朝に叫ぶのほどつらいものはない。近所迷惑以外の何物でもないよね。でもそういう常識外れの人ってなぜか意外と近くにいるもんなんだ。僕もこないだ見てしまった。朝早くに叫ぶおばさんを。
早朝おばさんの話
最初に書いておくがこれは紛れまない事実だ。確かに少し誇張して書くかもしれないけど内容的には本当にそのまんまだよ。
朝早くに声が聞こえたんだ。
「あら~寂しくなるわね」
なんの話だろう。僕は別れ話の夢を見ているんだろうか。そんなことを考えながら話を聞いていた。もちろん外は真っ暗だ。そんな早朝に外で会話すること自体おかしい。でも目が覚めていくにつれ僕の耳にははっきりと別れ話の声が聞こえた。
「でもね、向こうに行っても頑張って、」
たぶん朝早くに家を出て遠いところに引っ越すんだと思う。飛行機の便の関係で早朝に家を出ることになったんだろうね。話しているのはおばさんだった。でも出かけるのが誰なのか分からない。勝手な予想だけど息子とかじゃないかな。
自分が今まで大切に育ててきた息子が旅立っていくのは辛いだろうね。
でもね、まあそのおばさんの声がでかい。
「なんかあったら連絡してちょうだい、気を付けてね。また会いに行くから。バイバイ。そう、あんたあれ持った?手袋もっていかないと寒いわよ、ちょっと待っててね。あ、向こうで買えばいいのよ。待って、お小遣いあげるから。ホントに気を付けてね、バイバイ。」
この後が長い
この後が長いんだ。バイバイって言ってるのに全然出ていかない。ずっと会話している。まあ正直に書くとおばさんの独り言にしか聞こえないんだけどね。
僕はもうぱっちり目が覚めてしまった。
もう眠気はどこかへ吹っ飛んでしまった。
とにかくうるさいんだもん。
でもうるさい、というほど僕には勇気がない。小心者だからそんなことは言えない。だからその話をこっそりと聞くしかないんだよね。
何分経っただろう。気が付くとおばさんの声は止まっていた。そして今日も何気ない、いつもと変わらない一日が始まった。あのおばさんはどうなったのかは分からない。
そのまま息子が去っていく姿を思い出しては家の中で涙しているのかもしれない。とにかく異様な静けさが残る朝だった。
僕も気が付くと寝てしまったから、正直夢だったのかもしれない、と思い始めたんだ。この出来事は何だったんだろう。あれ以来、おばさんの声は一度も聞いていない。
もしかして寂しすぎておばさんも一緒に引っ越したのかな。
早朝おばさんがいなくなった今、響き渡るのは僕がブログ更新するキーボードのカタカタ音だけである。