトントン拍子でした。当時は現役女子大生のエッセイ『ANO・ANO』という本がベストセラーになっていましたし、きっとそういう時代だったんだと思います。
──こういう文章(超口語体)に対する世間の反応は?
無反応です。ファンレターも「面白かったです」とかしか書いてないですし。反発というのも、直接はまったく聞こえてこなかったです。嫌いな人もいたとは思いますが。
プロになりたいというより、ただ書きたかった
──SNSなどのネットの文章について、どう思っていますか。
今の人は文章を書くというより、喋ったことをそのまま記述している感じですよね。たとえば誤字・脱字をしたとき、物書きなら修正をしますが、SNSなどは「あ、間違った!」と、間違ったという事実そのものを書くことを好んでいる印象です。
──今の人がSNSに投稿する気持ちと、カーツさんが雑誌に投稿した気持ちには、共通する部分もあると思います。
投稿へのモチベーションは、プロになりたいというより「書きたいから」というのがほとんどだったと思います。
自分が浪人していたときは、“遊んでいる大学生”へのコンプレックスをぶつけていました。よく覚えているのが、予備校に向かうバスで、偶然高校の同級生と乗り合わせたとき。彼らが「俺たち、今から海に行くからよっ!」って言うんです。ほんとアタマにきましたね。
でも、そういう怒りをぶつけたくても、当時はSNSなんか無いですからね。だから雑誌に、虚勢を張った自分を作って投稿していた気がします。
──最近のブログについてはどう思っていますか。
最初の印象は「文章」というより、「日記」ですね。「日記を書いて公開する」なんて物凄いことするなぁ、と思ってました。僕らのころは、日記は誰かに見せるものではありませんでしたから。鍵をかけて引き出しにしまって、誰にも見せないようにしておくものを、壁新聞にして全世界に公開してしまうのはすごいなって。
それと写真。料理をいろんな角度から撮ったり、自分を撮ったりと、写真の多さは印象深かったですね。プロが撮ったものじゃない写真がいっぱい使われているのも、なんだかすごいなぁ、と。雑誌ではありえないですからね。
今でも親指シフトで文章を書くというカーツさん。
──SNSを自身でも活用されていますか。
サウナに関する団体に参加しているので、そのTwitterアカウントだけは持っています。個人でやっているのはFacebookだけですね。それとLINE。
LINEは複数人へ同時に連絡が取れるので、すごく便利です。そりゃ駅の伝言板もなくなるな、と思いましたよ。だって伝言板って、機能的には江戸時代の高札とかとたいして変わんないですからね。LINEで一気に進歩しましたよね。
でも、こう考えると、今の人って「書く」ことを本当にたくさんやっていますよね。Twitterでいっぱいつぶやく人がいますが、実際に言葉を口に出す「一人言」って、絶対もっと少なかったはずですよ。
──ある時期、「ネットが紙の出版を凌駕するのでは」という声が強かったと思いますが。
紙が縮小傾向にあるというのは間違いなく、電車に乗ってもマンガ雑誌を読んでいる人すら見かけません。ジャンプとかも部数としては売れていますが、みんなどこで読んでいるのか。スマホを見ている人ばかりになりましたよね。
写真や動画といったコンテンツも、スマホに合わせた縦型のものが登場してきていて、すごい時代がやってきたなぁ、と思います。
これから10年でさらにとんでもないことになるはずですよ。だって20年前には、「常時接続」すら考えられなかったわけですから。電話をかけていると、インターネットってできなかったんですよ。信じられないですよね。
──ありがとうございました。
おわりに
カーツさんと話していて印象的だったのは、「なるべくわかりやすく」「編集者にウケたいと思って書いていた」という部分です。
「ウケたい」というのは、今の時代であれば「いいねを押されたい」にも言い換えられるのではないでしょうか。「いいね」は情報ではなく、感情です。
記事の冒頭で、「なぜ作文を習っているにも関わらず、そういう文体を選ばないのか」と書きましたが、読者の感情に訴えようとすればするほど、こういう文体に近づいていくのかもしれません。
カーツさんは1990年に出版した文章の書き方を指南する『文章読本』(評伝社)の「終章」でこう書いています。
文章なんてのは、何でもとにかく、好き勝手書きゃいいんだよ。その好き勝手やってるウチに新しい工夫だとか、新しい理論だとか、そういうことが生まれてくんだろ。
(中略)
文章とか文とか、文字っていうのは、もともと会話みたいなものを記録する道具として生まれてきたもんでしょ。だから、会話とともに進化・発展はしてきていた。
ところが、ここにきて、会話の進化に比べて、文章の進化の仕方が非常に遅れてるんだよな。(佐藤克之(1990)『カーツの文章読本』評伝社、P225-226)
その理由は、文章はこう書かなきゃいけない、というような「権威的なものの抑制」によって起こっているとカーツさんは書きます。そして、「まずは言葉と同じくらいの進歩まで追いつかなきゃいけない」と。
だから、自由に書け、と。それぞれが自由に書いて文章を盛り上げていこうと主張しています。
終章の最後はこう締め括られていました。
これから先、文章がナウな時代になるハズである。
(佐藤克之(1990)『カーツの文章読本』評伝社、P229)
ブログやツイッター、LINEで誰もが自由に文章を書くようになりました。「ナウな時代」はすでに訪れています。
(文・取材:菊池良)
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