地球では様々な化石が見つかり、古代にどのような生物が生まれ、そして絶滅していったのか知ることができます。ですがそれもある一定の大きさのものだけであり、ウイルスのような骨もなく、ごくごく小さいものでは化石となることはありません。ではウイルスが一体どのような変遷を辿ってきたのか知る手がかりはないのでしょうか?
レトロウイルス
レトロウイルスはDNAではなくRNAを遺伝情報としてもつウイルスの中で、逆転写酵素をもつものをいう。
通常、遺伝子はDNAからRNAを作り出し、そのRNAをもとにしてタンパク質を作り出す。
これをセントラルドグマと呼び、生物において基本の仕組みとなっている。
だがこのレトロウイルスはRNAから逆にDNAを作り出す酵素をもっており、その酵素のことを逆転写酵素という。
そのためレトロウイルスは細胞内に侵入すると、まず自分のRNAからDNAを作り出し、そのDNAを宿主細胞のDNAに組み込み、自分を合成させるように働く。
このレトロウイルスを引き起こすものの代表格がHIVである。
レトロウイルスはいつからいるのか?
オックスフォード大学の研究チームは、このレトロウイルスがいつからこの地球上にいるのか解明しようとしている。
これまでにもこの謎に挑んだ研究はあるのだが、化石のような時代を指し示すものがあるわけでもないため、なかなか研究が進んでいなかった。
これまでの研究では、レトロウイルスは比較的新しいウイルスであり、1億年くらい前に発生したのではないかと考えられてきた。
そこで研究チームはウイルスの遺伝子データを近縁種と比較し、さらにウイルスと宿主の関係から研究を進めた。
研究結果は?
その研究により割り出したレトロウイルスが発生した年代は4億5000万年前とこれまでの推測よりも古いものだった。
もしそれよりも後の年代に発生したのであれば、一つの起源に限定されるはずである。
逆にそれよりも前の年代に発生したとなると、宿主となり得る脊椎動物が存在しない古生代となるからだ。
それ以上に4億5000万年前は様々な生物が出揃い、海から陸へ移動し、そして脊椎動物の祖先がコロニーを形成し生活していた時代なのであり、現在まで続く時代の始まりなのである。
もしかしたらこのような古代に思いを馳せる研究により、不治の病であるエイズの治療法が見つかるのかもしれない。
研究はいくつかの方面から進めるのが普通ですが、ウイルスのように化石がない場合、遺伝子データから探るというのは強力なツールになりえます。実際、我々人間のルーツを辿る際にも、ミトコンドリアの遺伝子を解析し、最終的にアフリカにたどり着いたという『ミトコンドリアイブ』のは有名な話です。
今回はそれに変わる『HIVイブ』を探す研究だったというわけです。しかしそれが4億5000万年も前だったとはなかなか壮大な話です。ただ気になるのは、それほど古い歴史をもつのにも関わらず、これまで人間に広まらなかったのは何故なのでしょうか?HIVは性行により感染し、子供にも感染します。つまり人が増えれば増えるほど、感染確率は高くなるわけです。
でも今、全人類に感染しているわけではないのを見ると、ある一定の速度で感染が広がりつつも、免疫が落ちることにより自然に減少してを繰り返してきたのかもしれません。今後そういったHIVの歴史に関しても明らかにされ、治療法が開発されることを願っています。
元記事はこちら(Retroviruses ‘almost half a billion years old’)